「だからぁ、ここはまだ行ったことないんだって!」
ヒュウガが仕事中にコナツの後ろをついてまわりながら何かを訴えている。 「ですから、週末にでも行かれては?」 「一人じゃ嫌だっての」 「しかも、どうして今回は海鮮丼なんですか」 「カツ丼じゃコナツが乗ってくれなくなったから」 「は?」 ヒュウガは、またしても丼もの特集の雑誌を買ってきて見ては、コナツに「行きたい」と訴えている。コナツが勝手にすればいいと答えると、ヒュウガは駄々をこねてコナツにしつこく喚き立てているのだった。 「マグロ丼とかぁ、ネギトロ丼とかぁ、イクラ丼とかぁ、サーモンの炙り丼とか、ごまだれ丼だってよ!」 「……」 「いいじゃん、奢れって言ってるんじゃないんだからぁ」 「だって、少佐、お昼からそんなにカロリー高いのを選ぶなんて……」 「ん? お昼くらいはガッツリ食べたいじゃない?」 「そうでしょうか」 「ね? 行こうよー」 「今度の週末は用事が入ってますし」 「用事? 何の」 「調べ物をしたくて、図書館に行く予定です」 「げー!」 ヒュウガが思い切り嫌そうな顔をした。 「げーって何です! 失礼ですよっ」 コナツは自分の行動を全否定されたようでショックを受ける。だが、 「だって、図書館なんて有り得ない!」 「……」 確かに、若い男子が休みの日にわざわざ図書館へ通うなどと、普通なら有り得ない話かも知れないが……。 「しかも、調べ物って何!」 「お仕事に関係することではありません」 「そんなこと聞いてるんじゃないよ。あやしいなぁ。ほんとは誰かと会うんじゃないの」 「一人です」 「よし、分かった。オレも付き合おう」 「ええっ! それは駄目ですっ」 「……」 「私だって休みの日くらいは一人で行動したいじゃないですか」 「……そうやってオレを拒絶する」 「拒絶なんてしていません」 どう考えてもコナツがヒュウガを避けているようにしか思えない。 「また何かあるね。今回はどんなパターンかな」 「何もありません!」 「単にオレと居たくないだけ?」 「まさか!」 コナツが嘘をついているようには見えないが、ヒュウガはコナツを疑いながらもはっきりと告げた。 「ま、今更好かれてるとは思ってないけどね」 「少佐! 勝手に話を進めないで下さい!」 「分かってるよ、オレがそばに居ると、コナツは自由になれないもんね」 「!?」 「束縛するつもりはないんだけど、コナツと居ると、居心地がよくてさ……オレもそろそろコナツ離れしなきゃないかなぁ」 「!!」 深い話になってきたところで、 「取り敢えず、来月から無理強いしないようにする。だから今週末は海鮮丼食べに行こう!」 「えっ、どうしてそうなるのです!? 何故来月!?」 この流れが理解出来ず、コナツは目を丸くしたが、 「ん? なんとなく」 「なんとなく!?」 「とにかく、今週末、コナツはオレに付き合う。それで決まりなんだからウダウダ言わない」 「なんて強引な……」 「オレは強引だよ」 「ですよね。……はぁ」 結局、週末の昼間は海鮮丼を食べに行くことになってしまった。 「じゃ、ここの店を予約するね」 ヒュウガは上機嫌で雑誌のページを開いて指をさしたが、コナツは見向きもせず、 「私の図書館の用事は……」 未練がましくぼやいている。 「何か言った?」 「いいえ……」 こうと決めたら梃子でも動かない上司の決定には逆らえず、また次の週にすればいいと諦めたコナツだった。 そうして休日、強引に外に連れ出されたコナツは、嫌な顔をするわけにもいかないと思い、店に向かう道中、笑顔でヒュウガと会話をしていた。すると、ヒュウガは楽しそうに、 「はぁ。食べたい。すぐに食べたい」 と何度も呟く。コナツは待ちきれない子供のようになっている上司を見て、笑いながら、 「そんなにお腹を空かせて……そのお店は遠いのですか?」 そう訊ねると、 「遠いとかじゃなくて、公衆の面前というのがまずい」 意味の分からないことを答えた。 「は?」 コナツは首を傾げたが、 「オレが食べたいのはコナツ」 どうにも嫌な台詞が聞こえ、コナツは聞こえない振りをして、 「さぁ、行きましょう。早く案内して下さい」 催促をした。 「ホテルじゃ駄目?」 「ホ!!」 「あ、安いところじゃないよ。ちゃんとスイート! 泊まるのがイヤなら休憩でもいいし」 「ちょ!」 何処に昼間から休憩するために高級ホテルのスイートに入る人間が居るのか。しかも、ホテルのチェックインは午後3時からと決まっている。我が上司が何を考えているのか理解出来ず、 「少佐? 今から食事をしに行くのですよね?」 「そうなんだけど」 「目的が曖昧ですが?」 「それはコナツが可愛いから」 「……」 何より屈辱的な言われ方をされて、もし刀を携帯していたら抜刀していたのに、今のコナツは釘バットも持っていない。否、持っていないのが幸いして、ヒュウガは命拾いをしたのである。 「うーん、海鮮丼かコナツか……」 「ちょ……」 海鮮丼と比べられたコナツは呆然としていたが、 「よし、海鮮丼食べてからコナツにしよう」 「……」 その並びは妥当だろう。しかし、 「食べたら帰りますよっ」 コナツの頭からは角が生え始めていた。 「ええっ、もう収まりがつかないのに」 「は?」 何の? とは聞かなかったし、聞きたくなかったが、もしかしたら欲情した状態で食事をするつもりなのかと考えると、涙が出そうになるほど情けないと思った。 「冗談だよ。大丈夫、食べたあと腹ごなしに運動しようなんて言わないから。運動といってもジムじゃなくてベッドという手もあるよ、コナツには上下運動が合ってるよ、なんてオヤジギャグも言わないから」 「もう仰ってますよね? むしろ推奨してますよね?」 「ははは、しょうがないなぁ、コナツがその気なら付き合ってやってもいいけど?」 「どうしてそうなるのです! 私にはその気など微塵もありませんからっ」 「冷たいなー」 「……別に冷たくしているわけではなく!」 実際、昼間からそうやってからかわれる身にもなってほしいと思う。コナツにはうまく冗談で切り返す余裕がないのだ。 「物凄く冷たいじゃん」 「そうでしょうか」 「寂しい」 「でも、それは少佐が……」 「泣いちゃう」 「もう、冗談ばかり!」 これから食事を奢ってもらう部下であるコナツが、生意気な口をききすぎたと反省するも、悪いのはヒュウガだという事実は譲れなかった。 ヒュウガの態度に翻弄されてコナツはぐったりとしていたが、連れて行かれたお店に入るなり、 「わぁ!」 喜びの声を上げた。 高級感が漂いつつ、しっぽりくるような落ち着いた店で、とても一人では入れそうにないと、或る意味”観念”しなければならない状況になった。 「少佐、こういうところ、お好きですよね。前に連れてきて頂いたお店も個室を用意して下さって」 「ん? だってコナツとイチャつきたいんだもん」 「……」 それはさっくり無視し、個室に入るとまず庭園を眺めて楽しんだ。その後に出てきた料理も、軍の食堂にはないものばかりでコナツは満面の笑みで舌鼓を打ったのだった。 ところが、時々何か書類のようなものを取り出して考え込んでメモを取り始め、驚いたヒュウガに、 「仕事しに来たんじゃないよ」 と窘められるが、 「仕事です」 コナツは頑なだった。 「こんなところに来てまで仕事!? ……なんか、アヤたん見てるみたい」 ヒュウガがため息をついていた。 しかし、ヒュウガもおかしな行動をとることが多かった。食事の前、最初にヒュウガがコナツの隣に座ろうとしたあたりで変だと思っていたが、どんなバカップルでも、いまどき隣に座って食事をするだろうかとコナツはますます情けなくなり、食事をしていても、ヒュウガはコナツの顔ばかり見ていて、料理の内容にはコメントもしない。 「あまり好みの味ではありませんか?」 逆にコナツに問われて、ようやく否定するものの、 「少佐、上の空で、どうしたのです? どういうことですか」 問い詰めると、 「美味しかったけど、ねぇ、どうにもならないよねぇ」 「何がです?」 聞けば、 「やっぱホテル行っときゃよかった」 「!?」 これが結論なのだった。 「だから、言ったでしょ? コナツなんだって」 「はい? 意味が分かりません」 「駄目なんだよ」 「ですから、何を仰っているのか私には通じません」 「あのねぇ、コナツがいい匂いで……もうどうしようもなくて。すごく触りたいって思っちゃって」 「……」 「なんで、そんないい匂い漏らしてんの?」 「漏らす……?」 せめて振りまいていると言ってほしかったが、ヒュウガは言い直すつもりはないようだった。 「オレの性欲をぜんぶ食欲にもっていこうと思って頑張ったんだけど、駄目だったわ」 「何ですか?」 「コナツ見てるとムラムラする」 「ないです!」 「お前はないかもしれないけど、オレにはあるの。っていうか、匂いが!」 ヒュウガは身振り手振りを加えてまで主張している。 「そんなにくさいですか、私」 「くさい? そうじゃないよ、むしろ不快なにおいの方がマシだよ。そっちの方が男らしいよ」 「え」 「そんな甘い香りダダ漏れさせて、いい加減にしろって苦情出したいんだけど!」 逆ギレである。 「甘い? 甘いって何です」 「知らないよ。体臭じゃないの」 「……」 前にもこういった話をしたことがあると思い出した。 いい匂いがすると言われることはしょっちゅうだが、それはベッドでの会話に用いられることが多く、こんな高級料亭で一流の料理を食している最中に言われることではなかった。しかも、ほとんど責められているのだ。 体臭がどうの、フェロモンがどうのと、こういう展開になるたびに互いの性質や体質について語り合うことになるのだが、 「最近ますますやばくなってるんだよ。気付いてるのオレだけじゃない。絶対皆惑わされてる」 「えっ、私がクサイのが皆にバレてますか?」 「匂いの意味が違うって。くさいんじゃなくて甘〜くてとろけそうな匂い!」 「そんなはずは……」 「困るよ、ほんと」 「だ、だって……私は何も……」 困るのは自分だとコナツは泣きそうになっていた。謂れもない中傷を受けているようで悲しくなったが、 「ホテル行くか」 「ええっ」 「我慢出来ない」 「何が!? っていうか料理、まだ半分……!」 「早く食べて!」 「エーッ!!」 そうして味わう間もなく、ヒュウガが場の空気を読まずにコナツを引き摺るようにして料亭を出て、街へと向かった。この場合、空気を読んだという方が正しいかもしれない。 お互い言いたいことを言い合うには軍の中では駄目だったし、公共の場所でもいけなかった。他に密室となればそれにふさわしい場所を借りるしかない。 その結果、ヒュウガは有言実行を守り、 「ほんとに来るとは……」 コナツはしっかりホテルに連れ込まれたのだった。 「冗談だと思ったの?」 「ですが、ここ……すごく高そうな……」 「気にしない、気にしない」 「ずいぶん気楽そうですが……ほんとうにいいのですか?」 「何が?」 「こんなところに来てしまって」 「今日はお休みでしょ? 仕事さぼって来てるわけじゃないし、外出許可も貰ってる」 「はぁ……」 「たまにはいいんじゃない」 「それはそうですが……」 コナツは窓際に寄り、レースのカーテンを開けて外の景色を見て、再び感嘆の声を上げた。 「さすが最上階。とても景色がいいですね」 「夜景だったらもっと綺麗だけど、今回は昼間で我慢して」 「いいえ、これだけでも十分です」 「そう? 気に入ってくれたならよかった」 ヒュウガは、コナツをどうやって口説き落とすか、それだけが気掛かりだった。思ったよりも素直についてきてくれたが、口説くといっても異性相手とは訳が違う。ヒュウガが率直に感じていることを言葉にすれば、コナツは途端に臍を曲げるから骨が折れるのだ。大体、男に向かって可愛いだの見た目が甘いと言うのはNGである。特にコナツには禁止用語で、そう言えば完全に怒って口をきかなくなるだろう。だが、そう言うしかないのも事実だった。嫋やかな金色の髪と艶々しい肌、目の色も躰つきも、なにもかもが甘く感じる。実際、何故か近寄りたくなって、吸い込まれるように近くに行けば、甘々な香りがして触りたくなる。シャンプーかボディソープか、着ている服はクリーニングの際にソフトな柔軟材仕上げを施しているのか、だが、他の人からは同じ匂いは感じられない。 普段は気が強くて、いつも怒っていることが多く、傍から見れば厳しい部下だ。しかし、それ以外では素直で明るく、時に天然で笑顔もとびきり眩しい。 「きっと少佐だけですよ、私から甘い匂いがすると思うのは」 「なんで?」 「単に、勘違いかと」 「勘違い!?」 「少佐が私に欲情して下さっているうちは、そう思ってしまうのではないでしょうか」 「……」 「私を性的な目で見てしまうから、そんな気がするだけです」 「違うよ」 「違いますか」 「そういう目で見るから、そう感じてしまうんじゃない。そういう目で見てなくて、真面目に見てても甘ったるい匂いがする」 「ええっ」 「なんの残り香かと気になるくらい。でも、違う。体臭なんだ」 「そんな……私は嫌です。男のくせに女みたいな……」 「それは気に入らないだろうけど、仕方ないよ」 「どうしてでしょう、どうしたら治るんでしょう、でも、私はまだ信じてません」 「信じないって?」 「少佐の欲目で私からそういう匂いがするのだと思ってます」 コナツは冷静になろうとして何度も頭を振っていた。 「いいよ、信じようと信じまいと、今はどうでもいい。早く抱きたい」 「えっ、それはまたすごく早急な……」 「ずっと言ってたでしょ、人の話、聞いてなかったの?」 「!」 普段はそのままそっくり言い返したい台詞を言われてコナツは言葉を詰まらせた。 「少佐……私への欲情に拍車がかかっているように見受けられます」 「そうだね、その通りだ」 「何故、そんないやらしい人になってしまわれたのか」 「いきなり何」 コナツはこれから議論でも交わすように、真面目な口調で顔色を曇らせたが、ヒュウガは議論に応じるつもりはなかった。 「話をそらすようなら、強姦するよ」 「!?」 コナツはいよいよ青ざめる。 「あなたが怖い」 「そう?」 「あなたの私を見る目が……」 「うん、普通じゃないでしょ?」 「……」 「今更じゃん」 「……私はその目に射抜かれる。そして、私はもう、既に……」 「既に?」 「犯されているようなもの……私がまだイエスと言っていないのに、強引に私の中に入ってくるような、むりやりこじあけられるような、痛いほど強く……」 「あー、はい、ストップ」 「喋っていないと、私は!」 「どうなるの?」 「気が狂ってしまいます!」 「なんで」 「あなたが怖いし……この状況を考えるだけでも」 コナツは自分で自分の躰を抱きしめるように腕を絡めた。ヒュウガは肩を竦め、 「よく分からないけれど」 一歩だけコナツに近づいた。それだけでもビクリと反応し、 「だって、私たち、これから……」 「いけないことをするねぇ」 「あなたに私の気持ちが分かりますか」 「抱かれる方の気持ちは分からないよ。どんなの?」 「!」 「教えて」 「……ッ」 もう一歩近づくと、コナツは反射的に逃げ場を探し、壁に向かって走り込んだ。 「あー、よりにもよって、そんなベストポジションに」 今度はヒュウガは容赦なく、足早にコナツを追い込むように壁際に寄り、壁に両手をついてコナツを占拠した。 「逃げる? 本当に強姦になっちゃうよ?」 「うう……」 膝から力が抜け、壁を擦るようにして座り込んでしまう。 「あら、ここで立ちファックしようと思ったのに残念」 コナツはイヤイヤと首を振った。 「可愛い」 ヒュウガがしゃがみ込んでコナツの顔を覗く。 「かっ、かわいくなんか……バカにしないで下さいっ」 「バカにしてないよ。気に障ったのならごめんね」 「!」 「今はコナツの機嫌を損ねたくないな」 「……」 さきほどまでの脅迫的な態度とは打って変わり、ヒュウガはにっこりと笑い、柔らかな笑顔を見せた。 「なんか、コナツをいじめてるみたいで嫌だな」 「えっ」 「まぁ、たまにはいいかもしれないけど」 「少佐」 「オレは優しくしたいんだよ?」 「そうは見えませんでした」 「これから優しくする」 「……」 コナツは一瞬、戸惑いを見せるように視線を泳がせた。 「あ、もしかして怖い方がよかった?」 「い、いいえ」 「いいよー? コナツが好きなほうでやるから」 「そんないい加減なこと言わないで下さい」 ヒュウガに怯えていたコナツだが、目一杯強がって横を向いた突端、突然ヒュウガに顎をとられ、そして手をとられて股間に押し付けられた。 「な……ッ」 「オレはねぇ、本当はねぇ、この可愛いお口にオレのコレを喉までぶっこんで、窒息させて、呼吸が出来なくなったところで今度は下の口になんの準備もしないまま後ろから突っ込みたいんだけど。マジで」 「!」 それは、コナツがもっとも危懼することで、絶対にされたくはない、一番避けたい境遇だった。 「今なら出来そうな気がする」 ヒュウガがニヤリと笑うと、 「そ、そんなこと、ただの弱い者苛めです。優しくしてくれると仰ったではないですか」 やっとの思いで呟いたが、やはり目が泳いでいた。 「弱いもの苛めぇ?」 「私が年下で、部下で、黒法術師でもなんでもないただの弱い人間だからっ、あなたは私を好き勝手にすることが出来る。私が死ぬ気で抵抗しても鼻で笑うのです。そうやって私を……苛めて……それで楽しんで……」 震えながら訴えるのを、 「ハァ? なんだか言ってくれるよねぇ」 「!」 ヒュウガはバンと壁を叩き、喧嘩を売るようにコナツに責めるような視線を投げた。 「オレを苦しめてるのは誰かさんなんだけどなー」 「!?」 「さぁ、何処の誰のことでしょう」 「!!」 「もうね、オレ、辛いの。毎日毎日、いっぱいいっぱいなの、恋って切ないよねぇ、好き過ぎて辛いって分かる? この可憐な乙女心、分かる? もしかして片思いかもしれないって思うと、いっそ殺してオレのもんにしちゃおうかなって思ったりね? オレはどっちかっていうと、もっとライトな関係を望んでるの。それが出来ないんだよ、自分でも信じられないんだけど」 「!?」 「はー、駄目だ、やっちゃおう」 「!!」 「あはは、さっきから反応が面白い」 「少佐!」 「怖くて喋ってないとおかしくなりそうって言ってなかった?」 「……」 「さぁて、この状況、どうしようかな」 ヒュウガが一度立ち上がる。 そこへ、コナツが引き止めるようにズボンを掴み、ヒュウガが驚いているのを無視してジッパーを下ろし、すぐに下着をも下ろして中から露になった性器にしゃぶりついた。 「え、コナツ?」 まさかこんなことをされるとは思わず、ヒュウガが固まっていると、コナツは膝立ちのまま行為を続け、張り詰めたそれをひたすら舐め上げていった。 「どうしたの。珍しい」 何を言われても答えることなく、ただ口いっぱいに頬張り、懸命に舌と歯を使って刺衝する。 「とてもいい眺めだけど」 ヒュウガが立ったままで、コナツはヒュウガの股間に顔を近づけているのは珍しい光景だった。 「もしかして仕返しかな? でも、噛んだりしないでね」 ヒュウガが笑うと、コナツが更にくちびるを窄めてきゅう、と吸い込むように口を動かす。 「……駄目だよ、意地悪したら」 随分と要領を得てきたことに喜びを感じるが、こうして上手に出来るようになるたびに不安も生じていく。 (そのうち誰にでもこんなことをするようになるんじゃ……) ヒュウガは胸のうちでわずかに焦燥するが、コナツが簡単に浮気をするはずはないと思いなおし、だんだんと動きが大きくなる様子を上からじっと見ていた。 口の奥までは使っていないが、目一杯入れても半分ほどで、太さもあるせいか苦しそうだ。 「無理しなくてもいいよ」 声をかけてもコナツは口から出ている部分を手で扱きながら絶妙なタイミングで動かす。 「やめる気、ないね? もしかして飲むつもり?」 コナツはイエスの代わりにヒュウガのずっしりと質量のある睾丸を撫でた。いつ出してもいいという合図でもあったが、 「ちょっと厳しいなぁ」 「?」 ヒュウガがためらうのを、コナツは咥えたまま一度顔を上げてヒュウガを見つめた。 「ほらほら、そんな上目遣いされたらさぁ、物凄い勢いで出ちゃうよ?」 「……」 それでも構わないと思ったが、ヒュウガはすぐに出す気はないようだ。 「コナツ、体勢的にやばい。それだと上手に飲めない」 「?」 何がどうまずいのかコナツには分からなかった。何のことを言っているのか想像もつかないのだ。ヒュウガは随分コナツの心配をしているようだが、 「しかも、コナツは飲むことに慣れていない」 実況をするように注意されるとコナツは全身で否定したくなり、その感情を態度で表すように更に口での愛撫に強弱をつけ、次にくちびるに力を入れて窄め、締め上げるように吸い上げた。 「!!」 強烈な快感がヒュウガを襲う。 そして、これでもかとコナツは指を添えて扱き、更に刺激を与えると、 「あーあ、どうなっても知らないよ」 少し投げやりになって呟く。 どうなろうと、最初からどうなってもいいとコナツは思っている。覚悟は相当なものだが、予期しない出来事になって慌てても、いつも最後にはヒュウガがきっちりフォローしてくれるから安心しているのだ。 「あんまり口の中には出したくないんだけど……」 「?」 「なんでもない。じゃあ、出すから」 ヒュウガは冷静に呟いているが、躰が震えるほどの快感に精神ごと凌駕されそうになっているのだ。普通の男子なら、ここまで余裕のある態度をとることは不可能だろう。 ヒュウガに宣言されて、いよいよ、と構えたコナツだが、飲みなれないために少し緊張した面持ちで肩に力を入れてしまい、それではいけないと肩の力を抜き、顎を上げた。 その瞬間、ヒュウガが射精する。それと同時にコナツが物凄い勢いで咳き込んだ。 「!!」 「うっ! ゲホッ! ア……ッ」 「ほら! 言った通りだ」 「ぐ……」 コナツはヒュウガの性器から口を離し、胸を押さえて倒れ込む。そこから聞こえるものは、ヒューヒューという奇妙な喘鳴だった。 「もしかして肺に……」 「あ、が……ッ、くる、し……」 コナツは呼吸が出来なくなっていた。 顎を上げて食道が開いた時にヒュウガが奥に向けて精液を放ったため、コナツが息を吸うのが同時だったことから直接液が胃ではなく、肺にまで入ってしまったのだった。 異物を吐き出そうと激しい咳嗽反射を起こし、息を吸いたくても吸えない状況でコナツは酸素不足になって顔を青くして何度も何度も呼吸困難を起こし、手足を痙攣させていた。 「だからやばいって言ったのに」 ヒュウガが様子を見ながら介抱するが、嗚咽のような異常な呼吸音が不規則に続き、今にも意識を失いそうだ。 ひどい誤嚥の症状で、気流が確保出来ずに足掻くコナツは、涙を流しながら「苦しい」と言えずにヒュウガにしがみつくことで表現すると、ヒュウガはスクイージングでコナツの呼吸を整えてやる。 完全な窒息ならばハイムリック法や背部叩打法を処置しなければならないが、暫く呼吸介助をすれば次第に治まるだろうと判断し、ヒュウガはコナツの胸郭を押しながらも「胸が薄い、骨が細い」と呆れたように呟いていた。コナツの意識が定かでなかったからよかったものの、まともに聞こえていたら蹴飛ばされていたかもしれない。 「大丈夫? 意識は?」 「う……」 少しずつ規則正しくなる呼吸音にヒュウガはほっとし、 「呼吸止まるんだもん、死ぬかと思ったよ」 コナツの涙を指で拭った。 「……あ、ゲホッ、ま、だ」 喋ろうとするたびに咳が漏れたが、 「コナツは飲むのが苦手なんだから、もうしない方がいいよ」 そう言われても首を振った。 「懲りてないね。じゃあ、次はちゃんと飲んで」 「だ、だって……」 ようやく話が出来る状態になったところでコナツが反撃に出た。 「量も多くて……まさか肺にまで飛ばされるとは」 「わざとじゃないよー」 「狙ったとしか思えません」 「違うってば」 コナツは涙目になりながらヒュウガを責めた。だが、ヒュウガは心配そうに、 「まだ苦しい?」 「はい」 時々咳き込むコナツの顔を覗く。 「オレはめちゃくちゃ気持ちよかったんだけどねぇ」 「私も」 「えっ、何が?」 「飲めたので」 「はい? 今のが? 呼吸が出来ないほど苦しい思いをしたのに?」 「海鮮丼より価値があるし」 「ええっ」 ヒュウガにはコナツの本意が読み取れなかった。 「次はじっくり飲みたいので、直接私の舌の上に出して下さい」 「コ、コナ……」 あまりの大胆発言にヒュウガはポカンとしていた。 「おかしいですか?」 「うん」 「私、少し緊張してしまったのです」 「なんで」 「場所が場所でしたし。慣れていればどうってことなかったのでしょうけれど」 「こういうところ、苦手?」 「いいえ、出来ればこれからも連れてきてほしいです」 「マジで? 誤飲して死ぬ目に遭って……それでもう嫌だ帰るって言うのかと思ったけど」 「そんなこと……」 「っていうか続き出来るの」 ヒュウガは既に満足しているが、本来の目的を果たしていない。 もともと自分さえよければいいという了見でコナツを連れ込んだわけではなく、コナツを味わうためにここまでやってきたのだ。だが、コナツはヘナヘナと床に座り込んだまま、すっかり弱って力を無くしている。 さすがにこれでは手が出せない。 だが、 「少佐は何のために私をここへ連れてきたのです」 「え、いじるため」 「いじる……私は少佐の遊び道具ですか」 「冗談だよ」 「では、最後まで遂行して下さい」 「でも、そんな状態じゃないでしょ」 ヒュウガはやはりコナツの躰が心配なのだった。 「だからこそ、今の私は体力がないので、優しくして下さいね?」 「!」 「強姦は嫌」 「!!」 「まだちょっと苦しいですし」 「……お前、まさか……」 「なんですか」 「わざと誤飲した?」 「えっ、わざと飲み間違えるなんて出来ませんよ!?」 「……ほんとに? オレに優しくされたいから自分を不利な状況に追い込んだんじゃないの」 「偶然です。でも、もし少佐が私を強姦しそうになったら、また同じことするかもしれません」 「おいおい」 「確かに少佐が凄く怖くて、自分から変えなくちゃって焦っていたのは事実ですが、今はもう私をいじめようなんて気は起こりませんよね?」 「そりゃあ、ひどくは出来ないよ。なんか声も変だし、まだ顔色悪いし。おかげでめっちゃ冷静。っていうかいじめてないから!」 「じゃあ、さっきまでの私を食い殺しそうな目つきはなんなんですか」 「もともとこういう顔なの!」 「違います、肉食の殺人鬼みたいになってました」 「そんなことない! 大体、コナツが甘い匂い漂わせているからいけないんじゃない」 「またそういうことを……困ります」 「困るのはこっち!」 このやりとりは終わりそうになく、どちらも折れる気もない。 暫く壁際で言い争いをしていたと思ったら、突然無言になり、暗黙の了解で当たり前のようにくちびるを合わせた。本当に一番したかったのはこの行為だった。 何も言わずにくちづけを繰り返し、ヒュウガはコナツの髪を撫で、頬擦りして愛情を確かめるように触れ合うと、 「ベッドに……」 コナツが小さな声で懇願した。 「行かないよ。ここじゃ嫌?」 「……」 壁際に追い詰められて、攻められるのも悪くないと思ったが、 「今、動いたらコナツが逃げそう」 「逃げません。どうして逃げるのです。私、嫌がっているように見えますか」 「見えないけど、何となく」 「信用されていないのでしょうか」 「んー、結構いいビジョンなんだよね、壁際で喘ぐコナツって」 「なっ」 不安定な場所で足掻くコナツを見るのは面白い。 「このままでも抱けるし。あ、もちろん、雑に扱うつもりはないから」 そう言って、そばに脱ぎ散らかしたジャケットのポケットからコンドームを取り出し、 「これがあれば用は足りる」 チラチラと見せびらかすようにコナツに認識させたあと、 「ちなみに新商品。ジェルがいっぱいだし、めちゃくちゃ薄いの。ほら、見て」 そう言いながら目の前で着けてみせた。 「……」 コナツは男のくせに、この光景はいつ見ても落ち着かず、目のやり場に困るし、ひどく興奮してしまうのだった。 「何、真っ赤になって」 「あ、いえ……とてもいやらしいので」 「ん? これが?」 するすると巻き下ろし、何度かスライドさせながら根元まで着け終えると、 「はい、オレはおしまい。今度はコナツの番だねー」 「!?」 ヒュウガは一度コナツを背を向けさせると、背中にキスをしながら自分の指を舐めて、後ろの拡張準備に入った。 「ちゃんとしないとね。しばらくいい子にしてて」 「あ……」 そこを触られるのはどうしても慣れない。尻を高々と掲げて秘部を晒しているわけではないが、明るい場所でまともに触られていると思うと羞恥が先立ってしまう。 「うーん。きついなぁ。大丈夫か、これ」 ヒュウガが呟くと、コナツは言い訳をするように、 「ゆっくり……ゆっくりして下されば入ると思います」 そう呟いたが、本人も不安は消えない。だが、既にヒュウガの屹立した雄の先端が時々躰に当たり、その度に何故か早く自分の中に収めてしまいたいともどかしく思うのだった。 「指一本できつくて、二本も入らないのにオレのは無理だよ」 ヒュウガが困惑していると、 「指だから拒否してしまうんです!」 コナツが叫んだ。 「えっ」 「指だと物凄く恥ずかしい」 「なんで!? じゃあ、これだといいの!?」 ヒュウガは一度指を抜き、自身の下部を指さした。 「……はい」 「何だろう。そういうもんなのかな」 「私が欲しいものがそれなので」 "これ"だの"それ"だのと抽象的な表現をしているが、結局、ヒュウガはコナツを犯したいし、コナツはヒュウガに犯されたい。 「なら、痛くても文句は言えないね」 「言いたくなくても勝手に出てしまうかもしれません」 「それは構わないよ」 「……ッ」 「ああ、いい匂い」 ヒュウガはコナツの首の後ろに顔を埋め、匂いをかぎながら舌でくすぐるように舐めまくっては身もだえするコナツの肩を掴んで、そのままてのひらを胸に移して指先で二つの突起を弄り始めた。 「う……だ、だめ……」 「ほんとに弱いなぁ、ここ」 「あー、……たまら、ない」 「凄い敏感」 「あ……っ」 「まだ脱力しちゃ駄目だって」 「や……」 「ほら、挿れるよ」 「う!」 「壁に手をついて」 「……」 完全なドッグスタイルではないが、ベッド以外のところでは後ろから攻める方がやりやすい。 「痛いだろうけど我慢してね」 先端をコナツの秘肛にあてがうと、 「どうしよう」 もう逃げられないと理解しながら、それでいて何処か嬉しそうに不安を訴える。 「欲しいんでしょ?」 「……はい」 「オレも中がいい。コナツが泣いて痛がっても奥まで一気にいく」 「……ッ」 ぶる、と躰が震えた。そういうヒュウガの押しの一言だけで感じてしまうのだった。 「コナツの中はね……」 台詞の途中でヒュウガがグイ、と腰を入れた。 「!!」 くちびるを引き結んで衝撃に耐えたが、やはり激痛だった。 「先さえ入ってしまえばこっちのもの、と言いたいんだけど、ここからが大変なんだよねぇ」 「ああッ!」 全体的に太さのあるヒュウガのペニスは、どこまで入れたからといって決してラクになることはない。直径のある雁の部分と、それを上回る中間地点の部分まで侵入されたところでコナツは悲鳴を上げなければならない。 「ッ、きついな。ちゃんと息を吐いて、力入れちゃだめ」 毎回言われることだが、きちんと出来た試しはない。 「い、いや……」 「逃げない!」 ヒュウガは突き上げるように挿れてきた。 「アア!!」 相当奥まで入ったと思ったが、 「うん、いいよ。かなりキタね。あとはオレの膝の上に座るように、腰をゆっくりと下ろしてみて」 「……」 言われた通り、腰を下ろしたが、圧迫感に躰が逃げてしまいそうになる。 「オレから離れたらまた挿れ直さなきゃならないよ、自分から来なくちゃ」 「ああ、痛い、もう駄目」 「始まったばっかりじゃない」 「……」 覚悟を決めて、出来るだけ尻をヒュウガの下腹部に近づけてゆく。だが、どうしても躰に力が入って、一番刺激を受けている箇所を無意識に締めつけててしまう。 「コナツ、締め過ぎ! オレが痛い」 「でも!」 「しょうがないなー」 ヒュウガはせっかく挿れたものを途中まで抜くように腰の位置をずらし、先端をコナツの摂護腺に当てた。 「ひ!」 カクンと力が抜けて壁に爪を立てたが、 「もう一回」 ヒュウガがソコを突くと、 「あぁっ、当てちゃ駄目! 離れて! ああ、当たってる、そこは駄目、嫌です!」 ふるふると首を振って拒絶したが、 「ゆっくりすると気持ちいいでしょ? もう一回当てようか」 「嫌!」 「イッちゃうかな?」 コナツはうんうんと頷いた。同時にそれは否定でもあり、とにかく要らぬ刺激はして欲しくないという訴えでもあった。 「耐性がないなぁ」 「少佐!」 大抵のことは我慢出来ても、こうした性感帯を弄られることには慣れていない。どうしたら快感を逃すことが出来るのか、是非コツを教えて欲しい、と真面目に思った。 「後ろからするって燃えるね」 「……」 そんなことを考える余裕がない。 今は何をされても昂ぶり、だらしない顔を晒していることにも気付かないままで、後ろからされているせいかまともにコナツの顔を見ていないヒュウガにからかわれずに済んでいる。 「分かるよー、お口開いたままで、舌がだらしなく出ちゃってるってことも」 見なくても想像が出来るのだった。 「ち、ちが、う」 自身の名誉のために否定するが、事実、ほとんどヒュウガの台詞に近い顔をしている。 「いいんだよ、それが悪いとか変って言ってるんじゃない。その顔を他の誰かに見せたくないだけ」 「!」 「オレの前でだけ、いやらしい子になって欲しい」 「……しょ、しょう、さ」 「それなのに、こんないい匂い振りまいてモテようとするなんて」 「なっ」 それだけは違うと今度こそ全身で否定したかった。 「困った子だね」 「……ッ」 少し意地悪をして、クイと腰を上げると、今までより深く交わることになりコナツがビクンと躰を揺らした。 「痛みは?」 「……」 「まだ、あるね。でも、もうすぐなくなる。そうしたらオレは激しくする。いいよね」 相変わらず強引だが、そろそろコナツもそうされたくなるのだ。だから、もう拒否することはなく、 「来て」 そう言った。 「おお、コナツちゃん、乗り気だ」 「少佐が激しいのは好き」 「ほんと?」 「私には真似出来ないので」 「……激しいのがオレの得意技みたいじゃん」 「似合ってます」 「あはは」 「でも、最後にはとても……」 「うん、いいよ、言わなくて」 優しくする、そう約束して激しくも繊細な房事が進められたのだった。 コナツは壁際ということで遠慮をするように小さな声をあげるだけで静かに達し、体力を使い果たして、そのままヒュウガの腕の中に沈みこんだ。 「いい子」 そして、そばに落ちていた自分のシャツを拾って包むように羽織らせ、自分は裸のまま一旦コナツから離れた。 「しょう、さ、何処へ……」 コナツがようやく首を捻ってヒュウガを追うと、 「カーテン閉めるの」 「えっ」 「うん、ここ、高層ビルだけど、巡回のホークザイル飛んでて中見られたらまずいし、他のビルからも覗かれたらマズイから」 「って……」 ヒュウガは全裸のまま窓際に寄っているのだ。 「コナツの躰は見られたくないから、庇うのに必死」 「い、いえ、少佐こそ、裸で……窓際……外からぜんぶ見え……!?」 「あー、オレはいいの」 「よ、よくな……い」 ヒュウガはコナツが混乱しているのを落ち着かせることもなく、サッとカーテンを閉めて、 「さぁ、今度はベッドでやろうか」 「え!?」 「もう見られないよ」 「……」 「コナツってば来た早々カーテン開けちゃうから、そうすると窓際にあるベッドでは行為に及べなかったんだよ。丸見えだったし。そしたら壁に行っちゃうから、それならいいと思って抱いたけど、バックからしか犯せなかったよねぇ」 どうりでベッドには移動せず、ひたすら抱き込むようにしていたのはそのせいだったと気付く。 「私を隠していたのですか」 「うん、こんな所でも誰に見られるか分からないし。高いところだからって油断しちゃ駄目なんだよー」 「でも、少佐は裸のままカーテン閉めに行きました。それは納得出来ません」 「オレのは見られても減らないしー。コナツの裸は絶対駄目」 「そんな勝手な……私だって少佐のほかの人に見られたら嫌ですよ!」 「なんで?」 「なんでって、同じ理由じゃないですか」 「嫉妬?」 「当たり前です」 「マジで?」 「何だと思っているのです!?」 「わぁ、それならオレ、公道を裸で歩いちゃおうかな!」 「バカですか!」 「だってコナツが嫉妬してくれるんだもん」 「逮捕されればいいんです」 事後とは思えない形相でコナツが大きな声を上げる。 「そんな真面目な顔で怒らなくても。冗談に対してマジになられると困る」 「少佐がバカだからです!」 「……お前はオレのこと好きなの、嫌いなの?」 「ぐ!」 「まぁ、いいや。ベッドの上で聞く」 やはりこの展開になってしまう。 二度目はベッドの上で盛り上がったが、コナツはやたらと素直になったり意地を張ったりでヒュウガは対応に追われた。 最中に、懸命に冷静になろうとして、そもそも、何故自分たちはこんな時間にこんなところでこんなことをしているのだと考えると、何が何が原因で何がよくて何がいけないのか、答えが出てこないことに唖然とするのだった。 「そ、そうだ。もう食事に誘われても乗らなければいいんだ」 とコナツが言うと、 「コナツさ、この甘い体臭消すために消臭剤ポケットに入れてたほうがいいよ」 と言うヒュウガだった。 |
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