ヒュウガとコナツはここのところ忙しく、日中でもろくに顔を合わせることがないほど別行動が続いていた。コナツは入隊の年ごとに分かれて行われる研修に参加していたし、ヒュウガも外に出ることが多かったからだ。外に出るといってもサボりではない。れっきとした任務で、デスクワーク以外の仕事は実に真面目にこなし、そしてその成果をあげ、ヒュウガは更にブラックホークの名を世界に馳せていた。
二人は参謀部ですれ違いざまに声を掛け合うのがやっとで、立ち話すら出来ない。だが、この日、ヒュウガは忙しそうに走り回っているコナツの腕をとり、そっと耳元で囁いた。 「夜になったら、部屋においで」 コナツがハッとして見上げると、ヒュウガはにっこりと笑う。 「分かりました」 短く返事をして互いに別れを惜しむような視線を送りながら、またそれぞれの任務へ赴く。距離が数メートル出来ても、なお相手を目で追ってしまうのは仕方のないこと。その時、ヒュウガはくちびるだけで、 ”いい子だね” と呟く。 ヒュウガとしては、てっきり夜のお誘いは断られるものだと思っていた。理由は「仕事が溜まっているから」「休みたいから」。それを抵抗もせずに受け入れるコナツの素直さに多少面食らっているのだった。 ようやく落ち着いたのは22時を過ぎた頃。コナツは参謀部での細かい事務処理を終えて片付けると、急いで自室に戻った。 シャワーを浴びて汗を流してから軽装でヒュウガの部屋に向かう。もちろん手ぶらではない。昼のうちに手に入れたナッツやビスタチオ、スモークチーズなど、どれもウィスキーに合うつまみである。 「ヒュウガ少佐、入ります」 ノックをしてコナツが入ると、ヒュウガもシャワーを浴びたばかりなのか、ルームウェア姿でくつろいでいた。 「コナツー、ご苦労さまー。オレ、直帰したから早かったよ」 「お疲れ様です」 「ところで、どうだった、研修」 ヒュウガは満足そうにコナツを見つめ、すぐに聞きたかった話題に移る。 「はい。すごく楽しかったですよ。特に実践が」 「もしかして負けなし?」 「勿論です。例え何年経とうとも負けることはありません」 首席で卒業したことは、今でもその腕で証明出来た。 「頼もしいねぇ。久々に同期に会えた感想は?」 「特にないですよ。たまに顔見てましたし」 「皆変わってた?」 「だいぶ軍人らしくなってきたと思います」 「そうか。同期の子と一緒に居るコナツを見てみたかったなぁ」 「私は誰と居ても普段と変わりませんよ」 「えー、友達とふざけたりするでしょ」 「しません」 「マジで?」 「学生の時からこんなです」 「そうなんだ」 意外と言えば意外かもしれないが、真面目で子供らしからぬ学生だったということは想像出来る。今も気が強いのは相変わらずだが、その他に色々な要素が加わって本当によく成長してくれたと思う。 「あ、でも皆から愚痴をいっぱい聞きました」 コナツは少し困ったような顔で打ち明ける。 「愚痴?」 「ええ、軍律が厳しくてやっていけないとか、上司がきつくてついていけないとか」 「ああ、そういうことね」 「士官学校に居るときだって厳しかったのに、やはり学校と仕事では違いますから」 「だろうね」 「口を揃えて嫌な上司が居るって言ってました。嫌味を言ったり馬鹿にしたりするんだそうです」 「なんか耳が痛いんだけど」 ヒュウガが慌てて視線を逸らす。 「えっ、少佐は嫌味を言ったり私を馬鹿にすることはありません」 「……オレが言われたり馬鹿って呼ばれることはあるけどね」 仕事をさぼり、遅刻をする上司に対してコナツも言う時は言う。だが、文句は勢いで出てしまうことが多く、 「す、すみません」 今度はコナツが俯く。 「いや、オレが悪いんだしねー。コナツが怒るのは当然で、コナツは悪くないよー」 ヒュウガが笑った。すると、 「今の上司に満足していると答えたのは私一人だけでした」 そんな言葉が返ってきた。 「マジで? っていうか、オレの悪口言いまくりだったんじゃないの!?」 「ええっ! どうしてです!?」 「だって、ストレスたまってサンドバッグ破壊するほど殴るわ蹴るわで暴れてるじゃん」 「それはそうですが。お陰様でいい感じに筋トレ出来てますけど、たとえそうでも、人前で少佐を悪く言うことはありません。それに、仕事をサボる少佐を怒ることはあっても、それ以外は尊敬してますから」 「……」 てっきりめちゃくちゃに言われていると思っていた。むしろ”帝国軍史上最悪の駄目上司”という名称が付けられているのではないかとも。 「ほんとに出来た子だよねぇ」 「そうでしょうか。これは当たり前のことだと思っているのですが」 「んー、アヤたんの教育の賜物かなー」 常にアヤナミを立てるヒュウガの姿を見ていれば、コナツもそれに倣うというもの。 「そうそう、皆アヤナミ様のことも知っているのでアヤナミ様の話題も出ました。逆らったら生きていけない怖い方だという認識があるんですね。アヤナミ様のそばに居る私を不思議がっていました」 「コナツはアヤたんのことを何て言ったの?」 「国のことを一番よく考えておられる方だと」 「他には?」 「素敵な方ですって言っちゃいました。でも怖いと言われている反面、アヤナミ様は女性にもおもてになるんですよ。密かに人気です」 「だろうね。アヤたん目当てで軍に入る子も居るくらいだから」 「ええ」 コナツがにっこりと笑う。特にアヤナミの話題になると気が引き締まると同時に恋焦がれるような表情になり、本当にアヤナミが好きで、アヤナミの下で働けることを誇りに思っていることが分かるのだった。その思いはヒュウガも同じで、ブラックホークの結束は固いのだと確信する。 「ん、コナツ、石鹸の匂いがする。シャワー浴びた?」 「はい」 「しかも、なんか美味しそうなものがあるけど?」 テーブルの上に並んだつまみの数々。 「オレ、飲んでいいってことだよね?」 「明日に残らない程度にして下さいね」 「わーい」 子供のような反応だが、実際、ヒュウガは大人で、その日の締めくくりを酒で楽しむのだ。コナツもつまみは頂くが、飲んでいるものはオレンジジュースやジンジャーエールなど、アルコールではない。それでもこうして語り合えるだけで貴重なひとときである。その日にあったハプニングや、仕事の成果、他のメンバーからの伝言など、話したいことは山のように積もっている。 だが、酒を味わうのもそこそこに数分後にはヒュウガはベッドでコナツを組み敷いて、部下を泣かせ始めた。 本当の逢瀬なのだ。通常はほとんど離れることのない上司とそのベグライターで何処へ行くにも何をするにも補佐としてついて回るのを、最近は言葉を交わすだけで精一杯だった。だからこそ、夜はこうしなければならない。当然、コナツは押し倒されてシャツの裾から手を入れられても、一切の抵抗をすることもなく、かすかに声を上げただけで、その先を待った。 「疲れているのに、こんなことにまで付き合わされて損だねぇ。休ませてやりたいんだけど、今日は我慢して」 そう言って笑うヒュウガを真顔で見つめ、 「少佐、これは私も望んでいることです」 指先でヒュウガの腕を掴む。これは完全な催促だった。 「ほんとに〜?」 「夜じゃなきゃまともに会えないんですよ」 「研修も遠征も、そろそろ落ち着くと思う。そしたら元に戻る」 「……もう待てません」 「えー、コナツにしては珍しい。オレ、昼間は仕事中でも居ないじゃん」 サボリりで不在が多いことを自ら挙げると、 「仕事じゃなくて」 「ん?」 「この先のことです」 「おお。積極的〜」 甘えてキスを欲しがるコナツに、ヒュウガはゆっくりとくちびるを近づけた。目を閉じて薄く口を開け、舌先を覗かせながらコナツは両腕を背に回す。 二つのくちびるが重なった瞬間から、すぐに噛み付くような荒い口付けが始まった。いつもと違う欲情が露わになり、空腹の獣が獲物を貪るように食うか食われるかの緊張感をもって求め合う。 そして躯が次第に変化していく。頭の中も躯の中も、そして性の印も熱く逆巻き、普段なら思わない感情まで生まれ出る。 「少佐、早く!」 「そんなに急かさなくてもいいのに」 前戯を省約したがる男と違い、ヒュウガは丹念にコナツを愛撫した。受け入れる箇所の拡張を怠ると必ず怪我をするため、絶対に省けないと言ったほうが正しいが、ヒュウガ自身、コナツの躯をもっと触りたい、よく見たいというのが本音だった。それに対してコナツは見られることを嫌う。 「あんまりじっと見ないで下さいっ」 あちこち弄られるのは本当に恥ずかしい。 「普通これだけの躯持ってたら、『もっと見て!』って気にならない?」 ヒュウガはコナツの脚を掲げて局部がよく見えるようにしながら尻を撫でた。 「嫌……嫌です、見ちゃ駄目っ」 「えー? この状態じゃねぇ、見ないわけにはいかないよね」 「……ッ」 「怒るだろうけど、ほんとに綺麗だから」 「それは褒め言葉にはなりません。この肩幅も胸板の何処にも自信が持てない。せめて少佐くらいになったら自慢します」 コナツは軍人としての自分の躯には自信がない。目の前に居るヒュウガは一番の理想だが、筋骨隆々のハルセや長身のカツラギも羨ましいと思う。 「そうかなぁ。オレがコナツだったら自ら美少年として売りに出ちゃうかもしれない」 「な……!」 随分と恐ろしい例え方をするものだと驚いていると、ヒュウガはコナツの秘所をローションと指で慣らしほぐしてから、上体を起こす。 「さて、コナツ、敢えて聞こう」 「?」 コナツが何事かと凝視している目の前でヒュウガは自らの性器を数回扱き始めた。元々張りのある太い肉幹が更に硬さを増してコナツを驚かせる。 「あ……」 自分も同じものを持っていても、他人のそれを見るのは恥ずかしい。それは男性女性にかかわらず言えることだ。 「ねぇ、どの体位がいい?」 「!?」 「どっちから? どんなふうに?」 いやらしいことをしながらいやらしい質問をするヒュウガをコナツは瞬きもせずに見つめ、 「そんなこと!」 聞かれても答えられないというふうに顔を真っ赤にして叫んだ。 「いいから答えて」 「少佐」 「ほら、難しいことじゃないでしょ?」 「……」 コナツは観念し、自分から背を向けドッグスタイルを要望した。 「お、偶然にもオレと同じ意見」 「そうなんですか?」 「オレもね、後ろからしたいと思ってたの」 「本当に?」 「うん。こうやってさ」 コナツの小さな尻を抱え上げ、ヒュウガは自身の先端を宛がう。 「あ……」 どんなに慣らしても最初からバックではきついのだ。コナツは考え直し、撤回しようと口を開いた瞬間、 「だーめ、変更は受け付けないよ」 狭い領域への侵入を開始したのだった。 「ぐッ……!」 「息吐いて、息! すぐに」 「あ、ああッ」 「じゃないとオレも動けない」 コナツが無理だと首を振った。それは、ヒュウガ自体を拒絶するのではなく、思うようにコントロール出来ないということだった。 「私、どうしたら……ッ」 「あのね、そんなこと聞くところが可愛いんだっての」 もう何度も躯を重ねている。コナツもそれなりに色気づいてきたが、どれだけ抱いても初心者のようで反応が最初の頃と変わりない。 「せめて……せめて、ゆっくり……!」 小さく喘ぎながら必死の思いで訴え、四つん這いになった腕が震えている姿は護りたくなるほどだ。 「大丈夫、いきなり奥まで挿れないよ」 逆反りした状態で穿つのは、慣れを見せないコナツにとって酷である。ヒュウガは落ち着くのを待って、少しずつ少しずつ体内に硬茎を押し込んでいった。 「い……ッ! ひゃあッ!」 それでも衝撃はある。コナツは女の子のような声を上げ、背を反らせた。 「オレも痛いけど、コナツに比べればマシか」 「うッ、ああ……少佐、少佐!」 赤子のように不安がるコナツに、 「ここに居るから、大丈夫だから」 そっと呟き、そしてヒュウガは手を伸ばし、コナツの胸に触れた。 「あぁッ」 小さな胸の飾りを刺激すればピクンと躯がブレ始める。繋がってから胸に触れると抜群の感度を示す。 「もしかしてコナツ、鍛えればここだけでイケちゃうんじゃ……」 胸で快感を得る男性は稀に居るが、コナツにとってはそこも十分な性感帯なのかもしれなかった。 「やばい、吸いたくなってきた」 前戯で何度も攻めたはずなのに再び湧き上がる欲望。女のバストならばともかく、男でこれとは、ヒュウガにとってコナツの躯すべてが性欲の対象になり、見るだけでも価値があると惚れ込んでいる。 「駄目……駄目です、今は駄目」 「まだこのままがいい?」 「は、い。こうされるのが……」 「コナツ、後ろから胸を弄られたかったんだよね」 「……」 返事はなかったが、それが肯定であることには違いない。 「いやらしいなー」 左手で胸部を、右手は下がって下腹部を撫で、そのまま下半身へと移行した。 「あ、そこは!」 てっきり扱かれると思ったのだろう、それをされたら一巻の終わりだと首を振る。 「しないよ、それは後でね」 腿を撫で、四つん這いになっているコナツを自分の方へと上体を起こし、羽交い絞めにするように密着しながら突き、胸から脇、腹など、あちこちを手のひらを軽く滑らせた。 「ああッ! ああ! 」 こうされるのが好きだ。後ろからすっぽり覆われ、ぴたりと躯を重ねる。後背位での挿入は恥ずかしい体位だと思っているが、ヒュウガの大きな体躯に包まれている間だけは逞欲に溺れることが出来るのだった。 動物のようなスタイルで突き引きを繰り返していると激しくなりがちだが、ヒュウガは入念な仕上げをするように、ゆっくりと中を溶かしていった。 「ア……、ふっ」 甘い声柄がヒュウガの耳に届く。動くたびに百花蜜のような髪がサラリと揺れ、まだ少年の幼さを残したアンバランスな肢体が熱を帯びてゆく。 「んー、コナツ、そろそろ顔が見たいなぁ」 ヒュウガがそう言うと、コナツは「嫌です」と即答した。 「なんで?」 「……」 返事がない。快感に満ち、そろそろ何も答えられなくなっているのかと思うと、 「正面から……見られ……たく、な、い」 そんなことを言い出した。 「どういう意味?」 「私……私、きっと今、だらしない顔、して、る」 言葉が途切れ途切れになってしまうのはヒュウガが腰を動かすからだ。中をじんわりと掻き回されて感度のレベルが上昇し、性的な興奮が甚だしく惹起する。 「え、どんな!?」 きっちり前から見据えられないのが口惜しい。 「後ろ……からされると、いつ、も……こうなって……」 「ええ!?」 躯がとろとろに溶けてしまいそうで、目は虚ろ、口は開きっぱなしで唾液を飲み込むことも出来ない。そのうち卑猥な言葉を叫んでしまいそうだ。 「じゃあ、正常位にしたら顔戻るの?」 「……分かりま、せん。でも、たぶん……泣きそうに」 「!?」 「泣く……」 「泣くの!?」 「泣いて、しま……う」 「コナツ!?」 「今、は」 「今!?」 「ああ……」 ほとんど会話にならなくなってきた。 「じゃあ、戻そう」 「あッ!」 ヒュウガがどうやって体位を変えたのか分からなかった。一瞬、射精感に似た衝動があり、達してしまったのかと思ったが、そうではなかった。恐らく、その際に抜かれたか、或いは浅く繋がったまま軽々しく抱きかかえられ、脚を持ち上げられて回転させられたか、あっという間にベッドに寝かされたコナツは、自分の置かれた状況を把握するのに数秒かかり、 「!? 何!? どうして!?」 天井を見つめ、次に視界に映ったヒュウガを見て、それを交互に繰り返しながらシーツを掴んでパニックを起こしていた。次に中を抉られる衝撃を感じてコナツが仰け反った。深く挿入されたのだと分かり、 「うッ!」 反射的に躯に力が入る。 「ほら、すぐこれだ」 「く、ぅ……」 「あとはこのままいっちゃうから、リラックスして」 「ん……んん、あぁ……っ」 懸命に息を吐いて躯の強張りを取ろうとしていると、 「びっくりしたみたいだね」 ヒュウガはコナツの頬を撫でて問いかけた。 「まだ駄目って……言ったのに」 苦し紛れに顔を隠そうとして枕元にあったクッションを引き寄せた。 「これは要らないでしょ」 ヒュウガが阻止し、クッションを取り上げる。 「今更顔を隠すの? そんなに見られたくない?」 「……」 当たり前のことを聞いてコナツがどう返答しようか迷っているのかと思ったが、返ってきた答えはヒュウガの予想を超えていた。 「私が見られないんです」 「は?」 「少佐を正面から……見られない」 「え?」 「……少佐の顔」 「なんで? オレの顔見たくないってこと?」 嫌われいるのかと本気で悩んだが、コナツは泣きそうになり、 「違い、ます。そうじゃなくて」 「何が違うの」 「意識してしまう」 「意識?」 「少佐がいやらしいです。全体的にそういうオーラが……同じ男なのに、何処を見ても、ドキドキして」 「……」 「目を逸らしても視界に入るから、私……」 「ああ、そういう意味だったのね」 やっと事態を把握した。 コナツはヒュウガを直視することが出来ないのだった。昼間のうちにろくに顔も合わせられず夜も別行動が多かった。それを堪えての密会である。 しかし、これほどまでに意識してしまうのは、はっきりとした理由があり、コナツは昼間のことを思い出しては悦に入っていた。それは、今、なお同期の人たちよりも圧倒的な力の差を誇るコナツの腕はヒュウガとの訓練による賜物であり、今日の実践でもそれが明らかになったからだ。教えられていること、教わったすべてが他の兵士とは天と地ほどの相違が出る。ヒュウガの強さは桁が違う。その名は軍内でも有名であり、コナツは幾度もヒュウガの名を耳にした。それを思えば我が上司を自慢したくなるのも当然である。普段は仕事から逃げてばかりいるが、ヒュウガは”仕事が出来る軍人”なのだ。 そしてその憧れの相手には、夜、こうして特別に愛される。日中、事務処理を嫌い昼寝ばかりしている阿呆な姿とは裏腹に男としての魅力を見せられ、そのギャップに戸惑うも、この色香は何処に隠していたのかと問いただしたくなるほどの濡事師の様である。 だから躯全体に漂う色気のある大人の雰囲気がコナツには眩しすぎた。長身に見合った広い肩も、胸筋も腕の長さも、見える範囲内での裸体の男性的な面にばかり意識が向いて、あとどのくらいすれば自分も同じようになれるのだろうという願望も込め、慕う相手から激しくも甘く、強襲であるのに優しく扱われることに心を奪われる。 ヒュウガとしては、色気を出しているつもりはなかった。そういうキャラでもないと思っていたのだが。 「ベッドでの少佐は凄くて。仕草も、目線も」 「そうか、そう見えるのか」 言いながら口の端を吊り上げて笑うところがエロティックなのだ。 「だから私も……いやらしく、なって……」 「いいじゃん、それで」 「でもっ」 「おかしくなれば?」 「……っ。おかしくなってます。少佐にこんなことされているのだと思うと、もう、もう……」 コナツが泣きそうな顔で声を絞り出すと、ヒュウガは大げさにため息をついた。 「はぁ、可愛い」 「!?」 心が熱いのだ。それは二つの心様のことである。 コナツの訴えを聞いて、溺愛したくなるほど可愛いと思った。どうしても、どうしても可愛いのだ。コナツはコナツでヒュウガに庶幾し、抱かれることを望んでしまう。この想いはもう、胸に畳むことなど出来ない。 今なら熱力学の新しい法則が生まれそうだ。百科事典に載っている第三までの法則の次に第四の項を作れそうなほど、理論も概念も飛び越えての特別枠で、二人が求め合う熱い気持ちは既に言葉では表せないほど上気し、これ以上ないくらい心の温度が熱く昂ぶっている。 「だから、愛してやりたいって思うんだよねぇ」 ヒュウガはそう呟いて、コナツの両手を自らの手で押さえ、指を絡ませて更に深く結合を果たした。 「ああ……少佐!」 「ちゃんと見てて。コナツはオレだけ見てればいいんだよ」 「!」 「広い世界を広い視野で見ることも大事。寛容に他人の意見を理解し、取り入れることも大事。でもオレはそれらすべてをコナツに教えられる」 「少佐……私は……」 最初から、ヒュウガについて行き、超えてみせると誓っていた。その願いが叶うかどうかは分からないが、前に進むために他のことは考えられなかった。目指す道に迷いはない。 胸の中に在る測りきれない想いの熱さを、どうすれば伝えられるだろう。ただ、互いの躯を貪るだけでは足りない。けれど、そうするしか術はなくて。 ヒュウガは逸る気持ちを抑えてゆっくり、ゆっくり中を攻め、激しくすればコナツが泣き声を上げるのは目に見えていたが、確実に想いを伝えようとした。そしてコナツも時間をかけてこの快楽を分かち合いたいと思っていた。 正常位にすればベッドに沈むコナツの躯が妖艶にしなる。肩を震わせたり胸を反らせたりと快感をほどよく示し、ヒュウガが手を離すとコナツの両手はシーツを掴んだり、行き場をなくして頼りなく宙を掻き、ようやくヒュウガの背や腰に触れる。 「やっぱり、いやらしい躯」 真顔で言うのを、 「どっちが」 反論すれば、 「少佐に決まっています。触るだけでこっちが変になる」 「なに、それ」 そんな会話が繰り返される。 最後に辿り着く快楽の頂点まで、そう遠くはない。二人とも射精感を訴え、皮膚を何度もこすり合わせながら、その時を迎えようとしていた。それでも決して乱暴な動きをすることなく、ヒュウガはコナツの脚を掴んだまま長く腰を引き、そしてじっくりと戻す。抜く動作で息を止め、深くまで挿入されると大きく喘ぐコナツの躯が、そろそろ限界を感じて震えている。 「ん……っ」 普段から甘い声であるのに、それが更に甘くなり、いよいよヒュウガの背に爪を立て始めた。 「ああ、来るんだね」 ヒュウガが理解し、自らも開放するために少しだけ律動を早めた。 「はッ、ああ、あ……ァ!」 「コナツ、後ろだけでイケそう」 「……ッ」 もはや返事をする余裕はない。 「一緒にね」 ヒュウガが呟くと、薄く目を開き、呼吸を荒くしながらコナツが頷く。 そこからは言葉もなく乱れた息が響き、繋がった中心部分が濡れた音を立てて、焦れるほどの時間が過ぎてから合図もないまま、二人は同時に達したのだった。 一瞬の快楽が永遠に続くかと思えるほどの強烈な果て方で、意思とは関係なく勝手に躯が動き、ヒュウガの腰が一度だけ強く中を圧した時、コナツも短い叫び声を上げたあと自らの腹の上に劣情を飛び散らせたのだった。 文字通り、時間が止まったように躯が硬直し、動くことが出来ず、筋肉が弛緩するまで待つしかない。 「大丈夫?」 まだ正気に戻れずにいるコナツの頬を撫で、声を掛けながらヒュウガも余韻を味わう。当然、コナツは目も開けられないままぐったりしている。 「ここまで相性がいいとはねぇ」 暫くヒュウガの独り言が続く。 「コナツ、失神しなかったね。でも、それに近いものがあるか」 かろうじて呼吸をしているのは分かるが、恐らく頭の中は真っ白になっているだろう。 「どうしよう、またしたいかも。今度はどうしてやろうかな」 受け答えが出来ないのをいいことに、ヒュウガは既に2ラウンド目について考えていた。 「あーあ、コナツ、まだ帰ってこられないねぇ」 呆然としている部下は、汗と体液にまみれた躯を隠すことも出来ない。 「このまま続けたら死んじゃう?」 悪びれもせず、いけないことを企んでみるが、コナツが咳き込んで目を開けると、 「ねぇ、お願いがあるんだけど」 そう言って早々にコナツの手をとる。 「どう……しました?」 少しずつ覚醒するのを確認しながら、 「二回目、いいよねぇ?」 正直に告げた。 「えっ」 コナツが驚いて息を飲んだ。この状態では無理もない。激しい快感の名残に身を委ねて起き上がることすらままならないのに、次の催促という名のおねだりである。 「オレ、こんなだからさ」 持っていたコナツの手を自身の盛りの付いた雄のように猛った性器を触らせ「治まらないよ」と言って笑った。 「!!」 言葉もない。 「コナツ相手だと、こうなるの。凄いよねぇ」 有無を言わせない物言いに、とても拒否出来る状況ではなかったが、 「……っ、少、佐、待って、わた、し……まだ」 焦って何かを言おうとしてもヒュウガは聞く耳を持たない。 「待てないってー」 「あ……!」 「大丈夫、激しくしないよ、もう一度最初から……ね」 後処理が前戯になる。もちろん、たっぷりと語り合うのも忘れない。 「ごめん、挿れたくなったら、きついかもしれないけど、またここを使うから」 コナツの小さな尻に触り、覚悟だけは決めていてほしいと前置きする。 「……ぅ」 尻を撫でられ羞恥の余り、指を噛んで耐えるコナツは今の交わりで相当体力を使い、もはや続行不能のサインを出すと思いきや、 「はい。また少佐と一つになれるのなら……」 ヒュウガを見上げ、微笑みながら小さな声で呟いたのだった。それを聞いて、コナツを覆っていたヒュウガは降参のため息をつき、 「やばいでしょ。」 困ったような顔をする。 「何が、です……か?」 「コナツが過激すぎて」 「えっ、今から過激になるのでは?」 「!?」 上昇する熱い想い。もはや緊急事態発生である。どちらがどこまで過激になるのか、今はまだ分からない。分かることは、これからが本旨だということだ。 外の晦冥の色と同じに濃く、深く愛し合って更にその想いを確かめる。熱核反応を起こすような激しい高鳴りが、夜の間じゅう二人を包んだ。 |
fins |