テイトはまだ何も知らなかった。
それを教えられても、本当の意味は分からなかった。今まで経験してきた苦しみと違うということは少しだけ理解できたけれど、奴隷として扱いを受けてきた少年にとって、その行為は決して屈辱ではなかった。 行為自体の名前も知らぬまま、狂おしい魅惑の挙止に導かれたのは、少年、テイト・クラインが13歳のときのこと。 孤児だったテイト・クラインは、6歳になる前に戦闘用奴隷としてバスルブルグ帝国陸軍士官学校の理事長であるミロクに引き取られた。小さいながらも意思の強い瞳をしていたテイトは、ミロクにその「才能」を買われたのだ。 人を殺すことにためらわぬ強さ、流されない意思、戦闘に長けた身体能力、それらをすべて見越し、ミロクはテイトを屋敷に置くようになる。だが、直接会って話をすることはなく、テイトの世話をするのはクレナという女性と、ミロクのベグライターであるカルという男だった。 テイトの暮らしは、食事と寝床を与えられる代わりに意識がなくなるまで戦って罪人を殺すことが義務付けられていた。彼にとって、それは当たり前のことで拒否をする権利はなく、そして失敗も許されない。よって、テイトには感情というものを与えられず、記憶を失くしているという特殊な環境も手伝って、彼は無機質な「物体」に育てられていった。 人よりも遅く物心がついたのは10歳を過ぎ、11歳になってからだろうか。初めて母親というものの立場を知り、自分の存在意義を探そうとテイトは足掻くことになる。求めれば求めるだけ虚無が降りかかるだけなのに、テイトは心から「情」というものを欲するようになった。それは人として生まれて普遍的な行為でもあるため、誰かに愛されることを望むようになるのだった。 当時のテイトの話し相手はクレナしか居なかったが、彼女は声を発することが出来ず、一方的にテイトが話しかけるだけで、クレナは微笑んで頷き、いつもテイトの声を真剣に聞いてくれていた。 屋敷に囚われたクレナを開放するためにテイトは士官学校へ入学することを決めるが、クレナはただ温かく見守り、テイトの巣立ちを喜んだ。クレナ自身、本当はとても寂しく思ったが、未来あるテイトの進む道はクレナにとっても眩いもので、誇らしい少年の瞳がとても力強く、クレナは歓喜の涙をこぼさずにはいられなかった。 そして月日が過ぎ、テイトは13歳になった。 その日も激しい訓練のあと、誰に屋敷に連れてきてもらったのか記憶にないほど衰弱していたところへ、カルがテイトの部屋を訪れた。 ベッドの上で目が覚めたテイトは、カルが腕や脚の怪我の処置をしているのを見て、 「クレナは?」 「彼女は今、手が離せない。明日はミロク様が早くに出かけるからその準備でも忙しいのだ」 「カルは行かなくていいの?」 「ああ。ミロク様のお召し物をオレが用意するわけにはいかないしな。それはクレナの仕事だ」 「そうか。……痛っ」 今日の傷は思ったより深く、固定して傷口が開かないようにしなければならず、結構力が要ったため、クレナよりもカルに手当てをしてもらったほうが良かった。 「縫っても構わんが、それだと抜糸が面倒だ。溶けるものを使用しても動きが鈍くなる。だが、この方法でもお前の回復力ならば大丈夫だろう」 カルはそういって傷口を合わせて専用のテープで止めた。 「しばらくこれは剥がすな」 「うん」 「かといって明日休めるわけでもないからな」 「分かってるよ」 自分は戦闘用奴隷である。怪我をしたからといって休暇が貰えるわけではない。 「今日はもうクレナは来ないの?」 「来ない。明日の朝に顔を出すように言っておく」 「お願い」 テイトはそう言ってベッドに横になった。 「もう休め」 「うん」 そしてカルは明かりを消して部屋を出ようとする。そこへ、 「待って」 呼び止めたのはテイトだ。 「どうした。痛むのか」 「ううん。違う」 「用があるなら手短に言え」 「……」 「なんだ」 「ほんとは痛いんだ」 「今日の怪我は深かったからな。執行中、何か違うことでも考えていただろう。最近お前は群を抜いて動きがよくなっていて、すこぶる評判がいい。だから、失態だけは晒すな」 「そんなこと、分かってる。でも、分かりたくないときもある」 「なんだ、ずいぶん反抗的だな」 「反抗なんかしてない」 「痛みが治まらないなら、薬でもやろう。ただし、オレが調達したことは言うな。クレナにもだ」 優しくされる立場ではない。本当は、どれだけ苦しもうとも訴えることすら出来ないのだ。 「違う。痛いのは、怪我をしたところじゃない」 「なに?」 明かりのついていない部屋では、互いの表情は汲み取れない。もっとも、カルはほぼ全身に包帯を巻いているという不思議ななりをしていて、普段からも面様を探ることは出来なかった。その姿の訳を直接聞いたことはなかったが、おそらく途轍もない理由があるのだとは感じていた。 「自分でもよく分からない」 「なんだ、それは。くだらないことを言っているのなら帰るぞ」 カルが冷たく言い返す。 「帰ってもいいけど……でも、オレが寝るまでそばにいてくれ」 「……」 そんなことを言われるとは思わず、カルは返事が出来なかった。 痛いのではなく、寂しいのだということに気付くまで時間を要したが、「子供みたいなことを言うな」と嗜める前に、テイトはまだ子供なのだと思うと苦笑いが漏れた。 「分かった」 「いいのか!?」 テイトも許可が下りるとは思わなかったのである。 「お前、クレナにもこんなことを言っているのではないだろうな」 「まさか。クレナは忙しそうだから、無理は言えない」 「……それはオレが暇そうに見えるということか」 「そ、そうじゃないけど……」 母親の存在を知らないテイトにとって、クレナに甘えることは禁忌のような気がした。だから、カルに我儘を言ってみた。カルは男同士でもあり、ミロクのベグライターで、テイトにとっては近い存在なのだ。 「なぁ、ミロクって、どんな人?」 「お前に答える義理はないな」 「……オレに会ってくれないのは、奴隷だから?」 「そう思うのが、お前のためだ」 「カルはオレのこと、いつも見張っててチクってるんだろ?」 「チクる? ずいぶんな言葉を覚えたな」 「別にふつーだろ」 「お前は普通に生きてはならない。もっと弁えろ」 「……」 「と雇い主には言われるだろうがな。オレはそう思わないから安心していい」 「カル……」 「士官学校に行けば、状況は少しずつ変わっていくだろう」 「うん」 「無理に変わることはないが、そこで必ず人に会う。人に関わるということは、少なからず生き方に影響される。辛くなるのも面白くなるもの状況次第だ。オレはお前が嫌いじゃないから、どうなろうと見守っていくつもりだ」 「……なんか優しいんだな、カルって」 「意外か?」 「うん」 「ガキは正直だ。もう寝ろ」 「うん」 テイトはベッドの中へもぐりこんだ。 「ここにいるから、大丈夫だ」 「うん」 何処か不安そうに小さく呟きながら小さな手をカルに伸ばす。 甘えている。 それは分かったが、口にしたところでテイトの行動が意識的なのか無意識なのか、本人すら分かっていないだろうと思い、カルは黙ってテイトの手をとった。 その大きな手をぎゅっと握り、大きな瞳を瞼で隠す。 ものの数秒で寝息を立て始め、その寝顔を見て、カルはテイトが子供であることを痛いほど実感するのだった。 そんな子供としか思えなかったテイトを抱いたのは、士官学校に入学する一ヶ月前のことだった。 テイトの戦闘能力は目に見えるほどの上達と、類稀な才能を見せていった。士官学校に入学すれば、ミロクの口利きということを除いても恐らくトップクラスの成績を残せるだろうと思っていた。 「明日も今日と同じかな」 だが、そんなテイトの表情が芳しくない。表情は分からずとも、声音で分かる。 「どうした。今更何を言っている。どこか体調が悪いのか」 カルがそう言うと、テイトは黙り込んでしまった。 「お前が落ち込むなんて珍しいな。もっとも最初から元気なヤツではなかったが」 カルが笑う。 「……どうして。どうしてカルはオレにそうやって話しかけてくれるんだ。誰もそんなことしないのに。毎朝オレを連れて行く軍の人たちは、オレには何も言わない。会話なんてしたことない」 苦しそうに吐き出した言葉は、苦悩を抱える少年の心の叫びだった。 「なんだ、泣き言か?」 「違う。でも、分からない。オレは何かおかしいことを言っているだろうか」 「……」 「クレナは優しい。クレナがそばに居てくれなければオレはどうなっていたか分からない」 「そうだろうな」 「でも、甘えちゃいけないんだっていう気持ちはある。人を思うたびにワケの分からない感情がオレの中に流れ込んできて、それをどう対処していいのか分からなくなるんだ」 どんなに戦闘用奴隷として生きてきても、人と接触している。言葉を知っている。例えば親に捨てられて猫や犬と育ってきた人間は、知能も動物と同じ程度にとどまり、感情というものは一切持たないと言われているが、テイトは違っていた。言葉を覚え、人の優しさを知ってしまった。 「痛い。よく分からないけど、心が痛い。涙が出るのに、どうしてなのか分からない。理由が欲しい」 「理由……か」 「でも、自分が何を望んでいるのか分からないんだ。この迷いや苦しみから解放されたい。忘れたい」 「お前……」 「助けて」 テイトがカルの前で涙を見せた。しゃくり上げる声で、テイトが泣いているのだと分かる。 「疲れているんだ。もう寝たほうがいい」 一日の仕事を終えて帰って来たばかり。今日は怪我も多く、クレナに手当てをしてもらい、少しだけ会話をした。カルが様子を見に来たのは、クレナが居なくなってからだ。 「そのうち大人になれば、自分でも対処できるようになる。考える力が養われるんだ」 「考える力? 大人になれば?」 「そうだ」 「じゃあ、ずっとこの痛みを抱えて生きていけっていうのか。大人って、何歳になったら大人って言うんだよ」 「……」 「今すぐにどうにか出来ないのか」 「お前も言うようになったものだ。利かぬ気だとは思ったが、最近はひどい」 「カル」 「こういう感情も人格形成には大事だがな」 「カルもそんな時期があったの」 「さぁ」 「……もしかしてカルも辛い子供時代を送っていた?」 「それは言えない。人なんて、生きてるだけマシさ」 「……カル……」 テイトの声が小さくなってゆく。 見かねたカルは、 「一時的にだけ、嫌なことを忘れる方法はある」 そう言った。 「ほんと!?」 「だが、問題もある」 「なに?」 「お前が、オレをどう思っているかだ」 「なに、そんなこと」 「そして多分、それは一歩間違えると無残な過去にしかならない」 「わ、分からないよ」 「なら、この話は聞かなかったことにしろ」 「そんな! オレはカルのこと……カルの、こ……と……」 テイトが言葉に詰まった。言いたくて言えないのではない。なんと言っていいのか分からないのだ。 「無理するな」 「違う。違うんだ。オレ、カルのこと好き」 どう表現していいか迷った挙句、一番ストレートな言い方をしたが、今まで使ったことのない言葉で、テイトのこれまでの記憶で誰かに直接好きだと言えたのはカルが初めてだった。 「こうしてそばに居てくれる唯一の人だろ。オレはお前しか知らなくて、クレナも好きで、オレの世界には、他には誰も居ない」 記憶を封じられたテイトにとって、それは事実だった。この狭い世界でテイトはカルとクレナに触れることで人となりを保ってきた。彼らはテイトにとって特別な存在だった。 「そうか。それは嬉しいな」 「嬉しい? よかった」 人に喜んでもらえると、自分も嬉しい。そういう気持ちを初めて知った。 今までクレナを喜ばせようと落ち葉や花、綺麗に輝く石を拾ってはプレゼントのようにしてあげていたことはある。クレナは静かに喜んでくれて、その笑顔を見るのが何よりの楽しみだった。 「それに、カルってオレと居る時とミロクと居る時とで態度が違うだろ?」 「……どういう意味だ」 カルにとってミロクは上司であり、ベグライターとして仕えている身としては横柄な態度が取れずはずもない。 「ミロクにはかしこまってて、自分のこと”私”とか言って言葉遣いも丁寧だけど、オレと居る時のカルって素って感じがする」 「!」 一理あった。確かにその通りだった。自分が何者なのかを悟られぬように意識をしてきたつもりだが、テイトの前だと不思議と素のままでいられるのも事実だった。 「だから、オレにとってはカルは特別なんだ」 「……そうか」 そんなふうに思われていたなどと気付かずにいた。それでも、子供ながらに周りの状況を一生懸命見ているのだと思うと、テイトへの気持ちが更に熱くなってゆくのだった。 「ただ、お前がそう言ったことを後悔するかもしれないな」 「なんで」 「今からオレがしてやることはお前にとって嫌な思い出になるかもしれないからさ」 「どういうこと?」 あとは、あっという間のことでテイトには状況を把握することも、進行をとめることも出来なかった。 カルはテイトをベッドへ押し倒し、着ている服をすべて奪い取り、その若い裸体を生贄のように晒した。 怪我だらけで傷の多い躯ではあったが、美しかった。この頃の少年はかなくも美しいものなのだ。 「……っ」 カルはテイトに触れた。 髪、頬、くちびる、首、肩、胸、腹……ゆっくりと順に、その美しい躯を確かめるように、包帯を巻いたままのてのひらで味わった。 「随分細いな」 「え、そ、そうかな」 テイトは自分が痩せているかどうかなんて、他人と比べたことがないから分からない。 「こんな子供が戦闘用奴隷だなんて、世の中狂ってる」 「カル」 人が殺せるのなら子供でも大人でも関係なかったし、殺人兵器を養成するならむしろ子供のほうが扱いやすい。下手に”生”に執着する年齢の上がった人間より、まだ世間を知らない子供であれば、他人の生も自分の生もどうでもいいことで、ためらいもなく殺すことが出来る。 「仕方のないことだな」 カルは独話でごまかした。 「なに?」 テイトには、カルの嘆きはまだ理解出来ない。 カルはテイトが一切抵抗しないのをいいことに、脇腹や腕、太腿や膝、足首など、余るところなく触れていき、感じてしまうのか、時折テイトが息を呑み、かすかに喘ぐのを面白がって聞いていた。 「カル……っ」 「どうした」 「カルは、他の人ともこういうこと……するの」 何気なしに聞いた台詞だが、その声は小さく、テイトならではの恥じらいが含まれているようだった。 「知りたいのか」 「う、ん」 「するさ。必要があれば……な」 「そう」 「でも、オレは初めてだ」 「そりゃそうだろう。そのためにオレがついていたんだから」 見張り役として、テイトの行動はカルによって監視されていた。良くも悪くも、テイトの身はこれで守られていたといっていい。 「でも、こういうことをするのは、いいことなの? 悪いことなの?」 テイトの言葉にカルの良心が痛んだ。 少年と呼ぶことすら危うく、児童と呼んでも違和感のない、まだ幼さの残る「子供」にいけないことを教えようとしている。 だが、テイトが望んでいる「悲しみや苦しみを一瞬でもいいから忘れたい」という願望を叶えてやるには刹那の快楽を味合わせてやるのが一番だと思った。 「なんだか、ヘンな感じがする」 「そうだろうな」 「カルもヘンな感じがするの?」 「お前と同じかどうかは分からないが」 「同じだといい。だったら、こういうことするのは嫌じゃない」 「……」 カルはこれほどテイトが愛しいと感じたことはなかった。 ミロクに引き取られてからずっとそばにいて、初めて口をきいたときは、ほんの小さな子供だったことを覚えている。ほとんど足元から聞こえたテイトの声は無機質で、記憶がないせいか感情もなく、子供らしくない声だった。 それが、ここまで成長したのだ。 苦境の中、よくぞ素直に育ってくれたと思う。 「お前は、いい子だ」 「えっ」 褒められたことのないテイトは、嬉しさのあまり顔を輝かせた。 テイトが酷く取り乱さないのは、カルに直接見られているという意識がないからだろう。テイトにとってカルは目隠しをしているようにしか思えない。これが目の前で裸になった自分を直視されたら、恥ずかしさのあまり、ベッドの中にもぐりこんでしまったかもしれない。 ただ、今のテイトには、そこまでの感情はなく、裸になることに抵抗があるのかすら怪しかった。 「これで終わり?」 テイトが訊いた。 「……」 「もうやめるの?」 テイトは、カルが何をしようとしているのか、その知識が全くない。だから裸にされて撫でられるだけだと思っている。 「まだだ」 「ほんと? もっとしてくれる?」 「……」 頭を撫でているのと変わりのない動作だと思っているのだろうか。 「だって、嫌なこと忘れられる。こうしていたい」 「上等な誘い文句だな」 「誘い文句? オレは文句なんか言ってない。もっとしてほしいってお願いしただけだ」 テイトは思ったことをそのまま言葉にした。 「ああ、そうだな。これで終わりじゃない」 「よかった」 素直に喜んだが、この後、まさか自分の躯に大きな変化が訪れるとは夢にも思っていなかった。 幼さの残る少年が、知ることもなかった淫欲な扉を開けて、もしテイトが少なからずショックを受けたとしても、カルは自嘲気味に責任は自分にあると率直に思った。すべての責任は自分がとる。だからせめて、嫌な思い出にはしたくないと、テイトに触れ、何かを囁くたびに願うのだった。 愛撫が激しくなってゆく。 子供を可愛がるという程度のものから、大人のテクニックに変わり、カルは慣れているようで事もなく巧みにシチュエーションを確立させ、当たり前のように完璧な構図を造り上げて上手に導いていった。 「カル? カル?」 息を切らしながらテイトがカルを探す。 少し意識がちらつきはじめ、与えられる快楽に躯がついていかず、そのせいかテイトが顔を隠したがった。 「ずいぶんしおらしいところもあるものだ」 「こっち見ないで」 「……」 「カルはあっち向いてて」 「……それは無理だ」 「じゃあ、今のオレを見て笑わないで」 「笑うはずがない」 「オレ、変だよ? 変になってるんだよ?」 快楽のほうが勝り、カルに腕を絡めてしまうのも、自分の意思ではないと言いたかった。 「大丈夫だ」 「でも」 「これでいいんだ、お前は少しも間違っていない」 「そう……なのか?」 「安心しろ」 「う、ん」 淫猥な雰囲気の中で和やかでいられたのもそこまでだった。 「テイト。これが何だか分かるか」 「?」 カルはいきり立った自分のものをテイトに触らせた。 「これ……」 「お前も同じのを持ってるがな」 「!」 そう言ってカルはテイトのまだ幼い男の子の印を撫でてやる。それは子供ながらに反応を示しながらピクンと震えたが、テイトの手の中にあるものは何倍も大きく、太く、そして固さもあり、人の体の部分とは思えないほどの迫力があった。 「カルの……?」 「そうだ」 「すごい」 「驚くほどか?」 「凄く固い。大きいよ、カル」 「大人だからな」 「大人だとみんなこうなるの」 「そうだ」 「でも、これをどうするかの? どうなるの?」 テイトの瞳は無邪気なままで、本当なら、そこに罪悪感があるはずが、カルは躊躇わずに答えた。 「お前のここに入れるんだ」 「!?」 カルはテイトの尻を撫でると、奥に潜む小さな秘所に指を当てた。 「理解出来るか分からないが、理屈より行動したほうが早いか」 「まさか。入らないよ、こんなのムリ」 「そう思うだろうな」 「だって、もし入れたら絶対痛そう」 「ああ、痛いだろう」 「そんなことしないで」 「痛い思いをさせるのは不憫だが、耐えてもらうしかない」 「カル……」 カルはそのまま愛撫を再開させた。熱を帯びた吐息が小さな口から漏れ、テイトは何度も「凄く変だ」と言って初めて感じる快楽にひどく戸惑いを見せていた。 「いい子だ」 カルが優しく褒める。 「なんか……こんなの、初めてで」 テイトが率直に述べるとカルが笑った。 「戦う時と、全然違う、これはなんていうの」 自分がやっている行為を興味津々に訊ねてくる姿勢にカルは再度良心を痛めたが、やめるつもりはなかった。 「これが何かは、大人になったら分かるさ」 苦笑するその表情はテイトにも見えなかった。はぐらかすカルにテイトは頬を膨らませ、 「大人になったら分かるって、カルはそればっかりだ。まるで子供には言っても分からないってバカにされてる気分だよ」 不満をぶつけてみる。 「そうじゃない」 「だったら教えてくれても……」 「まだ教えたくはないな」 裸の躯に触れながら言う台詞ではなかった。それを聞いたテイトはためらい、少し考えてから小さく呟いた。 「もしかして、これはしてはいけないことなの」 カルは一瞬動きを止め、そしてゆっくりと指先をテイトの頬に滑らせた。 「そうだな、そうかもしれない」 「でも、でも、オレは嫌じゃない、戦うときとは全然違う気持ちになれる。なんていうか、うまく言い表せないけど……その、ええと、気持ち、いい」 無防備に呟いた言葉がカルの欲情を刺激し、箍を外した。 テイトは子供だが、奴隷だ。奴隷だが、どこか影がある。生まれの良さが滲み出ているのか、どことなく奴隷にはそぐわない印象を受けていた。翡翠の瞳は美しく、顔立ちも整っている。そう、テイトはとても美しい子供だった。カルもクレナも生まれ持った気品には気付いていた。たとえ戦闘用奴隷であっても、気高さは隠せない。そして、それらは今、こうして触れ合っているからこそカルには文字通り手に取るように分かるのだった。 普段の訓練や戦闘に出るときの冷たい感情ではなく、すべてを曝け出そうとする幼い心と熱を持った躯、テイトのすべてが愛しく、儚い。愛などという言葉をここで使うには余りに滑稽だとカルは嘲笑したが、この刹那の間だけは愛してやりたいという想いが溢れ、小さな躯をきつく抱き締めた。 「カル……! カルッ!」 自分よりも大きな躯に包まれて軽い眩暈を覚えた。母親に抱かれる感覚を知らぬテイトは、誰かにこうして抱き締められると何故か安堵することに気付いて、 「もっと……」 そう呟くのだった。 「ああ、そうだな、お前にこれを教えるのはオレしか居ない」 今のテイトは特定の人間以外との接触を許可されていない。だから、テイトに触れられるのはカルのみ。人と繋がる痛みも悦びも、初めて受ける歓楽も迷いも、もしかすればこれが最初で最後かもしれぬと覚悟を秘めながら、カルはゆっくりとテイトの躯をほぐし、そして……。 「ああッ!」 幼い秘所を穿った。 「いッ、痛いッ!」 恐ろしく狭くきつい子供の尻を、欲望のままに貪る。テイトは躯を強張らせて悲鳴を上げた。 怪我をすることには慣れている。肉が裂け、骨が折れて意識がなくなることなど当然の環境に居て、命を狙い、狙われ、血を見ない日などない。それでもテイトにはカルを受け入れる痛みは大きすぎた。 「いやだっ、いや、カル、やめ……!」 テイトにはこの行為が理解出来ない。 「なんのために、こんな、こんな、こと……痛いの、に!」 テイトがしゃくりあげていた。本能的に逃げようとする躯を押さえ、カルは少しずつ己の昂りを未踏の地を穢すように押し進めていった。 「あああああッ」 声変わりの済んでいない子供の叫びは、残酷な響きを持っていた。 「ひどい……っ、カル、ひどいっ」 テイトにはカルが悪意を持っているとしか思えない。 「オレは悪いやつだ」 すぐにそう答えると、テイトは首を振る。 「オレのこと、本当は嫌いなんだ、だからこんなことするっ」 もがけばもがくほど痛みが増す。 「違うな、好きだからだ」 「!?」 「でなければ、こんなことはしないさ」 「そうなの、か?」 「ああ」 カルはそっとテイトの性器を握り、やんわりと撫でた。 「う、あ」 空いた手で躯のラインを愉しむようになぞっていくとテイトは息を潜めながらカルの行動を感覚で追っていた。受け入れた箇所はまだ大きさに慣れず、少しでも動こうものなら痛みが脳天まで突き抜ける。その痛みの代替とでもいうようにカルはテイトの男の子の印に刺激を与え続けた。 混乱する神経が麻痺し、自分が何に囚われているのか分からなくなる。 「な、に、これ。なんだよ、これっ」 他人からの性器への接触は、今まで経験したことのない凄まじい快楽を伴い、躯の中心が燃え上がるように熱くなった。 「ひ……っ」 広がる悦びは波のように躯中を漂い、手足を弛緩させてゆく。頭の中が白くなり、何も考えられない。ここに存在するのは自分とカルの二人きりで、この共有する時間は絶対に秘密にしなければならないという背徳を受け入れて、テイトはすべてをカルに委ねた。 動けば途端にテイトが痛みを訴え、泣き出してしまう。だが、そこで気付いたことがあった。 「お前……」 息を吐き、そして吸うたびにカルを受け入れたテイトのそこが強弱をつけて蠢く。直腸の振動から、カルが自ら動かずとも快感を得ることが出来るのだった。 「これが女なら名器ってやつだが」 カルが苦笑しながらも感心している。 「な、に?」 顔を顰めて痛みを率直に表しているテイトには、カルの表情は見えない。 「なんでもない」 少しだけカルの声が掠れ、初めて聞くその声に大人の色香を感じ取った。 「カルは、気持ち、いい……の?」 「ああ」 「ほんとに?」 「嘘はつかない」 「そ、だね、ならいい。カルがいいなら、オレも同じ」 本当は長い時間、こうしていたかった。離れたくない思いが強くなったが、躯に流れる享楽の味が次第に濃くなることで、終わりに近づいていることを感じ取った。 「やめないで、終わらせないで」 テイトが懇願するが、叶えてやれるものではない。 「物事にはオワリがあるのは、お前でも分かっているはずだ」 「これは終わらせたくない!」 「……」 朝までこうしていろというのか……とカルはおかしくなったが、テイトは子供心に少しだけ我儘を言っているだけなのだということにした。 わずかだが、怪我を負っているテイトに体位を替えることはせず、ベッドに寝かせて正常位のまま穿った。テイトは時折痛そうな顔をしたが、それ以外は甘肌をしっとりと濡らし、高めの声で子猫のように啼いている。 陶然とした表情は故意にではなく勝手になっているもので、そうしろと教えたわけではない。子供でも快楽を感じれば妖艶になると分かったが、あくまでもテイトの顔かたちによるもので、誰にでも当てはまるわけではなかった。 「お前が成長したら、恐ろしいことになりそうだ」 「?」 ゆっくりと腰を動かしているために自我を失うことなくカルの言葉に耳を傾けることが出来たが、褒められている気がせずにテイトは顔を顰めた。 「頼むから、男殺しにはなるなよ」 その台詞の意味も分からない。 「さぁ、もうおしまいだ」 「えっ、まだ……!」 「最後は、もっといいものが味わえる」 「……」 「与えてやろう」 「カル」 それから数十秒、言葉もなく二つの躯が激しく揺れた。テイトはされるがままだったが、 「あっ、痺れ……、溶け……広がって……きた、これ、何? ああ、駄目、何かが来る!」 色々な単語を並べて前兆を表す。 カルは、中のもっとも敏感なところに自身の先端で擦るように当てて、抉るように圧しながら、右手でテイトの幼い性器を握った。そうなればもう、躯の中で渇望している性の疼きがいよいよ解放されるのみ。 「ゃ……ッ」 小さな声を一度だけ発し、全身を突っ張らせたまま腰部だけをひくひくと痙攣させて若い果実から淫欲の種を飛散らせた。 下腹部がいやらしく波打ち、テイトが呼吸困難に陥っている。何が起きたのか分からない様子で呆然としていたが、 「死ぬかと……」 泣きそうな、否、半泣きの状態で呟いた。 「……」 戦闘用奴隷で、いつ死んでもおかしくない状況に立たされてる者が弱々しくそんなことを呟くとは思わず、 「それは危なかったな」 冗談と受け止めることにしてカルが笑った。 「カルは平気?」 「まさか」 「同じ?」 「そうだ」 「二人で同じ?」 「ああ」 「じゃあ、これは人を殺すより、いいことなんだね」 「……」 カルは何も言わず、テイトにくちづけた。 同時にカルもテイトの中に放ったことで、それを事後に教えると、テイトは驚いた顔をしながらも嬉しそうに喜び、もっと詳しく説明しろと興味津々になっていた。カルがテイトの対応に困ったのは、これが初めてだった。 壊れやすく脆い関係ででいいと思っていた。一度きりの、今夜限りの過ちでいいと、そう思っていた。しかし、抱きあって、それが大きな意味を成し、二人だけの絆を築城したことは、カルもテイトも、この先一生忘れないだろう。そして、テイトも、今あった事実は絶対に誰にも秘密だと、危うい熱に侵された無音の中で感じ取ったのだった。 「カル、このことは誰にも言わないで」 「言わないさ」 「大好き」 二度とないこの告白が始まりになった長途の路(みち)が二人の中で確かな痕跡となり、時が過ぎても決して変わることはなく、静かに彷徨い続けていた。 |
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