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「あ、駄目だって、カペラが起きる!」
テイトが小声で訴えている。
「大丈夫だって。今日も働き通しで疲れてぐっすりだ」
「そういう問題じゃなく!!」
「しょうがねぇなぁ。移動すっか」
「うわ!」
いつものように軽々と持ち上げられてバスルームへと連れて行かれた。ラバトリーに座らせられても、目線はまだフラウと同じにはならない。
「お前……ほんっとデカイなっ」
何故か腹が立つ。
自分もあと一年もしたらフラウのようになれるだろうと信じているが、よくよく考えれば、わずか一年でこのくらいの大きさになったら激しい成長痛に悩まされるのではないか。元は戦闘用奴隷、怪我で躯のあちこちが痛むのは常だったが、骨が伸びていく感覚といものはどのようなものなのか全く想像もつかない。
「お前は相変わらず小っこくて可愛いぜ?」
「うがーっ!!」
今はミカゲがカペラの隣で寝ているからテイトには味方がいない。フラウがどれだけテイトをからかっても、テイトは一人で戦わなければならなかった。そう、ここまでくると戦いである。
「ちょ、マジでこんなとこでっ」
「お前があっちじゃ嫌だっつったんだろ」
「それはカペラが起きたら困るからじゃん!」
二人はああでもないこうでもないと言いながら、テイトは腕を突っ張ってフラウと距離をとろうとし、フラウはテイトの腕をはねのけて、そしてまたテイトは……と、この繰り返しなのである。
要するにフラウとテイトはこれから事に及ぼうとしたが、テイトは眠っているカペラを気遣っただけで、今日に限ってどうしてこの態度なのかというと、今日泊まるところは部屋の作りが狭く、安普請で隣の部屋にも筒抜けだからである。現にさきほどまで隣接してある部屋の宿泊人の会話が聞こえてきていた。今はもう寝静まったようだが、こんな静かなところで少しでも物音を立てたものなら、隣の部屋どころか廊下にまで漏れそうだ。
それはともかく、テイトはカペラが心配だった。わずか5歳の子供が目を覚まして、男同士の性行為を見られては弁解のしようがない。
「起きねぇよ、お前が大声出さなけりゃ」
「じ……自信な、い」
「は?」
「声出さないようにするなんて出来そうにないっつってんだよ」
「ほーぉ?」
「おっ、お前はいいよ! 無言でやってりゃいいんだから! オレの身にもなれってんだ!」
テイトも最近は中々言うようになってきた。フラウはニヤリと笑うと、
「だったらお前も無言でいりゃあいいじゃねぇか」
「そ、それは!」
感度のいいテイトには無理な注文である。
「大体、カペラくらいの年の子供は父親と母親が致してるトコロ見ちまっても喧嘩してるかじゃれあってるくらいにしか思わねぇもんだぜ」
「そうなのか?」
「ま、何してんの? くらいは聞いてくるかもしんねぇけどな」
「ならマズイだろ」
「んなもん、遊んでんだって言えばいいんだよ。もっともお前にそんな余裕はねぇだろうからオレがきっちり説明してやる」
「……」
どうも腑に落ちない。うまく言いくるめられているような気がする。だが、ここで何事もなかったかのように部屋に戻って眠るのも嫌だ。最近は忙しくてフラウにまともに触れていない。今夜も、フラウが狩りに出かけようとしていたのを引き止めたのだ。
「オレは別にいいんだぜ〜、用がなければこっそり抜け出すだけだ」
「そんなに出かけたいのか」
「ああ?」
「外のほうがいいのかよ」
「……」
「天秤にかけるつもりないけど、そこまでして出たいならオレだって行くなとか言わねぇ」
「それって、アタシと仕事のどっちが大事なのって迫るオンナみてぇだな」
「違うっつうの!」
「ハ! ならオレにも言わせろ。狩りなんかしてるよりお前抱いてたほうがいいに決まってる」
「ちょ、直球!!」
「別に少年が好きだとか、そういう趣味はないんだぜ。お前だからだろ。つか、女とは違った意味でお前は抱き心地がいい」
「そんな真顔で!」
「今だからだろ。昼間っからこんなこと言わねぇよ」
「だって……」
「ホントのことだしな」
ミカエルが覚醒した時よくテイトを褒めていたが、あの時は半信半疑でも、今となっては嘘ではないと思っている。
「オレのどこが……」
分からない。
力はあると思うが小さくて細くて、栄養失調だと言われることもある。フラウと違い、骨も太くないし、筋肉がつきにくい。男として生まれてこの二つの事実はとても屈辱であるが、フラウに褒められるなら悔しさが半減するような気がした。
「で?」
「あ? ああ?」
「やるのかやらねぇのか、どっちなんだ」
「え、ちょ、そんなムードもなにも……」
「ムードならあるぜ〜。ここは既にバスルームだ。終わったあとはすぐにシャワー。素晴らしいだろ」
「お前、本当に司教か?」
テイトは人格を疑い始めた。いや、疑うのは出会ったときからそうだった。乱暴で乱雑、成人指定の本を読むのが趣味……ならともかく持ち歩いているのを見たときは信じられず、体格の良さからも職業を間違えているのではないかと数え切れないほど思ってきた。
「司教ですが何か」
「……」
これで二次試験の歴代最高得点保持者で、それを破った者は誰一人居ないどころか、破る者は現れることはないだろうと言われているほどの実力の持ち主。フラウと話しているとギャップを感じすぎて、一体どれが本物なのか分からなくなってしまうのだが、テイトを抱くテクニックだけは確かだった。
「ま、オレも無理強いはしねぇよ。嫌ならやめる。出掛けるのも、もう面倒くせぇし」
「……」
「でもなぁ、せっかくだから、ちょっとだけイイことさせろよ」
「?」
フラウはテイトの前髪を梳き、形のよい額にキスをした。2、3度繰り返したあと、空いている右手の親指と人差し指でテイトの耳たぶをくすぐりながら、キスは頬へと流れた。最後に右の首に強く押し当てるとわずかな痛みを与えながら吸い上げる。
「ぅ、あ……ッ」
「この程度なら明日には消える」
故意に残したキスマーク。フラウは意地悪をするときは濃く付けるが、今、散らしたのは清やかな薄桃色で、すぐに消えてしまう程度のものだった。
「寝るぞ、クソガキ」
またしてもひょいと担がれそうになるのを、
「やだ」
テイトは全身で拒否した。
「今度は何だ」
フラウが見下ろす。
「す……する」
「ああ?」
「続き……」
「あ、ソノ気になっちゃった?」
「お前がそうしたんだろっ」
「ふーん? オトナなら、ここでやめることも出来るんだぜ?」
「オレはまだ子供だっ」
子供なら、こんないやらしいことは出来ないはずだが、そんな矛盾は無視する決まりになっている。
「で? 何処がいい? ここ? それともベッド行くか?」
「ココで」
「じゃあ、お前はしっかりオレに掴まってな」
「う……」
フラウは立鼎をするつもりだった。この二人の身長差、体格差には打ってつけの体位である。
本来なら、今すぐに貫き、強引に躯を揺すって快楽を得たい。テイトが痛がろうが泣こうが、それを見るのも抱く側の特権だとばかりに、いわゆる強姦もどきの攻め方をしたかったが、敢えて抑えた。
ゆっくり、ゆっくりとキスから始め、テイトの躯に力が入らなくなるまで隈なく愛撫した。
「溶ける……脳みそも目も手も脚も……ぜんぶ」
テイトの口からそんな言葉が飛び出した。蜜のように溶けてなくなってしまいそうだった。
「やっぱベッドにしときゃよかったぜ」
フラウが少しだけ後悔した。
立鼎をするなら、テイトにはせめて肩か首に縋っていてもらわなければ困るのだ。だが、今のテイトにはそれが出来そうにもなかった。
「ベッドは、だめ……」
「分かってるよ」
フラウは、自分の昂ぶる熱を納めるため、いよいよテイトの秘所に手を伸ばし、指で慣らし始めた。触れた瞬間にピクンと反応したテイトは、ぐったりしながらも自分が何をされているのかを、じっと見ていた。ラバトリーに座った格好になるため、ベッドに寝かせられているのとは視界が違い、両脚を広げて恥ずかしい場所を晒している自分の姿がありありと自覚できる。普段のテイトなら耐えられずに逃げ出していたことだろう。だが、もう何もかも麻痺してしまっている。
「フラウ……早く」
こう来たものだからフラウは耳を疑った。
「ちょっと待てよ。怪我するぞ」
「じゃあ、もっと早く……慣、らせ」
「……」
ミカエルが降臨しているのかと見間違えたが、テイトの躯にはミカエルの瞳はもう無い。もともと態度がでかいのか、せっかちなのかと思っていると、
「待ちきれないんだ」
涙目で訴えるのだった。
「このクソガキ」
だから、力で押すのを抑えているというのに、ここで無茶をすればフラウの努力が水の泡になる。ラバトリーが血で染まることだけは避けたかった。
「ったく」
指を二本まで増やしたところで、それでもまた足りないと思ったが、フラウはテイトを抱き上げようとした。
「あ……」
「おい。大丈夫なのか、お前」
何をどうしても、テイトの躯はトロトロにとろけている。全く力が入らないのだ。
「はや、く!」
そのくせ要求だけは立派である。
「……困った王子様だ。大声、出すなよ」
抱き上げるまえに、フラウは自身の先端を掴んでテイトの秘処に当てると、最初だけ強く進入を試みた。
「!!」
テイトが思い切り仰け反った。叫び声を上げなかったのは幸いだったが、テイトにはもう自分の躯をコントロールすることが出来なかった。
「おっと」
後ろに倒れこもうとするのを、フラウは左手でテイトの腰を抱き、右手を、まるで首の据わらない赤ん坊にするように背中から首に当てて抱き上げると、そのままテイトの腰を自らの下腹部に押し付けて更に奥へと最大まで硬さを増した自身を押し付けるのだった。
── !!」
痛いのだと思う。
それは見るだけで分かるし、フラウ自身、内壁をこすりながら、受け入れているテイトのそこは限界まできているのが感覚として伝わってくるのだ。あと少し酷くすれば音を立てて破けてしまうだろう。
「すげーな」
締め付けられるのは嫌いじゃない。が、刺激が強すぎる。
「癖になっちまう。よすぎるってのも問題だ」
フラウは苦笑した。このままではテイト以外の相手では勃たなくなりそうだった。

右も左も分からず、前後不覚になっているテイトを宥めながらフラウは律動を刻み、声を漏らすまいと我慢しているテイトを健気に思い、腕に抱きしめたまま細い躯を十分に味わう。
テイトの息が次第に上がってきて、仕舞いには、
「くぅ、ん……ッ」
子犬のように鳴く。何事かと驚くフラウに向かって、
「や、ば……い、気持ちいい」
はっきりと表現して、性に溺れている様子を見せる。テイトの男の子の印がフラウの腹にこすれて、既に欲望を露わにしているのだ。これで冷静になれというほうが無謀である。
「先にイクか?」
フラウが聞くと、首を振り、テイトは我慢することを決めた。達してしまえば失神するか、自分だけが先に満足するというのが許せなかった。
「可愛いよな、お前は」
今はそんなことを言われても言い返せない。口をついて出てくるのは、
「フラウの、凄く大きくなってるのが分かる」
だの、
「オレたち、いやらしいことしてるよね」
だの、
「最後は名前を呼んで」
だのと、普段のテイトからは想像もつかない内容のものばかりなのだ。ミカエルの瞳を宿している時は、二重人格もどきでも仕方が無かったが、抱くとこうも変わるものだとは思いもしなかった。
だが、毎回こうなるわけではなく、始終恥ずかしがってまともに顔を上げずに目を合わせようとしない時もあれば、絶対に声は出さないと意地になっている時もある。共通しているのが、始める前はまるで処女のように怯えていてキスにも戸惑うことだ。テイトらしいと言えばらしいが、フラウに言わせれば、
「一筋縄ではいかねぇヤツ」
なのである。

やがて、二人にも限界がきた。
「オレも溶けちゃいそうなんだけど」
「うん」
「一人でイケるな?」
「一緒、だよね?」
「ああ」
「なら、いいよ。中に」
「……」
後処理が大変だから体外に出そうとしていたフラウは、テイトの許可を得て、位置をずらして浅めに穿ち続けた。奥で射精をしてしまうと、中を綺麗にするのに時間がかかる。だが、
「ああッ!!」
浅めに突けば、どうしても一番いいところに当たってしまう。テイトの意識が混乱し、ピンク色の舌先を覗かせて喘ぐ姿はフラウをも惑乱させる。フラウは舌打ちをすると、
「テイ……ト」
腕に力を込めてテイトを抱きながら、溜まった欲を淫猥に開放した。同時に、
「フ、ラゥ?」
テイトも快楽の掟には従順だった。しかし、まだ年端もいかぬ少年。幼いせいか、何処か背徳めいた顔をして性を吐き出す。
その姿もまた、ひどく濃艶で、もっと見たい、もっと啼かせたい、求めたい、溺れたいと要求ばかりが多くなる。禁じられた遊びはいつだって魅力なのだ。

「いい子だ、テイト」
抱っこされたまま目をうつろに彷徨わせているテイトは、終わったことを初めて理解し、フラウを見上げた。
フラウの腹を濡らしているものは、間違いなく自分が放ったものだ。
「ご、ごめ……」
「なんで謝るんだ」
「え、だって、こんな……」
「いいから」
フラウが躯を離そうとする。彼のものがずるりと抜け出る感触がたまらず、
「あ……」
思わず声を上げてしまった。
「なんだ。足りねぇのか?」
「そうじゃないっ」
中から溢れて来る体液が、交わっていたことを更に証明する。
「シャワー、浴びるだろ」
「え」
「腹痛起こすぞ。来いよ、洗ってやる」
「うん」
そっとシャワーのコックを捻ってタブに入る。この状態でカペラが起きてきたとしてもうまく言い訳が出来るだろうか。
そんなことを考えながら、またしてもテイトはフラウに身を預けるのだった。

バスルームの隅にある、アロマキャンドルがほのかな香りを漂わせ、鼻腔をくすぐる。シャワーを浴び終えたら眠る前に部屋に持っていこうとテイトは思った。そして、フラウに抱かれながら眠ろう。今、カペラのいるベッドに潜ったのではカペラもミカゲも起こしてしまう。だから。

テイトは、本当はフラウの腕の中が一番好きなのだ。彼の冷たい躯を暖めるのはテイトであり、テイトは広い胸に抱かれて癒される。そんな関係が心地いい。

求めるのは想いがあるから。必要とするのは好きだからこそ。願いはいつも同等でありたい。


fins