in all cases
キスが止まらなかった。
服を脱ぐ時間すらもったいないほど、くちびるを合わせ、舌を吸う。抱き合うというより抱き寄せ合いながら密着し、互いの口を貪った。無言のままそれを繰り返していても、まだまだ足りない。けれど、こうするしかなくて、そのくちづけは次第に激しくなっていく。
「……ふ、ぁ……」
呼吸が乱れて意識が混乱し始めたのはコナツだ。
”負ける”
と思った。
キスに勝ち負けなどないが、喰われそうになるのは仕方がない。それだけヒュウガが激しく、巧みなのだ。立ったまますると上から圧倒的な力で覆うように口を吸われる。そのせいでコナツの躯から力が抜けていくのだ。
”あ、だめ”
そう思った瞬間、膝が崩れた。
「おっと」
「や……っ」
次に腰が抜けた。
「落ちちゃった?」
コナツを支えてヒュウガが笑う。
「……っ」
「まだ口だけなのに」
これから首を攻められたらどうなるのか、コナツは考えるだけで気を失いそうになった。必死でヒュウガに捕まろうとするが、手にも力が入らなくなり、今度こそ本当に躯ごとヒュウガの腕の中に崩落してしまった。
「しょうがないな、続きはこっちで」
抱き上げてベッドに運ぶと、コナツは朦朧としたまま荒い呼吸を整えようと胸を押さえて呻いていた。
「う……、く……っ」
「大丈夫? 既に弱って来ちゃったね。続けられそう?」
ヒュウガが心配そうに見つめると、コナツはすぐに頷いた。
「なら、いいんだけど」
今度はヒュウガが攻める番だった。
前戯と称する愛撫だが、コナツはただそれらを全身で受けるだけ。だが、声が漏れ、涙が零れ、気が触れそうになるほど躯が何か別なものに変わっていくような感覚になる。
「女の子になっちゃうかも」
コナツが困ったように呟くと、
「いいよ、なっても」
ヒュウガが許可した。
何をどうしてもコナツの性別が変わることはないが、悲鳴や嬌声を上げて躯をしならせて泣くのは、男のすることではないと思う。
「だって私の躯なのに、私の言うことを聞かない」
「えー? どうしてだろうねぇ」
「少佐のせい」
「あはは」
そんな会話をしながらも、ヒュウガは幾つものキスの跡を残しながらコナツの躯を隅々まで愛しんだ。
「ちゃんと男の子なんだけどなぁ」
作りはしっかりと男子である。筋肉は付きにくいが普段から鍛えられていて、筋の流れはしなやかで美しい。まだ大人になりきれていないところもあって幼く見え、涙を溜めた顔は可憐と呼ぶほかない。
「だけど、やっぱり可愛いね」
ヒュウガがそう言いたくなるのも当然のことだった。
「さて、これをどうしようか」
コナツを仰向けに寝かせたまま、ヒュウガは極限まで猛った自身のペニスを扱くと、コナツはそれをじっと見て、
「すごい」
と呟いた。
「え?」
「大きい……前より大きくなった?」
「変わらないよ、何も」
「何度見ても……」
「ちょっと。慣れないとか言わないよね? 同じの持ってるでしょ」
「同じだけど、違う。少佐のは別」
「えー? 何が違うの。別って何」
「教えない」
「意地悪だなぁ」
「……教えて欲しいなら、早く、それを私の、中に……」
たどたどしい言葉で訴えると、ヒュウガは面白そうにくびちるを歪めた。
「んー、気持ちは分かるけど、すぐにはムリかな」
「どうして」
「濡らして、そして慣らしてからね」
ローションを手に取った。
「私、待てないし、そんなの要らない」
コナツが嫌だと首を振る。
「……痛いと思うよ」
「早く!」
「無理だって」
口だけは達者なコナツが酷く急(せ)いている。
「指なんか嫌です」
「ええ?」
ヒュウガは拡張せずにするつもりはなかった。
「そんな面倒なこと、嫌い」
「……」
それは”する方”の台詞だった。つまりヒュウガの立場の人間が言うことであり、コナツの台詞ではない。だが、ヒュウガは苦笑しながら、
「怪我しないと分からないんだなぁ。……やっちゃおうか?」
ヒュウガは先端を押し付けて体重を掛けながら無理やり狭い箇所をこじあけようとした。
「ヒッ」
案の定コナツの躯に力が入る。
「ほら、全然入らないよ、もうちょっと入れてみる?」
押すが、受け入れる箇所は開かない。
「ぐっ……痛ッ」
「だから言ったでしょ」
ヒュウガがコナツを納得させようとすると、
「だって慣らしても痛いのは変わりないから!」
コナツは聞かん気だった。
「そうだろうけどね」
「それに、そんなに大きくてやたらと硬いの、今更慣らしたってどうにもならない」
「えっ、どういう……」
「いいから来て!」
「……」
ヒュウガは呆然としてコナツを見つめたが、その顔を見て、強がっていても本当は怖いのだと知る。震える指を噛んで堪え、うわずる声をきつい言葉でごまかして、本当はとても怖いのだと泣きそうになるのを隠しているのだ。
「そうだね、やっぱり怖いよね」
ヒュウガが優しく囁いた。
「!」
「これはコナツにしか分からないことだけど……」
「……」
「怖いから早くしてしまいたい?」
「……」
「受ける痛みは変わりないからね」
「どうしてそれを」
「もしかしてほんとは逃げたいの?」
「まさか!」
「ほんと?」
「少佐の仰る通り、怖いですよ。最初は痛くて慣れなくて、どうしても腰が引いてしまう。私が本物の女の子だったら、こんなことないのでしょうけれど」
「うん」
「だけど、それよりも少佐にして欲しくてたまらない。このちぐはぐな思いが私を混乱させる」
「そっか」
「苦しいって思うのは最初だけで、途中からは変わりますから……、でも、その変化も凄まじい。それも怖い」
「そうなの?」
「どれだけ気持ちよくなるか分かってますか? 私がおかしくなるのご存知でしょう?」
コナツの悲痛な訴えを暖かい眼差しで聞いていたヒュウガだが、
「それは知ってるし、オレだってどれだけイイか分かってる? 絶叫ものだよ? 一応冷静に耐えてるけど」
負けずに自分の思いを訴えてみた。
「……」
「コナツが怖がるなら挿入なしでも十分なんだけど、オレは我儘だから、やっぱりオレのものにしたい」
「して下さい」
「うん、するよ」
ヒュウガがここまで慎重になっているのは、こうして躯を重ねるのは久々だったからである。
「コナツから誘ってくれたんだもんねぇ」
「!」
コナツは日頃忙殺していて疲れている様子で、週末に一切手を出さなかった。そうやってヒュウガがコナツを気遣い、暫く抱かずにいたらコナツの方が業を煮やし、放っておかれた寂しさから「どうして抱いてくれないのか」と迫ったのだった。だから、こうしてヒュウガはコナツをベッドに呼んだのだが。
「躯に触って、実はドキドキした」
「えっ」
「相変わらず綺麗だなって思ったし」
「少佐」
「でもね、オレも相当我慢したんだよ。ご無沙汰だからやり方忘れちゃったかも」
「な……」
「忘れてたらコナツが教えて?」
「そんな冗談ばかり……」
ふたりで見つめて、笑いあって、一度だけキスをした。その間にヒュウガは自身をローションで濡らし、まだ硬い蕾にままのコナツの中に欲望を埋めていった。
「……ッ!」
その瞬間は言葉にはならなかった。コナツは息を呑んで衝撃に耐えたが、
「あ、オレも少し痛いかな……きつすぎ」
ヒュウガがわずかに顔を顰める。
「コナツ、もっと息吐いて、手も足もぜんぶ力抜く」
ヒュウガが言うと、
「して、ます、これ以上は……」
だからもっと準備したかったのだが。
或る程度のエクステンションは必要であり、ヒュウガがそれを怠ることはないが、最近のコナツはすぐに欲しがる。
「間を空けちゃうと駄目なのかな」
「?」
「久々だとコナツが物凄く貪欲になる」
「当たり前……です」
放っておかれて、ただでさえ納得がいかない上、一刻も早く、コナツこそヒュウガを自分のものにしたいのだ。
「ん、中、熱い」
「……あ、あ、アッ、すご……硬……ッ」
「ごめん、それはこれ以上どうすることも出来ない」
ある程度のコントロールは可能だが、コナツを目の前にして萎えることはないし、興奮度は増している。
「ああ、硬い、刺されるッ……殺され……ッ」
コナツが悲鳴を上げた。
「その表現は……。やばい? やめようか?」
そこまで言われて続けるわけにはいかないが、やはりコナツは首を振った。自分から誘っておいて、身の危険を感じたからといって後には引けないのだった。
「やめたらただじゃおきませんからっ」
抑制出来ずにそう言うも、
「怖いなぁ。じゃあ、ゆっくりするね、いい子に待ってて」
一旦動きを止めてヒュウガが腰を引いた。
「抜いては駄目」
「抜かないよ、それも厳しい」
ヒュウガが笑いながら少しずつ腰を進めていった。
「ああ、なんかね、ゆっくりだと余計卑猥かも」
「!」
繋がった箇所を見ながらヒュウガがまた笑う。
「動き止めても卑猥。結構強烈。っていうかコナツが」
「……っ!」
「久々だからかな、中、めちゃくちゃ気持ちいいね」
動かずとも快楽を得られるのは、そうそうないことである。ここまでくると抑えがきかずにめちゃくちゃにしたくなるものだが、そこまでヒュウガも未熟ではないし、本当の意味での挿入行為を愉しんでいる。
すると、
「ずるい……少佐、ずるい」
コナツが左手を伸ばして結合部に触ろうとしながら呟いた。
「何がずるいの?」
「少佐ばっかり見て」
「ああ、ココ?」
ヒュウガがコナツの左手をとってそこに導いた。
「ひゃあ」
触るだけで想像も出来そうなものだが、凄いことになっているのは分かる。こんな姿は誰にも見せられないが、
「そこからじゃ見られないもんね。オレだけ得してるかな」
そう言うと、
「私も見たい、見たい」
コナツが駄々をこねるように呟いた。
「無理だよ」
「見たい、鏡を使えば見られる、見たい」
「鏡! 合わせ鏡!?」
そんなことを言われるとは思わなかった。
「私だって見たいもの」
「……分かった、今度用意しとく。しかし、そんな子だったっけ、コナツ」
「だって少佐が私の、あ、あ、いやっ」
ヒュウガがわざと腰を引いて、また押すと、コナツの躯が跳ね、叫び声が上がる。
「んー、いい反応。でもねぇ、これだけなのに凄い気持ちいい。何だろうな」
「私だってイイ……ッ」
「そう?」
「ずっと欲しかったから」
「我慢させてた?」
「……はい」
「ごめんね」
「……ッ」
コナツが肩をすくめてくちびるを噛む。ヒュウガが大きく腰を動かしたせいで痛みを感じたのだった。
「ごめん」
続けて謝り、ヒュウガが困ったような顔をすると、
「少佐は悪く、ない。私がまだ……」
「うん、もう少し頑張ってみて」
呼吸を合わせ、躯全体を弛緩させながらコナツは更に奥深くまでヒュウガを受け入れた。
「よく出来ました」
子供に褒めるように言うと、コナツは大きく息を吐き、
「ふ、ぅ、中が……いっぱいに。躯がヘンになりそ、う」
悩ましげに呟いた。
「おやおや、そう言われると突くより掻き回したくなるねぇ」
「! だ、だめ、今は、やばい」
「どうして?」
「妙な快感がくる」
「……へぇ」
片言の会話を交わしながら、ようやく一つになったことで満足したのか、コナツはヒュウガを見上げて腕を伸ばし、首に回した。
「やっぱりこのシチュエーションが好き」
「だろうね。顔も見られるし」
キスも出来る、とは言わずに行動で示した。
そっとくちづけをして、ゆっくりと動き始める。
「あッ、ああ……どうしよう」
コナツは知らず知らずのうちに、涙を零していた。
「また泣き虫に」
「いいえ、もう平気です」
そう言って無理に笑う顔が儚く、憂える様子にヒュウガは胸が締め付けられた。その涙の理由を訊ねようとして、
「痛いの我慢出来ない?」
そう言うと首を振り、
「じゃあ、どうして?」
また訊ねてみると、
「嬉しくて」
はにかみながら呟いた時、目尻を伝って涙が落ちる。
「オレに抱かれて嬉しいって思うの?」
「……」
コナツは答えずに首に回していた両手を滑り落とし、ヒュウガの腕をきつく掴むことで答えを返した。
「ほんとにいい子」
「少佐も」
「オレも?」
「はい」
「なるほどね」
久々だったためか、それとも最近ではコナツの方が駄々をこねるせいか、感極まって強引に事を運ぼうとする動きを見せるようになった。普段はいい加減なヒュウガも、せっかく慎重になっているのに、その意味が全くなくなってしまう。だから宥めて慰める。次第にコナツはおとなしくなるが、ひたすらに欲しいと訴えて胴慾になるのは若いからか、ヒュウガは歯止めの利かなくなっているコナツの性快楽への目覚めに目を見張るばかりで、もしかしたらコナツの方が欲望に正直であり、そしてそれが武器になっているのではないかと思った。そのうち無理な要求をさせられるのは自分かもしれないと少しだけ危機を感じるのだった。
「連れてきたばかりの頃は従順で逆らわなかったのにな」
そう呟いてみると、
「……今の私が嫌いですか?」
そんなことを訊いてくる。
「いいや、惚れ直すよ」
ヒュウガはニヤリと笑って答えた。

……しかし、こう来るとはね。
ヒュウガは心中で降参し、やがて後先などどうでもよくなるくらいの悦楽に呑まれ、どうせ自分もおかしくなっていくのだと自嘲気味になるのだった。

やはり、何をどうしても我が部下は可愛い。今からまた奔放に駄々を言っても、可愛くてたまらないことには変わりない。そしてそれがすべてであり、結論である。