out of control
ベッドでの行為は、何年経っても、何度回数をこなしても恥ずかしいのは変わらない。だが、たまに気分が変わって、珍しく苦手な体位ををリクエストをすることもあった。
「この間もこれがいいって自ら後ろ向いたけど……今夜もなの? いつもバックにすると嫌だって言うのに」
平日の夜、ヒュウガはコナツを部屋に呼び、シャワーを浴びさせた。そしてすぐにベッドで事に及んだが、いつもなら火が点くまでに時間のかかるコナツが珍しくその気になっていた。前戯の段階で抱きしめるだけで甘い声をあげ、自ら腕をヒュウガの躯に回し、脚を絡めていった。
ヒュウガはコナツを抱きたかったし、コナツもそうされることを望んだ。
というのも、今夜はその理由が明確に存在するのだった。
この日、ヒュウガとコナツは稽古時間を儲け、刀を振るった。それが数時間にも及び、素振りは何百回、何千回したか分からない。殺陣の息もぴったりで、本来なら敵を倒す為に磨いている剣術で仲が深まるという二重の絆が生まれたのだった。
ヒュウガは、コナツのしなやかな躯付きに目を奪われた。まだ成人ではないが、子供でもなく、そろそろ乱暴な動きをするようになるのではないかと思っていた。だが、気品あるコナツは立ち振る舞いがしなやかで、躯のラインにまだ柔らかさが残っているせいか真剣な表情が時に淫らに映ることもあった。
そしてコナツはやはりヒュウガの強さに焦がれるのだった。腕の長さが違うというだけで頬が染まるほどだ。殺陣を見せる時のヒュウガは、恐ろしいほどに美しい。そして優雅である。あくまでも殺陣で刀を振るう行為なのにヒュウガの一挙一動はコナツには胸が高鳴るほど眩しく感じる。
つまり、稽古をするだけで再び恋に堕ちるという有様である。
そんな夜は疲れた躯を休めるよりも、まだ興奮が冷めないまま躯を重ねると、とてつもない快楽を得ることが出来るということを知っている。
当然、前戯は甘く優しい。ヒュウガはいつもそうやってしっかりと愛撫を施し、性感を高めることを省略しない。もっとも、自分自身がコナツの躯を愛でたいというのが本音でもあるが、慣らさなければコナツに負担がかかるという配慮もあった。
「それにしてもいきなりこれかぁ。何か裏があるでしょ?」
「えっ……」
「隠さないで言ってみなよー」
「あ……私……」
コナツは自分がどうしていいのか分からず、後ろから自分を覆うヒュウガを振り返ろうとした。
「今は動いちゃ駄目。厳しいと思うけど躯に力を入れないでね」
強張る躯の背中を撫で尻を掴む。
「ってことは、これでいいのかな?」
自身の先端をコナツの秘処へと当てながら腰を前へ動かした。
「う……ッ」
「わぁ。慣らしてローション大量に使って……勢いつけてもこんなん」
ぐいと突き入れたが、ようやく先端を飲み込んだだけで、半分も入らない。
「ああッ」
ヒュウガはすぐに中の熱さを感じ取った。そして具合もいいことに早速強い快感を得ていた。一方でコナツは喘ぐことしか出来ない。
「ほんとに狭いよね」
「うあ、あ、痛……っ」
「落ち着くまではゆっくり挿れるよ、我慢して」
「くっ」
「でも、コナツが望んだだけあって今日は大丈夫みたいだ」
なんとか傷を付けずに最後までいけそうだと思うが、それはこのままゆっくりと穏やかに済めばの話である。
「コナツ、バック嫌いだって言う割りには、そんな感じしないんだけど」
ヒュウガに言われても簡単には認められなかった。いつも好きなのではなく、その時によるのだ。
「たまにならいいの?」
「はい。理由が……あれば」
「ほら、やっぱりこうして欲しい訳があるんじゃん」
ヒュウガが少し屈んでからコナツの背中にキスを落とす。
「んっ」
わずかに背中を捩じらせると、自然に尻を突き出す格好になり、
「おっと、これはまた可愛い催促だねぇ。いい感じ」
裂傷を起こさずに半分以上挿入出来たことがわかると、ヒュウガは満足そうに笑い、
「今日は激しくされたいんだよね? 後ろからすると、どうしてもこうなっちゃうもん」
連続して激しく突き上げる。
「アァッ!」
「痛いかな?」
「い、いいえ」
コナツが即答すると、
「嘘ついちゃ駄目だよ」
そう言いながら穿つのをやめないでいる。
「……はっ、あ、あ……ッ」
「取り敢えず痛いと思うけど……これがいいんでしょ?」
「……っ」
コナツは答えることが出来なかった。
口を開けば絶対に舌を噛むと思ったし、答える余裕もなかった。震える右手が伸びてベッドボードを掴み、左手はシーツを鷲掴みにしている。とにかく、何かに縋っていなければどうにかなりそうだった。
「やっぱりいい眺めだねぇ。っていうか、コナツの後頭部見てるだけでも燃えるんだけどね」
おかしなことを言いながら攻め続け、コナツが乱れていくのを見ていた。
「う、うあ、あああ……」
「痛いならやめる?」
試しに聞いてみると、小さく首を振った。
「あ、そう。じゃあ、ちょっと体位変えるのは?」
「駄目っ」
「嫌なのね」
ヒュウガは後背位からの体位で違うスタイルに移りたいと思ってもコナツがこのままというのであれば言う通りにするしかなかった。ただ、余りに激しく突けば怪我をするかもしれないために様子を窺がっているのだが、
「まだ、まだもっとして欲しい!」
そう言ってねだり、ヒュウガの心配など無用だった。
「今日は随分欲しがるね。しかもイイのよりイタイのを」
「……ッ」
激しく突いているとコナツがただ無言になり、息を止めるほど歯を食い縛り衝撃に耐える姿だけが目立ってくる。
「苦しそうだよ?」
そう訊いてもコナツは首を振った。
「痛いはずだけどなぁ」
その台詞にただシーツを握り締める。見ている側にすれば、いつ気を失うかとハラハラするが、それでもコナツは穿たれることを求め、せがんだ。
「変なコナツちゃん」
余裕のあるヒュウガは、獣のようにひたすら腰を動かした。
コナツはベッドボードを握る手に力を込め、激しく揺さぶられながら喘いだ後にかぶりを振ってくちびるを噛み、そして今度は首を反らせ、女のように金切り声を上げる。
「大丈夫? いっぱいいっぱいだね」
「……」
聞かれても、混乱状態のコナツはまともに返事が出来るはずがない。
「しょうがないよなぁ、コナツがこうしてって言うんだから」
やめると怒るし、と言いながらヒュウガはピッチを落とさずに攻め続けた。
「っていうか、めちゃくちゃ気持ちいい。オレが先にイキそうなんだけど」
もしかしたら、このままだとさして時間もかからずにヒュウガの方が達してしまいそうだ。
「それも癪だなぁ」
自分だけが満足してコナツを置き去りにするのは嫌だった。
激しくされたいからと最初に後背位を望んだコナツだが、いつもなら嫌がる体位であり、例え流れで扱ったとしても、すぐに変えて欲しいと訴えることが多いのに、今日は随分と長い。
「コナツ、このまま最後までするの?」
念のため聞いてみた。すると、
「少佐……飽きました……か? つまらない?」
揺すられながらようやく口を開いて呟いた内容が実にしおらしいものだった。
「ええっ、飽きるとかつまらないってのはないから!」
どうやって抱いても艶のある声を聞かせ、極上の反応を見せる躯は、朝まで、いや、次の日、いっそ一日中、むしろ三日三晩休みなしで抱いていたいと思うにコナツには不満として受け取られたのだろうか。
「で、も……もうちょっとだけ、この……まま、して」
両手をベッドボードに掛けて呟いた。
「いいけど。この綺麗な背中と小さなお尻を眺められるんだし」
「……っ」
「ほんとは色々いたずらしたいんだけど、やめとく」
胸やコナツの性の印を弄り、ゆっくりと突きながら尻や太腿を撫でたり、してやりたいことは沢山あったが、敢えてしなかった。
そのまま暫く突き引きを繰り返していると、いよいよコナツは自分を支えることさえ出来なくなり、ベッドボードを掴んでいた両手が滑ってガクリと肘をついた後、上半身が崩れ落ちた。そうなると顔を枕に伏せる形になってしまう。
「もうやめるよ、なんか怪しい」
「……う」
「今度は駄目って言っても続けるわけにはいかないから」
ヒュウガが一旦抜いて躯を離すと、
「いやぁッ! どうして離れたんです! こんなの駄目!」
コナツが立て続けに叫んだ。
「コナツ、落ち着いて」
そっと横たえてやるが、ぐったりとしたコナツは自分で躯を動かすことも出来なかった。
「少佐のばかっ」
「そんなこと言ったって、かなり酷そうだったもの。ただ痛いだけだったんじゃないの? とにかく、今日は変だよ、コナツ」
「……でも」
「一方的に攻められて何が嬉しいのか」
どうにか納得させようとすると、
「いいえ、多分、少佐には分からない……」
こうされたかった理由をほのめかす。
「どういうこと?」
「精神的に気持ちがいい」
「は?」
「好きな相手に強くされているということが」
「……」
「なんだかマゾみたいですが違います。私は強い人に惹かれるので、今日の稽古を通して少佐のことを改めて好きになりました」
「そうだったの?」
「はい。ですから、痛くされたかったんです。昼間に感じた少佐の強さを、今も感じたかった」
「……ああ、そうか。こういうのって連鎖するからね」
「稽古とは違って、こんなふうに全てを曝け出している時に圧倒的な力の差を見せつけられると、ぞくぞくしてきます」
「それってM……真性?」
「違いますからっ! 私は誰に対してもそう思うわけではありません。本当に少佐だけです」
「そう……」
普通なら痛くされたいと言えば、おかしな性癖があると揶揄されがちだが、コナツがそれを言っても”変態”とは思われないのだった。
「あの……引いてしまいましたか?」
恐々としながら訊ねると、
「いや、全然。それだけオレに惚れてるってことでしょ」
「!」
「でもね、そろそろオレも優しくしたいんだけど」
「……」
「コナツの顔見て、もっと近くで声を聞いて、ちゃんと二人で同じくらいに良くなりたい」
「少佐……」
「いいよね?」
「……はい」
コナツが漸く折れた。だが、実際はラストに向けてそろそろいつもの位置に戻して欲しいと思っていたところだった。
「ほんとはキスしたくってさ。我慢の限界だったわけ」
「え?」
「うん、これね、ちょっと大人しくしてて」
ヒュウガはコナツを覆うと、顔を近づけてくちびるを合わせた。
「この可愛い顔にチューしたくってさぁ」
ふざけているようにしか聞こえなかったが、ヒュウガは待ち切れずに最中にコナツを強引に引っくり返そうと思っていたほどだ。
「顔見たくてウズウズしてたの。もしかしてオレの方が正常位好きかも」
「ええっ」
「でも、そんなに後ろからがいいなら戻そうか?」
「……いえ、私はもうこんなですし、実はこうして寝ながら少佐を見上げるのも快感です」
「また面白いことを」
「後ろからされるのもいいんですが、正面からだと本当の意味で抱かれてるという気持ちになる。女の子みたいな発言で恥ずかしいけど、凄く安心します」
「可愛いこと言っちゃって。ほんと、男のコナツが言うからインパクトあるんだよねー」
「そんなからかわなくてもっ」
「でもさ、ほんとに安心しちゃっていいの?」
「……っ」
「ま、だからこそ、こーんな格好で脚広げちゃって、ここも好き勝手弄られちゃうんだけどねぇ」
「少佐っ、あッ」
ヒュウガはコナツの性器に一度触れ、そこから指を滑らせて再度挿入する箇所を指の腹で撫でた。
「ん……っ」
「激しくするけど、もう、痛くはしないよ。最初だけは我慢してもらうけど」
「ええ……分かっています」
そうして二人はくちびるを合わせながら再び一つになった。
ヒュウガがゆっくりと律動を繰り返す間、コナツがふと下半身を見ると、脚の間で自分を支配している上司の躯の逞しさが視界に入り、腰の大きさを含めて上半身だけでも骨格や筋肉の付き方が違うのを密着しながらまじまじと見比べてしまった。歴然とした差が何故かコナツに衝動をもたらす。
「ああ……たまらない。どうしよう」
興奮してしまうのはコナツの方かもしれなかった。憧れている相手に好きなようにされて特別な行為を受けている。そう思うだけで気が遠くなりそうだ。
「どうしたの? 痛い?」
ヒュウガが心配そうに覗き込むと、コナツは指を噛んで喘ぎ、空いた手で自分の胸を押さえながら、
「少佐が……少佐が」
うわごとのように何度も呟いた。
「何?」
「ああ、私、変なことを言ってしまいそう。駄目です、どうしよう」
「言うくらいいいんじゃない?」
「そういうレベルじゃ……どうせなら激しくしてもいいから早く私を失神させて下さい!」
「えっ!?」
聞き違えたかと思ったが、コナツは恥ずかしい痴態を晒して取り返しのつかないことになる前に、いっそ気を失ってしまいたかったのだ。
「私……このままじゃ……」
躯の中の活動電位が甚だしく高揚した状態でどんな発言が飛び出すか分からない。
「どうしようね」
ヒュウガは楽しくて仕方がなかった。悦くしてやりたいが、すぐに終わってしまうのも勿体無い。コナツの取り乱した姿をたっぷりと見たいのに、おかしなことを言うまいと我慢して震えている様は可哀想に思える。
「じゃあ、どっちが制御不能になるか競争しよっか?」
明日の仕事に差し支えるかもしれないことが唯一の気掛かりだが、こんな時に我慢や抑制を強いることはしたくなかった。唯一、二人っきりですべてを曝け出している時間である。

そして共に数回の射精のあと、訳が分からなくなったコナツは放送禁止用語を連発し、その豹変ぶりに驚いたヒュウガは、余りの可愛さにたまらず、一切の加減をせずに渾身の力を込めて抱きしめたところ、コナツは無残にも窒息失神するという事態が起きた。

朝になって目覚めたコナツが呆然としたのは言うまでもない。