trial and error
コナツはゆっくりとヒュウガの下半身に顔を下ろし、既に形を大きく変えた性器に舌の先をつけた。ちろり、と舐めたあと、大きく口を開けてそれを飲み込む。
「ん……ッ」
口の粘膜を使って先端を濡らし、強弱をつけて上下に動かしながら根元から指を使って扱くと、
「よしよし、上手上手」
ヒュウガはご機嫌な様子でコナツの頭を撫でた。
「以前はどっちかしか出来なかったのにね。口を使えば手が止まる。手を使えば口が疎かになる」
「……」
コナツは行為をやめずに、更に口の奥へと硬くて太いものを押し込んだ。
「無理はしなくていいよ」
ヒュウガが制すると、コナツはほんの少し戸惑っていたが、再び深く咥え込む。
「駄目だって、コナツ」
そう言われてようやくコナツは小さく頭を振った。
「あーあ、言うこときかない悪い子になっちゃって」
ヒュウガはコナツの耳の裏をくすぐる。
「わぁ」
コナツは思わず口を離し、肩を竦めながら叫んでしまう。
「少佐、いたずらはやめて下さいっ」
「だって、コナツがいけないんでしょ」
「私がしたいからしてるのに」
「喉につっかえるよ。顎も喉も弱いから、むせちゃう」
「いいんです」
「よくない。咳込まれて涙目になるコナツは可哀相で見ていられない」
「えーっ!?」
「なに」
「いつも私をいたぶるのに、少佐の可哀相ってそこ?」
「うん」
「基準がよく分からない」
「そうかな」
「私が可哀相だと思ったら普段真面目に仕事して下さい」
「うわ、面白くないこと言ってる」
「少佐っ」
「ってなわけで次いこう、次。はい、コナツは仰向けに寝て」
「ええっ」
”おしゃぶり”を始めてまだ2〜3分。ほとんどが会話で終わってしまい、早々に本番に移されては、コナツは何のためにこの行為を自ら所望したのか立場が怪しくなってしまった。
「もっとしたいです」
「だからぁ、無理しなくていいんだって」
「してません、無理なんてしてませんから」
「……」
「あ、もしかして私が下手だから……っ」
ヒュウガのほうから願い下げだと言っているのだろうかと気付く。
「違うって」
「……すみません、もっと上手に出来れば少佐も嬉しいのでしょうけれど」
「違うよ。勘違いしないでほしいな」
「でも」
「正直に言うけど、オレとしてはコナツに苦手な行為は余りさせたくないんだ」
「えっ」
「ストレスになるからね」
「どういう……意味ですか」
「うーん、したくもないことをしなくちゃならないってなると、それが苦痛になるでしょ。そういう思いだけはさせたくないんだ。それでなくてもコナツは今から痛い思いするのに」
「!?」
「だから、オーラルは強制しないよ」
「!」
「ね?」
「違います、少佐こそ勘違いされてます」
コナツは慌てて詰め寄る。
「したくないなんて思ったこともない。ただ、自信はありません。これっぽっちもない。今後も自信を持つことが出来そうにないです。これが苦手ということならば認めざるを得ませんが、私はもっとしたいんです」
「……そうなの?」
「はい」
「最初は嫌がったのに」
「……嫌でしたよ、今でも嫌です」
「ほらね?」
ようやく本音を漏らしたかと思っていると、
「ですから、やり方が分からなくて下手だとバレるのが嫌だったのです」
過去を思い出し、打ち明けるコナツだったが、
「でも、今は何と思われても仕方がないと諦めています。ただ私がしたいからこうしているだけで。何度やっても上手く出来ないのは経験不足なのでどうしようもありませんが」
目を伏せて頬をほんのりと染めて呟く。
「なんとウブなことか」
だいぶ上達しているということは言わずにヒュウガが感動していると、コナツが待ちきれないように再び股間に手を伸ばした。
「だから、もっとします」
咥えることに抵抗がなくなったわけではない。ただ、今はこうしたいと思っただけだ。しかし、
「却下」
ヒュウガが拒否したのだった。
「何故です!」
「理由は簡単だよ。オレが我慢できないから」
「は?」
「オレ、我慢強くないんだよね」
「……」
何を言っているのか分からず、コナツは暫く固まっていた。
「オレさぁ、自分ではあんまり早いほうじゃないと思ってたんだけど、コナツに口でされると3分もちそうにないし、すぐにでも後ろに入れたくて、いつコナツを引っくり返してやろうかと狙ってたんだ」
「な……!」
「オレもせっかちだよねぇ」
あはは、と笑うヒュウガだったが、コナツはまだ呆然としていた。
「もたないって、そういう意味だったんですか」
顔を真っ赤にしているコナツを見て、今更意味を把握したのかとヒュウガは苦笑した。
「反応がズレてるね」
「えっ、す、すみません、こういうことになると理解が遅くて」
「いや、いい。コナツらしくていい」
仕事への対処は早急なのに、性的な話題になるととことん疎い。そんな年齢でもないのに、時にはいちいち細かく説明してやらないと通じないこともある。
「でも……でも、私はまだしたいです。出来れば最後まで」
「うーん」
「駄目ですか?」
「あー」
男なら、口で奉仕される行為は願ってもないことで、そういった専門の店もあるが、好きな子から懸命に奉仕されるなど、考えるだけで昇天ものだというのにヒュウガは余り乗り気ではない。
「私は上手ではありませんが、ちゃんと飲みたいと思っているのは本当です」
さりげなくコナツが大胆な台詞を言い放った。
「まぁ、気持ちは嬉しいけどね……って、今何て言った?」
とぼけようとしたヒュウガだったが、コナツの台詞に我に返る。
「えっ」
「飲みたいって言った!?」
「はい」
「な、なにを?」
わざとらしく訊ねると、コナツはまた顔を赤くした。
「いやらしいこと聞かないで下さい」
「ちょ、先に言ってきたのはそっちでしょ」
「もう! ただ、私はそれが欲しいだけなのに」
「は?」
「だって、口の中でなら少佐が達するのが分かりやすいし」
「……オレがイクとこ何回も見てるじゃん」
「ですから、もっと具体的に……」
躯が繋がったままでは分かりづらく、コナツ自身、貫かれている間は快楽に乗っ取られ意識も定かではない。ならば、こうして奉仕をしている時でしか拝めないと思ったのだ。
「まさか顔に掛けられたいとか言わないよね」
「?」
そこまでの意味はコナツには分からないようだった。もっとも、そういった行為をヒュウガは自ら進んですることはない。
「じゃあ、外出ししようか?」
「?」
その意味も分からない。
「あ、えっとね、イキそうになったらコナツの躯から抜くから、外に出すことになっちゃうけど」
そう説明したとたん、
「そんな勿体無いです」
コナツが呟いた。
「え。勿体無いって。いくらでも出せるけど」
冗談交じりに言うと、
「ですから、私がぜんぶ飲みます」
「あー、オレは何と答えたらいいのかな」
今度はヒュウガが困惑している。
「駄目ですか? 私では嫌なんですか?」
「……」
「駄目なんですね、きっと私ではイケな、い、アッ! 少佐ッ!!」
ヒュウガは肩を落としていたコナツを力の限り突き飛ばすように押し倒した。
「臨界点突破ー」
「!?」
「可愛すぎる部下ってタイトルで軍の広報部に載せてもらうことにしようか」
「!!」
どうしてこうなるのだ。否、どうしても必ずこうなってしまうのだ
せっかく夜の蜜時、いつもは任せっぱなしの前戯に、コナツも尽くしてみたいと思った。だから自分から口ですると申し出たのに、途中で遮られ、最後には「可愛すぎる」で締めくくられた。ヒュウガば本気で広報部に売り込みに行きそうで、それだけは嫌だと思った。何の得も喜びもなく、恥を晒すようなものだ。自分はちっとも可愛くはないのだと訴えたくても、既に叶わない状況に陥り──


その数十分後には、コナツはこれ以上ないほどに乱れて喘ぎ、全身汗だくになって啼いていた。
「知らないよ、明日仕事が出来なくても」
「……っ」
コナツが答えられないのは、ヒュウガに組み敷かれて力任せに中を抉られているからである。喋ろうとすればおかしな声が出そうになって、歯を食いしばって耐えているのだ。
「ほぅら、コナツ〜、そういう我慢してるところも可愛い」
「!!」
何をどうしても可愛いだのイイ子だのと揶揄されるのならば、繕うには限界があると諦めるしかない。男らしくなりたいコナツにとって、そんなふうに言われることは小馬鹿にされていることと同等の意味を表す。だから、いつまで経っても一人前として見て貰えない悔しさに涙が滲む。
「分かるよ、コナツ、可愛いだの綺麗だの言われると憤慨するもんね。オレとしてはわざと怒らせてるんだけど、オレに犯されて悔し泣きしても絵になるよね」
「少佐っ」
「どうよ、そろそろ言い返せなくなったでしょ」
「あぁ……」
もともと、最中は会話が成り立たないこともある。
ヒュウガは、躯を繋げたままで喋りながらも愛撫を忘れず、特に敏感な部分の首や脇腹、下腹への流れるようなタッチは繊細であり、尚且つ巧みである。絶えずビクビクと反応して悶えるコナツだが、そもそもコナツも躯のラインがエロティックで、ヒュウガは部下を裸にするたびに「綺麗な子って居るもんだねぇ」と必ず一言添え、コナツは「言う相手を間違っています」と否定するが、女性でも生まれ持った肌質か、よほど手入れをしていない限り、ここまで完璧ではないと言い切れた。
「ああ、駄目だ、抱いてても全然興奮が収まらない。だよね、抱いてる最中だから興奮してるわけであって、今が最高潮っていうか?」
「……一体何を……仰って、いるんで、す」
汗ばんだ額に金色の髪が少し乱れ、荒い息を繰り返しながらヒュウガを見つめる。今は仕事をしないからと言って怒ることもない、無防備なコナツである。生理的な涙で瞳を潤ませ、下半身は我儘な上司の性を受け入れている。痛みを堪え、いいように体勢を合わせながら喉を反らして振動に耐える姿は、ただ見ているだけで射精衝動が沸き起こった。
「でもね、抜いたらすっきりするのかと思ったけど、これはただの性欲じゃないって分かった」
自分の躯の中にある欲情をコナツの狭い器官にぶちまけたからといって、それで終わりというわけではなかった。
「少佐?」
「コナツ欲だ」
「何をばかなことを」
「コナツを気持ちよくさせてあげたいのに、オレの方がいい思いしてるかも」
「それは……!」
絶対にない。
コナツも気が狂いそうな快楽を全身に受けている。意地で会話を続けているが、本当は女のように甲高い声で叫びたいほどなのだ。
蠢動しながらゆっくりと中を攻められると、どうしていいか分からなくなる。満たされ、そして求めてしまう。
「ああ、すごい……凄っ」
「……」
「どうして、どうして!」
「……」
「なんでしょう、なんでしょうか、これは……凄い」
「……最中に凄いって言われるのはよくあるけど、何がどう凄いのか具体的に知りたいなぁ。こういうの、女の子だけかと思ったけど、コナツも言ってくれるよね」
「だってほんとに凄いんです」
「そう、それは良かった」
「どうしてそんなに冷静なんですかっ」
「オレが冷静に見えるならコナツの目は節穴だ」
「……ッ」
何がどうなっているのか分からなくなってきた。コナツは感極まり、気持ちいいだの凄いだのと啼いていたが、仕舞いにはヒュウガに向かい、
「もうばかっ、少佐のばかっ!」
そう言い始めた。
「え、オレ、仮にも上司よ?」
「だからです! もう、ばかっ! こんな……こんな……ああ、もう駄目っ」
「おっと、まだイカせない」
「……ッ、ばかぁ!」
「ばかって言ったほうがばかなんだぞ」
まるで小学生のやりとりである。
「違います。少佐がいけないんです、私にこんなことする少佐がっ。もうばかっ。ばか少佐っ」
「……」

こんなふうに罵倒されながらセックスしたのは初めでである。

だが、これも愛故のこと。
まだ夜は始まったばかり、幾重にも綴られる睦言の一つとして、これはこれで今夜の愛の形なのだった。