可愛い人
三日と空けずにヒュウガはコナツを言葉巧みにベッドへ誘った。至高の交わりは快楽と快感、悦楽や愉悦、この世のすべての昂りを合わせたような興奮が生まれる。
コナツも最初は仕事の話をしていながら、いつの間にか妖艶に喘ぐようになり、自ら脚を絡めてしまうのだ。
「中、きついね」
ヒュウガはコナツの腕をとり、自分の肩に回すように指示しながら腰を進めた。
「あ、ぁ……ッ、少佐!」
意思をコントロール出来なくなったコナツにギリギリと爪を立てられたヒュウガは「きたきた」と面白そうに言い、
「いっぱいいっぱいだねぇ」
見下ろして笑った。
「あたりまえ……です」
「だって挿れる前からビクビクしてて感度すごいよ? 中も熱い。食い千切られそう」
「それは……」
「敏感な上に顔つきも甘くて可愛い。どうして?」
「……っ」
ベッドの中でヒュウガが実況するたびに惑乱するコナツだったが、今夜は黙って聞いてるわけにはいかないと思い、自分を覆いながら余裕で持ち前のテクニックを曝している上司を見上げて口を開いた。
「可愛いと言わないで下さい」
「なんで? ほんとのことなのに?」
「……」
「駄目だねぇ、分からないの?」
揶揄され、たまらなくなったコナツは回した腕に力を込めて訴えた。
「大体、私がおかしくなるのは誰のせいだと思っているんです」
「誰のせい? 誰だろう」
辺りを見回してもここに居るのは二人きり。そして夜半にこんなことをするのは当事者同士の合意のうえ。
ヒュウガはコナツの上で余裕の笑みを見せ、あくまでも知らぬ顔をする。そんな上司の態度に、
「では、言わせて頂きます」
強気な態度で目の前の裸体をじっと見つめ、
「少佐がこんな躯で私を抱くからです!」
はっきりと大胆に言い放った。
「えっ、どんな!?」
責められて驚いたヒュウガは思わず聞き返したが、
「男から見てもいやらしいったら」
はき捨てるような物言いは怒気を含み、
「なんで怒ってるの!?」
ヒュウガは腕立ての状態で呆然としたままコナツを見つめた。
「少佐こそ分からないならいいです」
「……怖いよ」
ヒュウガは呆気にとられながら嬉しそうに微笑み、軽くくちびるを合わせると少しだけ上体を起こし、コナツの膝の裏に手を入れて掲げるように持ち上げ、大きく腰を押した。
「あーッ!」
声を上げたのはコナツだが、
「やばい、オレもやばい」
同じ快楽をヒュウガも感じている。
しかも双方にとって、与え、与えられるものが同等であるくせに、責任転嫁したくなるほどの強い快感のせいで「中毒」になってしまうのは必至だった。
「どうして、どうして……っ」
「うん?」
「こんなにいい……ッ」
コナツは恍惚とした表情で喘ぎ、流れ込む快楽に酔いつぶれたように悶えた。
「ああ、イイっ、気持ちいい、どうしよう」
コナツの顔を見れば、肉体も精神も甘くとろけているのが分かる。そして、それはヒュウガにも当てはまるのだ。
「しかし、オレのこんな躯ってどんなだろ」
ヒュウガは軽く律動を繰り返しながら独り言を呟くと、
「少佐は男らしくて、私の……理想です」
「ふーん?」
「だから、私は……」
こんなにも大胆に躯を開いてしまうのだ。
「何?」
「……」
「言えない? っていうか、コナツはオレの躯好きだね」
「はい」
「おお、正直。どの辺?」
ヒュウガが聞くと、コナツは少し考え、躊躇いながら下腹部を指差した。
「……それは腹筋ってこと? それとも……」
「どこ……でしょう」
「ふざけてるね。わざとだ」
「はい」
「コナツ、余裕ー」
「だからっ」
本当は二の腕や肩や背中だと言おうとしたが、そこからは会話にならなかった。
「コナツ悪い子だから、オレ、今日は限界まで苛める」
「!!」
これには本気で驚いてしまい、一瞬逃げ場を探したが、大きな躯に組み敷かれて自由を奪われた今はどうすることも出来ない。
「泣くまでかな。それとも気を失うまでかな」
「それは……」
言いたい放題のヒュウガにコナツが弱音を吐くかと思いきや、
「少佐が望めば、私はいくらでも啼きます、気だって失います」
「!!」
「だって、ココが熱い、たまらない……こんなふうに私を犯すから……」
結合部分を探すように手を伸ばして指先で触れた。
「コナ……ツ」
コナツの挑戦だろうか、潤んだ瞳は艶やかな色を放ち、小ぶりな口元が濡れている。淡い色の舌先が覗き、時折漏れる吐息には明らかに性的興奮が感じられた。
「……許せないなぁ」
ヒュウガの顔つきが変わる。
今まではからかい半分だったとしても、これからは容赦しないだろう。だが、コナツはそれでも怖じることなく、
「ああ、もっと動いて……私を……」
そこまで言って今度はくちびるを噛み締めると、鼻にかかった甘い声がベッドの軋む音に重なった。これが演出でなければ何だというのか、説明のしようがない。
「コナツ、最近言うようになったなぁ。オレ、負けそうよ?」
「いいえ」
「このいけない手はオレの背中行きでしょ」
「……また引っかいてしまいますよ」
「いいけど? っていうか、コナツ、最近は仕事中でも色気増してない?」
ヒュウガはコナツの脚を更に掲げて律動を早める。揺すられ続けているコナツは口元に手を当てて何かを我慢していて、悔しそうな表情から、言いたいことが言えずにいるようだった。
「あんまり色っぽい子になっちゃうと大変なんだけどー」
「何故です」
「だからー、誰かに狙われるでしょ?」
「誰にも狙われません」
「うそうそー、軍には金髪好みのしつこいオジサンがいっぱい居るんだから」
「……」
「お金とか昇級チラつかせて迫ってくるよー」
「そうですか」
「どうする?」
「興味ありません。そんな邪なやり方で釣られるのは真っ平です」
「へー。でも、一度寝るだけで大金手にしたり、昇格出来るんだよ。魅力じゃない?」
ヒュウガは面白そうに問い続けるが、
「そんなもの欲しくない」
コナツは首を振って答えた。
「私が欲しいのは少佐のキスと、そして……」
「えーっ、また怖いこと言ってるよ、この子は」
「だって、気持ちいいです。さっきから凄いんです、当たってるようで当たってない、こすれてるのに通り過ぎて……これって……」
「ああ、そうね、イイとこはまだ突かないよ」
前立腺に当てずに絶妙な間隔を保ち、ゆっくりと確実に、しかし強く刺激はせずに中を悦くしていった。こうして真の快楽を与えるヒュウガのテクニックは、他の誰にも真似の出来ないもので、いくら昼間は仕事をしなくてもコナツが本気でヒュウガを駄目上司と呼べない理由はここにあるのだった。実力のあるヒュウガを尊敬しているのは事実だ。その相手と深い関係にあるからこそ、コナツも溺れて痴態を晒してしまう。
「さぁ、泣いたらこの中を攻めようか、それとも外から攻めて泣かせようか」
「……」
言われてすぐには理解出来なかったが、中を攻めるというのは、体位を変えながら抉るように突くという激しい行為のことで、外から攻めるというのはコナツの性器ごと弄って声を上げさせるという意味だった。
「どうしようかな」
真剣に考えていると、
「私のは触っちゃ駄目です」
本当は触れてほしいのに敢えて拒否した。
「なんで」
ヒュウガは不満そうだが、それに対してコナツは、
「見れば分かるでしょう」
当たり前のようにさらりと言ってのけた。が、自分の性器を見れば分かるという台詞は、状況を考えれば、かくも大胆である。
「……今にもいっちゃいそうだから?」
「そうです」
「だよねぇ、なんと言ったって男が一番感じる部分だもんねぇ、コレ触ったら終わっちゃうよね」
「だから駄目です」
「うーん、でも、触りたいなー」
「少佐!」
「大丈夫、寸止めするから」
「!」
一体何をするのだろうと思っていると、ヒュウガは繋がったままゆっくりと突き引きを繰り返しながらコナツの男の子の印を右手で押さえた。
「ひっ!」
「まだ少しはもつよね?」
生殖器官の筋肉収縮が起きないうちに、ヒュウガは先端を撫で上げ、指先で軽くつつくように引っ掻いた。
「イヤですッ!」
「何がイヤなのか分からないね」
「あああッ!」
「感度良好」
ヒュウガは完全に遊んでいて、コナツが壊れていくのを楽しそうに見ていた。
「少佐ーッ」
「なぁに?」
「イヤ……イヤ……!」
「あれー、子供……いや、女の子みたいになっちゃって」
性中枢などはとっくに壊れている。性器の動脈血の充血は最高潮に達し、ヒュウガが手のひらで転がしている二つの毬果が固く緊張したようにせり上がった瞬間、根元部分を左手でグイと押さえた。
── !!」
声にならない声が漏れた。躯がぶれ始め、痙攣に似た動きになってコナツは気が狂ったように首を横に振った。
「だめ……だめ! お願いです、イカせて……」
「おー?」
「お願いです」
「お願いされたら言うこときくしかないね。いいよ、イカせてあげよう」
「……」
ここでコナツが戸惑いを見せたのは、ヒュウガがまだ達しそうになかったことが気になったからである。コナツは自分でじきに気を失うだろうと予想できた。
「さて、どうしよう。中と外と同時に攻めるかな」
これで完全に失神確定だった。信じられないような快楽が送られてくるのだ。コナツはやがて来る波に覚悟を決め、
「きっと私は正気を保てません。私が気を失ったら……殴ってでも目を覚まさせて下さい」
「は? なんで? 何言ってるの?」
「だって少佐がまだ……」
「ああ、オレ? いいよ、寝てるコナツの中に出しちゃうから」
「そんな!」
それではつまらないだろう。一番いい時に寝ているなどと、それでは人形と同じでコナツ自身も悲しく思う。何のためにこうしているのか、その意味が無と化す。
「オレの心配をしてくれてるの? 可愛いねぇ。それより自分の心配しなよ」
ヒュウガは言いながらめちゃくちゃにコナツの性を扱き上げた。
「あう! あ、駄目、も、ぅ……ッ」
コナツは嬌声を上げて数秒痙攣しながら、躯の中に溜まっていた欲望を思い切り放出した。しかし、意識を手放す瞬間、
「ごめんな……さい」
小さく弱くくちびるを動かし、やっとの思いで呟いたのだった。自分だけが先に達してしまったことの謝罪だった。そのコナツの言葉はヒュウガの理性を飛ばす。
「オレはこの子に何度理性をぶっ飛ばされるのか」
ヒュウガがコナツを可愛いと呼ぶ所以である。気が強く、中々きつい態度で接してくるときもあるが、言葉遣いや礼儀は正しく、鍛え甲斐のある部下だ。そして啼かせると、こうなる。こんな可愛い子を殴れるものか。
「あーあ」
ヒュウガは悶絶しそうなほど悩乱していた。こんな経験は初めてだった。
「大体、オレが強引にことを進めてるのにオレの立場を考えて察して弁える。生意気に言い返すときもあるから懲らしめてやろうと思うのにこれだ」
数年前、関係を持つことに戸惑わなかったわけではない。自分を慕ってくる新人部下の懸命な思いを踏みにじるかと躊躇したが、
「ほんとにね、オレはお前を抱いてよかったよ」
ベッドの中で、恒例のヒュウガ独白タイムが始まった。ここで何度も「可愛い」を連呼し、本気で食べてしまいたくてアーンと口をあけていることもある。
さて、この後ヒュウガがどうしたのかは抱かれたコナツさえも知らないのである。

コナツは夜明け前に目を覚まし、自分があのあとどうなったのか、ヒュウガはどうしたのかと暫く混乱していたが、隣で寝ている上司を見つめ、
「私を起こせと言ったのに! しかも少佐、躯は大きいのに寝顔は可愛いってどういうことですか」
と呟いて一人クスクスと笑っているのだった。