love intensely
「もうそろそろ抵抗なくなる頃でしょ? まだ駄目なの?」
ヒュウガは組み敷いていたコナツの腕をグイと引っ張り上げると、
「次は乗って」
自分の腹の上を親指で指しながら上位を促した。
「駄目ですって!」
コナツは上位が苦手だ。つまり、性行為での体位で相手の上に乗ることを酷く嫌がる。
上官であるヒュウガの上に腰を下ろすなどもってのほか、そもそも全体重をかけて屹立した中心に尻を中(あ)てたら相当の衝撃がくることは確かで、その痛みに恐れてもいる。命令で仕方なく跨ったものの、挿入すら自分で出来ずにヒュウガの手を借りる羽目になり、見兼ねたヒュウガはコナツの腰を押さえて下から突き上げ、コナツは悲鳴を上げながら上半身を仰け反らせた。
「少佐ぁっ!」
「どうかした?」
「急に……」
「急に突かないでって?」
「……ッ」
「じゃあ、実況しながらやった方がいい?」
「それは」
「いいよ、言いながらするから」
「って……」
「ほら、動くよ。振動きついかも」
「あっ」
ヒュウガが細かい動きでコナツの中をこすりあげると、
「響くッ! ああっ、お腹が!」
がくがくと揺れながら喘ぎ、下腹を手で覆った。
「どうしたの」
「痛……い」
「うん、分かる」
「なのに……」
「あ、イキそう? 抜いちゃえば?」
「まだ、です」
「いつもそうやって遅らせるけど、オレに合わせなくてもいいよ」
「だってッ」
「じゃあ、オレもイカせて欲しいからコナツ、自分で動いて」
「な……っ」
「難しい?」
「どうやって」
ヒュウガは動きを止めて、小さく首を振り続けるコナツを見つめた。
「そんなに難しいことじゃないよ」
「ですが……」
コナツは片手を下腹部に当てたまま、空いた片手をヒュウガの胸の上に置いて頬を染めている。その格好が素人っぽいのか玄人のようで艶っぽいのか、どちらともとれずにヒュウガも目を細めてしまうほどの色気があった。しかも、可愛らしく肩を竦めている。
「なんだかなぁ、そうしてるだけで参っちゃうよね」
「?」
ヒュウガの独り言はコナツには理解出来ない。
「どうやって動くのか分からないとかねぇ、初々しいなぁ」
「知らないものは知らないので、どうしようもありません」
「だったらオレの言う通りに動いてみればいい」
ヒュウガは言葉で説明をして誘導するつもりだった。
「出来るかどうか」
それでも不安なのは仕方がない。
「大丈夫、少しずつやってみて」
「は、い」
「いい子だね、コナツ」
「でも自信は……」
ない。このままの姿勢でヒュウガを満足させることは無理だ。
「そんなの平気。コナツは黙ってても躯自体が武器だから」
「!」
誉められて恥ずかしくなり、コナツはまた首を振ろうとした。
「ほんとはオレもコナツに動かれたら一瞬でイッちゃいそうなんだけどね? 最近は堪えて堪えて我慢するのが快感」
「何を……」
そこかしこを遊弋して自由を楽しんでいるヒュウガも耐えることがあるのだと思うと驚きのほうが大きい。だが、ヒュウガこそ奔放に振る舞っても許される立場で、
「我慢などせずとも、私の中で何度でも果てて欲しいのに」
思わずそう言ってしまった。
「……」
ヒュウガはまたしてもコナツの発言に目を丸くする。時々コナツはこうして顔に似合わない発言をするから聞き違いかと耳を疑う。
「すみません、余計なことを」
コナツも自分の台詞を恥じて後から謝ることが多くなった。
「いや、オレもそう思ってるけどね」
「なら、そうして下さい」
「コナツ、そのままじっとしてて」
「えっ」
言う通りに動いてみてと言ったものの、前言撤回とばかりに逆のことを命令すると、
「オレが動きたい。っていうかオレがコナツ犯しまくりたい」
「!」
「お前が動くのはオレを犯したくなったときね」
「な……っ! あッ!」
言われた意味が判らなかったが、ヒュウガはコナツを下から数度激しく突き、先端で奥の粘膜をこすりあげた。
「うあ!」
「いつもと角度が違うからきついねぇ」
「少佐っ」
「動くよ。口閉じて歯を食い縛って」
「!」
コナツは訳が分からないまま言われた通りにしたが動きが激しすぎてバランスを失い、後方へ倒れこむのをヒュウガが膝を立てて支えた。コナツの腰をしっかり押さえて離さず中の狭い器官を存分に犯す。
「ひっ」
痛みもあるが、腹部を捏ね回されるような不思議な感覚に襲われる。
「あー、この骨盤が魅力だねぇ。お尻が小さくてたまんないよ」
「……」
躯の特徴を言われるのは恥ずかしい。骨盤だのお尻だのと言われても誉められた気がしない。
「ていうか、いい眺めだよねぇ」
コナツが上位になると興奮するのは、ヒュウガの位置から受け入れている箇所が見え、後背位と違うのはコナツの性器までもがよく見えることだった。
その敏感に反応している男の子の印を悪戯したいと思うのはコナツに興味があるからで、決して男性が好きだというわけではない。ただ弄ればコナツが悲鳴を上げて感じ入る。その嬌声を聞くのもヒュウガの楽しみでもある。
「少佐っ」
「なに?」
「下ろして頂けませんか」
「うん?」
「やっぱり、いつものがいいです」
慣れない体位に不安で思うように快感に浸れず、正常位に戻してほしいと訴える。
「駄目に決まってる。っていうか、口を開いたら危ないよ」
「!?」
ヒュウガが大きく突き上げたとき、コナツはくちびるを噛んでしまった。
「くッ!」
皮膚が切れ、血が滲む。だが、滲むどころではなく、流れ出た血が皮膚を伝うのが分かり、それを拭うことも出来ずにコナツは仰け反ったまま喃語を繰り返した。
「あ、ぅ……あ、ぁ……ウ」
ヒュウガが気付いた時、
「だから言ったのに!」
コナツは涙を浮かばせ、口の中を真っ赤にしていた。
「どの辺切れたかな」
上体を起こしたヒュウガはすぐに躯を離そうとしたが、抜くに抜けず、乱暴に動かせば間違いなく下半身まで血に染まると思い、
「きつい。萎えるの待つか」
状況を判断しようにも、コナツの顔を見れば口紅を塗ったような赤いくちびるが恐ろしいほど似合っていて、
「なんのプレイだ、これは……」
ただ苦笑いするしかなかった。

ようやく落ち着いた頃にはコナツもやっと話せるようになったが、涙目のままむくれている。
「信じられません」
恨み言のように呟くと、
「何が? コナツが赤ちゃんみたいにアウアウ言ってたこと?」
「違います!」
コナツはヒュウガをギッと睨んでシーツを握り締めた。
「やだなぁ、コナツ。怪我の治療法は昔から決まってるんだよ?」
「だからと言って私の口の切った箇所やら血が流れた箇所を嘗め回すなんて!」
変態以外の何ものでもないと叫びたかった。
「うーん、気付いたらやっちゃってた。っていうか、消毒液に負けたくなかった」
「?」
ポカンとするコナツは、ヒュウガの台詞を理解しようと懸命になったが諦め、
「確かにくちびるの消毒は難しいと思います。だからって……」
「ちゃんと軟膏塗ってあげるよ。明日の朝まで治るように」
「薬はいいです。こんなの放っておけば治ります」
「じゃあ、キスしてもいいよね?」
「!?」
「キスしたいもん」
「出来ません。今だって喋るのも辛いんです」
「分かるよー。切り傷打ち身は結構ダメージでかいよね。オレもアヤたんに鞭で打たれるとめちゃ痛いもん」
「それは自業自得では?」
「コナツだって自業自得だよ」
「どうしてです!」
「口閉じててって言ったのに喋るから」
「そ、それはそうですが……でも狙ったように突き上げるなんて」
「ほんとに噛むとは思わなかったけど」
「まさか私、わざと激しくされたんでしょうか」
「そんなことあるわけないかもしれないよ?」
「少佐?」
今度こそ、言っていることが分からなかった。もっともヒュウガは故意にそうしているのだ。ますます混乱するコナツだったが、実は口を切ってからの記憶も曖昧なのだった。
切れた箇所をヒュウガに嘗め回され、それが激しい口付けとなり、コナツは崩れ落ちる躯をヒュウガに抱きとめられながら愛撫を受けた。
怪我によって中断かと思えた行為が続行される。更に強く、そして大胆に。
息遣いが激しくなり、会話も一切なくなった。絡み合い、欲しいものを探すようにめちゃくちゃになりながら快感を追う。
コナツは「痛い」「怖い」をうわごとのように言い出したが、時折「見えない」「回る」だのと訳の分からない言葉を繰り返していた。デュアルパーソナリティの持ち主ではないが、切羽詰まれば変化せざるをえず、極度の緊張によって、ヒュウガのように故意ではなく、不自然な態度を示すようになってしまったのだ。そして、そういった態度はコナツの記憶には残らない。
最後に二人が一秒の違いもなく達し、朦朧としたコナツはくちびるの痛みで覚醒し、
「終わった……んですよね」
ぐったりと横たわったまま呟いたが、
「あれ、また記憶ぶっとんでる?」
ヒュウガはヒタヒタとコナツの頬に手を当てて意識をはっきりさせようとした。
「痛かったのと気持ちよかったのは覚えてます」
「なんとも言えない答えだ」
「……」
コナツはまだ躯を起こすことが出来ない。
「まぁ、ワケ分からないのはお互いさまってことで」
ヒュウガはそう言って収拾しようとしたが、コナツが納得しなかった。
「大体、少佐は激しすぎるんです」
「それはこっちの台詞」
「私ですか? 私の動きのどこが」
コナツは揺すられてばかりで自分から動くことはない。
「違うな、オレのは動作で、コナツは言語だ」
「は?」
「二人で一つだねー」
ヒュウガは一人で笑っていたが、そこでコナツも真剣になって考えてみた。
「私、最中に何か言ってるんですか? 喚いてるような気はするんですが」
「オレ、いつも言ってるじゃん、コナツ凄いんだよって。あ、カラダの良さだけじゃなくてね、言ってることが玄人並みなんだけど、玄人でも言わないような変わったこと言うね」
「えーっ」
「そこはやはり素人だからこその台詞なのかなぁ。まぁ、激しいコナツも好きだけど」
「腑に落ちない……」
「いいから気にしない。そりゃあ大袈裟であればいいってもんじゃないよ、でもたまにはいいんじゃない? お互いにね」
「そうでしょうか」
「うん、こういうのは楽しまないと。コナツだし?」
「何故私だからなんですか。じゃあ、私もこう言えばいいんですか? 激しいのは好きですよ、ヒュウガ少佐だし」
「それでOK」

そこにあるものはひたむきな情愛で、それがあるから関係が成り立ち、結局すべてが許される。愛される喜びと愛する喜びが存在し、セオリーもプラクティスもしっかりと守られている。根本にある感情が分かるからこそ、心の中で育まれる想いが熱くなる。

ベッドでこんなに激しく愛し合う二人でも、語り合ってみれば中々の浪漫主義者になれるのだった。