エリス
「地獄こそが、私にもそなたにもふさわしかろう」
ロストールの雌狐などという、ありがたくない異名をつけられつつ、
国のため家族のため策謀をめぐらすロストール王妃。なんといっても、
なぜインフィニットでは必ず死ぬようになったんですか!?と
言いたい。個人的には前作よりも扱いが不幸になった人
ナンバーワンです。
でも、アンティノやロティと結託して、ロセンのペウダをそそのかしたり、
ロストール周辺の小国を併合したりと、まさに立場を代えてみると、
恐ろしい悪女と言われ憎まれるのも分かります。国内においても、
女性が政治に介入することを嫌う保守的な民からも反感を
持たれていますし、レムオンを始めとする有力貴族との対立は
言うまでもなし。おまけに夫との仲は冷え切っており、娘ティアナにも
反発される。まさしく味方少なく孤軍奮闘してます。
エリスの不幸は、女性であったこと。ロストールがディンガルと比べて
あまりにも封建的で、女性の社会進出を嫌っていたこと。
なんか現代日本の社会問題みたいです(^^;)。
エリスが男性であれば、堂々と政治に介入し発言できますし、
必要なら武力で解決することもできたはず。でも女性なので
武力に訴えることもできず、仕方なく策謀をめぐらすことになった。
策謀というのは、人が好むやり方ではない。どう考えても騎士道
精神とはかけ離れたものです。
そんな手段を取らざるを得ない状況に追い込んだ夫セルモノーを
一番責めたいですが・・。旅先スタートで、フリントの娘・息子だと
エリスの配下(別に策謀に荷担させられるわけではない)となって、
彼女からいろんな話を聞けます。
自分がファーロス家を繁栄させるためにセルモノーに嫁いだわけ
ではなく、セルモノーがファーロス家の力を目当てにエリスと
結婚したこと。そんな経緯で、夫から愛されず寂しい思いをしたこと。
だからこそ、ティアナを授かったときは嬉しく、娘が自分と夫をつなぐ
絆になってくれると信じたこと。
でも娘は母親に反感を持ち、当然夫との関係もよくならず・・・。
テジャワの変で、アトレイアの母親がアトレイアを王位につけようと
して失敗し、母親は自害、アトレイアも心中に巻き込まれかけ、
それを助けようと毒にも詳しくなったこと。エリス配下にならなければ、
私もエリスを権力欲の強い策謀家として見ていたかもしれませんが、
エリス配下になって彼女に何回も会ううちに、複雑な立場が理解
できたような気がします。
娘や夫の愛を得られず一人寂しい思いをしつつも、諦めと家族・国を
守る強い信念を持って生きるエリス。彼女はだからか、必ず死んで
しまうけれども闇落ちすることもありません。娘や夫を始めとした
他のロストール貴族たちはみんな闇落ちの可能性を持っているのに。
その辺りがある意味、彼女の特別待遇と言えるかも。
助ける可能性は残してほしかったですが・・。彼女のやってきたことへの
代償として、死が待ち受けていたのか。結局エリスは国と家族を
守ろうとして、理解してくれる者も少ないうちに人生を終えることに
なったのだった。
理解してくれたのは、ゼネテスと、フリントの娘・息子だけだったかも
しれないですね。エリスに関して、あるフレーズが頭に浮かびます。
「愛そうとして愛を得ず、愛されようとして愛を得ない」
セルモノー
なぜ??あの奥さんに任せっきりの××××王様(×には好きな
字を入れてください)に語ることなんてあるのか??とお思いの人も
多いでしょう。実際私も、ロストール側の人間は大体語ったし、
セルなんとか王とかタルなんとか氏がいた気もするけど、あんまり
語ることもないし、悪口で終わりそうだから(情けない男ですねとか
服のセンス変だよねとか)、次ディンガルあたりに移ろうか〜と
思っていたのです。
しかし。歴史区分7のアトレイア関連イベントを進めて、
セルモノーの最期を見たら、ああこれはやっぱり語るに足る人物
だったのだな、と思って取り上げることにしました。
というわけで、前置きが長いですが、セルモノーです。名前がなんとなく
締まらない気がするのは私だけでしょうか。一応彼の境遇などに
ついておさらい。彼はロストール王家に生まれ、王位は兄のフェロヒアが
継承していました。フェロヒアが死んだとき、フェロヒアの子供であるのちの
アトレイアはまだ母のお腹の中。それをいいことに、セルモノーは王位を
継承します。このとき彼の即位を助けたのが、王妃となるセルモノーの妻
エリス。エリスはロストールの貴族の中でも名門中の名門(エステル談)
ファーロス家の出身です。
妻の家の後押しもあり(エリスの兄ノヴィンも凡庸だが、野心は相当に
あった)、セルモノーは王となります。しかしこれに反発した一部の
貴族(リーダーはテジャワ)が、フェロヒアの遺児アトレイアを担ぎ出し、
王位につけようと画策するのです。フェロヒアの妻も、自分の娘を王位に
つけたかったのでしょう。ですが彼らのクーデターはエリスの機知もあり
失敗します。フェロヒアの妻は娘アトレイアと無理心中を図りますが、
彼女は死に、アトレイアは命は助かったものの失明し、表舞台に
登場することはなくなります。
さて、セルモノーは自分が王位につくため、権力を手に入れるため、
ファーロス家の娘エリスを妻に迎えたのであり、最初から愛のない
結婚でした。エリスは、夫となる人物のため、娘時分から料理や
裁縫をみっちり仕込まれ、幸せな結婚を夢見ていたようです。
しかしセルモノーは愛のない結婚をした罪悪感から、エリスに
対しても、その後生まれた娘ティアナに対しても冷たい態度を
取り、さらに政治にも無気力で関心を持とうとしません。
だが、そんな夫に対して、エリスはあくまでも忠実だった。
ひたすら夫に尽くし、夫のため、娘のため、ロストールのために
策謀をめぐらし、ついにはエリスのおかげでロストールが成り立っている、
そんな奇妙な状況が続くようになります。
セルモノーは罪悪感をずっと持ち続けるのですが、罪悪感を持つだけ
彼は誠実な人間なのかも、と感じました。現実の世界の歴史と
比べるのは異論もあるかと思いますが、ジルにおけるロストールを
モデルとなった中世ヨーロッパになぞらえると、この時代、政略結婚と
いうのはごくありふれたことだった。日本でもそうです。
ハプスブルグ家の結婚による版図拡大というのは有名ですね。
まあ現実をあんまり持ち出すのもなんなので、そういうわけで、きっと
歴代のロストール王家でもきっと政略結婚はしばしば行われてきた
ことでしょうね。セルモノーはそれを王たる自分には当然のことだと
割り切れずに悩み、苦しんでいたのです。割り切れない辺り、彼は
ある意味善人であり、王になるには人物が小さいとも言える。
評価は割れます。どうせ冷たい態度をとるなら、家族のことで
悩んだりせずにいられたらまだ幸せだったし、闇にとりつかれる
こともなかった。
死に際にはティアナが自分の娘でなかったら、こんなに苦しまずに
すんだ、エリスと2人、お互いの罪を見つめながら醜くく共存できた、
と言います。これは相当に勝手な発言ですが・・(^^;)。
セルモノーにとっては、エリスがふがいない自分に愛想をつかして、
いっそ不貞でも働いてくれたらよかったのでしょうね。
でもエリスはあまりにも賢く、夫に忠実すぎた。ただ他人のため、
夫のため尽くしていた。自分のためではなく。そのために雌狐という
汚名を着せられてもそれをはねのけられる強さがあった。
セルモノーは自分からは何も行動せず、ただ相手が罪を犯すことを
願っていた。相手が堕落することを望んでいた・・。こうしてみると、
何もしないのがよいことではない、とひしひしと感じますね。
エリスは結果的には、ゼネテスの言うようにいい人とは言えなかった。
反対派の貴族を破滅させ、他国を併合もしている。たくさんの人から
恨まれて当然だった。でも、そんなエリスが闇落ちせず、セルモノーが
闇落ちした。それはなぜか。ただ自分のことしか考えていなかった。
特別、他人を陥れようとしたわけでもない。でも、他人の幸福を
願うわけでもない。そこがエリスと違うところでしょうね。
最期の言葉。
「最初に愛せなくても、明日から愛そうとすればよかったのだ。」
たぶん、エリスはそれを実行出来ていたのでしょう。彼女も、最初に
愛せなかったかもしれないけれど、明日から愛そうとして日々を
過ごしていたのでしょう。だから夫に忠実でいられた。
セルモノーはもっと早くそれに気付いていればよかったのに、余りにも
遅すぎました。最後に、闇にとりつかれた理由、どうすれば少しでも
幸せになれたかを悟りながら彼は死にます。主人公にティアナのことを
託しながら・・。でももうティアナは闇に落ちてしまっていた。
やっと父親らしい気持ちを持てたのに、もう娘は今までの娘では
なくなっていた。
それを知らずに死んだことは、せめてもの慰めだったのか・・?
いずれにせよ、ロストール王家の一家は悲劇的な終わりを迎えます。
アトレイアが王位を継承したものの、それは王権が崩壊しはじめて
いるのを暗示していた。アトレイアの子孫が王位を継ぐ、という
道筋よりはアトレイアが市民に政治権力を譲って、市民社会へ
移行するという筋書きが予想されます。この戦乱のあとの世界を
舞台にしても面白そうですね。現実の世界史そのままですが(笑)。
謁見の間でのセルモノーのセリフを聞いて、前作では単なる情けない
王だった彼の印象が少し変化。罪悪感に苛まされる彼。
しかし苛まされるだけで、自ら状況を変えようとはしないし、
それ以上思考が進まない。情けないのに変わりはないけれど、
彼の心情がよりわかるようになりました。
彼の心の動きは平凡な人間のそれなのです。ただ、不幸なことに
彼は一国の王だった。平凡では許されない状況にあったのに、
彼はあまりにも平凡すぎる人間だったのです。そこに彼の悲劇がある。
正直、彼の評価が高くなったわけではないのですが、あえて言うなら、
エリスが少しだけ報われたかな、と思います。
こうやってロストール側をずっとみていると、非常に面白いです。
きちんと歴史や人物が設定されていて、無理がない。かつかなりリアル。
闇落ち王女などはともかく、王家の歴史の流れとかは本当に
ありそうです。クーデター関係とか。
ロストールはディンガルのエキセントリックさに比べると(魔人との
ハーフとか壁男シャローム、壁男の息子ベルゼーヴァあたりが
その代表)より現実の歴史(ヨーロッパ)に近くて、その後の
話が気になるし、予想したくなりますね。
もちろん、ディンガルも好きです。このエキセントリックさはゲーム
ならではの面白さですし、謎に満ちた設定が気になります。
ラドラス、アルレシア、4人の巫女・・。800年前のストーリーも
面白そう。壁男氏がまだ壁に埋まってなかったころ(笑)の姿も
見たい。
ジルのシステムや設定は、このまま埋もれるには惜しいですね。
インフィニットと繋がりがなくてもいいから、このシステムを生かして
何かゲームを制作してほしいものです。
また長文になりました。やはりロストール派なので、長くなって
しまいます。ロストール関係についてはどうも熱く語りたくなる
みたいです。まあ、お気楽キャラを語る時はノリも軽くなると
思います。