カブトムシのエサ別成長実験

鯛網オヤジ



 

唐突だが、私はカブトムシが好きである。
 近年では外国産が手軽に入手でき、かつて「黒いダイヤモンド」と言われたオオクワガタさえもすっかり価値を下げてしまった。そのオオクワガタのエサとして使用され、あまつさえオオクワガタ以下の価値でしかない国産のヒラタクワガタ、ミヤマクワガタ、ノコギリクワガタたちよりもさらに格下あつかいされ、虐げられている国産カブトムシ。そんなカブトムシが私は好きである。それでも子どもたちの多くはカブトムシが好きなのだ。カブトムシをやると言ったら、嫌な顔をする子どもは滅多にいない。そう、カブトムシは子どもたちの人気者である。物の価値を金額や希少性で計る大人と違い、子どもは単純に見た目のかっこよさや強さに憧れるのである。ところが私が昨年羽化させたカブトムシの多くはショボかった。管理の杜撰さもあったのだが、与えるエサ(腐葉土やマット)の選択を誤ったのが大きかったように思うのである。値段の安さだけで選んだ、枝ばかりたくさん入った腐葉土、インターネットをやるまで全く知らなかった某有名殺虫マットなどもエサとして使用していたのだ。私はそれらを複合的に使って育てていた。知らなかったとはいえ恐ろしい事をしていたものである。その結果多くのチビカブトを作出してしまったのだ。小さいカブトもかわいくて悪くはない。が、やはりカブトは大きい方がいい。大きくなければ強さもかっこよさも劣るのである。大きいことはいいことだ。by山本直純(チョット古いっすか?)大きなカブトを作りたい。その思いが私の心を支配したのは言うまでもない。カブトを大きくするには幼虫を大きく育てるしかない。それがこの実験に私が手を染めたきっかけである。

 
 
1.実験の主旨
 これをご覧いただいている読者諸兄は当然ご存知のことと思うが、カブトムシは成虫になるとサイズは変わらないのである。従って、前文にも書いた通りカブトを大きくするためには幼虫を大きく育てるしかないのだ。結論から言えば、大きく育てるには環境とエサしかない。環境は狭いより広い方が良いに決まっている。しかし私を含め多くのカブト愛好者の方々にとって、虫(ごとき)のために居住スペースを明け渡してでも広い場所を確保することは困難なことである。現実問題として、家族の非難(特に妻や母親から)を浴びることは必至であろう。本来、益虫でもないが害虫でもない「ただの虫」が生活害虫の指定を受けることにもなりかねない。既に多くの家庭では指定一歩手前の状況である。また運良く大きなスペースを確保できたとしても、特大ケースに1頭づつ飼育するとマット代で家計がパンクするのは確実である。通常、我が国ではカブトムシの幼虫は多数飼いするのが一般的なのだ。こうした面から考えると、我々愛好者に残された道はただ一つ。エサの内容を工夫するしかないのだ。ならば高価なマットを使えば良いのであろうが、多くの愛好家は少ない予算の中で飼育業務に携わっているのである。少しでも余裕があれば、新しい虫の一つでも買いたくなるのは人情というものだ。結論は低コストかつ大きく育つ良いエサである。カブトムシは言葉が喋れないので、何が食いたいのか教えてくれない。だから何が欲しいのかを、こっちで考えねばならない。無い知恵を絞った結果、次の3種で実験をすることとした。以下に使用した理由も記す。

@発酵マット・・・作るためには多少手間がかかるが、多くの先輩方がカブト、クワガタで大型個体を作出した実績がある。私が使用したものは、クヌギ系のマットに小麦粉(薄力粉)と無農薬米の米ヌカを添加したものである。割合は容積比で10:0.5:0.5である。

A腐葉土・・・安全性では定評のあるJTのものを使用した。一般的にkgあたり単価では安価なクヌギ系マットよりも安い。

B再使用マット・・・この名称は私がつけた。どの愛好家宅でも発生する成虫飼育や幼虫飼育、産卵床等に使用したマットをフルイにかけ、ダニ・コバエの予防のためにレンジでチンしたものである。早い話が使い古しのジャンクマットである。前記した不良腐葉土や某有名殺虫マット、砂までもが混入していたが、気にせず使用した。最も経済的なマットである。

この他にも、ただのクヌギ系マットとかの案も考えたが、同条件下で1〜2齢を育てた実績では再使用マットよりも成長スピードが遅いのが顕著であったので割愛した。また、腐葉土と発酵マット(またはただのクヌギ系マット)を混ぜることも考えたが、混合比をある程度一定に保つためには、エサ換え時に全交換しなければならないので、不経済という理由でやめた。しかしこの方法は結構良い結果を出せるのではないかと、今でも思っている。もしかしたら今年試してみるかも知れない。


 
 
2.実験前の準備
 幼虫は体重の測りやすい3齢を被験体とした。1〜2齢は成長スピードが速く、数を揃えにくいという事情もあった。また、脱皮直後の2齢が共食いされている現場に遭遇したこともあり、3齢に加齢後1週間以上経った個体を選んだ。各10頭ずつ合計30頭の幼虫が実験に協力してくれた。幼虫の父親は全て同じだが、母親は2頭を使用したので腹ちがいも含まれている。Aは買ったのがあったし、Bはいくらでも発生するが、@は誰も作ってくれないので自分で作った。やっつけで作ったので充分に発酵しきっているか「?」だったが、気にせずそれで実験した。細かいことを気にしないのが私の良いところだ。エサ以外の条件はなるべく同じにしたかったので、3段の引き出し型衣装ケースを1680円(税別)で買った。上段と下段では多少環境が違うかなとも思ったが、私は気にしないのである。ちなみに引き出しのサイズは40×29×19(単位:約cm)だ。10頭を羽化まで持って行くにはちょっとしんどいかな、とも思ったがやっぱり私は気にしないのだ。置き場所は外気温に近い玄関にした。余談だが、この3段ボックスにカブトムシマンションと名付けたところ、小学生の息子が「こりゃあアパートじゃろう?」などとぬかしやがったので「カバチぃたりゃあがんなあ!」と一喝しておいた。全く生意気なガキである。といった案配で準備は万全、整いましたとさ。

 
 
3.いよいよ実験開始じゃ〜
 いやいや長い前置きで申し訳ない。これからが本題である。ここまで読んで馬鹿馬鹿しくなったあなた、これからがいいところなので是非読んでいただきたい。9月の声を聞き、いよいよ実験開始である。9月2日、いろんなケースに入っている幼虫達に集合してもらった。各部屋に入居いただく前に体重測定をした。30頭(実際には32頭)の体重を測定してみると最大で14g、最小で4gだった。加齢期の間隔は、最大で3週間くらいだった。いかんともし難い体重差ではあったが、こんな些末な事を私が気にするはずもないのは当然である。そこで考えたのは各部屋の10頭の合計体重を同じにするということであった。実験開始時の状況は以下の通りである。

@発酵マットの部屋・・・14,10,8,8,6,6,5,5,4,4
A腐葉土の部屋・・・14,10,8,8,6,6,5,5,4,4
B再使用マットの部屋・・・12,11,9,7,7,5,5,5,5,4

多少のバラつきはあるが、各部屋とも合計70g、1頭の平均体重は7gとなっている。完璧である。自慢ではないが、私は数学が得意なのだ。どのくらい得意かと言うと、高校2年の時にテストで9点を取ったことがあるくらい得意なのである。もちろんそのテストが100点満点だったのは言うまでもない。ところで雌雄の混合比率は不明だが、細かいことを言ってはいけない。


 
 
4.実験の経過
 そろそろ読み疲れた方もおられることと思う。しかしこれからが本当の本題である。随分と脱線した部分もあるが、この際ご容赦いただきたい。ということでその後の経過を披露する。

9月9日
第1回の体重測定を行った。本当は2週間おきに行う予定だったが、共食いによる個体減少の有無をチェックするという名目で行った。本当はどうなっているのか気になって仕方がないというのが主な理由である。尚、今回はマットの補給は行っていない。

@発酵マットの部屋・・・17,14,10,10,10,7,7,6,6,6
A腐葉土の部屋・・・22,16,14,13,13,12,11,11,9,8
B再使用マットの部屋・・・15,14,13,12,11,10,9,8,8,8

腐葉土チームが絶好調だった。体重がわずか1週間で1.8倍以上になった。この調子で行けば、ヘラクレスやゾウカブトの幼虫くらいになるかも・・・とは流石の私も思わなかった。再使用マットチームも意外な健闘だったが、気がかりは発酵マットチームである。やっつけで作ったのがまずかったか?

9月16日
第2回の体重測定。

@発酵マットの部屋・・・18,15,12,12,9,9,8,8,8,7
A腐葉土の部屋・・・21,16,16,15,15,14,13,12,9,9
B再使用マットの部屋・・・14,12,12,12,11,10,10,9,9,8

発酵マットチームと腐葉土チームの体重は微増したが、再使用マットチームは体重が減っていた。やはりジャンクマットは駄目なのか?

10月1日
第3回の体重測定。

@発酵マットの部屋・・・25,20,20,18,15,15,15,14,13,12
A腐葉土の部屋・・・23,21,21,20,17,17,16,16,13,9
B再使用マットの部屋・・・17,15,14,14,14,13,13,13,12,12

発酵マットチームの成長が著しい。最大個体の体重は腐葉土チームを抜いた。再使用マットチームが総合最下位になった。

10月14日
第4回の体重測定。

@発酵マットの部屋・・・28,24,22,21,18,18,17,16,15,14
A腐葉土の部屋・・・25,25,23,22,20,20,19,18,16,12
B再使用マットの部屋・・・20,20,17,17,16,16,15,15,15,14

前回の計測時からの伸びは、いずれもほぼ同じであった。腐葉土チームの過半数(6頭)が20g以上になった。

11月1日
第5回の体重測定。

@発酵マットの部屋・・・32,27,26,24,21,20,20,19,18,18
A腐葉土の部屋・・・26,24,23,21,20,20,19,19,16,12
B再使用マットの部屋・・・21,20,17,17,17,17,16,16,15,15

発酵マットチームが順調に成長し、7頭が20gオーバーとなった。最大個体の体重も目標ラインであった30gを越えた。腐葉土チームはゼロ成長で、ついに発酵マットチームに抜かれた。当初の予想通りとなった。

11月17日
第6回の体重測定。そろそろ休眠期となるので、年内最後の計測である。ある程度大きくなっているので、雌雄の判定も合わせて行った。この段階では、vマークの見えない♂もまだいるだろう。

@発酵マットの部屋・・vマークあり・・32,27,26それ以外・・24,21,21,20,20,19,19
A腐葉土の部屋・・vマークあり・・25,23,21それ以外・・23,19,18,18,17,16,12
B再使用マットの部屋・・vマークあり・・26,21,20それ以外・・25,20,19,19,19,19,17

腐葉土チームが体重減少し、とうとう再使用マットチームにも抜かれた。どうなっているのだ、JT腐葉土!vマーク確認ができたのは、奇しくも各マット3頭ずつであった。腐葉土チームの腹部は、真っ黒に近いのでvマーク確認が難しい。

2月4日
前日に40歳の誕生日を迎えた記念に、久々の体重測定。

@発酵マットの部屋・・vマークあり・・32,28,24それ以外・・22,21,20,19,17,16,15
A腐葉土の部屋・・vマークあり・・22,20,17それ以外・・21,16,16,16,15,14,11
B再使用マットの部屋・・vマークあり・・24,23,21,18,17それ以外・・18,16,16,16,14

いずれもほとんど活動しておらず、全てのケースで体重が減少していた。まだ当分は活動しそうにない。

4月1日
新年度突入の記念に体重測定。

@発酵マットの部屋・・vマークあり・・35,30,27それ以外・・24,23,23,22,21,20,19
A腐葉土の部屋・・vマークあり・・24,23,20,18それ以外・・17,17,16,15,13,12
B再使用マットの部屋・・vマークあり・・26,24,23,19それ以外・・21,19,19,19,17,17

活動期に入ってしばらく経っているらしく、いずれのケースでも2月の計測時より体重増加していた。発酵マットチームは2頭目の30gオーバーがでた。成長も相変わらず順調である。再使用マットチームは昨秋の最大水準とほぼ同じ。腐葉土チームは最高時の9割程度。

4月22日
3週間ぶりの体重測定。

@発酵マットの部屋・・vマークあり・・39,35,33それ以外・・29,25,24,24,23,23,21
A腐葉土の部屋・・vマークあり・・24,24,22,18,16それ以外・・17,16,16,14,12
B再使用マットの部屋・・vマークあり・・25,24,24,20,19それ以外・・20,19,19,17,17

発酵マットチームの♂は、3頭ともの30gをオーバーした。最大は39g。デカい、というかデブい!このまま縮むことなく蛹化すれば、最大級のカブトになるだろう(たぶん)。成長も相変わらず順調である。再使用マットチームほぼ変化なし。腐葉土チームは微増。

5月16日
最終の体重測定。

@発酵マットの部屋・・vマークあり・・39,34,31それ以外・・28,25,23,23,22,22,22
A腐葉土の部屋・・vマークあり・・24,24,19,18,14,13それ以外・・16,16,15,12
B再使用マットの部屋・・vマークあり・・26,25,23,22,20それ以外・・20,20,19,19,18

いよいよ蛹化も目前である。測定するのも、これが限界だろう。増減幅もわずかだ。発酵マットチームの最大♂は39gのまま。縮まず、すんなり蛹化して大型カブトの勇姿を見せてくれることを祈る。

5月末〜6月初
蛹化した(はずだ、たぶん)。やはり容れ物のサイズの関係で、あぶれるヤツもいた。発酵マットチームの結構デカい♀と腐葉土チーム超チビ♂が各1頭ずつ。羽化まではもう少しかかるだろう。羽化後のことは後日報告したい。


 
 
5.結論
 結果が出ていないので、まだ何とも言えないが、やはり発酵マットはそれなりの効果があるのだと思う。それにしても腐葉土は意外な結果だった。私の管理に問題があったのか?JT腐葉土で幼虫飼育をしている方で、この結果に疑義があるという方はご一報いただきたい。ちなみに腐葉土の生産地は岡山県である。まあ、こうして文章にしてみるといい加減なことをしているのがよくわかる。それでも私は気にしないのだ。

 
 
6.おまけ=失敗談
 腐葉土では蛹室が作りにくいので、土入れをしようと思っていたが、そうこうするうちに蛹化が始まっていた。腐葉土にて幼虫飼育をしている方々よ、蛹化前の土入れはゆめゆめ忘れることなかれ。

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