「ヤマトサビクワガタの羽化」

by SIGMA B

  ヤマトサビクワガタ(Dorcus japonicus)はあまり人気のない種である。Dorcusに分類されているが、おおよそDorcusとは思えない形態である。体長は20mmぐらいと小さく、微毛の上に泥がこびりついていて、汚らしい。したがってDorcusびいきな人々にも、美麗種にご執心な方々にも見向きもされていない可哀想な種である。ショップ等でもあまり流通しておらず、著者の知る限り飼育しているのも京の祇園ちゃんぐらいしか聞かない。

昨年、偶然に本種の幼虫が入手できたので、飼育してみることとした。本種の分布が徳之島と九州南部の佐田岬と極めて限られている原因も完全には明らかとなっておらず(流木説が有力のようであるが)、このような上翅をもつ理由もまた不明である。したがって国産では謎の多い種といえる。飼育は一般に容易と考えられているようであるが、飼育法に関する情報は少ない[1]。そこでこれまでに得られた結果を報告したい。

昨年の11月に2令幼虫を4頭入手した。入手した全ての幼虫は無添加の市販のクヌギマットをつめたプリンカップに入れ、屋内で保存した。特に温度は制御していない。無添加のマットを選択したのは、生存確率を下げないためである。餌交換は4月中に1回行い、この際に飼育容器を小さなコーヒー瓶に切り替えた。この際には下図に示すような3令幼虫になっていた。しかし、残念ながら、数日後に1頭が死亡した。餌換えの際のショックが原因と思われる。

幼虫はいずれも5月初旬に蛹化した。3頭の内、瓶の底部に蛹室を作ったのは1頭であり、他の2頭は蛹室は作らず地表で羽化した。蛹室を作ったのは♂で、作らなかった2頭は♀であった。しかし性差とは考え難く、偶然の結果であろう。

上図は地表の蛹の写真である。蛹を見る限り他の種とよく似ており、いわゆる「いるか状突起」も見られる。

羽化は蛹化後約2週間たった6月上旬に行われた。この写真は羽化途中の♀を撮影したものである。羽化のプロセスも他の種と似たりよったりであった。羽化直後の上翅は白色であるが、明瞭な隆条が見られる。この隆条は羽化直後にも色がついており、また断続的になっていることは興味深い。下翅は透明で羽化直後には伸びきった状態となっていた。

羽化1日後の写真であるが、徐々に上翅が赤みがかってくるのは他の種と同じである。

羽化後数日経過したペアの画像である。実際の体色はこのとおりの黒色である。これ以後徐々に泥をまとい、次第に通常見られるサビ色の体色となる。

現在までの報告はここまでである。小型種で、それほど手をかける必要もなく、飼育は容易であるといえる。飼育にチャレンジして見ようと思われた方もいるのではないだろうか。今後、交尾、産卵、累代飼育に成功すれば続報にて報告したい。

参考文献
  坪井源幸:「(手にとるようにわかる)オオクワガタの飼い方」, (1999), p.113, ピーシーズ.

以上

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