像面フラットナーによって、格段に写りが良くなった新手作りレンズ(2022年4月号)
像面フラットナーによって、格段に写りが良くなった新手作りレンズ(2022年4月号)
手作りレンズの目的は球面収差によるボケ描写を楽しむところにあり、他の収差を思い通りに補正することはできません。特に周辺ほどぼけてしまう像面湾曲はあきらめていました。ところが、その像面湾曲を補正することができ、周辺までシャープに、さらにボケ描写も均等な画像が得られるようになりました。
像面湾曲の補正について学んだのが1999 年に朝日ソノラマから出版されたこの本です。像面湾曲が十分に補正できなかった時代、感光面の直前に凹レンズを置くことで像面が平らになるようにしていました。その原理は、結像しようとする光線が厚さのあるガラスを通過すると、その厚さと屈折率に応じて結像点が後ろにずれることから凹レンズによって周辺ほど結像点が後ろにずれて像面が平らになります。この働きをする凹レンズが像面フラットナーです。
凸レンズによる像は画面周辺ほどレンズ側に結像するためにその像面は湾曲してしまいます。これが像面湾曲という収差です。
像面フラットナーによって格段に写りが良くなることから、手作りレンズを立て続けに3本作ってしまいました。
_____________________________________________________馬場信幸
1号120mmF6.9
(EFマウント)
2号135mmF5.6
(Lマウント)
3号135mmF5.6
(Zマウント)
2020年のCAPA6月号で紹介したEFマウントで手作りした100mmF5.6を流用する形でマウント部の内側にビデオカメラ用のワイドコンバージョンレンズから取り外した凹レンズを固定。前方の絞りを外して十文字絞りに交換することができます。
元はクローズアップレンズNo.10を使い EFマウントで作ったレンズのためにバックフォーカスが長く、凹レンズが結像位置よりも前方に位置することから光学系全体としてはテレフォトタイプになり焦点距離が長くなります。そこでクローズアップレンズの No.2を追加したところ焦点距離は120mmになりました。したがって元々の直径17.5mm の絞りでは明るさは F6.9 になります。そして絞りの前後位置を調整することで、全画面で後ボケが均等に滲むようになります。
レンズを後方
から見たところ
で凹レンズの反射
面が見えます。凹レ
ンズの周囲の反射を遮
光するために黒い紙でフレアカッターを切り抜き、マウントの後面に接着しています。
十文字絞り
絞り(直径17.5mm)
クローズアップレンズNo.2
クローズアップレンズNo.10
像面フラットナー
像面フラットナーなし
のラメ入りレース画像
白い紙の前に垂らしたラメの入った黒いレースを撮影したもので、クローズアップレンズNo.10が1枚のみでは画面中央はコントラストもよくシャープですが、周辺ほど流れるように大きくぼけています。また凸レンズのみなので色収差もあります。
像面フラットナーあり
のラメ入りレース画像
クローズアップレンズNo.2を上の図のように追加したことで球面収差が増し、画面中央のコントラストが低下していますが、像面フラットナーの効果で周辺までシャープです。さらに凹レンズによって色収差が相殺され、色付きもかなり減少しています。
100mmF5.6
120mmF6.9
拡大画像
拡大画像
拡大画像
拡大画像
1号120mmF6.9の構造
十文字絞りによる撮影で、輝度の高い点光源からはクロス状の光芒が現れます。絞りをいちばん前に持ってくる構造によって、このような写真も撮影することができます。
この120mmをマウントアダプターを介してボディ内手ブレ補正のあるルミックスS5に装着し、イルミネーションの夜景を手持ちで撮影。クロス状の光芒が全画面で均等に現れており、 色収差が減少したことも含め、像面フラットナーとして使った凹レンズの相性が偶然良かったとはいえ、手作りレンズとは思えないほど周辺までシャープです。
拡大画像
1号120mmF6.9(キヤノンEFマウント)
基本的にはソフトフォーカス描写ですが、手作りレンズでこのような後ボケの柔らかい写真が撮れるのですから面白いです。
2号135mmF5.6(Lマウント)
ミラーレス一眼であれば結像面に近いところに像面フラットナーが置けます。そこでルミックスのボディキャップをくり抜いてマウントにした新手作りレンズの2号が135mmF5.6です。使用したレンズは、
色消しタイプのクローズアップレン
ズであるケンコーのACNo.2とAC
No.5、そしてミノルタのNo.2で、
これに像面フラットナーとしての
平凹レンズです。この
レンズは絞りが
内部なので
交換はでき
ませんが、
ボケを楽し
むのですか
らF5.6の固定
で大丈夫です。
レンズの後ろ側で、
マウントの中央に像面
フラットナーとしての凹レンズがあります。フォーカシングは前枠を回すようにしながら前後させますが、MFアシストを使うことで精度よく合わせることができます。
フォーカスを合わせたところは球面収差によるハロによって滲んでいますが、全画面にわたって結構シャープで色収差もありません。そして多くの市販レンズでは目障りなボケになる微細な点光源の後方微〜小ボケも全画面で均等に滲んで柔らかく、味があります。このようなボケ描写が手作りレンズならではの価値です。
拡大画像
温室における撮影で、ほぼ平面的に広がるアレカヤシの葉がフォーカス面に収まるような位置から撮影。背景はガラス壁面に広がったブーゲンビレアの花で、滲むように柔らかくぼけています。
この絶大な効果に驚きました
ボケ味チェック点光源で、ボケが隅でやや外方に伸びていますが、それ以外は全画面で均等にぼけています。そして後方微〜小ボケの滲みが素晴らしいです。また十文字絞りによる光芒はボケ量の大きさに収まるのでクロスフィルターよりも使いやすいです。
3号135mmF5.6(ニコンZマウント)
ミラーレス一眼は像面フラットナーの凹レンズが一眼レフよりも結像位置の近くに置けます。そこでニコンZ5用に作ったのが3号の135mmF5.6。使用したクローズアップレンズはケンコーのACタイプのNo.3とNo.5、そしてシングルメニスカスのNo.2に、像面フラットナーとしての凹レンズ。フォーカシングはケンコーのニコンFマウントのマクロテレプラスのレンズ部分を取り外して直進ヘリコイドとして利用。これをニコンZ用のマウントアダプターを介してZ5に装着。このマウントアダプターの中に凹
レンズを固定。絞りを前方に置きながらボケが均等になるよう
にしたことからレンズの内部でフレアカッターの設置
に制約があり、十分な反射防止ができないこ
とから引き出し式のレンズフードを設けま
した。このレンズフードを引き出すと、そ
の被写体側の視野絞りにより、高い遮光効
果が得られます。
装着してい
る絞りがF5.6で、
右はF8の絞りと十文字絞り。
拡大画像
パソコンによる画像処理で若干シャープさを加えていますが、ホンワカしたボケが何とも心地良いです。開放解像力を最優先して作られる市販のレンズでは味わえない、まさに手作りレンズならではの、きれいなボケ描写です。
十文字絞りによる光芒から光を感じる写真になり、そしてシャープさも素晴らしいです。ソフトフォーカス描写ではシャープさが最大になるところはコントラストが低いのでマニュアルのフォーカシングが難しいです。そこでMFアシストで拡大してフォーカスを合わせます。
かなりトリミングをしていますが、手作りレンズでこのような写真が撮影できるのですから痛快です。
拡大画像
パソコンで幾分シャープさ加工をしていますが、滲むボケとの対比にもメリハリがあり、きれいです。
像面湾曲がなくなったことから周辺までシャープで、さらに後方微〜小ボケの滲みがまさにレンズの味です。