ボケ描写を楽しむ手作りレンズの工作を手助けする小型フォーカシングベローズの提案
ボケ描写を楽しむ手作りレンズの工作を手助けする小型フォーカシングベローズの提案
レンズを手作りするとき、壁になるのがフォーカシングのための繰り出し機構をどうするかです。そこで工作用の直進ヘリコイドがミラーレス一眼用として一部に市販品もありますが、ケンコーのマクロテレプラスのレンズを外すと、繰り出し量17mmの動きも非常に滑らかな直進ヘリコイドとして利用できます。左の写真はニコンF用のマクロテレプラスの基準状態と、ヤシカコンタックス用の繰り出し量を最大にしたところです。
ミノルタ用マクロテレプラスのレンズを取り外し、ステップアップリングを接着し、そこにクローズアップレンズNo.10を前後逆向きに取り付けます。その前方にボール紙で作った筒をかぶせ、約40mm前方に絞りを設けます。十文字絞りに交換すると十字ボケが全画面でほぼ均等に現れます。下の2カットがα6500に装着して撮影した画像です。
マクロテレプラスをミノルタ→ソニーEマウントのアダプターに装着します。繰り出しリングには滑り止めウレタンを巻いて操作感をソフトタッチにしています。
_____________________________________________________馬場信幸
像面湾曲の影響を減らすためにAPS-Cで撮影し、画像加工アプリPhotoScape XとPhotoshop Elementsで色収差の修正とシャープさを加工した画像です。色収差が若干残ってはいますが、滲みを伴った背景のボケが特徴です。
球面収差はフォーカスの合ったところで光を拡散させるために画像のコントラストを低下させますが、その代わりに後ボケを柔らかくしてくれます。従って鮮鋭さを求める写真において球面収差は害ですが、被写体によっては心地良い味を醸し出してくれる善玉収差でもあります。
手作りレンズのフォーカシング用として作ってみた小型のベローズ。要の摺動部分は厚さ16mmのABS樹脂をフライスで加工したフリクションドライブ方式。レールはホームセンターで購入した幅20mm
厚さ3mmのアルミ角棒。前後のボードはこれもホームセンターで購入した厚さ3mmの軽いアガチス材。円い穴もNTサークルカッターで両面からであれば切り抜くことができ、それぞれ2枚を木工ボンドで接着すると強度も出ます。前板には52→55のステップアップリングを接着し、そこにクローズアップレンズの内面反射を遮光するフレアカッターを黒い紙で作り、接着します。
前後方向の摺動部分は、アルミのレールに対してそこに食い込むような急なテーパを付けた溝を直径6mmの真鍮丸棒に旋盤加工します。そして回転軸に力を加えると溝とレールとの摩擦(フリクション)によって無段階に軸は前後に動きます。
フリクションドライブの構造
蛇腹は黒い上質紙に定規で12mm間隔の平行線と45度の線をボールペンで筋を付け、折り紙のように折っていきます。一周し、形が整うように糊付けしますが、その最中に糊が固着しないよう手際よくやるか、糊を薄めて使います。
今回のベローズはお気に入りのボディ、ルミックスS5用にしたいのですが、工作に適切なマウントがいまだ市販されていないのでボディキャップを利用しました。また縦位置撮影時でもフォーカシングツマミが同じ位置にくるようにレボルビング機能を持たせます。そこには使わなくなったPLフィルターの回転枠を利用しました。そしてボディキャップ周囲のギザギザを利用し、これに対してレボルビングのロックができるような構造にしました。
ルミックスS5に組み合わせたベローズ式の手作りレンズで、フォーカシングツマミにはキヤノンEFレンズのリア
キャップを利用しました。その摺動部の上に見
えるネジは、フリクションドライブの押す
力の調節用です。フォーカシングの操作
感は手作りとは思えない滑らかさです。
白い部分がレボルビングのロックで、ボディに対してベローズを自由に回転させてロックできます。そして縦位置撮影ではボディグリップを上下どちらのホールディングにしてもフォーカシングツマミは同じ位置にきます。
LUMIXのロゴは見た目も発音も好きではないので隠してしまいました…
手作り135mmF5.6で撮影し、色収差をパソコンで修正し、若干シャープさ加工をした画像です。フォーカスを合わせたところからの後方微〜小ボケがきれいに滲み、後ボケも柔らかいです。フォーカスを合わせたところの鮮鋭さを求めなければ、このような味のある極上のボケ描写が楽しめます。
2枚のシングルメニスカスを対称型にすることで色収差を若干減らすことができ、その上でパソコンで色収差を修正することで、このようにほとんど色付きのない写真に仕上げることができます。そして通常の写真レンズでは、画面の周辺においてまで、このような柔らかい後方の小ボケはあり得ません。
後方微ボケが滲み、そこから柔らかくぼけていく小ボケの様子がよくわかる画像です。自然な球面収差によるもので、解像力を第一に作られる通常の写真レンズでは味わえない心地良さがあります。
アブチロンを撮影したものです。パソコンによる画像処理が必要ですが、1枚1000円から2000円のクローズアップレンズ2枚でこのようなボケ描写のきれいな写真が撮影できるのですから痛快です。
市販の写真用レンズでは不可能な、気持ちのいいボケ描写の写真が安価なクローズアップレンズで撮影できる手作りレンズ。誰でもこのような遊びが可能になるよう、その手助けとなるフォーカシングベローズの製品化が望まれます。
右は単玉のクローズアップレンズNo.5を2枚、9cmほどの距離で向き合わせた対称型にし、その中間に直径18mmの穴を開けた絞りを置いた手作りレンズです。焦点距離は約135mm、明るさはF5.6で、ベローズ側のステップアップリングのネジに取り付けます。重さはベローズが150g、レンズが140gで計290gと軽量です。
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