口径食が少なくボケ描写もいい超良心的ポートレートレンズ トキナーatx-m85mmF1.8FE
口径食が少なくボケ描写もいい超良心的ポートレートレンズ トキナーatx-m85mmF1.8FE
F1.4のレンズをF1.8に絞ったような、とても贅沢なレンズ構成です。通常の85mmF1.8の入射瞳径は85÷1.8で前玉径は最低47mmあればいいのですが、このトキナー85mmの前玉径は64mmもあり、これはF1.4の入射瞳径61mmよりもさらに大きいのです。この大きな前玉によって口径食が少なくなり、開放時のボケの均等性が高まります。また口径食が少ないということは画面周辺に行く光線が多くなる、すなわち収差が多くなるのでそれだけ解像力の確保も難しくなります。このようなハンディがありながらも手頃な価格で見事な開放画質を実現しており、ボケ描写に対してはもちろん、総合的な光学性能においてとても良心的なレンズです。
見た目に大きな前玉、そして手に持ったときの重量感からもF1.4という印象を受けますが、実はF1.8というところにこの85mmの写真レンズとしての良心が現れています。現在はソニーEマウント用のみですが、スッキリした外観デザイン、無音のAF、MF時の滑らかなフォーカスリングなど使い心地もいいです。レンズ側にAF/MF切り替えスイッチはありませんが、MF撮影は撮影モードダイヤルのユーザーポジションに登録しておけば解決します。
_____________________________________________________馬場信幸
ボケ味チェック点光源で、オレンジ色の中ボケで口径食がわかります。青い後方微〜小ボケは、画面中央では開放時に二線ボケがありますがF2.2に絞るとほぼ消え、明るい芯が少しですがレンズの味になります。周辺の微〜小ボケはとても素直なのでこれもボケ描写においては美点です。
点光源ともいえる小さな葉の反射が背景でぼけたところで、画面下は近いのでボケ量が小さく、画面上ほど遠いのでボケ量が大きくなっています。開放ながら口径食が少ないことからボケの均等性が高く、ここにこのレンズのボケ描写へのこだわりが現れています。
開放時の口径食を他社製の85mmF1.8と比較したもので、トキナー85mmの口径食の少なさがよくわかります。
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フォーカスを合わせた、まつ毛や髪の毛は克明なシャープさで、すぐ後ろの微ボケは目障りになるような二線ボケは非常に少なく、解像感とボケ描写が両立しています。
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モデル/相沢奈緒(SPLASH)
風で乱れてはいますが逆光で輝く髪の毛の後方微ボケがきれいに滲んでいます。ぼける量が非常に小さい微ボケ領域では、ボケの質との関係はとても複雑ですが、この滲みはレンズの味として素晴らしいです。
下の拡大画像をご覧ください。
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CAPA5月号の33ページに掲載した写真で、開放時の後ボケチェックのひとつとして撮影した画像です。点光源以外は柔らかくぼけているのは当然ですが、ボケ味チェック点光源の結果と同様に画面周辺の明るい木の枝なども比較的素直にぼけており、開放のボケ描写としては良好です。
上の写真の顔の部分を拡大したもので、髪の毛を解像しており見事なシャープさです。CAPAにも書きましたが、2400万画素あれば、横位置で撮影した画像を縦位置の全身写真としてA3ノビにも十分なシャープさでプリントできるのです。
開放F1.8の撮影で、点光源のボケから口径食の少なさがよくわかります。白い枠はデジタルズームを1.2倍にした時の撮影範囲で約100ミリ相当の画角になります。すなわち100ミリ相当であれば開放からほぼ口径食のない理想的なボケ描写が得られるわけで、ここにもこの85mmレンズの口径食の少なさが大きな魅力になってきます。
街灯やイルミネーションを後ボケにしたもので、口径食は画面の隅のほうではっきりしますが これも開放です。この撮影場所では人物にはほとんど光が当たっていないのでニッシンi40フラッシュにケンコー影とりを使っています。また影とりを使っているのでAF補助光が使えませんが、ソニーのAF補助光は人物が暗くても背景が明るいと所詮は発光しません‥‥。(ではこの写真のAFはどのようにして合わせたのでしょうか。いつかネタを明かします)
絞りをF2.2に絞ったので背景の点光源によるボケの均等性がさらに高まり、ニ線ボケもないことからボケがとてもよく整った写真になります。そしてボケ描写がいいとフォーカスを合わせた人物が背景から自然に浮き上がってきます。これもボケ描写のいいレンズによる効果です。
大口径レンズにおける開放時の口径食は、画面周辺に進む光線を絞っていることになり、これが結果として周辺の解像力を助けているのです。レンズのF値は光軸上の数字で画面周辺でいくら暗くなろうと関係ありません。そこで一般のレンズ評価は口径食によってボケの均等性が悪くなることよりも解像力の高さの方を評価するために、多くのレンズはそこに口径食を利用しているのです。口径食よりも解像力、という考え方が強いからです。しかし、このトキナー85mmは手頃な価格ながら口径食を少なく、なおかつ解像力をも確保しており、ボケ描写においても極めて良心的なレンズです。