シャープさと理想的なボケ描写を両立させたソニーFE100mmF2.8 STF GM
シャープさと理想的なボケ描写を両立させたソニーFE100mmF2.8 STF GM
理想的な柔らかいボケ描写を実現するために作られたSTFレンズの初代は、ミノルタが1998年に発売した135ミリ。光学式位相差AFが対応できないことからMFですが、当時のミノルタのボケ描写へのこだわりが生んだ唯一無二のレンズです。ミノルタのαを引き継いだソニーもその生産を続け、そしてEマウントで新たに登場した100ミリSTFは、ミラーレスのAFに対応し、光学設計も最高画質のGMグレード。その驚くべき描写を紹介します。
ソニー135mmF2.8[T4.5]STF
ソニー100mmF2.8 STF GM
点光源のボケで、レンズの実際の明るさがAPD光学素子によってF4.5あるいはF5.6相当になることから実効F値が「T値」として表示されます。100mmのT値が5.6と135mmのT4.5よりやや暗いことから、ボケはさらに少し柔らかくなります。
STF(Smooth Trans Focus)レンズは全画面で均等なボケ描写にするために口径食はなく、その絞りの位置にボケを強制的に柔らかくするAPD(アポダイゼーション)光学素子を配置。レンズのボケ描写が如実に現れる点光源のボケには、そのAPD光学素子の濃度分布がそのまま現れます。なおSTFとは、3次元の被写体を2次元の平面画像に滑らかに置き換えると解釈すると、その意味が分かりやすいです。
_____________________________________________________馬場信幸
CAPAに掲載しているボケ味チェック点光源で、前ボケ・後ボケ共に柔らかく、さらに口径食もないことから画面の隅までボケの形が均等です。ただ周辺の微〜小ボケではAPD光学素子の厚みによるものと思われる内側の欠けが、わずかにあります。
焦点距離の差とフォーカシング方式の違いから中ボケの大きさが小さくなっていますが、ボケは同様に柔らかく、口径食もありません。さらに微〜小ボケも完璧な形にぼけています。
CAPA付録のチャートを画面の左隅で撮影したもので、通常の写真レンズの絞り開放ではボケが汚く崩れてしまいますが、STFレンズはそれを柔らかくぼかしています。ただ135mmの隅では、ボケ味チェック点光源の微〜小ボケにも見られるように、はわずかに内側が欠けています。
100mmSTFは、隅まで完璧な柔らかさでぼけています。なおボケたチャートにはほとんど見られませんが、フォーカスを合わせた0の前後の縦縞にわずかに見られる赤紫や緑の色付きは残存色収差です。19年前の135mmSTFがほぼ同程度というところに、その光学設計の高さが感じられます。
100mmSTFの絞り開放の画像で、白枠部分を拡大したところから、その見事なシャープさが分かりますが、これが全画面にわたっており、まさにGMです。また100mmSTFには手ブレ補正が内蔵されており、すべてのEマウントカメラに有効でフルサイズ機では1/10秒の手持ち撮影が可能です。
拡大画像
このボケ味チェック点光源は、青味を帯びているのが撮影倍率1/20における微〜小ボケで、上側が後方のボケです。その後方2倍の距離にある豆電球をぼかしたのがオレンジ色の中ボケで、ボケの質や口径食がわかります。なお微〜小ボケにおける中央から2、3個後ろのボケは、バストショットのポートレートで目にフォーカスを合わせた場合、イヤリングなどアクセサリーのボケ量に相当します。
100mmF2.8のマクロレンズと100mmSTFの比較で、画面左下はLED点光源による前ボケです。マクロレンズはF4に絞ることで口径食を解消し、前後のボケは共に素直です。対してSTFレンズの前後共に柔らかいボケは、写真におけるボケの重要性を改めて示していると言えます。
モデル/今井えり(シャノワール)
上がF3.5に絞った100mmF2.8のマクロレンズで、下が100mmSTFです。ほとんどのメーカーのカタログには「円形絞りで美しいボケ味を再現」と書かれていますが、それが上の画像です。でも本当に美しいボケ味とは、下のSTFレンズのボケ描写ではないでしょうか。円形絞りは点光源のボケが単に円くなるだけです。それを美しいボケ味と言っているところに、メーカーのボケ描写に対する認識の低さが表れています。
柔らかいボケ描写は写真の品位を高め、そして写真撮影を、さらに楽しいものにしてくれます。レンズに求められる解像力は、その写真の鑑賞条件によって変わり、左の写真のようにハガキくらいの大きさでは、さほどの解像力は要りません。しかしレンズのボケ描写の善し悪しは、このサイズでも十分に分かります。すなわち、写真の鑑賞条件によって変わる解像力に対し、レンズのボケ描写はすべての鑑賞条件でその善し悪しが分かります。ということからレンズのボケ描写は解像力よりも大切な性能と言えます。一般に、写真レンズの解像力とボケ描写は相反する要素で、両立は極めて困難です。しかしソニーのSTFレンズは、完璧なAPD方式にすることで解像力とボケ描写を極めて高いところで両立させており、このボケ描写で右に出るレンズは、他にはありません。
カメラのデジタルズームを2倍にすると200mm相当の画角になります。何気ない温室の花も、背景がとても柔らかくぼけることから見事に浮き上がってきます。またデジタルズームで画角を狭くし、その分、撮影距離を遠くすれば、絞ることなく被写界深度を深くすることができます。STFレンズは絞ってはもったいないので、被写界深度を深くしたいとき、デジタルズームはとても有効です。
APD光学素子による柔らかいボケは、少しでも絞るとその柔らかい部分が削がれてしまうので、絞り開放で使うべきレンズです。