シャープなサムヤンレンズを好みのボケ描写に改造
シャープなサムヤンレンズを好みのボケ描写に改造
シャープさと柔らかい後ボケを両立させたフルサイズ用サムヤン24mmF1.4。ニコンマウントで購入したレンズは完璧ですが、Aマウントで購入したレンズは実用上は十分なシャープさですが、画面中央で微細な点光源を少しぼかしてみると、ボケに偏りが見られます。これは鏡胴がわずかに偏芯しているだろうということで、思い切っていじってみることにしました。カメラオープナーで後玉を少し緩め、点光源をぼかしてみる。すると偏芯の方向も回転したので、この後玉の部分を調整すればいい。そこでさらに回して点光源のボケを見ると、後ボケの味が増す。これはシメシメということで外れるまで回してみると絞り羽根が現れました。
サムヤン50mmF1.2 サムヤン24mmF1.4
レンズ後群を外したところ、絞り羽根が。そこで外したレンズ後郡のネジ止まりのところに縫い糸を2周巻き付け瞬間接着剤を微量染み込ませて固定。接着剤が十分乾燥してからレンズ後群をねじ込んでいき、点光源のボケが同芯になり、後方微ボケの味が程よくなるところで固定しました。
カメラオープナー(ジャパンホビーツールにて3,402円)でレンズ後群を反時計方向に緩めます。
_____________________________________________________馬場信幸
このレンズ後群を規定の位置より若干後ろにすることで、点光源に対する後方の微〜小ボケの味が増しました。
当初、画面中央で点光源を少しぼかすと「調整前」のようにボケには偏りが見られます。「調整後」はボケの偏芯もなくなり、後ボケの滲み、すなわち「レンズの味」が増しました。半面、合焦位置では球面収差によるハロが増えたことで幾分ソフトフォーカス描写のようになります。絞りをF2に絞ると滲みの部分はカットされ、味も少し残るだけになります。なお後ボケが柔らかい分、前ボケがクッキリとした二線ボケになっています。
このようにして「レンズの味」を増やしたサムヤン24mmF1.4ですが、レンズ後群を規定の位置より変えているために本来の結像性能ではありません。フルサイズでは画面周辺ほど幾分シャープさが低下します。そこでマイクロフォーサーズで使えば全画面ほぼ均等なシャープさながら、味のある、とても心地良い後ボケになります。それが以下4点の写真です。
サムヤンのAPS−C用の新製品50mmF1.2は、開放から見事なシャープさです。ところが下の拡大写真のように、ネックレスやブローチのぼけ方がザワザワしているのが気になりました。これも偏芯だろうということで、24mmと同じように、いじってみることにしました。
レンズ後群を外そうにもカメラオープナーの爪がかかる切り欠きがありません。そこでマウントを取り外し、レンズ後群をウォーターポンププライヤーで緩めてみたら、回りました。さらに少し回したところで点光源をぼかしてみると、24mmとは逆に後ボケが二線ボケに。ということは、後ボケを柔らかくするには、レンズ後群を規定の位置より前方にしなければなりません。とりあえずレンズ後群をクルクル回して外してみると、絞り羽根が。そこで外した後群のネジ止まりを卓上旋盤で削ることにしました。でも、このままでは旋盤で加工できないのでレンズを外したいのですが、枠がネジロックで固まっています。そこでラッカーシンナーを垂らしてしばらくすると外せました。
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写真の金属の地金の見えているところが削った部分で、そのネジ止まりに縫い糸を巻き、24mmと同じように固定。そしてレンズ後群をねじ込んでいき、適度に重くなり、かつ点光源の後ボケが良くなったところで固定しました。
このレンズ後群を規定の位置より若干前方にすることで、点光源に対する後方の小ボケが少し柔らかくなりました。
改造により、フォーカスを合わせたところのシャープさはそのままに、点光源の後ボケの偏りは多少良くなり、ボケもいくらか柔らかくなりました。ただ、後ボケの中心に小さな斑点が残ります。これは絞っても消えないので、原因は非球面レンズということになります。点光源以外では問題ありませんが、小さな点光源の後ボケに対しては、残念ながら斑点が出てしまいます。
最後部のレンズで、反射光の状況から非球面であることが伺えます。
非球面レンズ
改造後に撮影した画像で、フォーカスを合わせたところは非常にシャープで、点光源以外の後ボケもいいです。ただ点光源の後ボケには非球面レンズの個体誤差と思われる斑点が残ります。
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サムヤン50mmF1.2のレンズ構成図
サムヤン24mmF1.4のレンズ構成図
モデル/華室あや(シャノワール)
モデル/かりな
今回の2本のレンズでは、その後群を規定の位置よりも若干、後ろあるいは前にずらすことで収差の補正状況が変わり、後方の微〜小ボケに味を出したり柔らかくすることができました。一般にボケを柔らかくするとシャープさが低下してしまうという傾向があります。したがってメーカーにおいては後ボケの柔らかいレンズを作りたくてもシャープさを犠牲にすることはできません。とにかくシャープでないとレンズのテストで評価が下がってしまうからです。最近のようにデジタル一眼の高画素化によって、さらなる高解像のレンズが望まれるようになり、その分「柔らかい後ボケ」が犠牲になっています。そこでレンズの一部を移動させることで「シャープさ優先」と「後ボケ優先」に切り替えができるようにすれば、レンズテストで評価を得ながら、柔らかいボケ描写も楽しむことができます。このようなレンズの登場を願っています。
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フォーカスを合わせたところには球面収差によるハロが少し加わったことでコントラストが下がり、やや後方のネックレスや髪の毛が心地良く滲み、弱いソフトフォーカス描写になります。これが上に示した点光源による合焦位置と後ボケの描写に合致します。また背景のボケも、とても柔らかいです。
モデル/宮内ひかる
(セントラルジャパン)
絞り開放による夜景のシチュエーションで、背景の点光源や線光源によるボケが理想的とも言える柔らかさです。
F2に絞ると上記点光源でF2に絞ったところのようにハロがカットされた分、フォーカスを合わせたところのコントラストが向上し、背景の点光源のボケも柔らかさが減少し、素直なボケになります。
開放で、ニーショットへと撮影倍率を下げたことで背景のボケ量が小さくなり、相対的に滲みが増したことで背景のボケにはまさに「レンズの味」があります。レンズの味は、微〜小ボケ領域に現れますので、遠景に対して味を出したいとき、ボケ量が小さいマイクロフォーサーズが有利です。