驚異の低価格ながらボケ描写には味もあるカムラン50mmF1.1 Ⅱ
驚異の低価格ながらボケ描写には味もあるカムラン50mmF1.1 Ⅱ
馬場ロア愛知撮影会のときに常連の参加者から教えてもらったKamlan50mmF1.1 Ⅱ。台湾の企業が中国の深圳で作っている大口径のAPS−C用マニュアルフォーカスレンズで、作りも良く、価格は3万円以下とのことで、これにはびっくり。そこで日本における総代理店サイトロン・ジャパンからソニーEマウント用をネットで購入。価格は税込みで2万8250円でした。
絞りはクリックのない不等間隔の古典的な方式ですが動きは滑らかです。ところがF2.8の表示位置がおかしいので入射瞳径を測ってみるとF値としては2.2。やはり表示位置はミスで、写真のあたりがF2.8になります。
後玉は固定されており、マウント内径に対してかなり大きく、これが周辺光量や口径食においてプラスに働いています。金属マウントもきれいで、しっかりした作りです。
上の写真の絞りリング位置における絞りの形で、11枚羽根なのでどのF値でもほぼ円に近い形になります。ソニーFE55mmF1.8ZAの焦点距離を正しいとすると両レンズの画像の被写体の比較から本レンズの焦点距離は約53mmとなり、であれば開放F値はややF1.2に近づきますが、他のF値はほぼ正しい値になります。
全体に端正な形でフォーカスリングの動きはとても滑らかです。そのローレット幅は10mmですが、これが15mmもあれば、さらに操作感は良くなるのですが。最近接撮影距離は40センチで撮影倍率は1/7ですから一般的なポートレートレンズよりは寄れます。前玉径は50mmもあり、フィルター径は62mmです。
シンプルなレンズ構成ですが結像性能は以下の画像のように、なかなかのものです。後玉の前のレンズの径が大きい意味はわかりません。
マウントはキヤノンM、ソニーE、フジX、そしてマイクロフォーサーズ。写真はソニーα6500に装着したところで重さが1キロ少しと、堂々たる重量感です。レンズフードはネジ込み式ですがフィルターネジではなくレンズ前枠の外側に別に設けられたネジに取り付けます。外して逆にかぶせて取り付けることもできます。
_____________________________________________________馬場信幸
絞り開放で約2メートルの距離で網戸を垂直に撮影し、その中心部と4隅を拡大したものです。隅ではコントラストが低くはなっているものの、シンプルなレンズ構成の大口径ながら、実用上はかなり解像していることになります。
左の画面内の位置におけるボケ味チェックチャートを開放、F1.4、F2の各F値について撮影して拡大。チャートの右側が中間画角、左側が周辺に相当します。いずれもボケに色付きがありますが、中間画角では後ボケがきれいに滲んでいて「レンズの味」があり、その分、前ボケがざわついています。また周辺でも味になる部分のボケの崩れは比較的少なく、F2に絞ると色収差も減少し、ボケ全体が味を少し残しながら、落ち着いてきます。
画角が75mm相当の大口径レンズですからポートレートに最適で、となるとこのレンズのボケ描写に対する興味が高まります。上記のチャートによる結果を実写で確認したのがこの画像で開放です。拡大画像では、フォーカスを合わせたレースと手前側の目を繊細に解像しており、後方微〜小ボケになったネックレスは残存色収差による色付きが惜しいですが滲むようにぼけています。また背景の画面周辺に点光源がないこともありますが、後ボケも柔らかく、シャープさとボケ描写の両立は驚異的な低価格からすれば、見事です。
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75ミリ相当のAPS−Cでありながら全身を撮影しても背景は結構ぼけます。そして水面に反射しているコントラストの高いところも画面の中央ということもあり目障りなボケになっておらず、幾分滲みを感じさせるところもあります。さらに周辺でも口径食が少なく、これくらいのボケ量になるとボケも整っており、またこのような被写体であれば色収差もあまり気になりません。
画材屋さんをウインドー越しにスナップ。画面左上の点光源のボケから口径食の少なさが分かります。ただこの写真ではあまり現れてはいませんが、微細な点光源ではボケの周辺に光りが集まる二線ボケの傾向があり、さらにボケの形もハマグリのようになります。F2に絞るとハマグリ状の二線ボケも収まってきます。
パソコンで色調をいじっていますがディストーションもなく、フォーカスを合わせたところはキチッと解像しています。そして背景のボケも強烈な点光源がないこともあり、柔らかいです。フォーカシングはマニュアルですが、MFアシストによって確実です。
こもかぶりにフォーカスを合わせているので画面上部の看板やのれんは、やや後ボケになっています。電球の奥に見えるのはゴーストではなく、ガラスへの映り込みですが、非常に輝度の高い街灯などではその周囲にはフレアが生じます。
このレンズは開放から繊細ともいえる高い解像感を発揮していますが、色収差に対する配慮は不十分でコントラストの強い部分のボケには色が付きます。また内面反射もあり、コーティングもイマイチです。しかしフォーカスを合わせた後方の微〜小ボケを滲ませるという最新の発想によって画面の中間画角あたりまではレンズの味があり、口径食も少ないなど、ボケ描写はなかなか好印象です。しかも価格が税込みで2万8000円と少々。この価格でこれだけのレンズを作ってしまう東アジアのメーカー。次には低分散ガラスを使って色収差を改善し、日本製の蒸着装置を使ってコーティングも良くし、内面反射も対処すれば、描写においては日本製のレンズと変わることなく、それを圧倒的な低価格で実現するでしょう。ボケ描写よりも開放時の超高解像力に傾注し過ぎている多くの日本製レンズに将来はあるのでしょうか。
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モデル/安井亜美(シャノワール)