【あいすうぉーず】Work by ANITA

その日、コロナの街は記録的な猛暑に見舞われていました。 急激に増えた仲間達の為に殆ど全財産を使い果たしている 鉄仮面吟遊詩人も少ない財産の中からアイスを買おうと 金貨を一枚握り締め、アイス屋を目指していました。 じりじりと焼け付くような日差しの中をぽてぽてと 歩いていると不意に背中を叩かれました。 「よっ、ラクリマじゃねぇか。こんな暑い日に  外にいるなんて珍しいな」 「暑苦しい誰かさんが一緒じゃないから堪えられたんだろ?」 ラクリマが振りかえるとそこには「コロナの赤青漫才コンビ」が 立っていました。 「…アイス」 暑くてあまり口を利きたくないラクリマはぼそりと呟きます。 「アイス、買いに行くのか?」 「へぇ、奇遇だな。俺達もなんだ。なんなら一緒にいかないか?」 どうやら二人もアイスを買いに行くところだったようです。 断る理由もないのでラクリマはこくりと頷きました。 そして3人は再びぽてぽて歩いてやっとアイス屋に辿りつきました。 「オヤジ、アイスキャンデーくれ」 「俺も」 「…私も」 屋台から日焼けした男があついねぇなどと言いながら 愛想よく3人にアイスキャンデーを差し出します。 その時です。 「オラ〜!どけどけ〜!!」 馬に乗った5人ほどのならず者が屋台目掛けて走ってきました。 間一髪、アルターが二人を抱えて彼らを避けます。 しかし。 がしゃーんっ ラクリマはまだアイスキャンデーを受け取っていなかったのに 屋台は大破してしまいました。色とりどりのアイスキャンデーは 地面に転がると共にあっという間に溶けてしまいます。 「…あ…」 「俺のアイス〜」 アルターに抱えられながらラクリマは呆然とアイスキャンデーの 末路を見ていました。一口しか食べられなかったマーロも 泣きそうになりながら眺めています。 只一人、食べきってしまったアルターが二人を慰めようと 見下ろしました。が、ラクリマを見てアルターの言葉は 止ってしまいました。彼女は笑っていました。いえ、それは 笑顔とは言いがたいものなのかもしれません。何故なら彼女は 片方の唇の端だけを吊り上げる「悪人笑い」を浮かべていたからです。 おまけに彼女の体の周りだけ蜃気楼のように時空が歪んで見えます。 始めて見る笑顔がこんなだなんて嫌すぎるとアルターは思いました。 「全く、あいつらにも困ったもんだ。すまないね、  お金は返すからさ」 「いらない」 ラクリマはもはや棒だけになってしまったアイスキャンデーを 睨みながら呟きます。 やべぇ、マジで怒ってるぞ、コイツ。 アルターはアイスを食べていた時よりも涼しくなっている 自分の身体を感じました。そしてそれはマーロも同じようです。 いまや彼の顔色は服とお揃いの爽やかな空色に染まっていました。 「そのかわりこのアイスの棒をくれ」 「へ?あ、ああ、いいけど…棒だけじゃ涼しくならんだろ?」 「いいんだ。じゃあ、もらってく」 呆気に取られる男にそう告げるとラクリマは棒を10本ほど 引っ掴むとならず者達の去った方へ歩き出しました。 慌ててアルターとマーロも後を追います。 このままラクリマを野放しにしておくと大変な事になる。 口には出しませんが二人ともそう直感していたのでした。 ならず者達はコロナの町外れの湖で水浴びをしていました。 「よー、姉ちゃん。水浴びかい?なんなら俺達と遊ぶか?」 「ばーか、違ぇよ。水浴びするんだったら野郎を二人も  連れてる訳がねェだろ!」 「けけけっ、野暮だったか」 ラクリマが近づくと次々と口汚くからかってきました。 むっとしたアルターとマーロが何か言い返そうとした時。 「……♪」 ぼそっと呟くようにラクリマが呪歌を口ずさみました。 きしゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ。 ぎゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ。 ラクリマの背後から現れた火の鳥に焼かれるならず者達。 「ええーーッ!?」 「って、いきなりかいッ!!」 賊相手とはいえあまりと言えばあまりなラクリマの行動に アルターとマーロは同時にツッコミます。 「私のアイスを無駄にした連中がどうなろうが知ったことか」 対するラクリマは相変わらずの鉄仮面でしれっと言います。 アルターは恐る恐るラクリマの顔を覗きこみました。 既に目の色が違います。本気で連中を殺る気満々です。 今の彼女にこのゲームの売りの「ほのぼの」は一体何処に あるのでしょう。 「わ、悪かった!もう街を荒らしたりしない!」 「誓うから、許してくれ!」 彼女が本気で自分達を殺す気でいるのに気付いたならず者達が 懸命に命乞いをします。しかし。 「五月蝿い、死ね」 「お、お前に慈悲の心はないのかーッ!?」 「安心しろ、墓ぐらい建ててやる。このアイスの棒でな!」 そう言って棒を握ったまま突き出すラクリマ。 棒には何時の間に彫ったのか「役立たずここに眠る 其の壱」 「役立たずここに眠る 其の弐」(以下其の拾まで続く) などと彫られています。 どうやら器用さのレベルも着々と上がっていたようです。 もはや止める事は不可能だと思ったマーロは男達の為に 神に祈ってあげようとしました。その時です、アルターが 不意に叫びました。 「わかった!俺がパフェ奢ってやる!だからよせ!」 そうじゃないだろ!とマーロはツッコミを入れようとしました。 そんな事で今のラクリマが止められる筈がありません。 ですが、ラクリマはぴたり、と動きを止めました。 そしてアルターをじーっと見上げます。 「ああ、本当だ。だから許してやれ。な?」 アルターが言い聞かせるとラクリマはこくりと頷きました。 ならず者達は一斉に肩の力が抜けてしまいました。 そこへ、 「ここに居ましたか。市場を荒すならず者と言うのは  貴方がたですね」 コロナ一の人格者と噂の高いデューイが部下の騎士達をつれて やってきました。ならず者達は慌てて逃げようとしましたが 先ほどのラクリマの呪歌によって彼らの服は消炭と化していたのです。 哀れならず者達は殆ど裸のまま騎士団にお縄になってしまったのでした。 そしてその日の夕方 「あははは、そりゃ災難だったな。  ほら、オレンジパフェお待ちどうさん」 アルターから事の一部始終を聞いたマスターが笑いながら カウンターのラクリマにパフェを差し出します。 「笑い事じゃねぇよマスター。下手すりゃこっちが  捕まってたんだぜ」 こぼすアルターの隣でラクリマは黙々とクリームを口に運んでいます。 「ま、そう言う事なら俺が奢ってやるよ。二人ともゆっくりしていきな。」 そういうとマスターは酒蔵の方に行ってしまいました。 アルターはひじをついてラクリマが食べている所を眺めていました。 (こうしてりゃあ、可愛いんだけどなぁ…) そうあの鉄仮面と常軌を逸した行動さえなければ。 ラクリマは一心にパフェを食べていましたがアルターが見ているのに 気が付くと顔を上げました。そして。 「……!!?」 アルターは自分の目を疑いました。ほんの一瞬でしたがラクリマが アルターを見てにっこりと笑った気がしたのです。 呆然とするアルターをよそに、ラクリマはまたスプーンを口に運んでいます。 その日から、アルターはなんだかラクリマから目が離せなくなってしまったのでした。

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