慰め  Work by Anita

その日、アルターは落ち込んでいました。
コロナの街のアイドルと呼ばれる女性にアタックして
見事玉砕を遂げたのです。しかも、あろうことかその場面を
リュッタとミーユにばっちり見られてしまったのです。

「いい歌が出来そうですよ」

アルターはにっこり笑って去るミーユの顔を思い出し
お酒を煽りました。今頃はミーユの新作があらゆる意味で
話題を呼んでいるに違いありません。

「なぁアルター、いい加減にしないと流石に体に悪いぜ」
「うるへー!」

マスターの忠告にテーブルに並んだ酒瓶の隙間から顔を
覗かせて呂律の回っていない口調で悪態をつきます。
マスターが苦笑しているとカウンターの脇の階段から
元蛙という物凄い経歴を持つ冒険者が竪琴を片手に
降りてきました。鉄仮面吟遊詩人ことラクリマです。

「ああラクリマ、良い所に来てくれた。アルターの奴を
 何とかしてくれよ。他の客が来る前に酒蔵が空になっちまう」

そう言ってマスターは親指でテーブルに突っ伏している
アルターを指差しました。ラクリマは無表情のままちらりと
アルターを見ます。梃子でも動かないような様子です。

「なぁ頼むよ。報酬は1500払うし、今日の仕事はいいからさ」
「ふむ…」

マスターの本当に困り果てた様子にラクリマは手を顎に
当てて考え込みました。しばらくしてラクリマはカウンターに
自分の竪琴を置きました。そしてつかつかとアルターに
歩みよるとゆさゆさと肩を揺さぶります。

「アルター、起きろ」
「うるへーつってんらろ、幾らお前の頼みれも今日は
 しられーぞぉ。まー、慰めのキスれもしてくれるんなら
 別らけろ…なぁ!??」

アルターのその台詞が終るか終らないかの時でした。
ラクリマがいきなりアルターの前髪を引っ掴むとぐい、と
顔を上げさせます。そして。

ぶっちゅうううううううううううううううううううううう。

マスターや他の客が呆然とする中、いきなりラクリマは
アルターの唇を奪ってしまいました。
当の本人も呆然としています。
暫くしてラクリマが唇をはなすとアルターは真っ赤になって
捲し立てました。

「お、お、お前なッ!!女の子がい、いきなり…!!」

恥ずかしさの余り、自分が言いだしっぺなのをすっかり
アルターは忘れています。ラクリマは不思議そうに
しかし、やはり無表情のまま首を傾げました。

「なんだ、まだ不満か?ああ、舌を入れていないからか」

言うなりアルターの顎に手をかけ再びフレンチキスを
かましてしまいました。
とてもほのぼのなゲームのしかも女主人公とは思えない
所業です。しかし、他の客は滅多に見れないイベントに
歓声を上げたり、口笛を吹いたりして盛り上がりました。
しかし。
1分…2分…
あまりにも長いキスに皆が不安になってざわつき始めます。
照れて暴れていたアルターの抵抗が段々弱々しくなり、
そしてついにぐったりと倒れこんでしまいました。

「む…酸欠を起こしたのか?やわな奴だ」

つーか、普通の人間は酸欠を起こすだろう、と皆は
心の中でツッコミを入れました。そんな事はつゆ知らず、
ラクリマは椅子に倒れこんだアルターを仕方ない奴だ、と
呟きつつお姫様抱っこします。さすが筋力レベル10です。
ラクリマは無表情のまま、マスターを振返り

「報酬、後で受け取りに来る」

そう言って酒場を後にしました。

翌日、アルターにとって不名誉な噂が街中にひろまって
しまっていたのは言うまでもありませんね。

あにたさんへのファンコールはこちらのアドレスへ(^^)/

戻る