■ ■ 『かえる』の絵本 ■ ■


――今、目の前にいる少女。その体は透けて、薄い光を発している。そしてその瞳には、涙。
呪いが。戻ってしまうのだ、かえるの姿へと。 青い髪の少年は立ち尽くした。

少女と出会ったのはちょうど一年前。不安げにこの部屋へ入ってきた。
その時からずいぶん君は強くなったのだと感じていた。
かえるになる呪いを、解くことが出来るのかと嘆いていた時もあったけれど、
君はしっかり前を向いて歩いていた。―それなのに。

僕はいつも君が無事に帰ってくることをただ祈ることしか出来なかった。
君がいつもの笑顔でもどってくるのを見て、安心した。それから何も出来ない自分が悔しくなった。
僕の知らない君が増えていって、寂しくなった。
でも、今日は何か、予感がしたから。これが最後になる、そんな気がしたから。
――だから僕は、人間の姿にしてもらったんだ。

少女が出て行った後を追うように、ラドゥの神殿へ向かった。
『僕を、人間にして欲しいケロ!!』
『…何?』
突然の来訪者の頼みに、ラドゥはげげんそうな顔をした。
『僕を、人間にして欲しいのケロ。呪いがかかっていたかえるを人に出来るなら、普通のかえる一匹、
 造作もないケロよね?』
『…人になってどうする?』
『大切な人を守れる体が欲しいのケロ。今の僕じゃ、どうにもならないかもしれないケロ…
 でも、せめてかばうことの出来るようになりたいのケロ!』
『危険だとしても、か?』
『わかってるケロ。それでも僕は、あの子のそばにいたいんだケロ。』
ラドゥはため息をつき、魔法をかけてくれた。人の形をとったのを見てから、ラドゥは少女の元へ
送ってくれるといった。大切な人の正体はばれていたようだ。
『思い浮かべるが良い。自分が行きたいと望む場所を。』
強く、強く。少女の元へと願った。体が浮いた気がして、おそるおそる目を開いた。
そこには見慣れた風景。少女とともに過ごした部屋だった。そして、部屋の中央に、
逢いたいと願った少女がうずくまっていた。

ゆっくりと少女へと近づいていく。もうほとんどかえるへと変化してしまっている。
―どこかで聞いたことがあった気がする。おとぎ話の中で、王子が姫の呪いを解いた方法。
ひざをついて、少女を抱くように持ち上げる。
―僕は王子でもなんでもない、ただのかえるでしかないけれど、君を守りたい、好きだって
 気持ちだけはけして誰にも負けない自信がある。…だから。だから、お願い―!
悲痛な願いを込めてそっと、小さな口に口付けた――


しかし、何も起こらない。何も変わらなかった。少女―であったかえるは瞳を大きく見開き、
こちらを見つめていた。

―やっぱり、僕じゃ駄目なのかな。ただのかえるの僕には、何も出来ないの?
ふいに涙がこぼれ落ちていく。僕が泣いたってどうしようもないのに。
ほほに、ひんやりとした感触がした。小さな手が触れている。
その感触に、ほほをすり寄せるように抱きしめた。伝っていく涙が君をぬらしてしまった。
突然目の前に光が走った。まばゆい光が君を包み込んでいく。
―どうして?
何が起こっているのかわからない。光は見る見るうちに君を隠して、その姿が見えなくなっていく。
まぶしくなっておもわず閉じた目を、うっすらと開く。

 そこには、人の姿をした君がいたー…。

少女はぼんやりとした瞳で自分の体を見つめた。少女もまた、何が起こったのかわからない様だった。
視線を上げ、こちらを見る。

―よかった。
その様子をみて、僕は胸をなでおろした。なぜこうなったのかはわからないが、呪いが解けたのだ。
そこではっと気づく。
―君には僕が誰なのかわからないのだろう。…寂しいけれど、それでも…
不意にうつむいている僕の耳に君の声がした。小さな声だったけれど、はっきりときこえた。
君の「僕」を呼ぶ声。顔を上げると、君は静かに微笑んでいた。口が動いた。『有難う。』と。
声には出さずに。
思わず、君を抱きしめた。思い切り強く。それでも君はふんわりと笑って僕を受け止めてくれた。

2人の視線が一つになって、ゆっくりと影が重なった。

――小さなかえるの起こした奇跡――

おしまい。


コメント(言い訳?):初めまして柳原ゆうと申します。
すみません反則技でまくりです。かえる?!!そして人形??!!
…ごめんなさい…。ちなみにかえる君は男主人公の格好です。青い髪。
あと、名前は出さなかったのは皆様のお好きな名前をどうぞ。ということで。
一応あるんですが、まあいいかなと。(笑)
お目汚しだったかもしれませんが、読んでくださった方、有難うございましたv


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