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>>>花
-- 05/11/05-22:23..No.[878] |
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弓をひきしぼり、矢を放つ。風を切る音が木々の間にひびく。的の中心に命中する。獣達が巣穴にこもってしまった冬の森に、その音が響く。 「うまいもんだな」 その声に振り向くと、細身の少年が立っていた。マーロ・フォンテだ。街中で見かけるときは、足首まであるローブをまとっているが、今日の彼は白い毛皮で裏打ちした灰色の上着と白いズボン、それに足元は編み上げの茶色いブーツを履いている。 「何か用」 服装のことには触れず、ラケルは背中の矢筒から矢を抜き、弦にかける。すでに的の中心には細い束になるほどの矢が刺さっていた。 「用がないと声をかけるな、ってところか」 乾いた音がして、矢が的の中心を射抜いた。 「べつに」 振り向きもせず、ラケルは答えた。的をぶら下げてある大木に歩み寄り、すべて中心を貫いている矢を一つずつ引き抜く。丁寧に抜かないと、石の矢じりがとれてしまう。 あらかた矢を引き抜いて、背中の矢筒に入れながら、ラケルは考えていた。後ろの人間に話すべきか、それとも。 「散歩の途中で寄っただけだ。邪魔したな」 「待って」 草を踏み分ける音が止んだ。ラケルは立ち上がって振り返る。マーロはただ立っていた。 「きみは、生きているものを討てる?」 ラケルは彼の明るい褐色の瞳を真っ直ぐ見据えて聞いた。シェスナ村での一件のあと、ずっと腹の底に滞っていた暗いもの。それが言葉になって外に吐き出された。 「必要なら」 それは彼にとってはできるだけラケルに配慮した答えだっただろう。マーロはすぐ後ろの巨木に自分の背中を預けた。 「後悔しているのか? リュウベンを射たこと」 「わからない」 聞き返されると、即答できるのは曖昧なことしかなかった。 「ぼくは弓矢なんか扱ってるけど、だいたいいじめられている動物を助けるために、おどかしで射るんだ。正直……当てたのは初めてだった」 「どうりで、間抜けな顔してるはずだな」 「なんだって」 「ああ。半分魂抜けた顔してるぜ。できもしないことができてしまったあとの」 「そう……だろうね」 ラケルは悲しくなってうつむいた。そんな目をしていた自覚などなかった。 「こんなこというのもどうかしてるけど、ぼくは怖いんだ。このまま、人を殺すことさえしてしまいそうで」 一気にしゃべってしまう間、マーロは黙っていた。冬の森の空気は冷えているが、ラケルの身体は弓の稽古で温まって、いつもの緑の狩人服の上に目の粗い上着を羽織っただけの軽装でも寒くはなかった。 「思い出せよ」 しばらく考えていたマーロが、口を開いた。 「あの時、リラを助けたのはお前だ」 リュウベンの腕にがんじがらめにされながら、彼を見上げていた娘の今にも泣き出しそうなほど悲しい瞳。それに気づいたラケルは、考える間もなく動いていた。 「おれは撃てなかった。迷ってる間にお前がもう飛び出してた」 「きみも、迷うことあるの?」 「当たり前だろ」 ラケルにとっては意外だった。戦いにあたってはとりわけ思考をめぐらせて行動するマーロがためらいをみせたことは、ともに冒険に出た中では一度もない。 「リュウベンの憎しみは本物だ。スポーツ気分、遊び半分じゃいられない……だけど、おれたちはやめたきゃやめられる。否が応でもあいつと戦わなきゃいけないのはリラだからな。 お前はお前だ。望むようにすればいいさ」 彼は再び背中を向けて、森の奥へと行こうとした。 「どこへいくの」 「さあ。この辺りはよく知らない」 マーロはもう振り返らなかった。 彼の姿が木々の向こうに見えなくなったあとも、やぶを掻き分ける音はラケルの耳に届いていた。 ラケルは弓を拾い上げた。旅に出るようになってから、久しくつかっていなかった木製の弓は、手にしっくりとなじむ。動物の腱を張った弦に矢をつがえる。父親に弓を教わりはじめた頃は、的に当たるたびに楽しくて仕方なかった。 「……父さん」 遠い異郷にいる父親のことを思い、ラケルは弓を引いた。幼い頃から使っている木製の的には、無数の弓が突き刺さった穴が残っている。これからどのようなものに矢を放つのか、ラケルにもわからなかった。はっきりしているのは、ただ一つだけ。 「ぼくは守るよ」 それまでの何よりも強い思いをこめた矢は、的をとめた釘に命中し、落ちた的は木の根元にぶつかった。 ☆★☆★誓いの矢 ちょこっと修正しました。こんにちは、花です。前回の話を読んでいないとよくわからない話ですが、ラケルのひそかな決意を書こうと思いまして。 ゲーム中ではラケルってけっこう強くて、魔物ばしばし倒してますが、傷つけたり壊したりする力があるってけっこう怖いですよね。マーロ君がなぜ辺鄙な森ん中歩いてるのかは彼サイドの話があったのですが、ここでは盛り込めませんでした……そのうち書ければいいかなと思います。ではでは☆ |
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さすがですね >>> べに龍 -- 05/11/09-07:06..No.[879] | ![]() | |
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こんにちは、べに龍です。 マーロとラケルのやり取りがそれらしくて、楽しいです。私には難しい取り合わせなので、感嘆しております。 私にとってレンジャーと言うと、生きるために殺すことも知っている大自然のプロ、なんで…狩をしないラケルの扱いには正直悩みます。でも、このラケル君が弓を使う時の…生き物を傷つけることへの恐れには、説得力があって納得してしまいました。 | ![]() | |
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恐縮です〜 >>> 花 -- 05/11/12-02:22..No.[880] | ![]() | |
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>>>べに龍さま マーロとラケルのコンビ、リラを交えるとまるっきり犬猿の仲なので、読み手の方の反応が心配だったのですが、楽しいとおっしゃっていただけてよかったです♪ 私もべに龍さんのお考えのように、生きることも殺すことも知っているのが狩人・レンジャーではないかと思います。 森で植物を育てたり、木々の声を聞くユーンとの違いは、彼が半分人間の血をひくことにあるような気がします。彼の父親がもしも一緒に暮らしていたら、弓矢がただの遊び道具ではないことを教える時間もあったことでしょう。 ……じつは、シリアスばっか書いておいてナンですが、このゲームのほのぼのした雰囲気にそぐわないのではないかと思い、投稿を迷った作品でもあります。けれど、感想をいただいた今は書いてよかったと思います。ありがとうございます。 花でした☆ | ![]() | |
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