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>>>べに龍
-- 05/10/26-10:08..No.[874] |
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「肥料!?」 ドーソン・トードは素っ頓狂な大声をあげて、エルフの友人、ユーンの顔をまじまじと見つめました。 ユーンはいたずらっぽい笑いを含んだ顔でうなづきました。 ドーソンは、口をあんぐりと開けたまま、周りの森を見回しました。亭々とそびえる巨木の幹や、鮮やかなふくふくの緑のこけの上で、夏が過ぎて黄色くなり始めた日の光と、青みを帯びてきた葉の影が、模様を作って躍っています。 「この森に?!」 ドーソンは、足元を見下ろしました。森の黒い土は、ドーソンのブーツが埋まるほどふかふかしています。手にとると、無数の小さな虫たちが驚いてせわしなく動き回るのが見えます。 「…この土に…肥料を?!」 ユーンはまたうなづきました。 「そう、肥料をあげるの。手伝ってくれない?」 そして、いかにも面白そうな様子でドーソンの顔を見て、 「信じられない、って顔しているわね。あなたは人間だから、無理もないけど。…一度見れば分かるわ」 と、付け加えました。 ドーソンは、あっけに取られたまま、もごもごと答えました。 「う、うむ…手伝うのは、もちろん、かまわないが…」 「よかった。じゃ、こっちに来て」 さっさと歩き出したユーンに従いながら、ドーソンは首をひねりつづけました。 …生き物たち同士のバランスが見事に取れた、この美しくすばらしいエルフの極相林に、このうえ一体どんな肥料が要るというのだ? ユーンの『肥料』を見ても、ドーソンの疑問は解けませんでした。 ユーンから渡された桶の中には、緑とばら色の輝きをほのかに放つ、濃い土色の液体が入っていました。それは、ドーソンが知っているどんな肥料にも似ていませんでした。 (もっとも、俺は肥料に詳しいとはとても言えぬがな…) ドーソンは『肥料』に、そっと指を浸し、かいだり、こすってみたり、ちょっと舐めてみたり(ユーンは目を丸くしました)しました。…が、やはりよく分かりません。 それでも、精霊使いのドーソンには、この『肥料』が、普通の肥料ではなく、何か特別な力を持っているものらしい、という事だけは感じ取ることが出来ました。 「で、これは…どうやって使うのだ?」 ドーソンが尋ねると、ユーンは、 「こうするのよ」 と、小さなひしゃくでほんの少し『肥料』を掬い取ると、円を描くように、ひしゃくをさっと振りました。 すると、この不思議な液体は、ふわりと遠くまで広がって、細かい霧のようになり、かすかに虹色に光りながら、ゆっくりと森の土の上に降りて行きました。 そのとたん、周囲の木々が、ごつごつの樹皮の下で、どっしりとした太い幹をかすかに…まるで巨大な動物が身震いするように震わせるのを、ドーソンは見たように思いました。 「…こんな風に、少しずつね。なるべくまんべんなく、まいていってちょうだい」 仕事が進むにしたがって、ドーソンの表情は楽しげになっていきました。 まだまだ昼間は暑く、ドーソンもユーンも汗をかきました。桶も結構重く、思ったよりは大変な作業でしたが、お昼になって、ユーンが一休みしようと言い出したときには、ドーソンはむしろ残念そうでした。 「どう、…『肥料』が要るわけが、分かったでしょう?」 ユーンがきくと、ドーソンは笑顔でうなづきました。 「ああ。よく分かった。 …エルフの森は、やはり普通の森ではないのだな。この森の木達は、普通の木達の何十倍もはっきりと目が覚めている…」 ドーソンは、そっと隣に立っている木の幹をなでました。 「そんな木達には、そんな木達への栄養がいるのだな」 ユーンはにっこりとうなずきました。 「木達が、お礼を言っているのが聞こえたでしょう?」 「うむ…」 ドーソンは、気持ちよさそうに目を細め、大きな鐘の余韻のように響く声で答えました。 「今日は、呼んでくれてありがとう。ほんとうにうれしい…」 ユーンは静かに答えました。 「どういたしまして。…これは、誰にでも、見せるものではないのよ…」 「光栄だな」 ドーソンの声に答えるように、土の匂いと木の葉のささやきを乗せた風がさあっとふきすぎていきました。 =========END========= ユーンの9月挨拶イベントより。 エルフの森は、里山と違って、極相林の…人手が入る必要の全くない森だと思っていたので、このイベントを最初に見たときは、かなりの衝撃を受けました。 「エルフの森は、人が定期的に手をかけなきゃ荒れるような里山だったのか?! …でも、きこりが入って木を切るのは嫌がっているようだけど…」 と、いうわけでこんな話が出来ました。 |
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