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>>>べに龍
-- 06/12/14-08:36..No.[970] |
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コロナの街に夜が来て、しんしんと冷えた表通りでは、冴え冴えとした月明かりに霜がきらきらと光っていました。 冒険者宿を兼ねた酒場の中では、暖炉の火が赤々と燃え、話し声と食器の音が賑やかに響いていました。 酒場の片隅で、吟遊詩人のミーユが歌を止めて一息入れ、お湯で割ったブドウ酒で喉を潤していました。 その隣のいつもの席に、ドーソン・トードも座っていました。カウンターに俯いたまんま、大きなグラスでウィスキーをすすっています。 低い声で挨拶を交わした後、ミーユがひそひそと尋ねました。 「どうしたんですか、その顔は?」 「…やはり、目立つか?」 ドーソンはそうっと頭を持ち上げました。右頬と右目の周りに、見事な青あざが出来ています。 「まあ、かなり」 ミーユが言うと、ドーソンはがっくりと肩を落とし、 「…水辺のトリにやられた」 ぼそり、と言いました。 「…水辺のトリが、神の叡智の庭から、千里を行って帰る獣をけしかけおった」 ミーユが一瞬考えた後、くすくすと笑いました。 「レラに飲ませたんですね」 ドーソンは憮然と 「…俺が飲ませたのではない。誘われて、付き合っただけだ」 「一緒に飲んだんですか?」 ミーユが驚いたように言うと、ドーソンは首を用心深くゆっくり横に振りました。その瞬間、痛そうに「イテテ」と顔をしかめて、ぼそぼそと 「…いいや。なんとなく虫が知らせてな。俺はオレンジジュースにしておいたのだ。 …だがいっそ、一緒に飲んでおった方が無事だったかも知れんな」 左手で額を押さえて嘆くドーソンに、ミーユは慰め顔で、 「いいえ、それではもっと酷いことになっていたでしょう。貴方が飲んでなくて、まだ幸運でしたよ」 「たぶんな…イテテ。 …全く、恐ろしい代物だ。水辺の酉って奴は。不意打ちのだまし討ちで、襲ってきおる。 昔、最初の酒を造った賢者が、うかつにも猛獣の屍から生えた作物を材料に混ぜたと聞くが…。全く、そのとおりだったに違いない。…百毒の長、キチガイ水とはよく言った。 当分、酒など見たくもないぞ、俺は」 恨めしそうにぼやくドーソンに、ミーユが指摘しました。 「そんな事をいいながら、今、飲んでいるじゃないですか」 するとドーソンは、口に持っていったグラスをおろしもせずに、 「これは、ただの酒ではないぞ。 この世の諸々の憂さを払うために飲む、命の水というやつだ。 まったく…これが飲まずにいられるものか」 そう平然と答えて、グラスを干しました。 =====END======= レラ1月の挨拶イベントより。 蛇足ながら、「水辺のトリ」は、さんずいに酉、「千里を行って帰る獣」とは、トラのことです。 |
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百毒の長 >>> 赤緑 葵 -- 06/12/15-02:30..No.[971] | |||
百薬じゃないんですね(笑) レラさん、そういえばお酒に飲まれちゃう人でしたね。 ほろ酔い酒ぐらいになればいいのに。 静かに飲んでいたのが、いつの間にやら大騒ぎになってしまったという感じでしょうか。 | |||
ふと、思ったこと >>> おりづる -- 06/12/15-22:59..No.[972] | |||
こんばんはです。 普段のドーソンさんから考えられない荒れようを見て思ったのですが、もしかして、「千里を行って帰る獣」が叩き壊した酒場の備品、彼が弁償したのでしょうか? (そして、覚えていないレラさんは、一銭も出さない) 恐ろしい話しだ……。 勝手なことを言ってすいませんでした。 | |||
レスありがとうございます >>> べに龍 -- 06/12/18-07:49..No.[973] | |||
>赤緑 葵様 毒と薬、両方の言い方があるそうで。多分、「薬」のほうが先でしょうが、「毒」にもかなり説得力が…(笑) レラさんは、最初ずっと静かに飲んでいて…ドーソンが「やっぱり自分も飲もうか」と思い始めた矢先に、「突如」眼つきが変って大騒動…だったのではないかと、想像しています。 >おりづる様 言われてみれば確かに、ドーソンにしては自棄酒っぷりがきついかも…ですね。まあ彼も荒れることはあります。 実は…ドーソンは、虫の知らせのほか、対応に出た酒場の従業員の様子も気になって、アルコールを見合わせていたんですが…結果1人で猛虎と渡り合う羽目になり、しかもやっと落ち着いてきた頃を見計らったように勘定書きをさっと手渡され…はめられた気分になっているという設定もあったりします。 きっと、その勘定書きにしっかり、壊れた備品の代金も上乗せされていたに違いありません。確かに恐ろしい…(笑) | |||