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『わたしの絵本(白竜ルート・エンディングネタバレ注意)』

 >>>さかえともたか   -- 07/09/26-19:51..No.[1025]  
    「お先に失礼します。」
「おう、お疲れさん!明日もよろしくな!」

 まだ人の残る酒場に、朗々とした声が響いた。
 その大らかな人柄が、そのまま表れたかのような体格と、張りのある声。
 深い緑の髪と、ほがらかな笑顔を持った、この酒場の主人の声だ。

 その声を受けた相手、長い桃色の髪をした女性は、主人に向かって軽く会釈すると、そのまま酒場の階段をのぼった。


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 酒場の二階、女性の自室。
 すっかり身になじんだ部屋の扉を閉めると、女性は、大きく息を吐く。

 ……酒場の仕事は、重労働だ。
 確かに一つ一つの作業そのものは、それほど難解なものではないが……それを複数の客に対し、同時にこなさなければならないとなると、一気に疲労度は跳ね上がる。
 しかもこの酒場は、主人が冒険者への依頼をとりまとめていることもあり、常に繁盛しているため、一度仕事を始めると、一息つく暇もない。

 もっともそれは、店にとって喜ばしいことなのだし、店の主人の恩恵を受けている身としては、文句など言ってはならない、それは女性自身、じゅうぶんわかってはいるのだが……。

 それでもさすがに、主人のたっての頼みとは言え、同じ重労働の日々が続くと、ため息も出ると言うものだ。

 ――……マスターに頼まれた日程まで、あと2日!

 自身をふるいたたせるために、勢いよく顔を上げる。
 その瞬間、小さな窓からのぞく夜空を、流れ星がすぎるのが目に入った。

 思わず窓に駆け寄り、夜空に目をこらす。
 しかし、流れ星はもうどこにも見当たらない。
 ……無意識に声をもらした瞬間、ふと、かつての思い出が頭をよぎった。

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 ……もう、一年前の話になる。
 一年前、女性は、重い運命の枷を負っていた。

 恐ろしい呪いにかかり、自分の過去と、人の姿を失くしていたのだ。

 ぐうぜん出会った賢者に、一時的に人の姿を与えられる、そのときまで。
 ……それから彼女の、呪いの正体と、失くした記憶を探す日々が始まった。

 コロナと呼ばれる街、その街の酒場を拠点にし、働きながら自らを鍛えた。
 仲間たちと出会い、冒険を、コロナでの時間を、共に過ごした。
 そして、呪いの源が竜によるものであると知り……竜の手がかりを求め、冒険を重ねた。

 そして、神竜と呼ばれる白い竜の存在に行き当たり……神竜の幼生の導きのもと、鏡のカケラを手に入れた。

 ――このカケラは神竜の力の源、神竜の鏡のパーツ。
 かつて破損してしまったこの鏡のカケラを集め、修復することに、呪いを解く鍵がある――

 その仲間の助言を信じ、鏡のカケラを集める冒険に出た。
 地上に流れ星として落ちてくる、鏡のカケラ。
 その鏡に秘められた力を狙う、鎧の男たちと戦いながらも、流れ星を追って、世界中を駆け回った。

 そして冒険の果て、自分の過去を知り、神竜に出会うことができ……呪いの解けた今は、こうして、このコロナで、平凡な生活をしている。

 ――……物語としては、なんとも消化不良な話だろう。

 女性はそう呟き、そっと笑う。

 ――竜の呪いにかかり、かえるの姿になってしまった女性は、実は幼いころ、王城で、王子様と出会っていて。
 さらに大事な宝物を守るために努力していたけれど、結局守ることができなくて。
 でも十年後、賢者の力を借りて、人の姿と宝物を取り戻し、仲間と共に、世界征服を企むダークエルフたちと戦った、その結末が……
 呪いの解けた女性はごくごく普通の一般人で、それまで住んでいた街に戻ってきました、というのだから。

 ――……幼いころに、この話を物語として聞かされていたら、きっと納得できず、口をとがらせていただろう。
 どうして主人公は、王子様と結婚して、めでたしめでたしにならないの、と。

 ……けれど、それを残念とは思わない。
 確かに、物語としては、それが最良の結末、なのかもしれないが……自分にとって、それが最良かどうかは、また、別の話だ。

 窓を開け、空気を吸い込み、瞬く星を見上げる。

 ――……自分は、冒険が好きだ。そして、このコロナの街が、ここに住む人々が、大好きだ。
 お妃様になれなくても、英雄と呼ばれなくても、かまいはしない。
 自分にとって本当に大事なものは……ちゃんとここに、あるのだから。

 ドアをノックする音が聞こえる。
 ……もう、そんな時間だったか、女性は慌てて扉に向かい、ノブに手をかける。
 開いた扉の向こうには、女性にとって、一番大事な笑顔があった。

                          --FIN
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初投稿です。
設定は姫度・王子好感度・名声値が足りないときに見られる白竜バッドエンド後になります。
バッドエンドなんですが、なんとなく、これもありだな、と思ったので。
勢いだけで書いて投稿しましたので、わかりづらかったらすみません。


バッド?

>>> おりづる   -- 07/09/27-23:45..No.[1026]
 
    はじめまして。おりづると申します。
白竜バッドエンドがこんなとは知りませんでした。やりこんでますね。
でも、これはこれで幸せじゃないかな、と私も思います。赤竜編主人公なら「ほい、ミッションクリアv」と気楽に言いそうな。
雰囲気の出ているいいお話しだと思います。
お疲れ様でした。
 
…こっちの方が好みかも。

>>> べに龍   -- 07/09/28-07:29..No.[1027]
 
    私も、すっかり感心しました。白龍(や青竜)にはいろんなエンディングがあるとは聞いていましたが、白龍で名声その他が足りないと、こうなるんですねぇ…。
このエンディング、「ありそう」でいいなぁ、と思います。城下の子供が王族のゴタゴタに巻き込まれて…てな、ところでしょうか? 主人公によっては、こっちの方がよほど幸せでしょう。
…お話の彼女は、「ただ今欲求不満中」みたいですが。
面白い情報入りの気持ちいいお話を、ありがとうございます。

 
知りませんでしたー

>>> 赤緑 葵   -- 07/09/28-13:50..No.[1028]
 
    初めまして、こんにちは。赤緑と申します。
いやはや、自分がまだまだやりこみ不足だなぁと身に沁みました。
こんな素敵なEDがあったなんて…っ!!
呪いにかけられたから王族だなんて限りませんしね。
神竜がこんな身近なお話に感じられるとは思いませんでした。
 
感想ありがとうございます

>>> さかえともたか   -- 07/09/30-19:18..No.[1029]
 
    読んでいただいた上、コメントまでいただき、ありがとうございます。

>>おりづる様
はじめまして、優しいコメント、ありがとうございます。
はい、白ルートのエンディングが気になった時期があって、かなりやりこみました。
このエンディングはやはりバッド扱いなのでエンディングロールやナレーションがどよどよしていて
いかにもバッドです、という感じだったのですが、自分的には結構お気に入りのエンディングだったので、
今回ちょっと書きたくなりました。

>>べに龍様
白龍ルートはエンディング多いですが、このエンディングは強制シナリオだけプレイすればいいのと、
一回兵士に見つかればいいので(見つからないとプラチナの方に流れてしまいました…)、
実は結構楽に見れたりします。
主人公が「欲求不満中」になってしまったのは、エンディングロールでかなり長期間、
酒場の雑用シーンが流れていたので、ずっと雑用やってたら体調が大変だな……と
思ったことからで。感心していただき、恐縮です。

>>赤緑様
はじめまして、こんにちは。
素敵というか、少し書きましたが、やはりバッドエンドあつかいなので、
期待して実際に見られたら、ちょっとびっくりされるかもしれません。
なんというか、普通の身近な幸せ、みたいなもののよさを書きたかったので、
そう言ってもらえて嬉しいです。

投稿しなれてないのでおかしなこと言ってたらすみません。
読んでいただいた皆様も、本当にどうもありがとうございました。
 


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