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>>>べに龍
-- 05/08/19-06:59..No.[860] |
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子鹿が目を覚まし、か細く鋭い悲鳴をあげてもがいた次の瞬間、返しのついた矢尻は無事、ラケルの手の中に収まっていました。 「よしよし、よくがんばったね。もう、大丈夫だよ」 ラケルは、矢を放り捨てて、汚れていない手の甲で子鹿の頭をなでてやりました。そして手を洗い、残った傷口を消毒しながら、 「…人間は、どうしてこんなことをするんだろう?」 ラケルは悲しげに、そして腹立たしげに尋ねました。 ドーソンは、子鹿を押さえたまま、悲しげに低くうなりました。 「むう…。色々だ…。人間にも色々いて、色々な理由で動物をとるが…」 ドーソンは、捨てられた矢に目をやりました。 「生きるために…肉と毛皮のために、狩をするものもいる…。だが、これは、彼等の仕業ではないな。 人間の狩人も、森の牙持つ狩人達と同じく、不必要に他の生き物を苦しめたりしない。この季節に、こんな子鹿を狙ったりもしないはずだ。 畑を荒らされるからと、森の獣をとるものもいるが…。彼等でもないな。 彼等は普通、畑に罠を仕掛ける。弓矢は使わない…いや、使えないはずだ。 …これは、金目当ての密猟者か、楽しみに森に入って、道楽で狩をする、貴族の連中か… この矢羽からみるに、おそらく貴族のしわざであろうな」 ドーソンは、やるせなく頭を振りました。 「…だが、一方で、貴族連中は自然の森を守ったり、密猟を取り締まったりもする…。自分が狩をしたいがため、ではあるが、それでも森が助かることに変わりはない…」 「だからって! こんな、ひどい…!」 ラケルが声を荒げました。 「ああ。許せることじゃない。やめさせたがっている人間も、少なくはないのだが…」 ドーソンは答えて、目を伏せました。 「だが、今の俺にはこの位のことしかできん…」 そして、片手を伸ばし、子鹿の傷口に触れないぎりぎりのところに、そっと手のひらをかざしました。 あらゆる命にやどる、優しき神秘の乙女よ ここに伏せる、この小さき命に宿る、命の泉の番人よ 汝の力、汝の祈りもて、このこぼたれし、小さき泉の器を補いたまえ 「乙女の祈り」の呪文と共に、柔らかな緑色のかすかな光が、ドーソンの手のひらから鹿の傷口へと流れました。 傷口はふさがりはしませんでしたが、出血はほとんど止まりました。子鹿は、明らかに楽になったようでした。力強く跳ね上がり、ドーソンの手を払いのけて立ち上がりました。 「ラケル、後は頼む。人間の俺には、鹿に宿る『命の精霊』に呼びかける力は弱くてな。この程度がやっとだ…」 ドーソンは、額ににじむ汗をぬぐいながら言いました。 ラケルは黙ってうなづくと、子鹿に、自分に背中を向けて動かないようにと言い聞かせました。 傷口の処置が終わると、子鹿は二人の周りを一週回ってから、小屋を取り巻く茂みの中に姿を消しました。 しばらく茂みががさがさと大きく揺れ、それから、若い雌鹿が首を出すのが見えました。 雌鹿は、感謝の気持ちを表すように、二人に向けて耳を伏せ、目を閉じて見せてから、また茂みの中に消えました。 黙って親子鹿を見送ったラケルは、最後にそっと言いました。 「元気で…またね」 それから、ポツリと付け加えるように、 「ドーソン、ありがとう」 「なに、礼には及ばない…」 さりげなく言いかけて、ドーソンは突然、 「…うぐう…こりゃ、痛い…」 情けないうなり声をあげました。 「ラケル…薬箱をしまう前に、ついでに、こいつも抜いてくれんか」 そう言って突き出したドーソンの利き手の甲には、大きなとげが刺さっていました。 「今、気が付いた。戸を叩いたときに、刺さってしまったようだ。 …なるべく、痛くないように頼む…」 ラケルは、肩をひくひくふるわせながら、薬箱から大きな毛抜きを取り出しました。 =========END========== ラケル8月の挨拶イベントより。 むやみに長ったらしくなったので、2つに分けました。 鹿は、名前に引きずられてノロジカの子と設定しましたが…バンビの原作では、成長した後の話も結構長いので、子鹿にこだわることも無かったかな…とも、思います。 ついでに、ゲームのシナリオ内で、傷ついた動物達に治癒魔法を使わないで薬草に頼る理由を、私なりに考えてみたりしました。 こんな理屈っぽいことばかり書くから、余計長ったらしくなるのですが…ドーソンのウンチクたれは作者の責任です。許してやってください。 |
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