かえる投稿図書館


『記憶あるままに』

 >>>赤緑 葵   -- 10/05/25-03:55..No.[1111]  
    森の香りは10年経った今でも、変わりなかった。
小鳥のさえずりはもちろん木陰のあり方一つに至るまで、記憶にあるまま。
ラドゥの神殿が記憶にある姿よりも少しばかり朽ちていた。

かえるはいない。

水辺に行けばいるだろうか。
思いはすれども足はまっすぐに街へ向かう。
涼やかな風は人々の声を拾って届けてくれた。
柔らかい音色は楽器だろう。自然の音ではないけれど、耳心地のよいメロディー。
口元が自然に上がる。

あぁ。
まだ俺のことを知っている人はいるだろうか。

街を歩く。懐かしい石畳の道。人の言葉は集まると雑音となるが、今はそれさえも記憶に一致する。
人波。
少しだけ目を瞑れば、かつて街を歩けば聴こえてきた仲間たちが俺を呼ぶ声が聞こえそうな気がした。
幾つか記憶にある道を行く。
1歩ずつ進む靴の音は、聴こえそうで聴こえない。
けれど確実に進む。

壁の色が変わっただろうか。それとも屋根が黒ずんだのだろうか。
見えてきた建物に自然と暖かい気持ちがあふれた。
歩幅も変えず速さも変えることはない。
昼間だというのに、そこからは人の声が聴こえる。
一度だけ立ち止まり、下から上まで見つめれば、建物の雰囲気が昔と変わりないことを窺わせた。
木戸を押して中へ入れば数人の客がちらりと目をこちらへ向けただけだった。

あぁ。ようやく。たどり着いた。

赤い鎧の戦士も、青いローブの魔術士もいなかった。
カウンターに立つ男。皺が増えたようだ。
瞬きした男が目じりにさらに皺を数本増やしたのを見て、片手を上げてみる。
「ただいま」
目をまん丸にした男は俺の顔をまじまじと見た後に言った。
「ああ。おかえり」
ここは変わることのない場所。

コロナの街の冒険者の宿…。

=END=
かえる10周年。同盟にイラストで10年みたいのを発見したので、折角だし書いて見たいなと思って本作より10年後。
呪いを解いた男主が帰ってきたよみたいな雰囲気で。


懐かしさと寂しさとうれしさの入り交じったような

>>> べに龍   -- 10/05/30-06:25..No.[1112]
 
    10年前に、1年だけ住んだ場所…
年々印象的な場面の連なりだけの、実感のない薄いものになっていた記憶。
それが再訪したとたんに生々しさをもってあふれかえってきて…
と、いう気持ちが腹の底から胸へ、さらに全身へと立ちこめてくるのを、読みながら私も感じてました。

せっかくだから、10周年企画の方にも投稿されたら…?

 
記憶も曖昧な

>>> 赤緑 葵   -- 10/06/01-03:24..No.[1113]
 
    10年前は何してたのかなーと自分のことを思い貸せば、玲と渉とちょうど出会ったくらいだったのかなと思い出しました。
一応投稿作品は書いていたのですが、とんでもなく長くなってしまった上にちょっとこれは自分のサイトにアップしたほうが良いような代物で、決して祝い品ではないことに気がついたので、書き直し中です。
忙しさにかまけてちゃいけないですよねーと、しみじみ。
10年前と明らかに変わったのは、体力のなさです。ひー。
 
ま、まずい

>>> おりづる   -- 10/06/02-09:14..No.[1114]
 
    いい雰囲気のお話だと思います。
ただ、つい、「自分の年齢」を感じてしまいました。
かえほんのべるを書こうと思い立って、いつのまにか、十何年もたってしまっていた、と気づいて愕然。
書かずに人生終わりそうだ、とあせって、原稿を掘り出そうともくろんでいます。
でも、一行書いて果てるんだろうな、いつものごとく(大恥)。
主人公君は、こんな怠惰な人生は送っていないのでしょうね。
 
うっかり10年

>>> 赤緑 葵   -- 10/06/06-02:43..No.[1115]
 
    人生そんなもんです。あっという間ですね。本当に。
雰囲気出てました?ありがとうございます。
私もいくつか書こうと思って先延ばしのお話がありますが、大事すぎて書けないっていうのもあるんですよねぇ。
主人公も人ですからね、ぐだぐだするときもありますよ。
稼がないとご飯が食べられないっていう生活だと思うので、動かないといけないっていう必然で、行動しているかと思われます(笑)
 


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