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>>>べに龍
-- 10/02/26-16:57..No.[1108] |
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行き先も告げず、冒険者のドーソン・トードがコロナの街からふいっと姿を消した春から、二年と少し。 新緑が燃える季節に、ドーソンは、チビドラと共にまた姿を見せました。 …それも、溌剌とした若い妻を連れて。 コロナに到着したドーソンは、久しぶりの冒険者宿に荷を下ろすなり、街に出て行き…。 貴族の館からスラム街まで、精力的に動き回っては、様々な方面で活躍する人々と面談して回りました。 ドーソンが帰って来たのは、事情を知らない人々からは突然のことに見えましたが… 実は、冒険者宿のマスターや、かつての冒険仲間などは、前もって知らせを受けていました。 そして、今回のドーソンの来訪が、外交とヘッドハンティングを兼ねた、未来の王の将来に向けての布石であると言うことも、知っている人は知っていたのです。 そこで、ドーソンのコロナ帰還を祝うささやかなパーティーが、仲間達によって計画されていました。 しかし、それ以上の計画が、パーティー参加者の半数近くによって深く静かに進行していようとは、ドーソンには知る由もなかったのです…。 そして、次の朝。 ようやく夜が明けようかという頃のことでした。 しののめの中を吟遊詩人のミーユが、賢者ラドゥの神殿を訪ねると…。 「やあ。早いな、ミーユ」 神殿入り口の太い柱の根元にうずくまっていた男が、むくりと顔をもたげました。 「おや、ドーソンではありませんか」 ミーユは驚いた顔なぞ微塵も見せませんでしたが、ドーソンのげっそりと心底疲れきった表情と、目の下のくっきりとしたクマには嫌でも目が留まるようでした。 「ずいぶんお疲れのようですね」 「むう…」 ドーソンは、目をしょぼしょぼさせてうつむきました。 「…昨夜は酷い目に遭った…」 「誰か来ておるのか?」 そこへ、真っ暗な神殿の奥から、ラドゥの声がしました。 「おはよう、ミーユ、ドーソン」 そう挨拶しながら出てきたラドゥは、すました表情をしていましたが、その目はおかしそうにきらきらしています。 ミーユとドーソンが挨拶を返すと、ラドゥはドーソンのほうに身をかがめました。 「いつから来ておったのだ? 遠慮せず、声をかけてくれればよかったものを。そんなところではゆっくり休めまい」 ドーソンは、居心地悪そうにぼそぼそと… 「ああ、いや…ちょっとな、どう話してよいやら分からなかったもので…」 すると、ラドゥは、 「語らずともよい。大方、女難の夜であったのだろう?」 いつに無くいたずらっぽい調子で答えました。 「な、なんで分かる…?」 ドーソンが目をむくと、 「なに、簡単な推理じゃ」 ラドゥはおかしそうに唇の端を上げました。 「おぬし、新妻を妻としてはまともに相手にしておらぬそうではないか …おぬしの冒険仲間が、同情したとしても不思議は無いわい」 「なるほどね…最近、女性の皆さんの様子が変だと思っていました」 ミーユまでクスリと笑っていいました。 「そこのところを攻めたてられて、命からがら、ここまで逃げてきた…と、言うところですね」 「なんだか、俺一人が悪人扱いだな…」 ドーソンは、むっとしました。 「そりゃ、俺は…男女の機微と言う奴には疎いが… だからって、夫として妻への態度がどうだこうだと、他人に言われる筋合いは無い。 まして、女どもに吊るし上げを喰らう理由なぞ…」 強い声で言い始めたものの、ドーソンの語調は次第に弱弱しくなってきて… 「…なんだか、訳の分からないことばかりやいやい攻めたてられて、死ぬかと思ったぞ… 巨大な鷺に寄ってたかって『飛べないのはけしからん』とつつき回されたカエルのような気分だ」 ミーユは、同情したような笑みを浮かべました。 「分からないものは分からないのでしょうが… 鷺たちの視点も大切な人生の真理であることは間違いありませんよ。 向こうは、巨大で横着なヒキガエルを少しでも動かそうと必死になっている小鳥のような気分だったかもしれません。 トード(ヒキガエル)が飛ぶ必要はありませんが、そういう視点があることは、覚えておいたほうがいいですよ」 「むう…そんなものなのか…? しかし、ではどうしろと…」 ドーソンがぼそぼそと独り言のように言うと、ラドゥは答えました。 「まあ、外交ばかりではなく、そちらのほうの話し合いも手を抜かぬことじゃな。 ともあれ、明るくなるまで、一眠りしていくがよい」 |
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つるしあげ大会? >>> おりづる -- 10/03/01-09:20..No.[1109] | |||
おひさです。 ひさびさのドーソンさんですね。 読んで爆笑しました。 やはり、これって、前にリクエストした「女性陣による恐怖:吊るし上げ大会」なのでしょうか? まあ、奥さんにも手を出さないようじゃ、フクロは当然ですね。 がんばって飛んでください(←いぢわる)。 | |||
>>> べに龍 -- 10/03/08-06:42..No.[1110] | |||
>おりづる様 お久しぶりです。 そのとおり、これはあの吊し上げ大会リクエストを頂いて生まれた話です。 笑っていただけたようで、よかったです。 ヒキガエルを跳ばすより、鳥が歩く方が現実味はあるかも…両者どんな形で折り合いをつけていくのか、なかなか前途多難ですが、まあ何とかなるでしょう。 …現実には、ここまで淡泊な男っていないと思いますがね。 | |||