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2006.7 No.151  発行 2006年7月19日

発行人 中澤 滋 ASP研究所 長野県松本市梓川梓3072-12

Tel/Fax 0263-78-5002

 

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ASPニュースは、複数の新聞・雑誌などの記事から
事実関係を整理した上で個人的な見解で記事にまとめています。

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6月のニュースから

■次々と安全軽視の姿勢が明らかに/シンドラー社製エレベーター死亡事故

 3日午後7時20分ごろ、東京都港区芝のマンション12階で、同階に住む都立高校生がエレベーターを降りようとしたところ、突然ドアが開いたままエレベーターが上昇、高校生は外枠の上部に挟まれ、約1時間後に救出されたものの、頭蓋骨骨折や全身圧迫で午後9時半すぎ、死亡が確認されました。

 警視庁の調べでは、市川さんは後ろ向きで、自転車を後退させながら降りようとしていたところだといい、また当マンションでは以前から突然止まったり、がたんと落ちたりするトラブルが相次いでいたといいます。
このニュースが始まりで、エレベーター製造会社の「シンドラーエレベーター」関連のニュースが連日報道されるようになりました。

 しかしシンドラー社が行った事故後の対応方法には問題があり、事故が起きて間もない、原因がまだ特定できてない段階で、「設計・構造起因の事故は過去に1度もない」と強気の発言をし、今回の事故は保守会社の責任と決めつけていることに嫌悪感を抱いた国民も多かったのではないでしょうか。
しかも保守会社には点検マニュアルを渡さないなど、安全管理・保守に必要な情報の共有をしないでの言動でしたから、呆れたものです。

 ただエレベーターの保守業務については、同社のやり方が特異というものではなく、メーカー系の保守会社が技術情報を出さないことは当たり前で、そのため利幅の薄いエレベーター販売に対し、大手メーカーでは「保守で稼ぐ」と言われていることもこの事故で明らかにされてきました。

 独禁法にも抵触しそうなこの業界慣習ですが、2002年には三菱電機ビルテクノサービス」に対し、「三菱電機製品を保守する独立系への部品供給を遅らせた」として、公正取引委員会が排除勧告を出したこともあります。その後多くの物件で入札制度の導入が促され、独立系の保守会社が増えてきたとも言われています。

 さて事故機の保守会社は毎年変わり、2004年度はシンドラーエレベーターが364万円、2005年は日本電力サービスが約166万円、2006年度からはエス・イー・シーエレベーターが約120万円で落札していました。同社はこの間、独立系の保守会社には安全上必要な点検マニュアルなどを渡していませんでした。

 また今年4月に八王子市で類似のトラブルが発生した際、担当部署が上層部に報告をしていなかったことが13日に判明しましたが、同社の事故直後の対応を含めて、コスト重視で安全軽視の企業体質が露呈したことになります。

 同社は17日、ようやく制御プログラムの欠陥を認めましたが、これは明らかに設計欠陥そのものです。人が死亡したのに「責任はない」などと、根拠もない発言をした同社最高責任者の、言い逃れることしかできなかった姿勢が問われる後味の悪い事件でした。

 安全性を欠いていたが低価格で世界第2位のシェアを持つメーカーそんなイメージを持つ国民も多かったのではないでしょうか。この事件のために、同社の日本でのシェア拡大策は遠のいたようですが、安全軽視の企業リスクの大きさを把握できなかった、当然のリスク負担というべきものでしょう。

 しかし今回明らかになった、メーカー系の保守会社だけが安全情報を握り、自分達が儲ける構図を作っているというのも問題として残り、エレベーター保守業務の「客観的な適正価格」ということを議論をしてもらいたいものです。
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実験機材の石綿で死亡?/近大元教授が12年前

 近畿大で油化学の研究をしていた元教授 (当時71)が12年前、実験機材に使用されていた石綿を吸い込んだことが原因とみられる中皮腫で死亡していたことが、28日までに分かりました。

 石綿対策全国連絡会議の古谷杉郎事務局長は「石綿による研究者の健康被害は国内では聞いたことがなかったが、潜在的に被害が広がっている可能性がある」と指摘しています。
遺族は3月施行の石綿健康被害救済新法に基づき、特別遺族年金の支給を申請、「職歴による発症」として5月、支給が認められています。

 近大によると、元教授は1948年に助手として採用され、油化学の研究を始めましたが、91年に健康診断で肺に影が見つかり入院、中皮腫と診断され同年9月に退職、94年8月に死亡したといいます。
 大学は今年3月、遺族から年金支給の申請連絡を受け、学内の研究者らに聞き取り調査を実施、「 アスベスト リボン」と呼ばれる帯状に加工した アスベスト などを実験に使っていたことが判明し、元教授が昭和55年や59年に アスベスト を購入していたことも分かりました。

 遺族は6月、同大にも補償を求めましたが、大学側は「因果関係がはっきりしない」として応じない方針でいます。

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店の石綿で死亡、近鉄に7300万円求め提訴/大阪の遺族

 壁に石綿を吹き付けた文具店に勤務していた大阪府内の男性(当時70)が中皮腫で死亡したのは、建物の所有者が飛散防止措置を怠ったためとして、遺族4人が20日、近畿日本鉄道などに約7300万円の損害賠償を求め大阪地裁に提訴しました。

 訴状によると、近鉄は1969年に高架化した駅の下に、2階部分の壁に石綿を吹き付けた賃貸用の店舗を建てました。男性らはその店舗を借りて2階を倉庫として使用していましたが、翌年から2002年にかけ、荷物の搬出や在庫整理で倉庫に出入りする際、電車の通過のたびに振動で飛散する石綿を吸い込み、男性は中皮腫で2004年7月に死亡しました。

 吹き付けた石綿による健康被害をめぐる訴訟は今回のケースが初めてだといいます。全国の建物には現在も建材として大量に使われた石綿が残っていることから、今後は建物管理者に対する使用者側からの安全管理を問う声が増えていくことでしょう。

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あいまい決着?、米牛肉輸入再開に合意

 日米政府は21日、BSE感染の恐れがある部位の混入で禁じていた米国産牛肉の輸入を再開することで合意しました。ただし再開後に再び混入した場合は、違反の深刻度で対象施設だけの禁輸か全面禁輸かを決めることになりました。日本側は24日に米国に施設査察団を派遣し、7月下旬にも通関手続きを始めるとしています。
輸入再開後に再び米国側が安全ルールに違反した場合、米側は違反施設からの輸入だけを止める部分禁輸を要求し、全面禁輸を求める日本側との溝は埋まらず、結局は「違反の性質に応じた適切な措置を講じる」というあいまいな表現で決着したものです。

 これでは明確なルールがないため、今までのように米国の都合の良い措置が優先、日本政府が寄り切られる、という結果が見えるようです。

 国としての安全管理の保証をせずに、「施設ごとに問題がなければそこから輸入して欲しい」という米国の主張は、米政府が「全米の食肉処理施設の品質を管理できる状況下にない」ということでもあります。

 台湾のようにたびたび骨の混入が発覚している国では、その都度「ここはダメだから、次は○○施設にしよう」ということの繰り返しとなっています。一般的には、このような米国の対処は“いい加減”だというのが普通でしょう。それは政府が客観的根拠のないまま米国に寄り切られる場面をたびたび見てきた消費者が、米産牛肉については冷ややかになっている理由でもあります。

 また外食関係では一定の需要があるようですが、個人消費にすぐ結びつくとは考えていない業者も多いようです。それは今回の合意を受け、主な外食・小売り業のうち米国産牛肉の取り扱いを考えている企業が35%程度に留まることが、日本経済新聞の聞き取り調査でも明らかになったからです。昨年11月の調査では6割近くが「使う」と答えていたにもかかわらず、現在は各社慎重で、消費者の反応を見ながらの販売となりそうです。

 今回の合意でもう一つ気になるのは、輸入再開前に日本側が対日輸出する35施設を1カ月かけチェック、再開後も日本側が米側が行う施設の抜き打ち検査に同行し、通関時の検疫も拡充するとし、これら安全点検にかかるコストは日本政府が払うことになることです。また輸入後に安全性に問題が生じた場合、日米共同で点検することにしたため一定の責任とコストが生じることから、米政府の「日本もチェックしたのだから、米側だけが悪いのではない」との弁明に使われそうです。

 お隣韓国では輸入解禁を決めたものの、査察で安全性の不備が見つかり、輸入自体を延期しているといい、安全性の担保があいまいな米産牛肉は食べたくない、という消費者を説得できる根拠が欲しいものです。

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冷蔵庫用脱臭剤、長期間効果に疑問/公取委、エステー化学に警告

 防虫・消臭剤大手のエステー化学が販売した冷蔵庫用脱臭剤の効果が、表示よりも短期間でなくなるケースが多発していたことが分かり、公正取引委員会は9日、不当表示(優良誤認)に当たる恐れがあるとして、景品表示法に基づき同社に警告しました。

 公取委によると、問題の脱臭剤は、同社が2000年から販売している家庭用の「脱臭炭冷蔵庫用」など2種類です。同社は有効期間を「通常約5、6カ月」などと表示していましたが、冷気を大量に吹き出す急速冷蔵型の冷蔵庫で使用すると、消臭効果が2カ月程度でなくなることが確認されました。

 表示には「環境により異なります」との添え書きもありましたが、公取委は「消費者にとって、有効期間が冷蔵庫の種類によって大きく異なるとは想像できない」と判断したものです。

 冷蔵庫の脱臭剤ではトップの売り上げを誇る同社ですが、吹き出しの強い種類の冷蔵庫では実験していなかったといのです。冷蔵庫の大きさ、機能、庫内の空気の流量などは製品開発時に当然考慮されるべきものです。そのような手順を踏んでいない商品が当たり前に作られているということは、同社の他商品の品質も疑いたくなります。

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■車の欠陥隠し、OBが点検/国交省「技術検証部」設置

 自動車メーカーがリコールを適切に届けているか検証するため、国土交通省はメーカーのOBを集めた「リコール技術検証部」を設置しました。製造現場の第一線で活躍した技術者の能力を生かすことで、メーカー側の届け出に委ねられていた制度のため、未然に防げなかったリコール隠などが是正できそうです。

 三菱自動車や三菱ふそうトラック・バスの欠陥隠し問題を受け、国交省は厳しく監視する方針に転換、リコール技術検証部は2004年11月に交通安全環境研究所に置かれたリコール調査員室が元になり、今年5月の道路運送車両法改正で設置が決まったものです。

 一般のドライバーから寄せられた情報や交通事故の際の警察からの通報、運送事業者からの事故報告書などから抽出した不具合を、メーカーからの聴き取りや実験を通じて原因を調査するものです。設計・製造上の問題があれば国交省に報告し、同省がメーカーにリコールなどの対策を求めます。

 調査の中心となるのは公募した「技術検証官」の6名で、トヨタ自動車、ホンダ、日産自動車など国内の大手メーカーを退職した元エンジニアです。エンジン、車体、ブレーキなどそれぞれの専門分野を中心に、長年の経験を生かして分析することになります。

 技術検証部のチェックにより、実際の事故車両から欠陥が多く見つかれば、メーカーとしても言い逃れができないため、欠陥の早期発見・適切なリコールのタイミングなど、改善が期待できそうです。

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サバやイワシから新種の汚染物質検出/摂南大グループが確認

 毒性が強く深刻な環境汚染問題を引き起こすPCBと似た新種の臭素系の汚染物質が、市販の魚の中に蓄積していることを、摂南大学薬学部の大田壮一助教授らのグループが、19日までに世界で初めて確認しました。

 この物質は免疫を低下させ、奇形を誘発するなどダイオキシンと似た強い毒性が指摘されているコプラナーPCBと構造や毒性が類似、その汚染は食品経由での人体への影響評価の際に考慮すべきレベルに達している可能性があるといいます。

 構造はコプラナーPCBに含まれる塩素の一部が臭素に置き換わった物質で、「塩素・臭素化ビフェニール(PXB)」と呼ばれています。

 同大学が、あるスーパーで市販されていたサバ、イワシ、天然ハマチ、養殖ハマチについて4種類のPXB濃度を分析したところ、全てのサンプルから4種類のPXBが検出されたといいます。

 毒性が最も強いダイオキシンの毒性に換算して評価した暫定の毒性換算値(TEQ)は、脂肪1グラム当たりサバが平均14ピコグラム、イワシが同3ピコグラム、天然ハマチが同21ピコグラム、養殖ハマチが同19ピコグラムでした。この4種類だけで、コプラナーPCB12種類の総濃度に匹敵する濃度でした。

 太田助教授は「PXBの毒性も考慮すれば、国が定めるダイオキシン類の耐容1日摂取量(体重1キロ当たり4ピコグラム)をオーバーする可能性が出てくる。食品や環境汚染の実態解明や発生源の解明が急務だ」と話しています。

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電車内バリアフリー化/つり革に見る鉄道各社の取り組み

 車いすスペースの設置など、電車内のバリアフリーに取り組む鉄道事業者が増えていますが、最近ではつり革の高さの見直しへと広がりを見せています。
2004年開業の横浜高速鉄道(みなとみらい線)の車輌では、つり革に高低差をつけています。座席側のつり革は全部で10本ですが、うち7本は床から取っ手の最下部までの高さが163センチで、残り3本は「つり革を低くして欲しい」という女性からの要望で、開業時から153センチになっています。
最新の通勤車両で同一車輌にある座席側のつり革の高さは、東急153・163、東武160・163、西武153・163、小田急155・160、京王157・162、小田急155・160、東京メトロ166・181、JR東日本158・163、JR西日本163・170、近鉄154・162、阪急163〜167などとなっています。
つり革の高さの基準がないことから各社試行錯誤の状態ですが、鉄道総合技術研究所と東急車両製造が共同研究を行い、適正値を昨年学会発表しています。同研究は鉄道総研の車輌シミュレーターを使い、19歳から72歳までの約80人を対象に、150センチから180センチまでの様々な高さでつかまりやすさを調査したものです。その結果、155センチから163センチ付近が「推奨範囲」との結論が導き出されました。
つり革の高さはこれまで成人男性の使いやすさが前提とされてきたようですが、女性を含めた基準となるデータがなかったことが不思議なくらいです。

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たばこの煙の粉じん、喫煙室規準値の3〜11倍/新幹線の喫煙室

 東京大学大学院医学系研究科客員研究員の中田ゆりさんと、大和浩・産業医科大教授、金子教宏・亀田総合病院内科部長らは、新幹線の喫煙室に漂うたばこの煙の粉じん濃度を測りましたが、その濃度は厚生労働省が喫煙室の基準値上限である「1立方メートル当0.15ミリグラム」の3〜11倍もの濃度であることが分かりました。

  調査は東海道・山陽新幹線の東京−新大阪間と新大阪−福岡間で実施、デジタル粉じん計を持って、販売員や車掌とともに車内を歩き測定したものです。

 また濃度が0.05ミリグラム以上ある場合を受動喫煙と見なすと、車輌を往復する販売員や車掌は業務時間の80%あまりを受動喫煙にさらされていることも判明しました。

 販売員には未成年者もいることから、中田さんは「労働者の健康を守るため、全車両の禁煙化が必要だ」と話しています。

 JR東海によると、こうした調査をしたことはないといい、非喫煙者の健康被害について客観的にデータを集めて対処するという姿勢がうかがえません。そのため「タバコが吸えるから新幹線に乗るという声があり、全面禁煙はできない」とも話しています。

 健康増進法が施行されてから受動喫煙を減らす努力をしている企業もありますが、罰則規定がないことからいつまでたっても「客の要望」という論理で全面禁煙を躊躇する事業者が多いのが実情です。どのくらいの数の客の要望なのか、というデータも明らかにされないため、売り上げが落ちるのを心配した営業的な理由のようです。全面禁煙の車両を走らせてどの程度の営業損失が出るのか、それと乗客や乗務員の健康被害あるいは迷惑料などを算定した額で比較し、社会的・公共性の高い事業者としての責任を明確に表してもらいたいものです。

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