『ベロ出しチョンマ』 (斎藤 隆介著)

 私は、学生時代「生物学」を専攻しており、当時の「生物研究会・動物班」では
摺上川の水生昆虫と水質の関係などを調査しておりました。
 学園紛争が盛んな頃で福島大学も例外でなく「理科棟」が他大学の学生により
乗っ取られ「封鎖」されてしまう事件が起こりました。研究室や部室への出入りが
出来なくなり活動拠点を失ってしまいました。封鎖した学生への食料の持ち込み
を防ぐべく教授も加わり「当番制」で夜まで「見張り」をすることとなりました。
(話がそれますが、この時に深夜焚火を囲んで教授と学問以外の話ができたのは
望外の収穫でした)
 どうしていいか悩んでいた時に偶然出逢ったのが「児童文化研究会」というそれ
までの私の人生では関わりのなかった世界で情熱的な活動をしている人達でした。
軽く見学するつもりで部室に行き「人形劇部」の練習風景や「童話部」の読み聞か
せ「リズム部」の「子供会育成」活動をみて「おもしろい」と思い後日、入部しました。
 宮沢賢治や新美南吉は知っておりましたが浜田広助や・小川未明は知りません
でした。そこで出会ったのが「斎藤 隆介」というもう一人の作家です。表面的には
「自己犠牲」を描いているように見えますが、その奥に強い「人間愛」を感じました。
「影絵」で表現してみようという着想を実行するため仲間2人と3人で新宿の「かかし座」
に行って制作の基本を学びました。初対面にもかかわらず丁寧に教えて頂きました。
 「八郎」「モチモチの木」など次々に作品化していきましたが一番、思い出に残るのが
「ベロ出しチョンマ」という作品です。
 「悪政に苦しむ村人のため名主である父ちゃんが将軍に(命がけで)直訴に行きますが
捕まってしまい、家族全員が磔(はりつけ)になる。怖がる妹にお兄ちゃんである「長松」
が眉毛を下げベロッと舌を出し笑わせる。竹矢来の外で見ていた村人は泣きながら笑い
笑いながら泣く。長松はベロを出したまま槍で突かれて死ぬ。刑場のあとには小さな社
が建つ。役人がいくら壊しても、いつかまた建っている。命日には「ベロ出しチョンマ」の
人形が売られるようになりました。・・・というお話。読まれて知っておられる方も多いかと。
※千葉県花和村のオモチャ(人形)


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