セッケイカワゲラの一生
この虫の成虫は、体長1センチほどで黒く細長い体をしており、羽は無く飛ぶことはできません。
沢にすんでおり、沢がすっかり雪で埋まる直前の12月頃、幼虫時代を過ごした水の中から出てき
ます。そして、雪の上をひたすら上流に向かって2、3ヶ月かけて歩き続けます。2月頃、オスとメス
は雪の上で交尾しますがオスはすぐに死んでしまいます。メスは3月になって雪が解け始めるのを
待って水中に卵を産み、その後すぐに死にます。4月頃、卵から幼虫が孵化します。
幼虫は下流に流され11月頃まで何も食べず休眠状態を続けます。晩秋になり木の葉が落ち、水
の中にたまり発酵すると栄養価が高まります。休眠から覚めた幼虫がそれを待っていたかのように
食べて急速に成長します。そして、12月になる頃に成虫となり、幼虫時代に流された分を回復するた
め「親」がしたように、上流に向かって歩き始めるのです。
人間の立場からすると、そんな一生に意味があるのかと考えます。しかし、人間以外の生物は生き
る意味など考えて生きているわけでなないのです。
この虫の生態は、元京都大学野生動物研究センター長の幸島司郎さんが京都大学の卒業論文とし
て発表されたものです。山岳経験が豊かな方で1,982年にヒマラヤの標高5,000mを超す氷河に
も昆虫やミジンコがいることを世界で最初に発見された方でもあります。