孫市と義妹ののふたりは、満開の桜の木の下に大の字に寝転がっていた。

「ねえ、孫兄?こうして見ると、雪みたいね」

は、ぽつりと呟いた。
ひらりひらりと降ってくる桜の花びら。
ひとつは地面の上に、ひとつは孫市の頬に、ひとつはの唇に。

「ああ、溶けない雪みたいだな」

孫市は、手をのばし、の唇を飾った花びらを捕らえた。

この雪のような花びらは、触れても溶けない。
永遠に、消えてなくならない。

この想いと同じように――――










□  □  □











「うるさい」

ここは、花も満ちたる雑賀の地、孫市の屋敷。
いつもは戦国の世を駆け抜ける雑賀も、今日は平和である。

そんな和やかな空気は、孫市の声で引き裂かれた。

「おい、っ!ちゃん!お兄様はそんな言葉教えてないでしょーが!」

そう言われてうっとおしそうに振り向いたのは、孫市の義妹、

「自分で“お兄様”言わない」

「はい」

「孫兄は最近少し口うるさいよ。少しは自由にさせてよ」

「う、うるさい・・・・」

孫市は、この雑賀の地の頭領である。
一番偉い存在である。
そんな孫市に、こんな対等で辛口な言を許されるのは、だけだ。
が、これでは頭領としての威厳も何もあったものではない。
実際、孫市はの前では過保護すぎる兄であった。
というのも、は両親を幼い時に亡くしており、それから縁あって孫市の屋敷で妹同然に育てられた。
孫市はにとって、親代わりでもそして兄代わりでもあった。
としても、孫市は何にも変えがたい大切な存在ではあるが、最近の孫市の過保護ぶりには少々我慢がならなくなっていた。

「お兄様にそんな口を・・・嫁に行けなくなるぞっ!」

「ふーんだ!孫兄に心配してもらわなかくても、ちゃんと花見に誘ってくれる人もいるんだから!ご心配なく!じゃあねっ!行ってきます!」

孫市は、の後を追いかけようとしたが、目の前でパンッと小気味よく叩き閉められたふすまに阻まれた。

「・・・え。花見?ま、待てっ!ちゃんっ!行くなっ!どこのどいつだ!ちくしょう!誰なんだぁ〜〜〜〜!」

孫市の叫びを背に、は屋敷を飛び出した。






は、大きな桜の木の下にいた。
いつものメンバー、雑賀注目のホープである氏朝と、くのいちの鶴と一緒だ。
には今、三人の忍がついていて、鶴はそのうちのひとりで、一番の友達。
氏朝は、小さい時から読み書き修練などを、一緒にこなしてきた戦友(とも)。
三人は、遊びはもちろん、ちょっとした悪戯をする時も一緒だった、いわゆる幼馴染だ。
一人前になった今も、こうやって時間が合えば、誘い合ってこの桜の下で話に花を咲かせている。
は、この場所が大好きだった。
何かあれば必ず来る、心が安らげる、雑賀の中で一番好きな場所だった。

「あーあ、花見なんて誰も誘ってくれたことないよ」

も、もう十五。立派なお年頃である。
同じ年頃の子達には、花見に誘ってくれる人がひとりやふたりはいる。
しかし、悲しいかな、の周りには、全くと言っていいほど男っ気がない。
隣に座っている氏朝だけが、唯一の男っ気であった。
だからといって、容姿と性格に一難あるというわけでもない。
むしろ、容姿にしても、黒目がちな瞳は大きく、まるで苺のように紅く丸い唇は白い肌に映え、可憐な花という印象、性格も明るく素直で好感が持てる。
ただ、ちょっとじゃじゃ馬なところがあるくらいで、許容範囲内だろう。
密かに人気があるのを、氏朝も鶴も知っていた。
なのに、モテない、とがいうのは、孫市が陰で出る杭を叩いているからだ。
知らぬは、のみだった。これを知ったら、また激怒するに違いないが。

「私、魅力ない?」

「いいえ。様は十分魅力的ですよ」

「ありがと。鶴だけだよ、そんなこと言ってくれるの」

は、ぎゅうっと鶴に抱きついた。
鶴の肩越しから、強要するかのようなの視線が、本を読む氏朝をちくちく責めてくる。
どうやら“可愛い”と言って欲しいらしいの視線も、氏朝は完全にスルーを決め込んでいた。

「んもーーーっ!そんなんじゃ恋人に捨てられるよ、氏朝。女の子はねぇ、“可愛い”とか“魅力的”とか言って欲しいんだからっ!」

「恋人にだけ言やーいいだろ」

「・・・そりゃごもっともで・・・」

は、また激しくしょんぼりと落ち込んだ。

「なんで孫兄あんなに怒るのかな。孫兄のいいつけは守ってるつもりだけど・・・」

様はよくやっています。ただ、孫市様は心配性なだけですよ」

と言いつつ、鶴は、孫市の口うるさい理由が、“心配性”だけではないことを知っていた。
孫市は、のことを好きなのだ。
好きといっても、妹としてではなく、女としてだ。
こうも鶴に確信があるのは、先日、偶然見てしまったからだった。
寝ているに、そっと口付けしていた孫市を。
孫市にその場で口止めされたが、こういうことは口止めされなくても言えるものではないし、言うつもりもない。
孫市が口うるさい理由も、兄としての自分の立場をわざと強調して、への気持ちをおさえつけている、そんな孫市の危機感のあらわれなのではないかと鶴は考えていた。

は、孫市様のことをどう思ってる?」

氏朝の直球系の質問に、鶴はぎょっとした。
もしかして、この男は気づいているのか?
鶴が、氏朝に目配せすると、氏朝は不敵な笑みを返してきた。
ああ、気づいている・・・・・・鶴は、胃が痛くなった。
そして、氏朝は、幼い頃から、こういうことに無駄に鋭かったのを思い出した。
幼い頃の氏朝は、まさに“人間拡声器”。
子供の口にふたなし、氏朝の口は拡声器。
子供、特に氏朝には気をつけろ
氏朝は、恋する男女に恐れられる存在だった。
しかし、氏朝の勘は皆の予想を遥かに上回っていて、例え気をつけても無駄だった。
氏朝は、気づいた端から言って回っていた、それはそれは嫌な子供だったのだ。
成長した今は、さすがに分別をわきまえているらしいが。

「好きだよ。優しいし、・・・かっこいいし。大事にしてもらってるし。拾ってくれたこと、感謝してる」

氏朝と鶴は、苦笑した。
氏朝が聞いた“好き”とは、そういう類の“好き”ではなかったのだが、まあよしとしよう。

「なぁ、。おまえ、なぞなぞ好きだったろ?」

うんと頷いたさくらに、氏朝はひとつ問いかけた。

「大切なものほど近くにあって、近いものほど見えないものってなーんだ」

「???・・・何?」

「あはははは」

鶴は、このなぞなぞがすぐに解けて、大笑いした。
が言うべき答えは、“孫市”だ。

「解けたら、幸せになれる道が見つかりますよ」

「え。鶴、わかったの?教えてよー!」

は、鶴に答えを詰め寄る。
鶴は、のこの鈍さには、少々呆れていた。
鋭すぎる氏朝に倣え、とは言わないが、せめて十分の一くらいは身に付いていてもよさそうなものだ。
個人的に早く気づいて欲しいとはいえ、こればかりは答えは教えられない。

「駄目です。こればかりは、ご自分で答えを見つけてくださいませ」

「おまえな、恋人できないのって、孫市様のせいばかりじゃねーぞ。おまえのその鈍さが原因だ。もうちょっと、人の気持ちに敏感になった方がいいな。じゃないと永遠にひとりだぜ。せっかく姿はかわいいんだからよ」

「むっ!先に恋人できたからってえらそー!」

「相手が可哀想だっつってんの!お前鈍いから気づいてないだけじゃねーの?」

「いくら鈍くても気づくよ!それなりに!」

いや、気づいてないから。
氏朝と鶴は、心の中でつっこんだ。

「・・・・・・まあ、帰るか。今のでどっと疲れた」

「そうですね」

「ま、待ってよーー!」

の先を歩く氏朝と鶴は、孫市に心底同情して、心底願った。

どうか、ふたりの仲が早く進展しますように・・・。








「好きです」

「おっと・・・・・・」

屋敷へと帰る道を歩く氏朝の地獄耳に飛び込んできたのは、誰かの愛の告白。
垣根の向こうから聞こえてくる。
氏朝は、うずうずして、つい立ち止まってしまった。
なんてったって氏朝は、三度の飯より人間関係が好きなのである。
こういう色恋事も、年頃の乙女やおばちゃん並みに好きだった。
氏朝は興味本位で、垣根の向こうにいる人をさりげなく覗き込んだ。

「!」

氏朝は、見なければよかったと後悔した。
告白されていたのは、孫市だ。
相手は、華やかで見目のいい町娘というあたりだろうか。
氏朝が見た事がないところから、屋敷の人間ではない。
孫市はモテる。非常にモテる。
雑賀の頭領で、性格も優しく、気も利いて、洒落も通じ、顔も良くて、腕も立つ、三拍子どころか四拍子も五拍子も揃ってる男だ。
女がほおっておくはずがない。
そのため、こういうこともいつものことで、普段ならば氏朝は素通りしている。

しかし、今はまずい。がいる。

「道、変えよーぜ」

孫市びいきの氏朝は、この現場をに見せないよう対処するべく振り向いた。
が、一歩遅かった。
もまた、すでに覗きこんでいた。
すまねえ、孫市様! 
大失態だと、氏朝は天を振り仰いだ。

「なに?氏朝?誰かい・・・――――っ!?」

孫兄!?
は、目を見開いた。

ズキン――――

痛い。
胸が、痛む。
なんで、こんなにショックを受けているのだろう。
ここから動けないほど。
視線も離せないほど。

は、孫市が女性に人気があるのを知っていた。
たくさんの女性から、告白をされているのも知っていた。
しかし、見ると聞くのとでは、全然違う。
自分の目で他の女性といるところを見て、の心は、いつもにはない狂いそうな気持ちで占められた。

側にいるのも。
頬を染めるのも。
見つめるのも。
見つめられるのも。
切なくなるのも。
触れられるのも。
全部、全部、全部、自分でありたいと。
今、狂おしいほどに思っている。

は、気づいてしまった。
そう。
それは、“独占欲”だ。
独占したい、と心が叫んでいる。
孫兄を独占したい、と。

私は、孫兄のことが好きなんだ――――

は、気づいたら、なぜかぽろぽろと涙が零れ出してきていた。

様?」

あっ、と口を押さえても、もう遅い。
氏朝に引き続き、鶴もまた、大失態だ。
泣いているを見て驚いた鶴の思わず大きくなったその声に、垣根の向こうのふたりも達の存在に気づき振り向いた。

!?」

なぜ、こんなところにが?
孫市は、驚き、焦った。

「あ、あの。じ、邪魔するつもりはなかったの。ごめん」

孫市は、目に入ったその様子に、もっと驚いた。
が、泣いている。
孫市は、一気に頭に血がのぼるのがわかった。

「おまえ、泣いてるのか!?・・・氏朝か!?」

「ちがうよっ!ちがう、ちがうからっっ!氏朝じゃないからっ!」

今にも殴りかかっていきそうな孫市に、は精一杯声を張って止めた。
いわれのない容疑をかけられた氏朝は、孫市の殺気に金縛りにあっている。
相手は“孫市”の名を継いだ一流の戦さ人だ。無理もない。

「じゃあ、なんで・・・」

孫市は、やりきれない想いで、困惑していた。
を泣かせたくない気持ちを、誰よりも持っているのは孫市なのだから。
幼い頃、を引き取ると決めた時、絶対にを泣かせないと己に誓った。
あれから、誰よりもを想って、誰よりもの幸せを想ってきた。
その想いは、兄としてではない。ひとりの男としてだ。
そんな自分の想いはの前ではひた隠し、大げさなくらいいい兄を演じてきた。
それもこれも、のためだ。
だが、今、が目の前で泣いている。
愛しい女が泣いているのに、誰が冷静でいられるだろう。

抱きしめようと手をのばしかけたその時、は切なそうな瞳を向け、ひとこと「ごめん」というと、背を向け駆け出した。

「待てよっ!」

「お待ちください、孫市様っ」

孫市に告白していた娘は、すぐさまを追おうとした孫市を必死に引きとめようと、腕にすがった。
この娘も、孫市のことを少なからず想っているのだ。
しかし、孫市はその腕を迷いもなくふりほどいた。

「俺には、以上に大事なものなんてねえんだ。誰がどう思おうとな」

悪りぃな、とひとこと付け足すと、孫市はのあとを追った。

その後には、孫市の殺気にあてられいまだ金縛り中の氏朝と、忍としてあるまじき大失態をしてしまい反省中の鶴が残された。

「強えぇ・・・孫市様。・・・あの人に勝てる男なんていねえって」

「そうですね。孫市様以外考えられませんね」

「早くくっつけっつーの。こっちが迷惑だ」

ある意味とばっちりをくった氏朝だったが、心底ふたりの幸せを願った。
そして、こんな情けない状況に陥っている自分を叱咤し、もう少し鍛錬も増やそうと心に決めた。







(馬鹿だ)

は、さっきまでいた桜の木の下で後悔していた。
泣いてしまったことも、後悔していた。
は、孫市の義妹になってから、できるだけ孫市に泣き顔を見せないようにと頑張ってきた。
孫市に心配をかけたくなかったからだ。
孫市に泣き顔を見せてしまったのはいつ以来だろう。
まだまだ修行が足りないな、とはひとつため息をついた。

その時、ざっと地面を踏み込む音がした。

「・・・・・・デートじゃなかったのか」

思いがけない、後ろからの声。
は振り向かなくてもわかった。
他の誰でもない、孫市の声だ。

「・・・・・・ま、孫兄に答える義務はありません」

あの後、すぐに追いかけてくれたのか、とはすごく嬉しかったのに、つい可愛くないことを言ってしまった。
だって、どういう態度をとったらいいのだろう。
は、さきほど自分の気持ちに気づいたばかりだ。
気持ちの整理もついていない。
どうしたらいいかわからない。

そんなの気持ちを、さらにかき乱すかのように、孫市はに近づいて、頬にそっと触れてきた。

「なんかあったのか?」

「――――っ」

を気遣う孫市の優しい声。
は、何も答えられなかった。
触れられた頬に、全ての感覚が集まっていたから。
そこだけ熱く。
そこだけ敏感に。
その熱は、頬から全身を回り、頑ななの心さえも、するするとほどいて行った。

「・・・孫兄、好き」

熱に浮かされ、つい口走ってしまった言葉に、ははっとした。
今、何を言ってしまったのだろう。
好き、と言ってしまわなかっただろうか。
は、孫市の表情をちらと見た。
孫市もまた、驚いた表情をしていた。
言ってしまったんだ―――は、恥ずかしくて、孫市から顔を逸らそうとした。
しかし、孫市の手はそれを阻み、半ば無理やりに自分の方に顔を向けさせた。
孫市の強い視線が、震えるを無遠慮に縛る。
動けない。
この瞳から、目を離せない。
それは、孫市を拒んでいない証拠だ。



そうを呼ぶ孫市は、とは反対にどこか落ち着いていた。
そして、を見つめるその瞳の輝きは、何か決意が秘められているように強い。
孫市は、の瞳をまっすぐ見つめる。

「聞けよ」

「嫌」

は、依然この場から逃げ出したかった。
は、動けなくてもなお、ぎゅっと目を閉じ、少しでも苦しさから逃げようとした。
そんなに、孫市は顔を近づけた。

「おまえももう観念しろよ。―――俺は、観念したぜ」

「――――っ!」

そう言うやいなや、孫市は唇を押し付けた。
に何も考えさせないかのように、息つく暇も与えず、強く、強く。
内から、何もかもを奪うようにかき回したかと思うと、壊れ物を扱うかのように繊細に抱きしめる。

「好きだ、

口付けの合間に、息を吸うかのように囁かれる言の葉。
それは、言霊のように、を拘束し、甘く耳に響く。

「もうわかるだろ?俺の“好き”は、家族の“好き”じゃないぜ」

身体で理解しろ、とでもいうように、繰り返される口付け。

「わかんねーなら何度でも言うぜ。好きだ。

その言葉は、音もなくの内部を侵食する。
好きな人に言われる“好き”って、どうしてこんなに染みるんだろう。
染みて、染みて、は幸せに涙が零れた。
は、震える手を、孫市の背中に回した。
孫市の腕の中にいるのは、もはや“妹”のではない。
今、孫市の口付けで目覚めたばかりの、孫市の恋人だ。

「孫兄。好き・・・っ」

は、熱にうかされてではなく、今度こそ、自分の意志ではっきり言った。
恋と言うのは、通常の思考回路を侵される。
どこかの回路は大きく開き、どこかの回路は閉じる。
最初から狂うようにできているのが、恋なのだ。
今、間違いなくは、恋に狂っている。
いつもならば、恥ずかしくて言えない言葉さえ、口走ってしまっているのだから。

「・・・好き」

「よく言った」

孫市は、もう一度軽く口付けすると、ぎゅっとを抱きしめた。
それはそれは、大事そうに。愛しそうに。
かけがえのない大切なものを手に入れた歓喜に、孫市の体は震えた。
腕の中にいるそのぬくもりを抱きしめられるその喜びに、心は満たされた。

「俺は、お前を妹だと思ったことなんて一度もないぜ」

「うん」

、好きだ。愛してる」

「私も――――」


ひらひら。
ひらひらと。
花びらは、祝福するかのように、惜しみなくふたりに降り注いだ。

ずっとずっと、想って来た。
大事に大事に見守ってきた。
それは、これからも変わることはない。

この桜の木に誓おう。
を、永遠に想うと―――









「みんなーーーーー聞いてくれーーーーーっ!」

屋敷中に響き渡る孫市の声。
片腕での肩を抱きながら、孫市は屋敷中の使用人に声をかけた。
その主人の声に、なんだなんだと、先から奥から人が集まり始めた。
だいたい集まったところで、孫市は嬉しそうに声を大に言った。

「俺とは婚約した!」

「・・・・・・はぁ?」

と、言ったのは
あとのみんなは、そりゃめでたいと嬉しそうに口々に祝福を述べる。

「おめでとうございます、孫市様、様」

「おめでとうございます!」

「え」

「では、はりきって準備をすすめさせていただきます」

「あの」

わけもわからず祝福され、どうしていいのかわからず、おろおろする
それもそのはず。
孫市から“結婚しよう”とかそういうはっきりした言葉など言われていない。
まだ思いが通じ合ったばかりのひよっこなふたりのはずだ。

様ぁーーーーー!」

嬉しそうな顔で、鶴が駆け寄ってくる。
にやついた表情の氏朝も一緒だ。
鶴は、泣きながらに抱きついてきた。

「ご婚約おめでとうございます、様!嬉しいですよ、鶴はもう、もう・・・」

「え、ちが・・・」

感激で鶴は言葉もないようだ。
つづけて氏朝は、孫市に向けて、うやうやしく頭を下げて言った。

「ご婚約おめでとうございます。、婚約とは早えぇじゃん、おまえ」

と、氏朝は、このこのぉ、と冷やかし交じりで肘でつんつんつついてくる。

「い、いたっいたいってばぁっ!してないよっ!孫兄にそんなこと言われてないもん!」

「え!?」

ふたりは驚き、同時に孫市の方を見た。
そんなふたりに、まぁまぁ落ち着け、と言うと、ひとつ咳払いをした。

「では、ここで婚約を発表します。・・・こほん。結婚しよう、

「うわーーーーーーーー!馬鹿!!!やめてよ、みんなの前でっ!」

「ぐふぅっ!」

は、孫市の脇腹に、一発ボディーブローを決めた。
ピンポイントで肝臓に入り、悶絶する孫市。
は、いい気味、と冷たく言い放つと孫市に背を向けて歩き出した。

「おい、、待て、待てってば!」

「孫兄のバカッッッ!!!知らないっ!」



本日も、雑賀は平和である。


2006.9.15