忍びの秘密





忍というのは、仕事柄、時にとんでもないものを目撃してしまう。




鶴は、孫市の義妹・付きの忍のひとりで、幼馴染だ。
今日は、孫市の部屋に来ているの護衛として、隣の部屋で待機していた。

この兄妹は、すこぶる仲がいい。
こんな日も暮れた夜になっても一緒にいることからも、仲の良さが伺えるものだ。
しかし、このふたり、兄妹といっても、血は繋がっていない。
は幼い時に、理由あって雑賀の家に養子として入った。
そのため、中には、年頃になったが兄とはいえ男の部屋に立ち入るのを快く思わない人たちもいるが、孫市はそんな声もなんのその。
はいはいと右から左へ聞き流し、との時間を大切にし続けている。
鶴は、血は繋がらなくてもここまで信じあえる関係を築いているふたりがとても羨ましかった。
ふたりのように、いつか心から信じあえる人と出逢いたい、鶴も、そう心の底から願っていた。

「眠い・・・」

ふわあ、と桜は大きなあくびをしたかと思うと、目をこすりはじめた。

「寝ろよ。俺はまだ仕事が残ってるから」

「うん・・・ごめんね、孫兄」

というと、おやすみ三秒、はすやすやと寝息を立て始めた。
鶴は、慌てた。
いくらなんでも、孫市の部屋で一晩過ごすのはまずいだろう。
それに、忙しい孫市様のお仕事に差し支えるのでは、と鶴は桜を連れ帰りたく思ったが、忍の規則上、主人からの命以外行動を起こしてはならない。
鶴は、おとなしく孫市から合図を待っていた。
が、合図も何もなく、孫市はじっと桜を見つめている。
その瞳は、妙に熱っぽく、切なそうだった。
まるで、恋人を見る時のように―――
そんな表情で見る孫市に、鶴の胸は、どきっと鳴った。
こんな表情でを見る孫市は見たことがない。
に限らず、他の女性を口説いていてもどこか冷めたような、一線を引いているような孫市だったが、今は違う。
鶴は、恋人同士の逢瀬を合間見ているような、無粋な真似をしているようなそんな気がしてきた。
孫市は、の長い黒髪をすくように撫でる。
さらさら、さらさら、と何の抵抗もなく指が通る艶やかな黒髪の感触を楽しんでいるかのようだ。
そして、髪の束をひとすくいすると、そっと唇を寄せた。

「無防備にもほどがあるぜ・・・・・・」

孫市はそのまま、寝ているに口付けた。

「――――っ!!!」

鶴は、思わず動揺してしまった。
恐らく気配がだだもれだったのだろう。
孫市は、ばっと鋭く、鶴の方に顔を向けた。鶴だと気づくと、失敗したというような表情を見せた。
忍失格だ。他の忍に言ったら、『もっかい一からやりなおせ』と言われるに違いない。
そんな反省しきりの鶴に、孫市はにっと微笑むと、人差し指を唇にあて、“ないしょな”と声無く口を動かすと、任務終了の合図を出した。
孫市様が・・・・・・鶴は、混乱しながらも命に従い、即座に下がった。



孫市は、心地よく夢に落ちているの寝顔を見ていた。
最近、は美しくなった。
予防線は張ってるとはいえ、いつ他の男にかっさらわれるかと不安でたまらない。
そろそろ孫市の理性も限界だ。

「覚悟してろよ。そろそろ遠慮なくいかせてもらうからな」

孫市は、の耳に唇を寄せて、そっと囁いた。





は、眠る。

孫市のぬくもりの上で。

は甘い甘い夢を見た。

目覚めた時、甘い気持ちを引きずるくらいの、甘い甘い夢を――――


2006.10.8