大きな月

不安だと言ったら、君は笑うでしょうか。

「弁慶さん、今日の月は大きいですね」

雲ひとつない空にぽかりと浮かぶ大きな月。
その月明かりは、縁側に並んで座るふたりの姿をうっすらと青白く照らし出す。

「なんだか眠れなくて得しちゃったな。こうして弁慶さんとお話することができたから」

そう無邪気に微笑むとは正反対の気持ちを弁慶は抱えていた。
どこか頼りなくどことなく不安な気持ちが、もやもやと心を覆っていた。
というのも、あのいつもより大きく空を陣取る月。
怪しく光り、それはこの世界の大事なもの何もかもを飲み込むかのように見えた。
時空を越えて来たという弁慶の隣にいる唯一のぬくもりさえも奪い取って行くかのように。
それは、弁慶にとって耐え難く、思わずその気持ちを押し隠すかのように、の身体を引き寄せた。

「べ、弁慶さん?」

「・・・すみません。君があの大きな月に飲み込まれていきそうで」

「え・・・?」

弁慶は、おもむろに立ち上がると、半ば強引に赤面するの手をひいた。

「入りませんか。もう、あの月に君の姿を見せていたくない」

もう、この人は僕のものです。
誰にも渡しはしない。
誰にも。


2007.1.16