ふわり ふわり

ふわり、ふわり。

桜が数散っては散り、お互いからみあうかのようにくるくると幸せそうに舞っている。
外もまるで暖かくまどろみそうなほど気持ちの良い陽気で、美しい景色も相成っては思わず足を止めてひとつ深呼吸をした。

―――気持ちいい―――

は目を閉じた。
陽気にそのまま身体を預ける。
そんな陽気に心奪われているの肩を、ひとつぽんと叩く人。
誰かがこんな側に来ていると思っていなかったは、反射的にその方を見ると、同時に口付けられる。
まるで花びらが落ちてきたかのように軽く。

「・・・気づかなかった」

「桜に攫われるかと思いましたよ」

弁慶は、桜に霞んで消えてゆくかのようだった恋人を腕に閉じ込める。
はこの世界に残ると約束したくれた大切な人。
の言葉を、疑っているわけではない。
もう、白龍の逆鱗もない。
唯一の帰る手段もすでにないのだ。
なのにこんなに不安になるのは、異世界から来たが能力のある神子だったからだ。
神子としてのを目の当たりにしてきた弁慶は、彼女がいきなり現れたように、いきなりいなくなったりしないかどうか、ふと不安になる時があった。
どこかの異世界で“神子”が望まれれば、の意思はどうであれ、そちらに行ってしまうのではないか。
こうやって腕に抱いていても、そんな不安が弁慶の心に少なからず凝り固まっていた。

・・・」

どうしていいかわからない子供のように見る弁慶。

「いなくなったりしません。もしいなくなっても、絶対に弁慶さんのところに帰ってきます」

叱られた子供のようにうなだれる弁慶に、は思わず噴き出した。

「アハハ、こういう時の弁慶さんって子供みたい」

弁慶の不安を一気に弾き飛ばすような明るい笑顔。
ああ、馬鹿みたいだ。
自分だけ悩んでるのが馬鹿みたいだ。
そう思うと、弁慶は、いつもように余裕の笑みを浮かべる。

「言いましたね。そんなことをいう口はふさいでしまいましょうか」

今度の口付けは、桜の花びらとは似ても似つかないものだった。
思わず、吐息がもれる。

「僕の側からいなくなったら・・・どうしましょうかね」

「どうって・・・」

その顔は恐ろしいおしおきを考え付いた顔だ。
は、弁慶の口付けを受け霞みかけた頭で、そう思った。

「とりあえず、僕の部屋に行きましょうか。またあなたを桜に攫われそうになったら困る」

弁慶は、口付けを受け、震え、頼りなくなっていたの足元をさらうと軽く抱き上げた。

「あなたはまるで桜のはなびらのようですね」

“軽い”と言いたかったのか、“頬が赤い”と言いたかったのか。
その後、弁慶の部屋で何度も愛されたには、考える余裕さえも与えられなかった。