09.もうひとつの道







みんな一緒の道を歩いてきたはずだったのに。




ひとつの終着点を目指して歩いていたはずなのに。




いつの間にか、道は別れ、別々に歩きはじめた。




それぞれの道。




後悔しても、しなくても。




それがどんな結果でも、自分が選んだ道だから。




自分が信じた道だから。













元号は“明治”と名を変え。












ひとつの戦いは、終わった。










□  □  □











私たちは、風間さんとお千ちゃんと一緒の村に住んでいた。






あの目まぐるしく争った時が嘘だったように、今は静かな時間を過ごせている。






私たちを突然巻き込んだ運命は、これからも切り離せないもので。






それでも受け入れて、私たちはこの穏やかな時間を生きている。



















ここは、風間邸。
今日は、ふたりで訪問し、奥の間に通された。
まもなく現れた風間さんは、平助くんの姿を見るなり、くるりと反転して言った。

「誰かいないのか。侵入者だ」

「てめっ・・・・・・!よくもまあ、そんなことぬけぬけと!俺は客だっつーーーの!!」

「ん・・・・・・?客なのか、おまえは」

きゃ く だ。 その人相悪ぃ狐目かっぴらいてよーーーく見やがれ!」

「うるさい客だな。帰れ」

どうして、このふたりはこうなのか。
会えば、こうやってぎゃんぎゃんとはじまる・・・・・。
これも一種のコミュニケーションだと思えばいいのかな。
遅れて現れたお千ちゃんも、当然呆れ気味。
あきれるよね、やっぱり。

「千影さん、そんな言い方ないでしょ? いらっしゃい、ふたりとも」

「お千ちゃん、突然ふたりでお邪魔しちゃってごめんね。ひとりで来ようと思ってたんだけど、平助くんもついてくることになっちゃってさ」

「大歓迎だよ! あ、そうだ。、これ、雪村の史料。よかったら読んでみて?」

「わー!ありがとう!前に言ってたの覚えてくれてたんだぁ!」

そんなほのぼのムードの女性陣に対して、男性陣はピリピリムード。

「てめぇみてーに、人前でサカったりしねーーーーよッッッ!!!気分わりぃ!帰る!!」

「もともと邪魔しに来たのはきさまだっただろう。それに、“愛してる”も言えないようでは、愛想をつかされるのではないか?だから、おまえはガキだと言うんだ」

「・・・・・・てめーに“男”のなんたるかを説教される日が来るなんてな」

君たちは、何の話をしてるんですか。
どこをどう発展すれば、その話題になれるんですか。

「ゴメン・・・・・・うるさいね」

「ううん。うちの人こそ・・・・・・」

「今日、帰るね。今度は、ふたりで会お。風間さん、お邪魔しました。ホラッ、平助くん、行こ!」

私は、立ち上がって、今にもつかみ掛かりそうな平助くんの襟首をつかんだ。
お千ちゃんも、風間さんの耳をぎゅうっとひっぱっている。
こう見えて、かかあ天下なんだよね、お千ちゃんち・・・・・・。
私たちは、忙しなく風間邸を後にした。

























「もーーーーーーー平助くんとはこない!!」

「悪かったって! だってさ、あいつつっかかってくるから」

犬猿の仲とはよく言うが、まさにそれなんだろう。
会えば、あの調子だ。
いっそのこと、もう会わせない方がいいかも知れない。

「だから、ついてこなくていいって言ったのに。全然お千ちゃんと話できなかった」

「・・・・・そんなこと言ったって、俺、と一緒にいたかったからさ」

「え?」

「だーかーら!おまえと離れていたくなかったんだっつーの!!」

「・・・!・・・・・・っ!・・・ンギャっ!!!!」

予想外の告白に驚いて、どう返そうか真っ白な頭で考えて歩いてるうちにつまづいて、転びそうになる。
危ないところを、平助くんが身体を抱くように支えてくれた。
平助くんは、安心したようにふーっとひとつ息をついた。

「大丈夫か?」

「う、うん」

「おっちょこちょいなとこと色気のねぇ叫び声は、全然変わってねーよな。ほんっとあぶなっかしくてほっとけない」

息苦しい。
身体が密着して、息がかかりそうなほど近くに、平助くんの顔。
こういう状況には、いまだ慣れない。
慣れようもない。
だって、ドキドキしすぎて、胸が苦しいから。

「お、もうすぐ日が落ちるな。、ちょっとこっち来いよ。寄り道しよーぜ」

「もうすぐ暗くなるよ」

「家も近いし大丈夫だって。それに、俺たち、夜道なんて慣れてんだろ?・・・・・・こっち。足元気をつけろよ」

平助くんに手をひかれて行った先には、きれいな川が流れていた。
夕日に照らされて、キラキラ輝いている。

「わぁ、キレイ!」

「まあ、この景色も綺麗なんだけど。もうちょっとだから座って待ってようぜ」

手招きされたところは、平助くんすぐ隣。
座るとすぐに平助くんは肩を抱き寄せた。

「くっついてろよ。・・・・さみぃだろ?」

寒くはない。
ないけど、こうしているのは、嬉しい。
平助くんの近くにいれるのは、すごくすごく嬉しい。
こてんと平助くんの胸に頭をもたげると、肩を引き寄せる手にぎゅっと力が強まった。

「昔さ、これより大きい川でふたりで石投げして遊んだよね」

「あーーー、あれな。おまえの神通力、スゴかったよな。何か巫女さんにでもなれるんじゃね?」

「なりません」

あの時は、こんなに穏やかな時を過ごせるなんて思ってもみなかった。
先が見えなくて、明日の命をもしれなくて、それでも前に進んでいた。
それを乗り越えて、今がある。

「・・・・・・あれから、だいぶ変わっちまったな。でも、俺、今が一番幸せかもしれない」

「うん。私も」

が、俺の生きる意味、だっていうことなのかな」

平助くんの声が、柔らかく私を包む。







日が落ち、あたりも濃紺に染まってきた頃。
ぼんやりとなにか浮かび上がるもの。
は、目をこらしてよく見つめた。
時間がたつにつれ、それがはっきりと明滅してるのがわかってきた。

「――――――!!」

浮かんできたのは、すごく幻想的な風景。
光っては消え、消えては光る。

「蛍・・・・・・・!」

「これ。と一緒に見たかったもの」

「すごい・・・・・!」

「どんな感動も、きれいなものも、と分け合いたい。・・・・・・好きだぜ、。ずっと一緒にいよう、な?」

こうやって一緒にいても、平助くんはどこか不安になるのか確かめるように聞く。
いつもではないけれど。
それは、まだふたりでいる時間が短いからなのだろうか。
私の想う力がまだまだ足りないからなのか。
これから一緒にいる時間が、そんな不安を消して行くだろう。
ずっと、ずっと。
これから、ずっと一緒なのだから。







「好きだ」








私も、と告白しようとした言葉は、平助くんの唇に飲み込まれた。








この運命の重さに、ひとりだったら絶対つぶされていたと思う。









ふたりだったら、乗り越えていける。












「ずっと、一緒にいような」











この平助くんの笑顔があれば、きっと。












ふたりで、ずっと。












ずっと、ずっと。










2009.4.11