寝顔 side千鶴

人のぬくもりがこんなに気持ちいいものだなんて。



少し前のは知らなかった。






















――― 奇跡・・・!!! まだ斎藤さん、寝てる!

は、これ以上見ると絶対穴が開くと思うくらいじーーーーーっと斎藤の寝顔を見ていた。
こうやってふたりで住み始めるようになってだいぶ経つ。
だが、今の今までは一度も斎藤の寝顔を見たことがなかったのだ。
けっしての起きるのが遅いわけではない。
斎藤が異常に早いのだ。

「かわいい・・・」

は頬杖をつきながら幸せな気分になっていた。
早起きは三文の得、と言うが、これだったら十文、いや百文くらい得かもしれない、と思った。

「一さん・・・・?」

小さな声で呼んでみる。
起きるかな?と危惧したが、・・・・・起きない。
は、微笑んで、また寝顔観察に入った。
長いまつげ。
ちょっと寄せられた眉。
悪い夢でも見てるのかな。
・・・・・・形のいい唇。
この唇に昨日も口付けられたって考えると、急にドキドキしてきた。
そして。
触れたい。
斎藤さんに、触れたい。
そう考えてしまう。

「ちょっとだけなら、いい、かな?」

そう呟いて、はそっと手をのばしかけた。
すると、その手は阻まれるようにつかまれ、その手が斎藤の手だとわかった時にはするりと逆の斎藤の腕がのびてきて、の体を抱き込んだ。

「・・・・・・んっ!!!!」

体勢を崩したは、あっと言う間に斎藤の下に組みしかれ、唐突に口付けられる。

「ん・・・む・・っ。んふっ・・・んんん」

斎藤の熱い唇が、の唇をふさぐ。
深く深く唇を合わせられ、息つく暇さえも与えられない。
まるで昨日の夜のことを思い出させるような口付けに、の体の芯はじんじんと熱くなりはじめた。


唇が離れたとき、の頭も体もしびれたようで。
何も考えることができず、ぼおっと斎藤の顔を見ていた。

「・・・・・・おはよう」

「おは・・・お、起きて・・・っ!?こんなの反則ですっ!!!」

「反則はおまえだろう。人の寝顔をずっと見てるなんて」

「・・・・・・いつから?」

「最初から。気配でわかる」

それも当然。
斎藤はこの幕末を戦いぬけてきた百戦錬磨の剣豪だ。
気配には鋭い。
それが、まさか寝てる時まで有効だとは思わなかったが。

「頬が赤いな」

斎藤の手がの頬を愛しげにたゆたう。
途端に、の頬はもっと熱を増す。
もうこうなれば、斎藤のペースで。





ただ。






は、朝から斎藤の腕の中。






とろとろと、とろけるだけ ―――


2008.10.17