ひとまず悲しい争いは終わり、時代は明治と名を変えた。
今、まさに激動の時代。
かつて戦火の中心に身をおいた新八、左之助、の三人は、ここ上野にいた。
あの戦いから逃れた原田とは一緒になり、とりあえず上野に居を構えるか、ということになり、ふたりでの生活をスタートさせた。
ゆったりした生活を送っていたふたりだったが、しばらくするとどこから聞きつけたのか新八が姿を現し、にぎやかな生活になった。
□ □ □
本日は、晴天なり。
そんな天気以上にうきうきした様子で、新八が酒を持って原田家におしかけてきた。
「よーーーうっ! おっ邪魔っしまっすよ! 左之いるかい」
「いらっしゃいませ、永倉さん。今日は、どうしたんですか?」
「胸が躍るような楽しい話を聞いちまったんだ。それを肴に酒でも飲もうと思ってよ」
新八の大きな声に呼ばれるように、左之助は奥から出てきた。
「なんだ、新八。まっ昼間から酒か」
「まあまあ、楽しい話があるんだ。聞いてくれや」
「あ。じゃあ、お酒の用意しますねっ」
「・・・待った、」
お酒の用意をしようとその場から離れたの後を追ってきた左之助に呼び止められる。
「はい?」
「おまえ、最近やけに新八に協力的だな。ほぼ毎日新八漬けで飽き飽きだぜ。もしかして・・・・・俺とふたりでいるのは嫌か。新八の方が良くなったか」
そう近づいてこっそり言った左之助に、は少しだけ冷たい視線を向けた。
嫌だなんて、そんなことあるわけない。
ちょっとだけ不満があるならば、最近左之助は朝も夜も関係なくを抱こうとする。
それが嫌なわけではない。むしろ求めてくれるのは嬉しい。
が、新選組十番組組長だった左之助の無尽蔵の体力に、がかなうわけがない。
正直、疲れていた。本当に疲れていた。
だから、新八がいてくれると助かるのだ。
「もうっ、知りませんっ!」
「お、おいっ、何怒ってんだ」
慌てる左之助を完全に無視して、はさっさとお酒の用意をした。
「ぷはーーーーっ。うめえ!!!左之、、耳の穴かっぽじって良く聞けよ」
「実はな」
と、新八はずいと身を乗り出した。新八につられての瞳は、好奇心でキラキラと輝いている。
「徳川の埋蔵金があるらしい」
「ええええええええーーーーーっ!!!そうなんですか!!??」
「興奮するのはわかるが落ち着け。声がでけえ」
「す、すいません」
まあ聞け、と言うと、腰をすえて話し出した。
「幕府の阿呆どもが江戸を無血開城した時あったろ?あの時、敵の野郎共は自分らの軍資金にしようと幕府の金を城中探したらしい。たとえ落ちぶれたとはいえ、徳川だ。たいした金があるだろうと期待していた。だが、探した城の中にはすでに金はなかったらしい。つまりすっからかんのもぬけのからだ」
「すっからかん!」
いや、驚きすぎだから。
おうむがえしで驚くに、左之助は苦笑する。
「おそらく、額にして300万〜400万両。途方もねえ数字だ。それを赤城山に隠したともっぱらの噂だぜ」
「へえ?しかし、そりゃああくまでも噂だろう?」
「ああ、ただの馬鹿らしい噂だ。逃げる途中に隠したんだろうって言われているが、どうだろうな。あの混乱の中、うまく誰にも知られずに300万両もの金を隠せたかってのも疑問だ。でもな―――夢があるだろう?」
「ああ」
とても嬉しそうに左之助は答えた。
「男は夢を追いかけるもんだ!行くぜ、左之!埋蔵金探しに!」
「おう!久々だ。ま、いっちょやってやっか!」
まるで新選組時代に戻ったみたいにやんちゃな表情。
は、嬉しくなって微笑んだ。
「も行くぞ」
「えっ、私!?行っていいんですか?」
「あったりまえだ。心配でおまえひとり置いていけるか。少し遠い旅になるがちょっとそこまで散歩する気分でついてきちゃあくれねえか。おまえのことはぜってえ俺が守る」
「左之助さん・・・」
「ああ、あちいあちい。まだ夏でもねえのにここだけ熱帯夜だぜ」
ふたりの様子に、新八は手でぱたぱたと仰ぐふりをした。
「んじゃあ、また明日来るからよ。準備しとけよ。左之、今日はあんまり啼かせすぎんじゃねえぜ」
「悪いな。それだけは約束できねえ」
「絶倫野郎」
何、その会話っ!
は、ぎょっとしてふたりを交互に見やった。
悪いな、と言って苦笑すると、新八は上機嫌で出て行った。
その途端。
左肩に左之助の手。
と思ったら力強く引き寄せられ、右頬に唇。
驚いてやわらかく触れた右を見たら、間近に左之助の顔。
「」
熱っぽい声。
「昼間っから・・・やです」
「じゃあ、夜だったらいいのか?」
「そういうわけじゃなくて・・・・・・あ・・」
左之助の唇は、そのまま首筋に当てられる。
吐息がさわさわとくすぐり、背筋がぞくぞくとする。
流される。
流されてしまう。
触れる手が。
名前を呼ぶ声が。
肌が。
全てが、熱い―――
「俺のせいでおまえが疲れてるってのはわかってる。それで俺を避けてるってのもわかってる。・・・・・・でも止められねえんだ。おまえのことを好きだと思えば思うほど、熱くて熱くて・・・たまんねえ」
熱を吐き出させない限り、この熱は止まない。
「いやか・・・・・・?」
向けられたのは切なそうな表情。
そんな顔、ずるい―――
その瞬間、は、左之助を受け入れた。
「・・・・・・好きだ」
好きだと紡いだ唇が、押し付けられた。
最初は軽く食むように。やがて、深く味わうように。
左之助の唇と舌は、上手にの少しの不満事さえ吸い尽くすようにうごめいた。
頭がしびれて、もう何も考えられない。
思うのは、左之助のことが好き、ということだけ。
左之助のことを好きだと思えば思うほど、触れてほしいと思う。
熱くて熱くてたまらなくなるのは、だって同じ。
また今日も、眠れない―――
その日左之助がを自由にしたのは、夜もとっぷり暮れた頃だった。
2008.10.10