静かな夜の奥底で


真紅のバラが良く似合う。
おまえを知るものは誰もがそう言う。
問われれば、おれも同意する。周囲を跪かさずにおかない、華やかで鮮やかな存在感。おまえは咲き誇る大輪のバラでもあるだろう。
だが、一人おまえと向き合ったとき、おれにはおまえが白い花に見える。
なにものにも染まらぬ、確固たる気品に満ちた一輪の純白に。
未だ開き切らず固い蕾のまま風に揺れる、神秘と可憐さ、そして変わらぬ清廉さを湛えた白き花に。
そう告げたなら、おまえはきっと笑うだろう。
密やかで美しいあの笑みで、『らしくない』とおれを揶揄することだろう。
『そうだな』とおれも苦笑して、いつものように並んで歩き出すだろう。
清らかな白い花を、誰よりも大切に守りたい。
傷つけぬよう、壊さぬよう、大事に大事にいとおしみたい。
なのに、もう一人のおれが叫ぶ。
なにものにも汚されることなき白き花を征服したい。白い花弁のひとつひとつに、おれの烙印を刻みたい。おれの色に染め上げて、決して逃れられぬ楔を打ち込みたい……。
おまえは言う。 
おれの事なら何でも知っているつもりだ、と。
だが、カミュー。それは大きな間違いだ。
人は他者を完全に理解することなど出来はしない。
おれが笑顔の裏で何を考えているか、決しておまえにはわかるまい。
おれの夜毎の夢の中で、そのしなやかな身体が幾度引き倒されたか、おまえは知らない。
形良い唇が貪られ、白い首筋を吸い上げられ、細い脚を割り開かれたか、おまえは知らない。
誰にでも均等に与えられる笑顔など欲しくない。
ならばいっそ、涙でいい。
おれだけに向ける顔、おれだけが上げさせる叫び、おれだけが流させる涙。
おまえのすべてを奪い取り、永遠にこの懐に閉じ込める。
おまえを組み敷き、ずっとおまえの知らなかったおれを見せたなら、おまえはどうするだろう? 嫌悪と侮蔑を浮かべるか? あるいは裏切られた悲しみを?
それでもおれはおまえを離すことは出来ないだろう。
嫌がるおまえを力で犯し、誰も救えぬところに閉じ込める。
おまえの瞳がおれだけを映し、唇がおれだけを呼び、やがて意識のすべてをおれが独占する日まで。
可哀想なカミュー……──。
おまえの泣き顔はどんなに綺麗だろう。
誇り高いおまえの流す涙は、どれほど清らかで美しいだろう。
誰も知らないおまえを独り占めし、おれは狂気に沈んでいく。
その手を離さず、おまえを道連れに。
それがおれの唯一の願いなのだ。

 

 

「んー。でもこれ、独りエッチシーンのモノローグにしては理屈っぽくありません?」
ニナが原稿から顔を上げた。エミリアは眼鏡を擦り上げながら頷いた。
「そうなのよねー。青騎士さんたちからのリクエストで、『たまにはシリアスなマイクロトフ団長を』って頼まれたんだけど、どうにも上手くいかないわあ」
「あの人、考えてるのがサマになんないんだよね」
アイリが失礼なことを言いながら笑い出した。
「第一さー、独りエッチするくらいなら、部屋に突っ込んでいくのがあの人だよね。『カミュー、好きだあああああ!!!』とか吠えながらさ」
「……そうね。他人に笑い掛けるカミューさんが気に入らないなら、その怒りはカミューさんにじゃなくて、微笑まれた相手に向かうと思うわ」
原稿を捲りながらリィナがしみじみと言った。その様子が簡単に想像出来てしまい、一同は溜め息をつく。
「『大切にしたいのに、壊したくなる』ってのは、やおいの王道的パターンだけど、あの二人には似合わないわね。特にマイクロトフさんには」
エミリアがぐったりと呟いた。
日頃驚異的な原稿の速さを誇る彼女だが、慣れない作風にはひどく時間が掛かる。昨夜から一睡もせずに書いたものの、まったく納得いかない出来なので苛立っているようだ。
「だいたいマイクロトフさんをシリアスに、っていう青騎士たちが間違ってるよな。何を寝惚けてるのさ、って感じ?」
「……そうよね。妄想の中で強姦したところで、さっさと達っちゃってたらシャレにならないわよね。カミューさんの侮蔑ってのは『早いな…………』って方向にいっちゃうじゃないのよね〜」
すっかりやさぐれてしまったエミリアの露骨な発言に、少女達は一瞬引いてしまった。このあたり、さすがに年長者は怖い。
「でも……、それを言うなら赤騎士さんたちも同じですね。『カミュー様の裸エプロン』だの『泣いてよがりまくるカミュー様』だの、やれそうもないことをリクエストするんじゃない!!ですよね〜」
「やっぱり基本は甘々ラブラブよね。慣れないことは肩が凝るわあ」
「ちぇーっ、それじゃやっぱり、ハードなやおいシーンは絶望かあ。アネキ、この際妄想でもいいから凄いシリアス・ストマン描いてよ」
「そうねえ…………でも今回のわたしの原稿も、やおいシーンは3コマしかないのよ…………」
「アイリちゃん、4コママンガでハードやおいは…………無理よね、やっぱり」
ニナががっくりと肩を落とした。が、すぐに少女は拳を振り上げる。
「負けないわよ、絶対に! すべてのマチルダファンのため、『目指せ! 壮大なるやおい超大作!!』なんだから〜〜〜〜!」

 

 

「…………っくしょ!」
いきなり身体の上でくしゃみをしたマイクロトフに、ベッドにうつ伏せたカミューが眉を顰める。
「……風邪かい?」
「い、いや……大丈夫だ」
鼻を擦りながらマイクロトフが微笑んだ。だがカミューはなおも言い募った。
「そろそろ冷える季節だからな。汗をかいたら、ちゃんと身体を拭いておいたほうがいぞ」
「ああ、そうだな……」
ふとマイクロトフが力を入れると、カミューは甘い声を上げた。
「うっ……そこ、凄く……いい。やめないでくれ……頼む……」
「無論だとも、やめないさ」
「ああ……やみつきになりそうだよ、マイクロトフ」
「そうだろう? しっかり学んだからな、どうだ、カミュー?」
「た、たまらない……ああ…………」
「悦んでくれて、おれも嬉しいぞ。これからは毎晩おまえを気持ち良くさせてやれそうだ」
「しかし、おまえ…………何処でこんなことを……?」
「タキ殿さ」
マイクロトフが、にっこり笑った。
「腰痛で苦しんでおられたのでな。見ていられなくて揉んで差し上げたところ、色々な技を教えてくださった。ほら、これなどどうだ……?」
「ひ…………あっ、気が遠くなるよ…………」
夜の行為で満足させられない分、他で埋め合わせようというけなげな男、マイクロトフ。
普段は吐かない甘い喘ぎを惜しげもなく上げ続けるカミュー。
マチルダ・サークルの思惑と妄想からはかけ離れた、それでも甘々な夜を過ごしているには違いない二人であった。

 


 

    マジで馬鹿だな、私って……(笑)
ぢつはこれがキリリクの前にあった腰揉みネタ。
 ネタだぶりなので迷ったけど、邪ユニットを
   出したかったので、アップしました〜。
      腰って、肩凝りと違って
 押されて初めて「痛え!」って思いません?

 それより、入力したものを消してしまうという
     大ショックな出来事が……!! 
  しかも消した量が半端じゃなかった……
自分の長編体質を心から憎んだ瞬間だわ(涙)

 

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