告 白


好きだ。
生真面目な顔で言われるたび、わたしは笑って答える。
わたしもだよ。
本当はおまえが同じ言葉を求めていることは分かっている。けれど、わたしは決まってそう返す。
時折、少しだけ不満そうに、同じ言葉を導き出そうとおまえは不器用な努力をする。
けれど話術で相手にならないおまえは、やがて諦め、それでも優しく抱き締めてくれる。
何故言わないか、わかるかい?

好きだ、愛している。

かつては多くのレディたちに、戯れのように吐き出した言葉。
それは繊細な音楽にも似て、彼女たちを魅惑する、いわば技巧の一つだった。
わたしは容姿や仕草、そして言葉を武器にして、限りない恋のゲームを泳いできた。
けれど、おまえに出会ってしまった。
融通がきかない一本気さ、何事にも全速で突き進む不器用さ。
それでいて純粋で、必死で、真摯な騎士。
わたしの持たないすべてを持っていたおまえに、いつしか惹かれた。
禁忌も常識も何もない、わたしは一生一度の恋に落ちたのだ。
おまえの存在が生きる意味となり、おまえの微笑みに勇気づけられ、おまえの腕に安らぎを知った。

知っているかい、マイクロトフ? わたしがおまえをどれだけ必要としているか。
おそらく、おまえが思う以上にわたしはおまえを愛している。
どれだけ言葉を尽くしてみても、この想いを伝えることなど出来はしない。
言い尽くしてきた言葉などでは、おまえの一言ほどの重みもないだろう。

だから、おまえを抱き締める。
封印された言葉の代わりに、想いのすべてを腕に込めて。
抱き返す腕の強さに、同じだけの想いを信じながら。
おまえのぬくもりに包まれて、おまえの鼓動を聞きながら、わたしは満たされ眠りにつく。
この至福が僅かでも長く続くよう、精一杯に祈りつつ。
もし、わたしの言葉を聞きたいのなら、わたしよりもほんの少しだけ長く生きてくれ。
命の終わる日、おまえの腕に抱かれていたなら、わたしはきっとおまえに告げる。

魂となっても愛しているよ、マイクロトフ。

 

 

好きだ。
おれにはいつも、それしか言えない。
わたしもだよ。
おまえは綺麗に笑って答える。けれど、決して同じ言葉は返らない。
いつでも軽く、同意するように頷くだけ。
おまえの気持ちが軽いなどとは思わない。
誰よりも誇り高く美しいおまえ。どんなことでも器用にこなし、さりげなくおれを支えてくれる。
いつだっておれは感じていた。おまえに柔らかく守られていることを。
知的で優雅、礼節に厚く、誰からも尊崇されるに相応しい男。
けれど、おれはもう一人のおまえを知っている。
自分のことには不器用で、おれのために自らを傷つけることを選ぶ、脆く儚い本質を。
おまえを守る。そう言ったならば、多分おまえは怒るだろう。
一人で立てずに騎士の誇りは貫けない、そう言うに違いない。
おまえは自ら作り上げた見えない盾で武装して、傷つきやすい心を隠している。
だが、おれがすべてを曝しているように、おまえのすべてを手に入れたい、そう思うのは間違いか?

おれの腕の中で泣いているとき、おまえは本当に美しい。
その涙さえも愛しているのに、それでも泣き顔を隠そうとするのは何故だろう?

あとどのくらい、おれに隠していることがある?
おれの想いは足りないか?
しがみついてくるその腕は、いつでも熱く燃えている。
それがおまえの答えだと思っていいのだろうか。
自惚れではなく、おまえがおれを求めてくれていると、信じていても構わないか?
いつでもなめらかに言葉を紡ぐおまえが、決して言わない一言を、声にされない一言を、感じていても構わないか……?

たとえ世界が滅んでも、おまえが傍に居てくれるなら、おれは笑って逝けるだろう。
命の消える一瞬に、おまえを固く抱き締める。
愛しているよ、おれのカミュー。
死んでもおまえと共にある。

 


 

互いに宛てたラブレター……ですな(笑)。

でも、マイクロトフはこんなにあれこれ考えたりしなそうだ。

さて、どっちの方が愛情が深いんでしょうねえ……。

ちなみに、夏の本の奥付に、この文を引用しています。

愛人が忙しくてイラスト頼めそうになかったので、穴埋めに(笑)

 

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