騎士団領よ、永遠なれ

 


二人でグラスランドの朝日を見よう。

眠りに落ちる直前に男の唇から洩れた言葉を反芻しながら、カミューは男の寝顔を見つめ続けていた。
デュナン統一戦争によって失われたマチルダ騎士団。その再興は、戦い終えた二人の悲願であり、新たな生きる目的だった。
出会いから青春時代のすべてを過ごした懐かしい街、誇りと信念の象徴であったロックアックス城。騎士団のエンブレムと共にその地を捨てたとき、迷いはなかった。騎士である前に、一人の人間であることを選んだから。大地に流れる罪なき民の血の方が、古い誓いよりも重かったから。
そして何より、傍らの男の魂がそれを望んだから。
カミューの価値観は常に一つだった。マイクロトフの本能の選択を受け入れること。その真っ直ぐな感情が突き進む彼方に、二人にとって望ましい未来がある。それは、カミューがマイクロトフという男を選び取ったときから今に至るまで、決して変わらない不文律だった。
彼とは異なり、思考で生きている自分には、時折進むべき方向を見失うことがある。より良い道を探そうとするあまり、身動き出来なくなることが。
そんな彼を導いてくれる光がマイクロトフという男なのだ。無論、本人はそんな意識はないだろうが、これまで幾度となくカミューはマイクロトフに救われてきたのである。
騎士団の長だったゴルドーの暴挙を憎み、心の底で激しく反発しながらも、マイクロトフの反逆という切っ掛けがなかったなら、自分はすべてを捨てることが出来ただろうか?
理性は時に、人を臆病にする。新しい道に進み出す機会を封じ込めさえする。本能の命ずるまま、正しいと思う道を突き進む男が傍に居てくれるからこそ、カミューは足を止めずにここまで来れたのかもしれなかった。
(わたしには、おまえが必要なんだ)
男の寝顔に、そっと心で語り掛ける。
(この手がおまえと繋がれているからこそ、同じ速度で歩くことが出来るんだ)
精悍な顔立ち、眠っている時さえ生真面目な表情。片腕をカミューの肩に回したまま、安らかな眠りを貪っている魂の片割れ。
マチルダ騎士団を再興すると決めてから、二人は何度もその手段を論じ合った。残った騎士は、同盟に走った彼らを裏切り者と見なすだろう。最終的な勝ち負けなど問題ではない。二つの信念があれば、二つの正義があるのだ。ロックアックスの騎士から見れば、彼らはひとたび捧げた忠誠を翻した重罪人に他ならないだろう。
相応の抵抗があるだろうとは覚悟した。出来ることなら穏便にことを進めたいが、あくまで争う姿勢を見せられたなら、戦いも辞さない決意だった。互いの信念を追い求め、道を分かった古い仲間に剣を向けることは相当の苦痛を伴うだろうが、それが二人の選択した道だったのだから。
共に同盟軍に参加した騎士らを従えて、数々の思い出の埋まるロックアックスに戻ったときに迎えてきた眼差しを、生涯忘れることは出来ないだろう。
あの日、自らの誇りに従って残ることを選んだ騎士たち。だがゴルドーが滅び、ハイランドのくびきから解放された彼らに残ったのは、絶望だけだった。
行き場を失った忠誠心、取り残された誇り。道を見失って苦しみながら、彼らは幾晩眠れぬ夜を過ごしたことだろう。
整然と軍列を整えてロックアックスに入った反逆騎士たちは、かつてマチルダの誇りであった騎士団そのものだった。一方で、それを迎えた騎士たちは幽鬼の如く憔悴し切っていて、すでに戦意など欠片も残ってはいなかったのである。
何度も話し合ったように、説得はカミューの役割だった。自らの信念を尊重した以上、何ら恥じることはない。過去を忘れ、共に失われた騎士団を再興するために力を貸してくれ。誠意を尽くした説得に、半数以上が従った。そして、残りは騎士であることを捨てたのである。
ロックアックスに残った騎士も、すべてが心からゴルドーに心酔していたわけではない。その傲慢で権力を振りかざした支配に、魂からの忠誠を捧げ続けていたのではないのだ。多くのものは誓いに縛られ、身動き出来なかっただけ。あるいは家族を残して反逆の汚名を負うことに怯えていたのだ。そうした騎士たちは、くびきの外に踏み出せなかった自ラを恥じ、騎士である資格はないとの結論を出したのである。
カミューはそんな彼らを引き止める言葉を持たなかった。退くこともまた、誇りの一つ。そうした決断を下した騎士の痛みを察すればこそ、敢えて去り行く男たちの背を見送ることに努めたのである。

そして、昨夜。
新たなるマチルダ騎士団の構築の第一歩として、すべての騎士を集めた閲兵の儀が執り行われた。大広間に集結した騎士たちの表情は、みなぎるばかりの希望に輝いていた。
同盟軍に参加した騎士と、残った騎士とが交じり合うようにして立ち並んでいることが二人を喜ばせた。一度は敵味方に分かれた男たちが蟠りを捨てて、一つの目的のために手を取り合うことこそ、彼らの望んだ最初の一歩だったからだ。
一段高くなった壇上に、その椅子はあった。最高指導者に与えられる緋の椅子である。そこから放たれる命令は、マチルダ騎士団の行く先を決める。騎士団そのものが崩壊し、序列がなくなった今、そこに座るものが騎士団長となるのは暗黙の了解と言えた。
カミューは当然のこととしてマイクロトフを促した。騎士たちがそれを望んでいることを感じていたからだ。
無論、彼らがカミューを低く見ているというわけではない。確かに、かつての序列から言えば赤騎士団長だったカミューの方が格上ということになる。だが、こうした混乱期において真なる指導者に望ましいのは絶対のカリスマ性だ。常に前進し続ける勢いこそ、新しい組織に必要な力なのだ。マイクロトフを頂点に戴く騎士団は、後ろを振り返ることなく時代を切り開いていくだろうとの確信があった。
困惑したようなマイクロトフに、カミューは微笑んだ。
おまえが騎士団を導くのだ、わたしはそれを支えよう。
居並ぶ騎士たちもまた、カミューの笑みを理解した。カミューもまた、騎士たちの崇拝の対象だっただけに、その意志を悟るのは簡単なことだったからだ。
マイクロトフが率いて、カミューが補佐する。それは理想的な支配体制に思われた。騎士たちはその選択をこぞって支持し、口々にマイクロトフの名を呼んだ。

しかし。

感激に顔を赤らめて頷くであろうと思われた男は、静かに首を振ったのだ。かといって、代わりにカミューを団長に据えようとしたわけでもない。彼はマチルダを去る意志を一同に伝えた。
衝撃に狼狽える騎士たちを笑みをもって眺め回し、自分たちのマチルダでの役割はすべて終わったと宣言した。そして、騎士の中でも殊に人望のある赤騎士団副長であった男を新団長に推薦し、カミューの手を引いて広間を出たのである。
誰よりも驚いたのはカミューだ。マイクロトフが新しい騎士団を捨てることなど考えもしなかった。人目もはばからず、痛いほどに強く握られた手。そこから伝わる熱が、次第にカミューを圧倒する。
帰還以来使っていた部屋に戻るまで、マイクロトフは一度も口を開かなかった。扉を閉めるなり激しく掻き抱かれて、男の真意を確かめる間もなくベッドに倒された。組み敷かれ、荒々しく衣服を剥ぎ取られる。身体の隅々まで探られて、やがて麻痺する思考の中でカミューは恋人に問い続けていた。
何故、と。
その答えは返らなかった。激しいまでに揺さぶられ、いつしか必死にマイクロトフに縋り付いていた。耳に吹き込まれる愛の言葉は、いつもと変わらぬ単調な響き。
好きだ、好きだ、好きだ……。
不器用な抱擁、乱暴な求愛。けれど魂を重ね合う崇高な行為。
いつになく急速に高められ、ほとんど同時に達した後、マイクロトフは荒い息も収まらぬまま、きつくカミューを抱き締めて言ったのだ。
二人で一緒にグラスランドの朝日を見よう、と。

古い約束だった。
マチルダで騎士としての役割をすべて終えたと認めたとき、カミューの故郷を訪れよう。二人で同じ大地に立ち、同じ風を感じよう。二人の新たな故郷を築こう。遠い昔、肌を寄せ合って、そう誓ったのだ。
それが今なのだろうか? 本当に自分たちの役目は終わったと、マイクロトフは考えているのだろうか。傍らで寝息を立てる男の横顔を飽かず眺めながら、カミューは考え続けていた。

夜が明けようとしている。窓から忍びやかな光が差し込んでいた。その光が最初にベッドに伸びたとき、マイクロトフはゆっくり目を開けた。巡らされた目線がカミューを捉えると、幸福そうな笑みが浮かんだ。
「……珍しいな、おまえの方が先に目を覚ますとは」
寝起きの、やや掠れた声が言った。しかし、すぐに眉が顰められる。
「ひょっとして……、眠れなかったのか?」
「………………」
「……そんなに……酷くしたか……?」
どこかポイントを外している不安げな男に、カミューはうっすらと微笑んだ。
「そういう訳ではない。ただ……考えていたんだ」
「……またか」
苦笑混じりに応じると、マイクロトフはカミューの肩に回していた手に力を込めた。男の胸に引き寄せられ、温かな鼓動が聞こえてくる。
「一人で考えるなと言っているだろう? おまえが悩み出すと、大抵ろくな結果にはならないと思うぞ」
「……そうかもしれないな……」
マイクロトフはもう片手もカミューに回してきた。両腕でしっかり抱き締められると、子供のように安堵できる。カミューは男の厚い胸に顔を埋めた。
「本気で……騎士団を捨てる気か?」
くぐもった声で問い掛けると、マイクロトフは笑いを含んだ声で答えた。
「捨てる……、というのが正しい表現かどうか、おれには分からないが……ここに留まらない、という意味で訊いているなら、そうだ」
「何故だ?」
柔らかく髪を弄ぶ男の指に、ほのかに性感を刺激されながらも重ねて問う。
「今が……騎士団にとって一番大事な時期だとは思わないのか? わたしも含めてすべての騎士が、おまえの団長就任を希望している。それを振り切ってまで、出て行く理由が何処にあると言うんだ……?」
「理由、か」
そっと髪を撫で付けながら、マイクロトフは半身を起こした。声を上げる間もなく体勢が入れ代わり、真上から黒い双眸が優しく見下ろしてきた。
「……そう決めていたからだ」
「何だと……?」
「マチルダ騎士団を再興する。おれたちが出会い、共に過ごした騎士団を元に戻す。それがおれの、騎士としての最後のつとめとなるだろう……、と」
「マイクロトフ……」
「おまえの言いたいことは分かるとも。中途半端だと責めたいのだろう? 確かに今が一番大事なときかもしれない。だが……今を逃せば、二度と去ることは出来なくなる」
口調は静かだった。およそマイクロトフとは思えないほど。それが彼の長い思案の結果であると、カミューも感じずにはいられなかった。
「新たな支配体制が築かれれば、それを安定させたいと誰もが願うだろう。その願いを振り切ってまで、我を貫くのはつらいことだ。それくらいなら今、まだ混沌としているうちに消える方が余程いい。下手な期待を掛けられる前に、おれは逃げるんだ」
「………………」
「……おれにとって一番大事なものが分かるか、カミュー?」
「騎士の誇り……だろう?」
そう信じて疑ったことはない。即座に答えたカミューに、だがマイクロトフは苦笑した。
「いつも言われている言葉だが……、今日はそっくりおまえに返すぞ。鈍いな、カミュー」
「なっ……」
思わず言い返そうとしたが、叶わなかった。降りてきた男の唇が、一瞬早く彼の唇を塞いだからだ。朝まだきには濃厚すぎる口付けに、やや息を切らせた頃、マイクロトフがひっそりと言った。
「おまえだ」
それからもう一度、触れるだけの口付け。
「おれの大切なものは、おまえだけだ……カミュー」
目を見張るカミューに、マイクロトフは穏やかに笑った。
「戦いは終わった。騎士団も再興を果たした。これからのマチルダがどうなるか、おれにもわからない。だが……ここにいる騎士のすべてに、あの戦いの誇りは生き続けるだろう。だとしたら、おれたち二人くらい抜けても大丈夫だと思わないか、カミュー?」
「マイクロトフ……」
「彼らの気持ちは嬉しいと思う。こんなおれを必要としてくれるのを、感謝せずにはいられないさ。だがな、カミュー。この戦いを通じておれは学んだ。手放すことの出来ない価値あるものは、決して多くはないということを」
常になく饒舌に言葉を操る男を、戸惑ったまま見上げているカミューの額に、またも優しい口付けが降り注いだ。
「おれが大切なのはおまえだけだ。戦い終えた褒美に……、おまえを独占する生活が欲しい。駄目か?」
目に映る男の笑顔がぼやけたような気がした。カミューは目を伏せ、小さく息を吐く。
「それで……おまえは後悔しないのか? 騎士団長だぞ? マチルダの頂点だ。剣と誇りと忠誠……、尊崇のすべてを捧げられる人生を、わたし一人と引き換えにするというのか……?」
「何を後悔することがある? おまえ以外に、望むものなど何もない」
「マイクロトフ……」
「もう何も言わないでくれ、決めたんだ。迷っているなら、攫ってでも連れて行くぞ」
骨が軋むほど抱き締められ、苦しげに洩らす吐息に切ない色が混じる。未だに困惑している彼を、マイクロトフは言葉どおり実力をもって捩じ伏せ始めた。割り開かれた身体に燃える情熱が打ち込まれる。掠れた悲鳴は口付けに吸い取られた。
疲れ果てているはずなのに、灯された火は業火となってカミューの身体を駆け巡った。どこまでも強く逞しい男の腕に、逃さぬとばかりにきつく戒められ、いつしかカミューは迷いを捨てた。
決めていたではないか、マイクロトフの本能を信じるのだと。彼の望みが、自分の望みなのだ。彼を独占したかったのは、むしろ自分の方かもしれない。騎士団長となったマイクロトフを見てみたかったのは事実だ。けれどそれ以上に、自分だけを見つめて欲しいと心の何処かで願っていたような気がする。
あの日、騎士の名などいらないと言った男。だが彼は騎士であることをやめられなかった。今、彼は本当にその名を捨てようとしている。名も無きひとりの剣士として、カミューの傍らに存在することを選んだのだ。
その選択を曲げることが自分に出来ようはずがない。この世の誰も、マイクロトフの意志を変えることなど出来はしないのだ。
「マイクロトフ……、マイクロトフ……」
「カミュー、おれのカミュー……生涯変わらず、おまえと一緒だ……」
切なく呼び掛ける声に応える響きは、この上もなく重々しかった。一切の迷いもなく、欠片ほどの誇張もない、マイクロトフの唯一絶対なる意志。
「ああ……」
白い眦を伝い落ちた涙に、マイクロトフはそっと唇で触れた。差し込むロックアックスでの最後の朝日に見守られた、それは誓いの儀式に似ていた。

 

「それで……グラスランドでどうするつもりだ?」
同盟に身を投じたときのように、ほとんど身一つでロックアックスを出ようとしていた。互いの馬に括り付けた荷物は少ない。剣と互いがあれば、それで十分だった。
「そうだな……」
カミューの問いに、マイクロトフは考え込んだ。
「……おまえ、本当は何も考えていないんだろう」
やや警戒しながら言ったカミューに、彼は破願した。
「実はその通りだ。第一の目的は、おまえとグラスランドの大地に立つこと。次が、一緒に風に吹かれること。そして……朝日を見ること。以上が、おれの望みだ」
「……言いたくはないが、おまえ……無計画にもほどがあるぞ」
呆れ果てて溜め息をつくカミューだが、マイクロトフはまったく頓着していないように頷いた。
「認める。まあ……考えるのはおまえに任せるよ」
「……一人で考えるなと言ったのは、何処の誰だ?」
憮然として呟くが、マイクロトフとしてみれば、新しい生活の主導権を渡そうとしているのかもしれない。
「一人で悩むな、ってことだ。何にしても食うくらい、どうにでもなるだろう。おまえが横で笑っていてくれれば、おれは何だって出来るからな」
「……言ってるがいいさ」
しまいに照れ臭くなって顔を背け、カミューは密かに笑みを洩らした。こんな台詞を恥ずかしげもなく吐けるところが、真似出来ないマイクロトフの凄さなのだ。
ロックアックスの街を出て、漠と広がる草原に踏み出そうとしたときだった。そこには整然と列を作る騎士たちが待ち受けていた。現在のマチルダ騎士すべてが集結したのではないかと思われるほど、その数は凄まじい。彼らは騎馬部隊を中心として、二人の行く手を遮るように放射状に隊列を組んでいた。
二人は戸惑いながら緊張した。あるいは彼らが、自分たちの出奔を許さずとの意見に到達したのかと考えたからだ。だが、一群の中から代表するような形で進み出た男は、穏やかな笑みを浮かべていた。昨夜、マイクロトフが新しい団長にと推薦した男だった。男は馬上から二人に礼を取った。
「……やはり、行ってしまわれるのですね」
やや残念そうに言う。
「昨夜……我らは長いこと話し合いました。そして、これがわれらの心です。どうか……お健やかにお過ごし下さい、カミュー様、マイクロトフ様」
二人は顔を見合わせた。
「そして一つだけ……、お心に留め置き下さい。我らが主君と仰ぐのは、いつまでもあなた方お二人です。騎士団長の名はお預かり致しますが、剣と忠誠は常にお二人に捧げております。われらの力を必要として下さるなら、いつ、どのようなときにも駆けつけましょう。我がマチルダ騎士団は、お二人の誇りを汚さぬよう、新たな国の守りの柱となりましょう」
「…………ランド」
カミューは男の名を呼んだ。赤騎士団長となってから今日まで、誰よりも力強く彼を支えてきてくれた、赤騎士団副長であった男。そして今日からは、新生マチルダ騎士団の団長となる男の名を。
「感謝する……。マチルダ騎士団領の未来に、幸あらんことを」
「……マイクロトフ様」
男はマイクロトフに目を向けた。
「我ら赤騎士団員は……出来ることなら何処までもカミュー様について行きたいと心より願っておりました。どうか、カミュー様を……」
マイクロトフは言葉を詰まらせた男の心を察したように頷いた。カミューがそう望むから、彼らはここに残るのだ。彼の戻る場所を守るために、彼の誇りとなるように。
「……心得ている。おまえたちの赤騎士団長は、おれが必ず守ろう」
今度は青騎士の一人が進み出る。
「カミュー様、よろしくお願い致します。何しろマイクロトフ様は、こうした御方ですから……」
苦笑を込めた言葉に、一同が笑いを洩らした。マイクロトフが渋い顔をするのに、カミューも横で肩を震わせながら頷いた。
「おまえたちの青騎士団長のため、わたしに出来る限りのことはしよう」
隊列を乱さぬまま、彼らは二人のために道を開いた。左右に分かれた騎士たちが、マチルダ騎士団の最高礼を取る。二人もまた、礼を返しながら開かれた道に踏み出した。

何処へ行こうとも二人が一つであるように、ロックアックスは心の故郷である。ここで過ごした青春の日々は、永遠に美しい記憶として胸に生き続けることだろう。ふと目を向けたカミューに、マイクロトフの満面の笑顔が返ってくる。言葉はなくても、想いは同じだった。

生涯、変わらず共にあろう。

いつまでも見送る騎士たちの真摯な視線を背に、二人は新たな人生に向かって、互いの馬に鞭を入れた。

                                       


一度は書きたかったグラスランド旅立ち編。
でも最近、離れ離れ編にも心惹かれる私……。
マイクロトフ、格好良い男を目指したんですが、どうでしょう。
しかし無計画な二人……。
数年後には、グラスランドの盗賊の親玉になってたりして(笑)

 

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