ある晴れた日、青騎士マイクロトフは唐突に気づいた。
何故、自分がこれまで女性に対して関心を持てなかったのか。
常に傍らにあった美しい友、赤騎士カミューの優美な微笑み。
いつか彼に言われたことがあった。
惚れたら、まず身体が動くと。
カミューを見て感じる下腹の疼き、それこそマイクロトフの初めて覚える衝動だった。
思い込んだら、もう止められない。
彼は信頼する青騎士団長の元へ走った。
必死の形相で同性との性交渉の手解きを願う部下に、団長は初め戸惑い、それから納得したような笑みを浮かべた。
間髪入れずに部屋を出ていく部下を見送り、低く呟く。
「あいつも大人になったなあ……しかし……、カミューも気の毒に────」
マイクロトフはその足でカミューを訪ねた。
恋に関して百戦錬磨の達人を相手にするわけだ。口説き文句の一つも吐かねばと道中必死に考えるのだが、考えるそばからぽろぽろと忘れてしまう。慣れないことはするものではない。
扉を開けるなり、愛する男が驚いたように迎えてくれた。
「どうした? ドアが壊れるだろう、もっとそっと開けろ」
いつものように静かに嗜めるカミューの腕を捕えた瞬間、何とか一つだけ頭に引っ掛かっていた言葉が迸った。
「好きだ、カミュー!」
「は?」
「おまえが好きだ!」
そのまま手荒くくちづける。カミューはほとんど自失状態で、抵抗は返ってこない。
(これはいける!)
マイクロトフは勢いに任せて彼をベッドに押し倒した。
「ち、ちょっと待て! マイクロトフ、わたしは男だ!」
「わかっている! だが、止められない! おれにとって、おまえは『ただ一人の相手』なんだッッッ」
鼻息も荒く言い放つなり、マイクロトフはカミューの衣服を剥ぎ取り始めた。友が力で自分にかなわないのは先刻承知である。
「お、落ち着け、落ち着いてくれ!」
「駄目だ、可愛い、可愛いぞカミュー!」
「やめろ、わたしは……あっ」
「大丈夫だ、ちゃんとやり方は習ってきた。おれに任せてくれ!」
「任せ……って、ちょっと、どこ触って……マイクロトフ!」
「おまえもおれが好きだろう? 好きだよな、わかってる。わかっているとも!」
「待てと言ってるだろうが!」
口では抗っていても、カミューが自分を嫌っていないことは確かだった。見つめる眼差し、言葉の端々に自分への愛情を感じ取っていたマイクロトフには、カミューの抵抗は一種の照れ隠しにしか映らない。
「一生大事にする! 幸せになろう、カミュー!!!」
「人の話を聞け〜〜〜〜〜!!!!」
行為の後、ぐったりと俯せるカミューの身体を背後から抱き寄せて、マイクロトフはうっとりと囁いた。
「────よかった、感じさせられて」
もはやカミューは何も言う気はないようだ。
手に入れた運命の恋人を固く抱き締め、マイクロトフは沸き起こる情動にまたも素直に身を任せるのだった。
おわり。