皆様、こんばんは!
本日は、我が新都市同盟軍に集う多くの女性方の御希望にお応えして、かねてより恋仲と噂される元マチルダ騎士団長のお二人を密着調査することに相成りました。
なお、この模様は、我が軍の奇人発明家アダリー殿作成の「録音機」なる代物にて記録しております。盟主ウィン殿が言われるには、後に希望者を募って観賞会を実施するとのことでした。調査の臨場感が伝わるよう、精一杯に頑張らせていただきます。
申し遅れました、担当はわたくし、フー・タンチェン。通常ならば探偵リッチモンド氏が任命されるべきなのでしょうが、彼は現在、依頼された調査で手が塞がっているため、わたくしにお鉢が回ってきました。料理勝負の司会の腕を見込まれたようです、ここは喜んで良いものか?!
さて、先ずは赤騎士団長カミュー殿の部屋へと御邪魔してみました。
……御留守のようです。お隣、青騎士団長マイクロトフ殿のところへ行っているのでしょうか。
実は、お二人の部屋を分ける壁には覗き穴が作られているのです。こんな時も来ようかと、不在中にこっそりと穴を開けておいた、とウィン殿は語っておいででした。お二人には気付かれないように、普段は壁掛けで隠してあるのだとか……。
一軍を率いる御方が居住者の部屋に覗き穴を作るなんて許されるのでしょうか、と畏れ多くもお尋ねてみたところ、「リーダーだから良いんだ」との潔い回答を頂戴しました。女性陣の希望に誠実に応じるあたりは流石はリーダーと言ったところか、我らがウィン殿!
では、失礼して……万一にもお二人に気付かれぬよう、細心を払った小声でお伝えして参ります。よっこらしょ。
おおっ、何ということか! この穴からは見事にベッドが見えます!! はっきり言って一点集中、もはやウィン殿、噂を確定事実として捉えていたとしか思えません!
残念ながらお二人の姿は見えませんが、話し声は聞こえます。やはりカミュー殿はマイクロトフ殿と御一緒でした。
しかし周囲の期待も虚しく、単に親交を温めているだけのようです。騎士のお二人、剣の技や戦略について話に花を咲かせているのでしょうか?
わたくし、ちょっとがっかりです。
男同士で仲睦まじく過ごす姿を何が何でも見たかったとは申しませんが、この報告を楽しみにしておられる皆様を思うと……と?
おおっ?!
これは……イキナリ、イキナリです!! マイクロトフ殿がカミュー殿をベッドに押し倒しました! 噂は本当だったとは! わたくし、驚きのあまり「録音機」を取り落としそうになってしまいました!
それにしても、「臨場感を大切に」とは言っても、小声で叫ぶのはなかなか難しいものです。
……と、泣き言はこれくらいにして、実況中継に入らせていただきます。何が起きようとも目を背けず、忠実に再現に努めたいと思います、司会者の誇りに懸けて!!
猪もどきの勢いでカミュー殿を押し倒したマイクロトフ殿、必死の形相とでも言うのでしょうか、戦場にて、こんな顔で迫られるであろうハイランド兵が気の毒になるような、それはそれは凄まじい気迫です! 赤らんだ顔が何とも新鮮な青騎士団長、当年とって二十六歳!
おや?
一方のカミュー殿……もがいております、マイクロトフ殿を押し退けようとしています。
これは! もしや合意ではないのか、無理矢理なのでしょうか?!
何という場面に遭遇してしまったのでしょう、これが合意でないならば、人として制止に入るべきか? それとも任務を優先すべきなのかー!!
マイクロトフ殿、わたくしの葛藤も知らず……知られても困りますが、抗うカミュー殿の唇を奪っています! せ、せっ、接吻です! カミュー殿の食の好みに倣って洋風に言いますと「キッス」です!
これは凄い、まるで麺類を吸うが如きマイクロトフ殿の攻撃です。しかも両手でカミュー殿の手首を掴み、抵抗を封じております。
あっ。たった今、「好きだ」と聞こえました。告白よりも実行が先か、マイクロトフ殿!
「思い込んだら突っ走る直情タイプ」とは良く言ったものだ、パーフェクト探偵リッチモンド!! しかしこれでは突っ走り過ぎです、カミュー殿、なすすべもありませんっ!!
こうして解説する間にも、マイクロトフ殿はカミュー殿の衣服を脱がそうとしております。手際が悪そうに見えるのは、あの服の構造が複雑なのか、それともマイクロトフ殿が不器用なのか?!
ああもう、見ていられません。やはり料理は手際が肝心、下ごしらえの手際が優ってこそ、制限時間内に完成するというものです。我らがシェフ、レストランの支配者ハイ・ヨー殿を見習って欲しーい!!
……やっと上を剥いたようです。
続いて下か、それとも小休止して触るつもりか? あまり暴れられては、下を脱がすのは難しそうですが……おや?
おやおやおや?
カミュー殿、急に抵抗を止めてしまいました。いったいどうしたと言うのでしょう?
簡単に諦めるなど、騎士らしくありません。どんなに絶望的な状況であっても、最後まで希望を捨てずに立ち向かう、それが誇り高きマチルダ騎士ではなかったのか?!
おーっと、それどころか抱き返しております!
どういうことだ? 二人は相愛だったのかー?!
ちょっと耳を澄ませてみましょう、……「いつもそうなんだから」?!
何と、今宵が初めてではなかったようです。ならば、さっきの抵抗は何だったのか?! これはあの、「少しだけ嫌がってみせて男を煽る」という手管なのでしょうか?
だとしたら、恐ろしい技です。計算づくなら悪女さながら、無意識ならばなお悪い。何という男殺し、赤騎士団長カミュー殿! 部下の皆様が日々よろめいているのも無理はありません!!
ともあれ、どうやら合意ということで、安心しました。これで良心の呵責を感じず、実況に専念出来ます。
マイクロトフ殿、無事にカミュー殿の服を脱がせることに成功しました。がしかし、マイクロトフ殿の服に隠れてしまって騎士団員の皆様が「玉のお肌」と噂する素肌が今ひとつ良く見えません。
相手を裸にしながら御自分は着衣のままとは、マイクロトフ殿に限って身体に自信がないということは有り得ない。事を急いているのでしょうか、何という横着ぶり!
わたくし、覗く角度を色々と変えてみてはいるのですが……駄目です。カミュー殿の上気したお顔から推察するに、どうやら、あ、愛撫を施されているようですが……これは予想外の事態だ、詳しい状況がお伝え出来ないとは!!
おーっと、わたくしが無念に身悶えしている間に、早くもマイクロトフ殿、突進の構えか? カミュー殿の長い脚を抱え上げたー!! ちなみに抱え上げたのは右脚です、左側はまったく見えない!!
入れた……?
入れたのでしょうか、マイクロトフ殿?! ちょっと前振りが短くないか、幾ら何でも急ぎ過ぎではないでしょうか、それでカミュー殿は気持ち良いのか?!
何ということでしょう、あの誇り高き赤騎士団長が泣いています。やはり慣らしが足りず、痛かったのではないかと思われます。わたくしの胸も痛んでおります、耐えてください、カミュー殿。
ああ、凄い……凄い勢いです。流石は肉好きマイクロトフ殿、力が有り余っているようだ!!
技巧の方はどうなのでしょう、想像もつきません。ともかく前後左右に大揺れで、ベッドは激しく軋んでおります。カミュー殿もつられて仰け反っているー!!
これはもう、勝負と言っても過言ではない! わたくし、黒竜料理会のジンカイ殿がレストランに乗り込んできた日にも相当する興奮を禁じ得ません!
だがしかし、これはレシピを巡る戦いではないっ。愛の、愛ゆえの戦いなのです!!
それにしても、いい加減、目が疲れて参りました。小さな穴から片目で覗き続けるのがこれほど辛いとは思いも寄りませんでした。中腰で屈み込んでいるため、足も痺れています。
しかし!!
司会者の意地と誇りに懸けて、投げ出したりはしません! 最後までお伝え───出来そうです、どうやら終わったようです。
ううむ、これはどうなんでしょう? 持続性という点では如何なものか? わたくしにとっては長かったようであり、一瞬であったようでもあり……ここはやはり、個人的な感想は避けた方が無難でしょうか。
マイクロトフ殿、ぐったりとしたカミュー殿を上掛けで覆っています。
おや? そのまま部屋を出ようとしている……? 直後の恋人を残して外出というのは、ちょっとまずいのではありませんか?
それとも、身体を拭くための水でも取りに行くのでしょうか。前もって用意しておけば……いやいや、今宵は行為に及ぶと予想されていなかったのかもしれませんが。
ともあれ、カミュー殿の様子は窺えません。疲労困憊といった雰囲気は、この覗き穴からも伝わって来ますが……、心より無事をお祈りしたいと思います。
……ん?
いや、気の所為か。今日は見張り騎士の皆さんは遠ざけてある、とウィン殿が言っていたし……。
でも……隣の部屋を出たた足音が……。
そう言えば、前に「騎士は周囲の気配に敏感だ」と聞いたような…………あーーーーーっ!!!!!!