大オベリスク(obelisk)の運搬法(仮説)
How to transport the heaviest Obelisk(Hypothesis)
(修正2024年3月1日、初稿2022年11月19日)

世界最大のオベリスク(obelisk)は古代エジプト18~19王朝の未完成品らしい。推定重量1,170トン、長さ40メートル。切り出す前に材質に割れが見つかり放棄されたらしい。手を付けたということで、当時は運ぶ手段は有ったに違いない。

遊動円木(a swinging pole)という遊具が昭和初期には公園にあった。水平に吊った丸太に子供が乗って前後に漕いで揺らして楽しむ遊具。これに似た動きをするものに寺の鐘楼の撞木(しゅもく)がある。遊動円木は危険ということで最近は見かけない。このような長大な荷物のぶら下げ方を、ここでは「撞木吊り」と呼ぶことにした。

撞木吊りされた荷物(吊り荷)は、前後左右に少しぐらいなら揺さぶることができる。次の図は撞木吊りの模式図である。富山県小矢部市桜町の縄文遺跡から発掘されたY字材をヒントにオベリスクの撞木吊りの支柱(傾けて曳き縄で引き起こせばテコ棒の役を果たす)に倒れにくいY字材を使って想像図を描いてみた。(描くにあたって271828nakashima氏のブログを参考にした。感謝。2023-1-30。)

  
第1図 撞木吊りの様子

撞木吊りは長距離の運搬には向かないが、ソリに乗せたり、コロに乗せたり、組み立てたりする時、非常に重い吊り荷の上下・前後・左右への移動に向く。オベリスクもそのようにして立ち上げる場所まで運ばれる予定だったのであろう。
Y字材のテコ棒2対の頂端の力点から下げた一本の吊り縄をで作ったテコ棒の頂端に曳き縄をかけて多人数で引き起こせば、動滑車の原理による省力に加えて'縄テコ'という強力な省力効果も生まれる。
縄テコ1本でオベリスクを引きずるだけならば、吊り荷としてのオベリスクの重量は約半分になると考えて良い。接地している部分の目方が半分以上になるからである。ただし引きずる時は接地部分との摩擦による抵抗も曳き手に掛かってくる。

引きずらないでソリやコロで運ぶためには、まず片側(約500トン)を持ち上げなくてはならない。
撞木吊りで得られる省力効果について
テコ棒として木材を組んだ二又、あるいはY字型をした二股の自然木(Y字材と呼ぶ)、現代なら梯子を最低限二対(4本)と縄(伸びにくい麻縄が良い)を2本用意する。
一対のテコ棒を1,000トンの吊り荷の一端に左右から非常に浅く立てかけ、吊り荷の一端の下を通した縄1本を向き合ったテコ棒の頂端に取り付け、ロープを左右から引き起こすと、吊り荷の一端が持ち上がる。他端も同様にして持ち上げることができる。テコ棒一対を用いると、動滑車の原理でテコ棒一本あたり250トン持ち上げれば良いことになる。一対のうち片方の曳き縄を立木あるいは杭などに固定すると、持ち上げる高さは半減するがもう片方の曳き縄に掛かる力は変わらないため人数が節約できる。
重くて持ち上がらないときは、人数を増やすかテコ棒の最初の傾きを更に浅くする。或いはテコ棒を増やしたり、より長いテコ棒を用いたりするという解決策がある。
このテコ棒の使い方は日本でも古くから使われてきた伝統の運搬法の一つの「縄テコ」だと著者は考えている。一般に知られているテコと違うところは、見えない作用点の位置がテコ棒の傾斜角で決まるところである。
支点・作用点間距離は、テコ棒頂端の力点からの鉛直線とテコ棒基部の支点からの水平線の交点という特殊な関係になっており、仮説を立て実験した結果から作用点の位置を決定することは簡単であったが、この作用点は目に見えない。
支点作用点間距離(L)が梃子棒の垂直からの傾斜角と連動しているので、(L)が無限に小さい時梃子棒を引き起こせば最大の省力効果が得られる。荷重1,000トンのオベリスクでも軽く引きずったり、持ち上げたりできるのである。縄テコを使い曳き縄の途中にモーメント(引く力学的方向)を最適に近づける柱(仮称起こし柱)を立てれば、立ち上げることも容易となる。オベリスクの重量は、起こし柱の基部やテコ棒の支点が支えており、立ち上がるほど曳き手の負担は小さくなる。テコ棒や曳き縄や吊り縄の強度が足りない時は縄とテコ棒のセット(縄テコセット)を増やせば良い。曳き縄係やとら縄係の連携は小さめのオベリスクで練習すればできるであろう。

オベリスクの立て方
オベリスクの立ち上げ準備: 必要な直径と深さの縦孔を掘り、オベリスクの基部を孔に向け押し込む。
オベリスクの上部の適当な位置に、「曳き縄」を結ぶ。同時にオベリスクの頂端近くに無駄な方向への傾きを防止するための「とら縄」3本を120°間隔で掛けて適度に張って待機する。
次に上端に深めの切り欠きを付けた「起こし柱兼テコ棒」の切り欠きに曳き縄をあてがい、その上端付近に新たに2本の「とら縄」を結び、「起こし柱」が左右にぶれないように適度な強度でとら縄で支えながら待機する。
曳き縄にあてがった「起こし柱」を立ち上げて曳き縄の途中部分に当てがい、曳き縄を持ち上げ、曳き縄が適度なモーメントでオベリスクを起こせるよう引き起こす角度を調節する。角度がよければ曳き縄を曳く。先端部とら縄の係はオベリスクがまっすぐ曳き手に向かって立ち上がるようにとら縄を操作する。それぞれの役目のロープ係に牽引指示係をつける。かなり危険な作業であろうが、立ち上げは不可能ではない。

ついでに三内丸山遺跡の掘立て柱群の立ち上げ法についても言及する。
  
第2図 起こし柱で巨大丸太を起こす方法
三内丸山遺跡の掘立て柱も長さは15メートル重さは5トンと言われている。それを縄テコで起こす場合起こし柱の初期傾斜角と高さで省力効果が得られ、作業に慣れていれば問題なく行えたであろう。

縄を使うテコを筆者は「縄テコ」と呼んでいるが、「起こし柱」も実は縄テコであり、縄テコでは吊り縄と曳き縄が交わる点が力点である。作用点は力点からの鉛直線と支点からの水平線が交わる点である。したがって支点力点間距離でテコ棒の長さを割れば省力効果が算出できる。なお吊り縄や曳き縄の長さはテコには関係しない。

ホームページへ