ミチコちゃんから聞いたお話しをしましょうね。
お話は、梅雨も始まろうとするある夏の日の夕方、呉羽山の林の中で始まります。
「ホッホー、ゴロスケホッホー」
と早口に鳴いている フクロウ のおじさんの頭の上から突然
「おじさん!」
とお兄ちゃんスズメの声がしました。
「妹達を探してるんだけど、暗くなりそうなのでこの木に泊まっていい? お家にしていた竹薮(たけやぶ)が無くなっちゃって困ってるんだ」
「- - わしの木じゃないから好きにしな」
フクロウのおじさんは答えました。
そして
「呉羽山も荒れていたからなあ。昔は山草を刈って家畜に食わせたり肥料にしたり、雑木は薪(たきぎ)や炭にしてたから、林はいつもすっきりしてたもんじゃ。
わしらは好物のねずみを捕まえるのに、何の苦労もいらんかった。
竹薮(たけやぶ)を取り払ったり、林をきれいにしてもろうたんで、昔に還ったようじゃ。あんたにゃ気の毒じゃが、わしゃ嬉しいね。どうだい?この飛び易さ!」
と言うと、フクロウのおじさんは、逆落しに飛び降りると、地上すれすれを音も無く滑空して、草むらでちらっと動いたねずみを捕り逃し、どこかへ飛んで行ってしまいました。
しばらく経ってから
「ホッホー、ゴロスケホッホー」
とずいぶん遠くから、鳴き声だけが聞こえてきました。
その夜、お兄ちゃんスズメは、「竹薮ない、お家がない」とつぶやきながら、眠ってしまいました。
さてあくる朝、キジの大きな鳴き声とはばたきの音で目が覚めました。
カッコー 、 ツツドリ 、 ホトトギス 。
ウグイス 、 キジバト 、 シジュウカラ 。
ヤマガラ 、 ホウジロ 、 カラス 、 トビ 。
みんなの声が聞こえます。
でも耳慣れた雀の大合唱が聞こえません。
お兄ちゃんスズメは妹達のことを思いだし、すぐに探しにでかけました。
大学の自然観察実習センターのナタネ畑のそばを通りかかると、
キジのお兄さんがいました。
「ぼくの妹達を知らない?」
「山のこっちでは見なかったよ。居るとすれば - - - 危ないっ!」
びっくりして飛び立つと、白黒ぶちのドラネコがすぐ後ろにせまっていました。
いつのまにかそーっと近寄ってきていたのでした。
「ありがとう」
「山の西側じゃないかねー」
ネコから離れながらキジのお兄さんが声を掛けてくれました。
山の西側では緑が濃くなり始めた水田で、
朝ご飯に蛙を食べている黒っぽいアオサギや真っ白なコサギ、
虫を追いかけているツバメの夫婦、
畦道にたむろしているカラスさん達を見掛けました。
サギのお姉さん達はツンとしているし、
ツバメの御夫婦は忙しそうだし、
カラスさん達は品が悪いし、
尋ねあぐんでいるところへ、カルガモのおばさんが通り掛かりました。
「ちょっとすいませーん。お尋ねしまーす!」
けれどもカルガモのおばさんは、やたらに翼(つばさ)をばたばたさせながら飛んで行ってしまいました。身体が大きいので飛ぶだけでやっとだったんでしょう。
一日中探し回ってお日様が西に沈む頃、呉羽山の西側で、大学病院に向かって飛んで行く仲間のスズメが、やっと見つかりました。
「みんな引っ越したんだよ。ついといで」
新しい雀のお宿は病院の中にありました。3階建ての窓付きの白い壁に囲まれた四角の小さな庭園なのに、2階に届くくらいうっそうと茂ったニッコウヒバやイロハカエデやカクレミノが、枝をくっつけ合って立っています。仲間達も三々五々帰ってきました。いつもの挨拶の大合唱の騒がしくも懐かしかったこと- - - 。
仲間が寝た後で、お兄ちゃんスズメは、妹達に冒険の話を聞かせてあげました。
車椅子のミチコちゃんは、スズメのお宿から夕方聞こえてくる大合唱や、スズメ達の会話を今日も2階の廊下で聞いているでしょうか?
お し まい
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庭の梅の枝で休むふくらすずめ 1995年冬(500mm望遠)
止まっても 飛んでも冬の 寒さかな
冬はさむいし、雪はつめたいし---。でも仲間がいるもんネ
春先、ヒメオドリコソウの花が咲く畑を散歩する呉羽山の雉。
そして3年目。一羽もいなくなりました。
坪庭はネットで覆われて、束の間の雀の桃源境、雀のお宿は、消滅しました。
たまの訪問客には雀の大合唱は微笑ましいものですが、隣接する部屋で、多分朝な夕な大合唱を聞かされている人はがまんできないでしょうね。
動物などを擬人化して作る童話は安っぽいそうですが、
舌きり雀・かちかち山・グリム・アンデルセン・イソップで育って来たんだもん。
いいじゃない。先ず作ろう。それから考えよう。