Great Pyramid Construction Methods (Hypothesis)
穴山 彊 (Tsutomu ANAYAMA) 富山大学名誉教授 元技術教育担当
(修正2024年3月16日、初稿2022年10月26日)
はじめに
大ピラミッドの石材の運搬技術は、日本の農林業や造園業などにも伝統的に残っている通称掛け縄(転がし運搬)と、仮称縄テコ(引きずりまたは持ち上げ運搬)と呼ばれる二つの省力運搬技術であったと思われる。
掛け縄は二本以上の縄を用いて丸太や石材を転がして運ぶ技術である(掛け縄運搬の実際)。
縄テコは縄を併用するテコで、テコ棒の力点に曳き縄と吊り縄を結んで、曳き縄を引いてテコ棒を引き起こすと吊り縄に結んだ吊り荷を省力で引きずったり持ち上げたりできる技術である。軽い吊り荷であればテコ棒の力点を直接掴んで引き起こしても良い。
巨石文明におけるあり得ない程巨大な石材の運搬においては、テコの原理や動滑車の原理を知らなくても利用すれば省力は得られる。テコ棒を多人数で引き起こせるように力点を縄で引いてもテコは効く。多人数でテコ棒を引き起こす縄を曳き縄と呼ぶことにする。また垂直に持ち上げるばかりが動滑車ではなく、巨石を転がせば動滑車の原理が働き水平路でも90度の傾斜路であっても最低50%省力できる。吊り荷(巨石)を引きずったり持ち上げたりする縄を吊り縄と呼ぶ。縄と綱の違いは、一説には前者は素材を綯った(なった)もの、後者は縄をさらに綯ったものを指す。テコに利用するときは伸縮性が小さい麻縄が向く。

掛け縄: 0~90°のあらゆる傾斜路で、100~50%の省力で平均2.5トンの石灰岩質巨石を転がして運ぶのに使われた。横長の四角柱石材ならば長めの丸太を4面に縛り付ければ八角柱相当の形状となるため転がせる。大ピラミッド四角錐の三角面中央部が傾斜路として用いられ、何万という数の石材が繰り返し運ばれたため、中央部のほぼ上から下までの帯状の凹みはそのためであろう。傾斜路問題の解決は早く済ませた方が良い。光の具合か写真撮影では痕跡が映ることがある。河江肖剰氏の著書日経ナショジオ「最新ピラミッド入門(2016)」のp.36にも三角面中央部に帯状の凹みが写っている。
縄テコ: 大きさや形がまちまちの転がせない石材を運ぶ時、縄テコセットで引きずったり持ち上げたりできる省力運搬技術である。大ピラミッドの回廊や玄室や天井板などに用いられた花崗岩質石材や転がせないほど大きい石材は、ピラミッド本体の四角錐建設の前までにピラミッド基部に搬入され、縄テコで前後上下左右へ運ばれて設計された位置で組み立てられたと推測される。
基部への搬入のために橇やコロに石材を載せる時、縄テコセットが必要な数だけ使われたと考えられる。縄の長短は省力に影響しないが、麻縄のように伸縮性が小さい素材の縄が向く。吊り縄には荷重の全てが掛かるため曳き縄よりも強度が必要であり、二重にして用いたかもしれない。テコ棒の力点を縄で引いて引き起こす時、力点には吊り縄に掛かる全荷重が常に掛かったままである。その荷重は支点側と曳き縄側に力点で配分されているだけである。支点側に配分された荷重は大地がこれを支え、曳き縄側に配分された荷重は曳き縄がこれを支えているだけである。配分の比率はテコ棒の垂直からの傾斜角と連動している
最も重要なことは、垂直に近い角度で立つテコ棒を引き起こす時、支点側に配分される比率は限りなく大きく、曳き縄側に配分される比率は限りなく小さい。縄を併用するテコでは棒テコとは異なり作用点が見当たらない。著者の研究によって見えない作用点は力点からの鉛直線と支点からの水平線の交点であることが明らかになっている。普通の棒テコでも縄テコでも、支点作用点間距離が小さい程大きな省力が得られることに変わりはない。縄文人を含め古代人は縄テコのこの利点を知っており、古代エジプト人は日本と同じく河川の氾濫などによる自然災害後の復旧で祖先が巨石・巨木の偶然見つけ伝統となった運搬法を利用してピラミッドを建築したものと思われる。

1. 小型の石灰岩質石材の運搬は掛け縄で行なわれた
掛け縄の使い方は、丸太の場合まず両端に縄を二本以上回し掛けし、下に来た縄を下縄(吊り縄)と呼び運搬方向の杭や立木などに固定する。この時動滑車の原理で吊り荷の重量の半分を杭が引き受けることになるので、曳き手が引く荷重は最大50%となる。四角柱石材でも側面に適当な太さの丸太を4本縛りつければ八角柱となり転がせる。 水平路であれば曳き手が引かなければならない荷重は0%となる(通路が滑らかで石材が車輪のように丸ければ。摩擦や慣性を無視すれば)。 第1図(動画)参照。

 
第1図 (動画) 50°の傾斜路で掛け縄で煉瓦を運び上げる様子
ギクシャクした回転ではある。マットで包んだり敷いたりすれば回転は滑らかになり上縄や下縄の損耗も防げる。

ピラミッドの外壁の階段状のステップは狭すぎて曳き手が力を出し切れず又危険でもある。そのため四角錐積み上げ休止期間(四角錐台期間)を設けたと考えられる。曳き手用の平たい足場を四角錐台の上部に四ケ所設置したと考えられる。また稜線への曳き縄の接触を避けるため逆さに立てれば安定して立つ二股の棒や二又で曳き縄が稜線に触れずに引けるよう持ち上げて支える必要があったであろう(第3図の横向きには倒れにくいY字材参照)。また後述のように内部の回廊や玄室の工事のための採光や換気や人夫の出入り口などとしても四角錐台の開口部は必要だったと考えられる。そのための四角錐外壁建設長期中断のため、ピラミッドには中断に伴う幾つかの横縞が残っており、特にカフラー王のピラミッドの横縞は顕著である。

掛け縄の省力効果は動滑車の原理によって得られることは容易に理解できる。例えば2トンの吊り荷の50%相当の荷重1トンは、下縄を固定した杭などに支えらるため全て省力される。傾斜路が水平ならば残りの荷重1トンも地面が支えるため上縄を引く力はほぼ不要である(摩擦と慣性は無視)。勾配が0°より大きい傾斜路では転がり落ちようとする石材の荷重1トンが下縄経由で力点に集中する。集中した荷重はテコの原理によって、力点で丸太の接地点(支点)側と上縄(曳き縄)側の二方向に配分される。配分の比率は傾斜路の傾斜角に連動する。配分の比率を知るためには作用点の位置を確かめねばならない。作用点の位置は次の仮説に依る。

仮説: 縄を併用するテコでは、力点からの鉛直線と支点からの水平線の交点が見えない作用点 ( invisible point of action = IPA)である
上記の仮説で10度刻みで10~90度の支点作用点間距離を計算値としてテコによる省力程度を次の計算式で得て、実測値と比較してみた。

          支点力点間距離
  配分の比率 = —————————
          支点IPA間距離

計算式と実測値の比較のグラフを第2図に示す。
  
第2図 梃子棒曳き起こしに要する荷重
計算値と実測値のグラフにずれはあるが、比例直線の相似から梃子棒の一連の省力効果は梃子の原理によると考えることとした。
縄を併用するテコ棒は垂直に立てておけば力点が吊り縄に掛かる全荷重を支点側と曳き縄側に配分するので、テコ棒の頂端が傾かぬように支える力はほぼ不要である。吊り荷を吊って垂直に近い角度で立っているテコ棒を水平に向かって傾けると、支点に配分されていた荷重の一部がテコ棒の力点に配分され直して戻って来る。したがってテコ棒頂端の力点に掛かる重量が増すため、曳き縄でテコ棒先端を支える力を増やさなければならなくなる。さもなければ吊り荷側や、思わぬ方向にテコ棒が倒れることが起こり危険な状態になる。長大なテコ棒の使用中は実験レベルでも周辺の人や物の安全に配慮する必要がある。
特に注意が必要なのは、吊り荷を吊上げた時のテコ棒の角度より下方にテコ棒を伏せると、支点側に配分されていた荷重が、前述のようにテコ棒頂端の力点に配分され直して、「予測していない大きな力がテコ棒頂端に戻って、吊り荷側どころか側方に倒れる可能性もある」ので、テコ棒長の半径以内に関係者以外を入れてはならない。

掛け縄運搬の実際を第3図に示す。小矢部市桜町の縄文遺跡から出土した一対のY字材の用途の仮説の募集があったので、河岸段丘の稜線に曳き縄が触れないように支えるためにY字材を使った、という仮説で応募した結果検証実験が行われた。第4図の写真から掛け縄運搬のおおよそをご理解戴きたい。あらゆる傾斜角で最低でも50%以上の省力が出来る運搬法である。

 
第3図 小矢部市桜町縄文Y字材の検証実験
での掛け縄運搬
推定500kgの丸太を掛け縄で運び上げる様子である。大きすぎるY字材(縄文遺跡から出土のY字材のレプリカを流用したため)ではあるが、逆さに立てて使うと横向きに倒れにくいため曳き縄を持ち上げる棒を三方から支える必要が無いという利点がある。この実験では著者の仮説通り段丘の稜線に曳き縄が触れることは無かった。 丸太(吊り荷)が転がるため動滑車の原理が省力に働くため、掛け縄では無条件で50%省力される。残り50%の荷重が掛かっているのは、丸太の半円周に接して吊り縄と曳き縄の役目を果たす(仮称)吊り曳き縄 部分である。吊り曳き縄 としての役目は、下縄が接地点で丸太に接する位置から半円周回って丸太から離れる瞬間の位置(=力点)まで丸太に接して、丸太の正転・逆転を制御するところにある。吊り曳き縄が力点を離れる直前まで縄テコが働くが、傾斜角が小さいほどテコによる省力効果は100%に近づく。力点でテコが働く時、傾斜角に連動する省力の比率の分だけ支点側と曳き縄側に荷重が配分される。そのためテコで省力された荷重は支点が支え、省力できなかった荷重は曳き縄で曳き手が支えて(曳いて)いるのである。作用点は第4図のように 力点からの鉛直線と支点からの水平線の交点 のため肉眼では見えない

 
第4図 掛け縄にもテコの原理が働く理由
丸太の断面図で示す回転体の直径はテコで言うところのテコ棒の長さに相当する。従って回転体の接地点が支点となる。丸太断面の支点から反時計回りの半外周に接した下縄(吊り縄)が、上縄(曳き縄)に変化する位置が力点である。荷重が掛かっている部位は丸太の外周の半分(半外周)に接している下縄(吊り縄に相当する)である。 曳き縄で丸太に回転する力を与える時、吊り縄には常に残り50%の荷重が掛かっている。その50%の荷重はそのまま力点に掛かる。その時テコの原理が働く。掛け縄で回転する丸太の直径がテコ棒の長さに相当し、吊り縄と曳き縄が接する点がテコの力点に相当し、回転中の丸太の接地点が支点に相当することは確かめた。力点からの鉛直線と支点からの水平線の交点が、見えない作用点と考えられる。力点に掛る残りの50%の荷重は回転中の丸太から曳き縄が離れる瞬間に力点で曳き縄側と支点側に配分され、支点側に配分された荷重が省力された荷重となる。従って傾斜角が0°に近づくに連れ、縄テコによる省力は無限大に近づくのである。

四角錐台期間が数回あったと考えられる理由
稜線への曳き縄の接触を避けるためと、ピラミッド内部の回廊や玄室などの組み立ての際の足場作りや、内部空間の壁や天井の補強や隙間の充填や、採光・換気・人夫交代・食事・トイレなどのためにも、四角錐台の上部を開けたままにしておく必要が有った筈である。四角錐積み上げを休止して内部の作業を続けるために四角錐台状態の期間が一回につきかなり長期間あったであろう。長期中断後の積み上げ再開前後の石切り人夫チームの変化や、石灰岩質石材採取部位の変化などが石材の積み方やサイズの違いが起きた筈である。その証拠は三角面に5~6筋残るカフラー王のピラミッドで顕著に見える横縞模様であろう。

2. 大型の花崗岩質石材の運搬と組み立ては縄テコで行なわれた
花崗岩質石材は着工前にピラミッド基部に搬入しておけば、少しずらすか持ち上げるだけで壁や回廊や玄室の組み立てが、石灰岩質石材の内部への運び込み・詰め込み・積み上げなどと同時進行で、行われたと考えられる。転がさないで省力運搬が行える技術は、テコの原理が働く縄を併用するテコ、仮称縄テコしか考えられないのである。
花崗岩質石材の引きずり移動は縄テコセットで行われた。第4図は木製の梯子(はしご)をテコ棒とし、麻縄を吊り縄・曳き縄として約70kgの飛び石を引きずる実験の動画である。動画では飛び石の玉掛けにはタイヤチェーンを使用した。動かし始めには階段二段を軽く引きずり上げている。また滑りを良くするため古い板を敷いた。
 
第5図 (動画) 縄テコで約70kgの飛び石を引きずる様子
下端に重量約70kgの飛び石を結んだ吊り縄の上端を、飛び石側へ僅かに傾けたテコ棒替わりの梯子の5段目(高さ約160cmの位置=力点)に結んだ。結んだ縄の残りを曳き縄として引いて梯子を引き起こす操作で飛び石を軽く引きずれることを示す動画である。梯子を引き起こして飛び石の片側が少しでも持ち上がると、力点には全荷重の約半分の35kgが掛かる。残り35kgは飛び石が接触している地面が支えているからである。力点にかかった荷重は梯子の脚部(支点)側と曳き縄側に配分される。配分の比率は第4図と同様引き起こされるテコ棒の垂直からの傾斜角で決まる。使用する縄の長さは動滑車やテコの原理には影響しない(縄の重量や摩擦や牽引時の力のモーメントは無視する)。支点力点間距離が約160cm、テコ棒起こし始めの時の支点作用点間距離が20cmの時は、テコの原理により曳き縄を引く力は計算上35kgの1/8の4.4kg弱で済む。引き起こし続けると、引きずりが始まる。支点作用点間距離が10cmになれば曳き縄を引く力は1/16の2.2kg弱で済む。省力された荷重32.8kgは消えたのではなく、支点側に配分され、地面が支えているだけである。エジブトの古代人は理屈は知らなくても経験的に縄テコで省力できることを知っていたのである。梯子でなくても真直ぐな丸太を2本二又に組んでテコ棒にしても同じ結果が得られる。テコ棒替わりに梯子を選んだ理由はテコ棒の引き起こし方向が左右にぶれにくいからであり、二又に組んだ木材でも良い。
花崗岩質石材の持ち上げ移動
花崗岩質石材は内装に使用されていると聞く。持ち上げる時は二又の縄テコセットを1対以上何対でも吊り荷に立てかけ、吊り荷の下をくぐらせた吊り縄1本の両端を対のテコ棒の力点に結び、それぞれの力点に結んだ曳き縄で二又を同時にゆっくり引き起こすとピラミッドの花崗岩質石材が僅かずつでも軽く持ち上がったであろうことは容易に推測できる。動滑車の原理とテコの原理が同時に働くためである。

巨石の省力運搬技術の縄テコが生まれ・失われた理由
狩猟や採集に縄と棒を日常的に携帯したであろう古代人が、たまたま獲物を縛った縄を棒の先端に結んで棒を引き起こそうとして、非常に軽く引きずれることに気づいてから始まり、縄と棒のセットを第6図のように一対で使えば(動滑車の原理も働くため)軽く持ち上げられることも知り、巨石の運搬にも利用したのであろう。また一対使って持ち上げる時も片側のテコ棒を固定するか、立木や杭や地面に埋め込んだ柱に一方の吊り縄のを固定しても同じ軽さで曳き縄を曳いて持ち上げられることも知っていたと思えるのである。
縄テコの技術はそれを持つ民族が滅亡するか、縄テコを使う機会が30年以上無ければ技術移転ができず消滅したのであろう。体や道具を使う技術は道具がいかに単純なものであっても、見て覚えて経験して身につけ場面に合わせて利用する知恵がないと言葉だけでは伝えられないものである。モバイルクレーンの支柱(ジブ)がテコ棒だと言っても、肉体労働をする人が使う縄テコ技術を見た人でも理解できないであろう。
第6図(動画) は縄テコで3.2kgの煉瓦の片側を軽く吊る様子である。画面をクリックして欲しい。

 
第6図(動画) 3.2kgの煉瓦を約160gの力で吊る様子である
右側のテコ棒を固定して、左側のテコ棒を秤量5kgのバネ秤で秤りながら煉瓦の片側だけを吊る動画である。煉瓦の接地部が荷重の半分を支えているので、吊る力は残りの半分の1.6kg必要である。テコ棒一本当たり半分の0.8kgがバネ秤に掛かる予定である。動滑車の原理で固定された右のテコ棒が半分の0.8kgを支えているので、バネ秤で残りの荷重0.8kgを引いて煉瓦を持ち上げれば良い。テコ棒の頂端の力点をバネ秤で引いて吊り荷側に少し傾けていたテコ棒を引き起こすとテコが働く。力点に掛かっていた0.8kgは、テコ棒の垂直からの傾斜角に連動する支点作用点間距離によって、支点側とバネ秤側に配分されるのである。支点作用点間の長さがテコ棒の長さの10%であれば、力点側に配分される荷重は90%の720gで支点側が支え、バネ秤側には80gが配分される。 荷重が3.2tの花崗岩質石材であれば、曳き手は160kgの力(60kgパワーの人夫3人)を結集すれば良い計算になる。枕木を下に挟んで少しずつ何度も持ち上げれば所定の位置や高さまで動かすことは容易であったろう。

以下蛇足
縄とテコ棒を併用する縄テコで使う道具は、縄とテコ棒のセットだけで済む。伸び縮みしにくい特徴を持つ直径0.6cmの麻縄4mほどと、二又テコ棒用の長さ2メートル一辺4cmほどの角材(野縁=のぶち)2本をテコ棒セットとして備蓄すると、防災・減災に良いと思える。縄テコは自然災害時に倒れた柱を少人数で持ち上げたりずらしたりしたい時や、道路を塞ぐ重量物を人力だけで撤去したい時に役立つ古代人の技術遺産であろう。

縄テコを用いた運搬法は、三内丸山遺跡の直径1mを超すクリの木の掘立柱や、出雲大社の境内から出土した鎌倉時代(1180~1336年)の直径1mを超す杉柱の存在から、日本でも古くから使われた伝統の運搬法と推測される。
日本は自然災害が多く、崖は崩れ橋は流され巨石は道を塞ぎ家も崩れ、修復や再建の必要がしばしばあったため巨石・巨木の運搬法が子々孫々に伝えられ見よう見真似で今に至っているのであろう。惜しまれることには昭和初期まで掛け縄や縄テコの技術は関係者や農家には伝わっており、一般人も垣間見ることが出来た。新たな省力器具のチェーンブロックなどが使われるようになって、人力と縄とテコ棒だけを使う運搬技術は正しく伝わらず、日本でもクレーンのワイヤーと支柱(ジブ)がテコを利用していることすら理解されていないのが現状である。また日本造園組合連合会の手引書人力による運搬組み立て工法の手引き(1949)のp.21には”ボウズ”と呼ばれる自由度の高い一本棒のテコ棒の過去の正しい説明が載っているが、残念ながら挿絵では頂端の力点が固定された三本のロープで支えられているように紹介されている。ボウズでは吊り荷の上げ下げの時力点に結んだ トラ縄 を経験者数名が三方向から引いたり緩めたりして慎重に制御しなくてはならないのである。ボウズが左右にぶれないように左右のロープを必要人数で制御して起伏したり、彼らの立ち位置を変えてボウズを旋回させたり、伏せて車台から吊り荷をゆっくりと下ろす使い方も出来た筈である。その伝統の技術も使われなくなったために挿絵に描けないほど忘れられたのであろう。(近くで持ち上げボウズを傾けて遠くに降ろそうとしてはならない。持ち上げた時の力よりもはるかに大きな力で曳き縄を支えなければ、支点から力点に戻ってきた重量が曳き縄側に再配分されるため曳き手が引き倒される恐れがあるからである。縄テコの物理を理解せずに使ってはならない操作法である)。なお手引きのp.9には”ロープを使って引っ張る方法”として 一本縄の掛け縄 も紹介されている。

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