6-3



ガタガタと物音を立てながら、椅子から立ち上がる。
「ちょっと、これはどういうことよっ!? まさか……あんた、親のいぬ間に男連れ込んで――何歳ですか?」
最後は何故か小声で洸に確認を取るリコちゃん。
きっちりとした彼女の性格からか、年齢を確かめて話し方を決めるようだった。
そのことに少し笑ってしまう。
「誰が笑っていいって言った?」
「ぁ……ゴメンなさい」
「二十六の男――あたしと同じじゃない。じゃあ、遠慮なしね――というか、早く説明しなさい」
一人ボケツッコミに疲れたのか、こっち側に説明をさせようと椅子に座って一息をついている。
彼がここへやってきた経緯を一部を除いて説明した。
「さっきから気になってるんだけど――私たちどっかで会ってない?」
やけにすんなりと話を聞いていたかと思えば、違うことを考えていたらしい。
なんか古臭いナンパの手口のようにも聞こえるんですけどー。
「俺はなんとも……」
「そうよねぇ……」
洸をマジマジと見上げている。
年相応の男女が顔を合わせていると、まるでカップルみたい。
それから、いろいろと話しているといい時間になっていた。
「リコちゃん、そろそろお風呂じゃない? まだ誰も入ってないから一番風呂だよ」
「ホント? じゃ、入ろっかなー」
この問題よりも、一番風呂というのに気を遣ってもらえたことに上機嫌になる。
いそいそと大荷物からお風呂セットを取り出して、上にあった旅行カバンを手にしてリビングから姿を消した。
やっと二人きりで話せる時間が来たかも。
「一目見たら忘れなさそうなキャラしてるな」
「でしょー? よく言われてるみたいだよ」
「それにしても――……」
深々とため息をついた私たち。
それは何故かというと――。
「まさか今月いっぱいまでいるなんて……」
「確かに退職した後でも、次の会社が決まってるなら仕事のことで悩むことはないし、自由人だよな」
社会人として共感できるのか、洸は納得していた。
先週、会社を退職したリコちゃんは、有給消化と次の会社の出社日までフリーらしい。
お金にも困ることはないし、悩みといえば時間をどう使うか。
それまでこの家で有意義に過ごすという目的が出来て、楽しい事大好き人間のリコちゃんは生き生きとしていた。
そんなことよりも、この大きな問題を隠し通さねば!!
「とにかく、付き合ってるだなんて、バレたらマズイよね」
「立場上の問題もあるし、もしかしたら同居も解消……なんてことにも成りかねないし」
建前は同居なのに、実は同棲に変化してただなんてこと伯母ちゃんに知られたら……。
「タイミング悪し……」
ソファーで隣に座っている洸の肩に頭を預けた。
すると、すぐに大きな掌で頭を撫でて慰めてくれる。
「こうやって一緒にいられるということは幸せってことなのかな」
「ぶー」
「我慢我慢」
私がふくれっ面をしていると、隙を突いて軽くキスをしてきた。
リコちゃんがいつ現れてもおかしくない状況にたったそれだけのことにドキドキしてしまう。
お約束どおりに物音が聞こえ始めたために、私たちは気を引き締める。
洸もなんとなくリコちゃんのことがわかってきているのか、一つの綻びから彼女は答えを導き出してしまいそうだった。
「あー、気持ちよかった!」
すぐにリビングへ移動してきたリコちゃんの姿は、キャミソールに短パンのラフすぎるルームウェア。
洸も目のやり場に困っているようだった。
「次、どうぞー」
リコちゃんは洸にそう伝えているけど、力のあるその眼差しは半ば脅しのようだった。
洸も察しがついたのか、素直にその言葉の通りバスルームへと足を運ぶ。
今度はリコちゃんと二人きりになってしまう。
何を言われるんだろう……!?
彼女の口が開くのを身体を強張らせて待っていた。
「あのさー、いろいろと考えてたんだけど――……」
「う……うん」
「しちゃったワケ?」
「……は?」
久しぶりに変な声を上げてしまった。
リコちゃんは最初の言葉に欠けることが多い、特に興奮している場合。
「だーかーら! もう、子供じゃないんだからわかるでしょー?」
えっと、つまり――雰囲気的にアレしかないよね……。
「男女が一つ屋根の下で毎日暮らしてるわけでしょ。何も起きないわけがなーい!!」
冷蔵庫から取り出した冷たいお茶を飲みながら、私に指差して言い切られる。
「そんなコト起きるわけがないよ。だって、大人と子供だよ? 向こうが相手にするわけないじゃん!」
その読みはあながち嘘でもなく――だけど、この質問に対しての答えには隠すものがない。
いわゆる『男女の関係』までは至っていないのだから。
だから、必然的に強気な態度に出れる。
――自分で言って悲しくなった。
確かに大人と子供、十歳差は何をしても縮まることはない。
彼は何を思って私を好きになったんだろう?
リコちゃんが言ってる通り、目の前に無防備な私がいるから手を出そうとしているの?
据え膳食わぬは男の恥――そういうことなの?
時々、こうやって考えている自分もいたことは確かだった。
そんなことはない――私を想って大事にしてくれているんだって言い聞かせていた。
「えー。だったら、狙っちゃっていいのかなー。ここにいるくらいだし、彼女いないよね?」
「そうとは言ってたけど……」
本気なのかそうでないのかわからない発言。
洸の彼女は私なんだって言いたいのに言えないこの状況。
――つらいな。
「同棲してた彼氏とは別れたの?」
「知らないよ、あんなヤツ」
軽く暴言を吐きながら、携帯のチェックをし始めた。
この話には触れてくるなってことだろう。
別れたのかな――?
この会話を最後に会話が終わってしまう。
少し重苦しい雰囲気に思い出したことが一つ。
「リコちゃんの部屋、準備してくるね」
「あー、お願いするねー」
メールの返事の片手間にそう返事が返ってきた。
――どうやら手伝う気はまったくないらしい。
いいんだけどね、一応今日はお客様だし。
伯母ちゃんの言ってた通り、これからいろいろと動いてもらうことにしよう。
階段を登りながら、そう心に決める。
――が。
「あちゃーーー……」
今更になって気づいたこと。
リコちゃんに用意しようと思った部屋は、私と洸の間の部屋だった。
今、貸せるといったらここしかないし、軽くため息をつきながら準備を始めた。

「ほんじゃ、今夜からお世話になります」
今日からリコちゃんが寝泊りする部屋の前で、三人が集まっている。
思い思いに返事をすると、リコちゃんは眠いのか早々と部屋の中へと隠れてしまった。
廊下に取り残された私たちはしばらく見つめ合っていた。
「おやすみ」
「うん、おやすみ」
差し障りのない会話しか出来ず、その挨拶の後に口パクが続く。
その言葉に確信は持てなかったけど、音を立てないように洸に近づいて抱きついた。
「――うん」
「えぇ?」
うんと言った私に逆に驚いているらしい。
――そうだと思ったから、逆に引っ掛けてみた。
じっと見つめられると、思わず笑ってしまい作戦がばれてしまう。
「コラっ」
「だって、本気じゃないことくらいわかってたもん」
『こっちで寝る?』――だなんて。
少しだけ密会を楽しんだ私たちは笑顔で自室へと戻っていく。
秘密な状況を楽しんでいないといったら嘘になるのかもしれない。
リコちゃんに気づかれないところで目線が合って微笑まれると、とても嬉しかった。
邪魔をされるほど燃え上がるというのはこういうことなのかな?