6-2



ピンポーン!
インターホンが家中に鳴り響く。
「……っ!?」
突然の来訪者に同時に二人共が飛び上がり、甘いムードだった時間も一瞬に覚めてしまう。
明かりが漏れているので居留守を使うことも出来ない。
こんな時間に誰が――。
乱された衣服を整えながら、リビングにあるモニターを確認しに行く。
その姿を確認すると、あれだけ恋人の世界に浸っていた私の頭は真っ白になってしまった。
「ウソ!? ど、ど、どうしよう……!?」
「誰?」
「あのね――」
「ちょっとーーー! いるのはわかってんのよー」
ドンドンドンッ!!
玄関からドアを叩く音が聞こえる。
早く出ないとそのうちリビングの方まで回りこんできそうな勢い。
「電気つけたまま居留守使うなんて、いい度胸してんじゃないー」
「わかったわかった! 今出るから」
鳴り止まないドアを叩く音が、玄関に向かって叫んだこの台詞でようやく収まる。
一体、こんな時間に何しに来たんだろう……。
後に後悔することを知る由もなく、とんでもない来客を出迎えることになってしまう。
鍵が開くと同時に勢いよくドアが開け放たれて、危うく玄関に放り投げだされるところだった。
「お・ひ・さー」
「久し……ぶり?」
「半年以上も会ってなかったら、久しぶりでしょー?」
「まぁ、そうだね」
「五分も待たせるなんて、一体何してたのよ」
「せいぜい三分くらいだと思うけど……」
「じゃあ、カップラーメンが出来上がって、食べれるじゃない」
勝手知ったるなんとやら、靴を脱いで自分でスリッパを出して――え、何、その荷物。
キャリーバックの上に更に旅行カバンを乗せて、スタスタとリビングへと消えていく。
――旅行帰りなのかな。
施錠をして、慌ててその後を追うことにした。

「よいしょー! エアコン効いててよかったー」
両手に抱えた荷物を私たちがいつもくつろいでいるソファーの近くに置く。
そして、三人掛け用のソファーへとゴロリと寝転がる。
「相変わらず、寝心地のいいソファーよね」
昔からのお気に入りの場所で目を閉じた。
――……この人、目を閉じたら何があっても起きないじゃない!
「ちょっと待ったぁ!! 寝ないでよ!!」
「えー……眠いんだけど」
彼女――三浦 梨津子(みうら りつこ)は、私の九歳上で母方の従姉妹。
盆・正月には必ず顔を合わす血縁者の中で一番仲が良い。
今の登場から察するように超マイペースな姉御肌で、下に弟二人がいて私は妹のように可愛がってもらっている。
しぶしぶとソファーに座り直すと、訝しそうな目つきで周囲を見渡している。
「――あのさぁ、気になることがあるんだけど?」
「それよりもあたしの気になることのほうが先!」
「えー、年上を立てるって言葉あるでしょ」
「いーまーは! こっちが優勢です!!」
「……ちっ」
あからさまに悪態をつかれたけど、それはこっちから話していいよという合図。
ブランド物のトートバックからタバコセットを取り出して、火をつけようとする。
「家の中は――」
「……禁煙でしたー。叔父さん未だにホタル族なのね」
深々とため息をつきながら、カバンの中へとしまいこむ。
相手の口を休めることに成功したので、やっと問いただす時がやってきた。
「リコちゃんは――何故、ここへ?」
「いつも来てるじゃない」
「そりゃ、そうだけど……。なんで今日なのかなぁって……」
「今日だとマズイことでもあるわけ?」
今日以降ずっとですが……。
あの両親が帰ってくるまで状況は変わらない。
「だってこんな時間だしさ……」
「はぁ? ――もしかして、まだ連絡来てないの?」
程なくして家の電話が鳴り出すと、ディスプレイに表示されるのは――リコちゃんの実家。
なんとなくその理由がわかった気がする。
リコちゃんは確か彼氏と同棲中なのに、あの大量の荷物、実家から電話がかかってきてるということは――。
「もしもし――あ、伯母ちゃん? リコちゃんが今来たんだけど……」
「遅かったか……ゴメンなさいね、葛葉ちゃん。うちの娘が出戻りしてきてね――」
出戻りって一般的に結婚した娘がってことじゃないっけ。
リコちゃんあっての母、たぶん軽い冗談のつもりで話しているんだろう。
話の内容は、つい先日、彼氏と喧嘩して実家に戻ってきて、私の家の状況を今日知ったらしい。
両親のいない好条件を見逃すはずもなく、そのままお泊りセットを持って我が家へとやってきたということ。
そして――。
「あの子、一番肝心な所を聞かずに出て行ったわけなのよ。――ホラ、『例の』」
「そう――……なんですか」
「悪いとは思ったんだけど、あの調子だし……わかってくれるわよね? 口だけは堅いから安心して」
「はぁ……」
有無を言わせない台詞に無難な相槌しか打てずに困り果てる。
最後のことだけは、ありがたいとは思うけど――。
「そういうことなんで、『しばらく』よろしくね。こき使って構わないから。じゃ、おやすみなさい」
「――え!? しばらくって!?」
ツーツー……。
こっちの挨拶も聞かずに伯母ちゃんは電話を切ってしまう。
マイペースなのは親ゆずりだよね。
なんだか嫌な予感……。
「これで『事情』はわかったかしら?」
振り返れば、満面の笑みで仁王立ちをしているリコちゃん。
でも、こっちにはのっぴきならない事情があるんだけど……!
「伯母ちゃんの話、最後まで聞いてないんだよね?」
「んー? あー、そういえば、『だけど、今は――』……なんて言ってたかな? 今ならいるよってことでしょ?」
私の口から何も誤解を受けずに説明できるワケがない。
いや、ここは学年総代としての経験を活かして――。
「なーんか、いつもと違うのよねーこの家」
「両親がいないからじゃない?」
カタン。
あってはならない物音が聞こえ、私は飛び跳ねてTVのリモコンを握る。
「ちょっと、今、物音しなかった?」
「き、気のせいだよ。テレビの中からじゃない?」
ちょうど切り替えた番組がドラマの中で食器を洗いながら話しているシーンだった。
ナイスタイミング!
わざとすっ呆けてみるけど……。
「今、あんたが変えたでしょーがっ」
少しの疑問でも解決しないと前に進まないタイプは非常に困る。
これからのことを考えると、どのみちバレてしまうことだけど、いかにしてわかってもらうかが究極の問題だ。
突然、聞き覚えのある着信が鳴り始めて、数秒で切れる。
私のならまだしも――、一瞬にして血の気が引いてしまう。
「葛葉。携帯鳴ってるよ」
ご丁寧に教えてくれるのだけど、何故かリコちゃんも一緒に携帯を探している。
洸ってば、どこに携帯置いてんのよっ!
「コレかな?」
必死になって探している私を差し置いて、いとも簡単に見つけられてしまったぁ!!
でも、それは私のだって言い張ればいいのよね。
「――葛葉、そこに座りなさい」
すぐ近くにあったテーブルへと促される。
なんか説教モードになってる気が……。
「コレ、あんたのじゃないわよね?」
「あたしのです」
テーブルの上に置かれた小さいストラップが着いている白い携帯電話。
即答したのにも関わらずじとーっという目で見られる。
こういう場合は、すんなりと認める潔さも必要。
「あのね、嘘つくならもっと違うものですることね。どう考えてもコレが葛葉の携帯なワケがないでしょ?」
「――いかにも」
そっぽを向いて即答をする。
どうやら証言は偽証だということは明白らしい。
「たとえ白い携帯だったとしても、このままでこんなシンプルなストラップなんて有り得ない!! 自分のを出しなさい」
たまたま隣の椅子に落ちていた自分の携帯が目に入る。
きっと、何かの拍子に落ちたんだろう。
薄暗くてもわかる、そのゴテゴテとデコレーションされた私の携帯電話。
リコちゃんが言ってるとおり、正反対のモノだった。
無言でテーブルの上に差し出す。
「それこそが葛葉の携帯電話。それなら、すぐに納得するわよ。――じゃあ、コレは誰の?」
「それは――……」
「俺のです」
言葉に詰まっていると、物陰から洸が姿を現せた。
どうやら、キッチンへ逃げ込んでいたみたい。
「お……男がいるーーー!?」