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そういえば、部屋のドア開けっ放しだった。
いつもならドア越しでしている夜の挨拶も、否が応にも顔を合わせることになる。
「何、黄昏てんの?」
「夏休みっていいなーって」
「その発言、社会人に対しての挑戦状?」
「長期休みなんて学生の間の特権だもん」
「遊ぶ気満々だな――」
二人になったので、窓を閉めてエアコンをつけることにする。
エアコンの正面にあるベットに座っていると、やっと冷たい風が降りてきた。
滅多に中まで入ってこないこの部屋の小物を手にとってはふーん……とつぶやきながら眺めている。
「なんか珍しいものでもある?」
「――いや。妹もこんなんだったなぁって」
「妹いたんだ?」
「そういえば……話したことなかったっけ」
「じゃあ、洸くんは長男?」
遠くにいた彼がついに隣に座り込んで、ベットがきしんだ。
思わず、生唾を飲み込んでしまう。
「いつになったら『くん』が取れるんだろうな?」
「え!?」
「あの時、顔合わせをしてから半年以上経つのに」
この状況でそんなことを言われて、面食らってしまう。
くん付けだったこと、やっぱり気にしてたんだ。
何故そう呼ぶことにしたのかだなんて――照れ隠しに決まってる。
『洸』と呼び捨てにするにはあの頃には心の準備が出来ていない。
学校では先生である彼を名前で呼び捨てだなんて……。
心の中では幾度となくそう呼んだこともあったけど。
すぐそこにある『先生』ではない響崎洸の顔を見つめる。
こうして彼の顔を見つめられるのは”今は”私だけ。
「こ、う」
彼の呼び名に少し照れながら、初めて口にする。
お得意のスマイルで返事をされる。
「呼んでくれてよかった」
「あたしもこう呼びたかったけど――改名するきっかけがなくて」
「改名って」
その表現に苦笑される。
「だってー」
「これでようやく問題が”一つ”片付けられたな」
一つってどういう意味――?
他にもあるってことだよね?
「俺、今何を考えていると思う?」
「な……ナニって……」
「いくら恋愛沙汰に疎い葛葉でも気づいてるだろ?」
「きゃ……っ」
そのまま勢いよく押し倒されてしまう。
だって、響崎洸にこんなことされて、そんな熱い目で見つめられたら……。
さっき以上に心臓がバクバクと早打ちをしている。
今夜こんなことになるなんて、昨日の私には予想だにしてなかったんですけど……!?
「もう……限界……」
そう最後に言い残すと、キスが落ちてくる。
いつもとような違う感覚にいつも以上に目を閉じてしまう。
「……ん……っ」
思わぬ出来事に硬くなった私の身体に洸の手が触れる。
顔に首筋に――次第に降りていく。
薄着のパジャマ越しに胸をやんわりと包み込まれる。
「……ぁ」
その感触に少し身体を震わせながら、軽く息を飲み込んでしまう。
自分さえ聞いたことのない甘い吐息に戸惑う。
徐々に下へと伸びていくその手は太ももを軽く撫でながら、その一連で内股へと滑り落ちる。
ゆっくりとでも確実にどこへ向かってるのか――。
でも……、まだ心の準備が……!?
「ゃ……やだっ」
洸の手が触れた途端、身体が勝手に拒否をしてしまう。
私に押し返されて、我に返ったようだった。
「あ、あたし、今日は『ダメな日』なの…!」
「俺……ゴメン、葛葉の気持ちも考えずに」
都合のいい断り文句の嘘に気づいているのか、すんなりと納得してくれる。
何とも言いがたい空気が漂う。
「今日は――もう寝るから……おやすみ」
私を安心させようとしているのか、それを強調してこの部屋を去っていく。
彼に触れられたこの身体の熱はしばらく治まりそうにもなかった。