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クラスマッチも無事終了してあっという間に夏休みに入ると、長く感じる一週間もあっという間に過ぎてしまう。
朝一で広告を眺めていると、近々行われる花火大会の情報が載っている。
そうだ……!
夕方の買出しにディスカウントショップへと足を運んでもらうことにした。
「あったあった!」
私の目的の商品がここぞとばかりに売り出しをしてあった。
今時期最も旬な商品、花火コーナー。
安くすむ単品や豪華セットもあったりで、心をそそるものがたくさん置いてある。
夢中になって探していると、かごを片手に隣に誰かが立ち止まったのでふと見上げる。
そこには当然のように洸くんと目が合う――ハズが、視線がいまいちかみ合わないまましゃがみこんできた。
「いいのあった?」
まるで何事もないかのように、いつものように話しかけてきた。
その中身をチラリと確認すると、消耗品などがちらほら――同じものを買うなら、ポイントよりも安いところでってことかな。
主婦並みに広告チェックをして、どうすれば一番お得なのかを計算しているのを知っている。
そんな性格だと、確実に貯金してること違いないっ!!
「コレコレ! おもしろそうじゃない?」
「うーん……。今日は庭先でするんだし、飛翔系は危ないよ。だから、打ち上げも必然的に、な」
「つまんないーーー」
手にしていた危険と判断される花火を手放す。
手持花火ばっかりじゃつまんないな。
それでも食い下がって、噴火花火は玄関先でするならということで落ち着いた。
二人でするにはちょっと多い気もするけど……。
買ったものを袋詰めが終わると、率先して重いものを手に取ってくれるので、私は必然的に小さくて軽い袋を持つことになる。
駐車場に着くと、洸は愛車の前で立ち止まり手にしていた荷物を地面に降ろす。
ポケットから鍵を出して、ドアに差し込んでいた。
「こういう時のキーレスって羨ましいよな」
「そう……だよね」
我が家の車はキーレスでそれが当たり前になっている私にとっては、このぼやきにうまく賛同することが出来なかった。
「あ、葛葉のとこはキーレスだったな。しかも、ナビ付き」
前に話してた通りこの車ともお別れの日が近いらしく、最近車の情報をよく調べているみたい。
「どんな車が好み?」
車の話で盛り上がりながら帰宅をしていると、ふいにそう問われた。
そんなことを考えてもいなかった私にとって、しばらく頭を悩ませることになる。
信号待ちをしている時に周囲を見渡していると、よく見かける車を指差した。
「最近、ああいう車って多いよね」
「あぁ――ミニバンってやつだな。七、八人乗りだからファミリーカーっぽいけど以外に若い人も乗ってるんだよな」
「へぇー、そうなんだ」
「ホラ、坂口先生はあそこにある車の黒乗ってるし」
「なんか……それっぽい」
対向車で先頭に止まっていた車を指差して教えてくれる。
スタイリッシュで何よりも黒ってところが。
「まぁ、あそこは兄弟が多いみたいだし。需要があったんだろうな」
「多いって何人?」
「俺の知る限りでは下に三人いたな」
いたなってまるで顔を合わせたかのような発言じゃない?
だけど――
「長男だから面倒見がいいんだ……」
「ん? 世話になってるのか?」
「え……」
小声で言ったのに、しっかりと聞こえていたみたい。
「何かあったから、そう思ったんだろ? 学科違うし、そうじゃなきゃ世話になることなんてそうそうないと思うけど?」
「坂口先生にあたしたちのこと……話したんだよね?」
「――そのこと。なんというか、成り行き上……」
今度は洸くんが口ごもる番になる。
大人をこうさせてしまえるのもそうないと思うと――少し楽しい。
もう少しくらい困らせてあげたいところだけど……。
「別に怒ってるわけじゃないよ。なんで坂口先生に教えたのかなんとなく理解できるし……」
「――だろ? もしものために一人くらいは状況を知ってくれてると助かるかなと」
「っていうか……。それ以前に目撃されてるんだよ?」
「――え?」
「え?はこっちだよ! まさか……覚えてないの? 歓迎会の時に坂口先生の彼女さんに送ってもらったこと……」
「それは覚えてるけど……」
「あたしの家に送ってもらったんだよ!?」
「――……あぁっ!!」
その声と同時に急ブレーキがかかる。
今の衝撃と、青信号に間に合わなかった二重の叫びだったみたい。
「ゴメン」
「うん、大丈夫だよ」
「――だから、あの時……」
その衝動でシートベルトにロックがかかり、身体も前のめりになってしまった。
そのまま青信号に変わるまで、何やら考え事をしている風だったので話しかけるのを止める。
「中間テストの時に、別のところで寝泊りしただろ。あれって――坂口先生の家だったんだ」
「うそ!?」
「職員室で悩んでいたら、ちょうど現れたからダメもとで聞いてみたら、すんなりとOKしてくれたんだよ」
「そう……だったんだ」
「即答だったのがずっと不思議だったけど……、『そのせい』だったのか」
家に着き、荷物を手にとって玄関へと足を向ける。
今日は寄り道をしていたからいつもよりは遅い時間だけど、夏の陽は長くてまだあたりは明るい。
「本当に『あの時』のこと――うろ覚えなんだね」
「あの日は特別に飲まされたから……。以後、気をつけます」
本人も反省しているのか、あの日以来は記憶がすっ飛ぶほどは飲んでいないみたいだった。
でも、あの時の――
『実は俺、ずっと前から――』
あの言葉が心のどこかで引っ掛かっている。
酔っていたから、そのこと自体意味はないのかもしれない。
そのことをはっきりと聞けないくらい月日は流れてしまっていた。